断章53

 またまたルトワックである(おもさげながんす)。

 

 戦後日本の「進歩的」文化人、自称「知識人」リベラルたちが書いたものは、時を経ればほとんど読むに堪えない、時代に耐えないものばかりである。

 しかし、ルトワックが書くものは、・・・

 第一に、戦略(の逆説的論理)を解き明かして、時を経ても読むに堪え、時代に耐えるものである。

 第二に、時代の要請に答えている。ここでいう時代とは、「日本は、政府も国民も、過去70年間、『リスクを取ること』そのものを頑(カタク)なに避けてきた。リスクを避け、戦わず、死者を出さないこと、これこそが真の平和だと思っていたのだ。しかし、それは錯覚だった。このような“空想的平和主義”が通用した古き良き時代は終わった」(宮家 邦彦)後の、今である。

 

 「戦略とは、一般的には特定の目的を達成するために、長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・応用科学である」(Wiki)。

 

 『自滅する中国』(原題は、「戦略的論理から見る中国の台頭」 日本語版2013年刊)の第16章から、韓国に関連するところの《要約紹介》をする。

 

 「あらゆる独立国家は、必ず絶対的な主権を主張するものだ。しかしすべての国家が、外国への従属に抵抗するような政治文化に動かされているわけではない。中には言いなりになる国家もある。そしてたいていの場合、言いなりになる国家の動機は『恐怖』にあるものだ。しかし、韓国の場合、中国にたいする『恐怖』­­­は、二次的かつ間接的な要因でしかない。むしろそれよりも大きな動機は、中国と中国人への文化面での深い敬意--------この敬意は(一般国民ではなく)エリート層のアメリカと米国人への反感に見ることができる-------であり、そして結局のところは、韓国が『中国市場の相対的な重要性が益々増している』と痛感していることにある。(中略)

 13世紀に新儒教宋明理学朱子学陽明学など)が紹介されると、その熱狂的な信者となった朝鮮人は、自らを『小中華』・・・と位置づけたのである。その結果、朝鮮では中国よりも日本からの文化の押しつけの方が怒りを残すことになってしまった。(中略)

 北朝鮮からの攻撃にたいして即座に確固とした態度で相応の報復をしようとしていないことからもわかるように、実際のところ韓国政府は、米国と中国に依存する従属者となってしまっている。(中略)

 中国への見苦しい媚び方の中でもとくに注目すべきなのは、韓国政府がダライ・ラマへの訪問ビザ発給をいつまでも拒否していることだ。(中略)

 現在の政策を保ったままの韓国は、いわゆる『小中華』の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による『天下』体制の一員となることを模索しているのかもしれない。(中略)

 このような韓国の安全保障の責任逃れをしようとする姿勢は、『日本との争いを欲する熱意』という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理やり懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてもすむのだ。2010年に韓国は北朝鮮から深刻な攻撃を二度受けたが、それにたいして抑止行動も懲罰も行っていない。ところがその攻撃の間ですら、37名の韓国の国会議員は公開討論会を開催し、日本の対馬に対する韓国の領有権の宣伝に努めていたのだ。(中略)

 2011年12月14日には『従軍慰安婦』を表現する上品ぶった韓国人少女の像が日本大使館の向かい側で除幕された。これは毎週開かれる賠償請求デモが一千回を迎えたことを記念したものだった。当然のことだが、これは韓国に全く脅威をもたらさない国を最もいらだたせるような行為であった」。

 

【参考1】

 「イギリスや日本など国連人権理事会加盟の22カ国は、中国・新疆(ウイグル自治区)におけるウイグル族の処遇について、中国政府を批判する共同書簡に署名した。

 共同書簡は国連人権高等弁務官あてのもので、10日に公開された。『新疆のウイグル族などの少数派を特別に対象とした、大規模な収容所や監視、制限の拡大』に関する報告書を引用し、新疆の現状を非難している。

 その上で中国政府に対し、国連や独立した国際組織の査察団へ、『新疆への実質的なアクセスを認める』よう強く促している。」(2019/7/12  BBC news)

 7月12日現在、韓国は署名していない。

 

【参考2】

 2018年、韓国の中国に対する部品貿易黒字は459億ドル。日本に対する部品貿易赤字は151億ドルである。

 

【参考3】

 「韓国軍が、垂直離着陸(VTOL)型のF35Bステルス戦闘機およそ10機を搭載できる3万トン級の軽空母の建造を推進する。今回の決定は、このところ韓日関係が最悪へと向かう中、日本の軽空母保有の動きに対応しており、注目される」(2019/7/23 朝鮮日報)。

断章52

 「7月15日午後、韓国の文大統領は、大統領府で主宰した首席・補佐官会議で、『日本経済に大きな被害が及ぶだろうと警告しておく』と語った」(2019/7/15 中央日報)。

 

 日本に対してつねに上から目線の「文 在寅・韓国大統領は、“北朝鮮”からの避難民の息子として生まれた。弁護士や人権運動に参加した後、ノ・ムヒョン政権で大統領側近として活躍した後、国会議員に当選し、2017年5月に大統領に当選した」(Wiki)。

 

 韓国の新聞によれば、文大統領の世評は、「正しくていい人物だ」「清く正しい印象を与える」そうである。

 「清廉の人」と呼ばれ、「人権派」弁護士として評判が良く、やがて国のトップになった人物といえば、わたしが思い出すのは、バラク・オバマではなくてマクシミリアン・ロベスピエールである(韓国でこんなことを書くと名誉棄損で訴えられる)。

 

 ロベスピエールは弁護士として、「なぜこんなにも貧しい人がいるのか。なぜ格差はなくならないのか。どうすれば、この社会を変えられるのか」と悩みながら活動していた。

 「『弱い立場、抑圧された人々、貧しい人たちを擁護する以上の崇高な仕事があるだろうか?』という言葉を残す程に、ロベスピエールという人は真っ直ぐで清廉潔白の人だった。

 ロベスピエールは、1789年に三部会議員選挙に当選する。後の恐怖政治からは想像しにくいかもしれませんが、当時の彼はギロチンによる死刑の廃止を訴えたり、自由・生命・家族の“法による保護”などを唱えていたのです。

 1793年、ロベスピエールは革命の最高責任者となります。

 政治腐敗を嫌ったロベスピエールは、そのストイックな姿勢から“腐敗しない男”とも呼ばれました。

 その後、彼は、現実から目を背け、理想だけを見つめ、脇目もふらず奔走します。その結果は、ギロチンによる恐怖政治でした」(注:神野 正史の記事を部分的に省略)。

 

 「キム・ジョンイン氏も年頭インタビューで、『(文 在寅大統領の第一印象は)正直で率直な人に見えた。ところが、最近は話の前後で言葉が変わり、自分の言葉を他人の言葉のように言う。私が文在寅大統領のことを見誤ったのか、でなければ人が変わったのか、それは分からない』と言った。

 『清く正しいという第一印象』に裏切られ、衝撃を受けたという話ばかりだ。みんな何かに取り憑かれて幻を見たのだろうか、それとも権力の味を知った歳月が人を変えたのだろうか」(朝鮮日報 2019/5/19)。

 

 「正義感と真理に対する確信が妄想と結び付き、政府の政策として執行されるとき、それは、最悪の結果を招く」(2019/5/19 ユン・ピョンジュン韓神大学教授)。

 

 ある人によれば、「日光東照宮の陽明門は、わざと1つだけ柱をさかさまにしている」そうである。「なんでも完璧すぎると魔が入りこむから」だそうな。

 

【補】

 伝聞を含んでおり、また自著を出版できない悔しさがバイアスを与えているとしても、傾聴すべきである(以下:2019/10/29 NEWSポストセブンからの要約紹介)。

 

 「文 在寅大統領は政治的目的のためなら人命をも犠牲にする人物だということを知って欲しく、日本メディアの取材を受けました」。こう語るのは脱北者で作家の李朱星(イジュソン)氏だ。

 かつて人権派弁護士として活躍した文 在寅氏は、大統領に就任してからも“公正と正義”という価値観を標榜する韓国リベラルの旗手として大統領まで上り詰めた。日韓の懸案となっている歴史問題でも、“被害者中心主義”を唱え、人権派として振る舞っている。

 そんな大統領が人命に対して冷淡であるとは、いったいどういうことなのか──。

 平壌で生を受けた李氏は貿易の仕事に就いていたが、友人の脱北を助けたために逮捕されかけ、自らも2006年に脱北。NKデザイン協会という脱北者支援団体での活動を続けながら、小説を多数発表してきた。

 「私は北朝鮮の過酷な現実を知ってもらうために小説を書き始めました。デビュー作の『ソンヒ』は脱北者の女性が中国に売られ性奴隷にされてしまう実話をもとにした小説。この作品は韓国芸術文化団体総連合会の文学大賞を受賞しました」(李氏)。

 2作目である『紫色の湖』は、韓国民主化の原点ともいえる光州事件を題材とした作品だ。李氏は光州事件北朝鮮の関連を小説で描き、同書は約1万部という韓国では異例のヒット作となった。だが、光州事件の英雄である金 大中元大統領を信奉する韓国左派陣営からは、不買運動刑事告訴を起こされるなど激しいバッシングを受けた。彼らが現在、文政権を支える勢力となっている。

 「作家として韓国で一定の評価を得ながら、現在、私の作品は出版すらままならない状況にあります。特に新しい小説では、文在寅の“ある過去”に焦点を当てたことを、出版社から問題視されたのです」(同前)。

 李氏の最新作である『殺人の品格 宿命の沼』は、実際に起きた「脱北者強制送還事件」を題材としている。

 時は2008年の盧 武鉉政権まで遡る。盧政権末期に当たるこの時期、文在寅氏は大統領秘書室長の職にあり、「盧武鉉の影法師」という異名を持つ実力者と評されていた。

 事件が起きたのは2月8日早朝だった。西海(黄海)にある延坪島付近をゴムボートで漂流していた北朝鮮住民22人が、韓国海軍に救助された。彼らは15~17歳の未成年3人を含む、親子、夫婦、叔父などのグループで、水産事業所や共同農場で働いていたとされる。

 韓国政府は救出された北朝鮮住民を、その日に板門店を通じて北朝鮮に送還する。国情院は後に「彼らはカキ漁中に遭難したもので、脱北者ではない」と明かした。

 同事件については報道が少なく、韓国内では救助や送還の事実すら知られていない状況にあった。李氏は独自に調査を進め、ある疑惑に辿りついたという。

 「私はこの事実を、文 在寅が大統領選に出馬したときに知りました。北朝鮮情報筋から、22人は漁をしていたのではなく、何らかの方法でゴムボートを入手し北朝鮮から逃げようとした脱北者だったとの情報を得たのです。ゴムボートは北朝鮮では軍しか使用できないよう規制されている。なぜかというと、軽くてスピードが出るため脱北に使われ易いからです。ゴムボートに乗っている時点で漁民ではなく、韓国軍は脱北者だと理解していたはずです」。

 この事件については、同年2月18日放送のVOAボイス・オブ・アメリカ、米政府運営の放送局)でも、次のような疑義が呈されていた。

 〈一家親戚や隣人など22人もの少なからぬ人数が一緒に船に乗っていたこと、旧正月に漁労作業に乗り出したこと、未成年が含まれたことなどから、ただの漂流ではないとの疑惑が相次いで提起されている。国情院はこれらの住民に亡命する意思をきちんと確認したのか。彼らが板門店に送られるまでに、調査時間がわずか8時間しかなかった。22人に対する調査時間としては納得しがたい〉(VOA要約)

 李氏は語気を強めて語る。

 「脱北者北朝鮮に送還するのは“殺人”に等しい行為です。実際に1か月後に、北に戻された22人は黄海・海州公設運動場で公開処刑された。銃殺刑です。私が確認したところでは、北朝鮮内の講演でも『反逆者は処刑する』と22人の処刑について語られている」。

 『殺人の品格』では、22人の処遇をめぐり、青瓦台内で交わされたという生々しいやり取りが描かれている。

 〈盧 武鉉「彼らを北に送ったら殺されるのではないか」
 文 在寅「22人の脱北は韓国政府にとって負担になる。南北関係を良くするために、それは甘受しなければいけない」〉

 左派政権の奥の院に切り込んだ同作だが、前述のように韓国内では“発禁本”として封印されてしまった。李氏が言う。

 「脱北者を北に追い返すという冷酷な決断を下したのが、当時大統領秘書室長の文在寅だった。小説で書いた文在寅の言動は、政府要職にいた人物から聞いた話であり、限りなく真実に近いやり取りです。この小説は文在寅の正体を広く知ってもらうために執筆しました。しかし、10社以上の出版社から『本を出版すると政府から制裁、弾圧を受ける』と言われ、刊行を断わられてしまいました」。

 李氏は北朝鮮で40年近く生活していた中で、人権を抑圧する政治体制に強い疑問を持った。多くの脱北者同様に“希望”を求めて韓国に渡ったものの、2017年に誕生した文政権を見ていま、絶望を覚えているという。

 「文 在寅の対北政策は、実現性のない絵空事を並べたものばかりです。南北融和というだけの空疎な考えだけで北朝鮮側に民主化や人権改善を求めるでもなく、ただ金正恩に擦り寄るだけなのです」。

 事実、文政権になってから北朝鮮の人権問題を改善させる取り組みは急速に冷え込んだ。政権発足後、韓国外交部では北朝鮮人権大使のポストの空席が続き、設立予定だった「北朝鮮人権財団」も宙に浮いたまま。韓国メディアからも「今後財団を設立する作業に真剣に取り組むとは思えない」(2018年6月15日付 朝鮮日報)と酷評されているほどだ。

 『殺人の品格』で描かれたような、脱北民に対する冷淡な仕打ちは、文 在寅政権下で現実に起きている。4月にはベトナム経由で韓国への亡命を目指していた3人の脱北者が、ベトナムで身柄を拘束され、(入国元の)中国に追い返される事件が起きた。

 「脱北者団体が韓国政府に3人の受け入れを要請したものの、韓国外交部は『待て』と言うだけで、動かなかった。今年、米国務省が公表した人権報告書でも『韓国政府は脱北者団体を抑圧している』と指摘された」(韓国人ジャーナリスト)。

 もし3人が北朝鮮に送り返されたとしたら、刑務所送りになるのは確実。最悪、『殺人の品格』で描かれたように処刑される(されている)こともあり得るだろう。

 そして今年の7月、ソウル市内で母子が餓死していることが水道検針員によって発見された。死亡していたのは脱北者のハン・ソンオク氏(42)と、キム・ドンジン(6)の親子だった。

 「脱北してきた母子は何度も役所に支援の申請をしたものの、手続きが進まず餓死したものと見られています。9月に光化門近くで開かれた追悼集会では『命懸けで脱北してきたのに餓死するなんて。統一部は誰のために存在するのか』と糾弾する声があがっていました」(ソウル特派員)。

 10月19日、餓死事件について韓国政府に対する抗議集会が開かれた。何十万人という韓国人が集まったチョ国前法相に対する抗議デモに比べると、人数こそ僅かであったが、その声は切実なものだった。自身も集会に参加していた李氏はこう訴える。

 「韓国社会のなかでも、私たちは外国人労働者以下の存在として扱われ、援助されるどころか排斥されている。政府も脱北者に対して極めて冷淡で、時には犯罪者のように扱います。母子が餓死した事件は、脱北者の過酷な現状を端的に示しているのです。同族が命をかけて亡命してきたのに、政治目的のために北に送り返す。または餓死させる。文政権の下、いかに脱北者の命が軽んじられてきたのかを、私は国際社会に訴えたい」。

 脱北者たちの悲痛な声訴を、文政権はどう聞くのか──。

断章51

 150年ほど前の明治維新後、日本や東アジアをめぐる国際環境が激変するなかで、岩倉使節団を欧米に派遣した。岩倉使節団は、政府首脳や各省の官僚から構成され、多数の留学生も伴い、その数は総勢約150名に及ぶ。当時の先進国・欧米をモデルとして、日本は近代国家に進んだ。

 70年ほど前の敗戦後は、圧倒的な物量と軍事技術で日本を圧倒したアメリカをモデルとして、日本は焦土から復興した。

 だが、今日の国際的国内的な問題(対立)の拡大と激化を前にして、もはや世界の何処にも習うべきモデル(お手本)が無いのである。

 

 すると当然、「国家は立ちすくみ、個人は不安をかかえる」ことになり、『不安な個人、立ちすくむ国家』(経産省若手官僚が問いかける、日本の未来。150万ダウンロードを記録した資料を、補足を含め完全版として書籍化。20~30代の官僚たちが現代日本を分析した未来への提言)のような本が出版される。但し、アマゾンの書評点数は誠に辛い。

 「問題はとっくにテレビや報道で伝えられている内容を寄せ集めたもの。出口戦略に具体性が無く、失敗する人の典型だ。これは街頭で無料で配るようなレベルの内容の本だ」とか、「評判なので期待して読んだが見事に裏切られた。これが真剣に本気で書かれた内容なら、日本の将来は暗い。ガダルカナルと同様の『戦力の逐次投入』若しくは無謀なインパール作戦の二の舞となり、何もかも手遅れになるであろう」という評価である。

 

 それでは、もし20世紀であれば、高々と“社会主義”の旗を掲げたはずの連中は、この21世紀の国際的国内的な問題(対立)の拡大と激化に対して、どんな戦略を持ち合わせているのだろうか。

 

 1991年のソ連邦崩壊後、“国際共産主義運動”は総崩れとなった。

 ロシアと距離的に近いヨーロッパでは、ロシア革命国際共産主義運動の実際の姿は、早くから知られていた。エスエルやメンシェヴィキの亡命者もいたし、あのローザ・ルクセンブルクは、新たに制定されたソヴェト憲法で「自由な秘密投票の権利が否定されていた」のを見て息が止まるほど驚いたらしい。

 “現代経営学”あるいは“マネジメント” の提唱者であり自らを“社会生態学者”と名乗ったピーター・ドラッカーは、1939年発刊の処女作『“経済人”の終わり―全体主義はなぜ生まれたか』で、「独ソ同盟の可能性のほうが悪夢として現実化しつつある。今日は悪夢にすぎないものも明日には現実となる。あの政権は、理念的にも社会的にも似ているがゆえに手を結ぶ」と、当時のソ連邦をすでに“全体主義国家”と喝破していたのである。

  彼は後に、こう言っている。「私はこの『経済人の終わり』において、スターリン主義を醜悪な恐怖と暴虐として描いた。その結果、その後長い間、私は善意の進歩的知識人から憎しみを買うことになってしまった」(『すでに起こった未来』)。

 

 “日本の共産主義運動”は、第一に、あまりにも評判の悪い“社会主義”“共産主義”の旗を隠して“人権派”を装うこと。第二に、多くの新設大学の教壇に逃げ込むこと。第三に、『資本論』のスコラ的訓詁解釈に閉じこもることで生き延びてきた(『資本論』についての衒学的な議論は、自称「知識人」リベラルたちの売文渡世にも好都合だった)。

 

 「ブーメラン ブーメラン ブーメラン ブーメラン きっとあなたは戻ってくるだろう♪」と、マルクスを心の支えに生きてきた連中は、今日の国際的国内的な問題(対立)の拡大と激化を背景に、「マルクスの理論は論駁されていない。それはようやく今日その歴史的な真理価値を復権する」と、またぞろ“懐メロソング”を合唱しようとしているが、また「見果てぬ夢」に終わるだろう。なぜなら、“現実の諸問題”の分析・診断においてエマニュエル・トッドひとりにも及ばなかったのだから。

 

 マルクスは資本制生産様式の解剖図を完璧なまでに体系化したが故に、弟子たちはマルクスの理論を“教義”として受けとめた。

 「マルクス主義は真理であるがゆえに全能である」(レーニン)は、「カトリック(語源はギリシア語の普遍的)」の「一切の間違いのない100%正しい教え」とまったく同じスタンスなのである。

 だからマルクスは、「わたしはマルクス主義者ではない」と言ったのである。

断章50

 歴史と世界をみれば、ある時代のある国が平和で豊かなことは、まるで奇跡のようなことと言ってもよい。高度経済成長期もパクス・アメリカーナの時代も、過ぎ去ってしまった(「しずのおだまき 繰り返し むかしを今に なすよしもがな」と謡っても、返らぬものは、返りはしないのである)。

 

 「パクス・アメリカーナとは、『アメリカの平和』という意味であり、超大国アメリカ合衆国の覇権が形成する『平和』である。ローマ帝国の全盛期を指すパクス・ロマーナに由来する。『パクス』は、ローマ神話に登場する平和と秩序の女神である」(

Wiki)。

 

 アメリカと中国の対決は、小康状態であるが、まったく予断を許さないものである。

 アメリカは、中国が一部の分野で先行したのは、“不公正な競争”の結果だとみている。

 2019年4月26日に米外交問題評議会でFBI(連邦捜査局)のクリストファー・レイ長官が行なった講演がある。その一部が抜粋で紹介されている。

 「以前にも増して経済スパイ活動が脅威となっている。そのターゲットは国家インフラ、斬新なアイデアイノベーション、研究開発、先端技術などの国家資産となっている。そして、中国ほど広範かつ執拗にこうした機密情報を盗む脅威をもたらす国は他にはない。それは中国のインテリジェンス組織、国営企業、プライベート企業、大学院生、研究者等、多くのプレーヤーが中国という国家の代わりに働いている。

 FBIは全米56のオフィスで企業犯罪の捜査を担当しているが、犯罪のほとんどが疑いなく中国によるものである。またその企業スパイはあらゆる業界に広がっている。私が話している事例は『正当な競争』とはもちろん言えず、常軌を逸した不当な競争だ。それは法律違反であり、安全な経済活動にとってあきらかな脅威である。そして結局は国家安全保障の問題につながる。

 しかしもっと根源的な問題がある。これらの行動は法律を犯しており、国際競争における公正と誠実の原則を破るものである。第二次世界大戦後に世界で合意されたルールを破るものである。中国は米国の犠牲のもとにいろいろなものを盗んで経済成長の階段を駆け上がろうと決めているに違いない。一つ言っておく。米国はどんなことがあっても彼らのターゲットにはならない。

 中国のアプローチは大変戦略的であり計画性がある。目的を達成するために、彼らは今までにないやり方を取ってきている。それは合法だけではなく非合法なものも使っている。例えば企業への投資や買収を行い、それとともにサイバー攻撃で企業に入り込んだり、サプライチェーンを攻撃したりする。中国政府は大変長期的な視点を持っている。とても計算高く、狙い撃ちをし、忍耐強く、そして執拗。彼らはテクノロジーを使って目的を達成する。

 そのテクノロジーというのは5Gの様な通信技術、AI、機械学習、仮想通貨、無人飛行機など。・・・赤信号があちこちで点灯している。こういった状況を私は数十年続く脅威と呼んでいる。それはこの国の在り方を決め、また我々を取り巻く世界も変わってくる。今後10年、20年、50年後我々がどのようになっているか、それはこういった脅威に如何に対処していくかによって決まっていく」(紹介訳出・石原 順)。

 

 中国も今のままで行くしかない。

 天津社会科学院の名誉院長、王 輝は、古谷 浩一との対談で、「Q:これから中国政治はどこへ向かうのでしょう。A:中国は今、左(共産主義)に進むこともできず、かといって右に行くこともできない。右とは米国式の民主政治の道です。このまま進んでいかなければ、生き残ることはできません。 Q:民主化には進めませんか?A:進めば、中国は四分五裂の道をたどるでしょう。これは怖いことです。米国は望んでいるかもしれないが、中国がソ連のように崩壊したら、経済も大混乱に陥るでしょう。かわいそうなのは庶民たちです。金持ちたちはみな、国外に逃げるのだろうけど…。 Q:では、共産主義の道は?A:すでに既得権益を持つ階級も生まれているから、右にも左にも行けない。中国には今、どれだけの大金持ちがいると思いますか。彼らから再び財産を奪ったら、大混乱になります。ただただ、今のままでやっていく。これしか道はありません」と答えている。

 後退することは、人民解放軍が許すまい。

 

 「民主的でない体制が戦いを有利に進め、民主的な体制が関税などの経済的手段で不公平な競争環境を是正できないと判断した場合、軍事を含む非経済的な手段を使う政治決断が下されるリスクが全くないわけではないだろう。今回の米国の軟化が経済界や農業州に配慮した結果だったとすれば、今後、その反動が対中政策のさらなる強硬化という形で出てくるか注意深く見守っていかねばならない」(2019/7/5 日本経済新聞・呉 軍華)。

断章49

 1549年に日本に初めてキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルは、インド・ゴアにいる友人に宛てて、「この国の人びとは今までに発見された国民の中で最高であり、日本人より優れている人びとは、異教徒のあいだでは見つけられないでしょう。彼らは親しみやすく、一般に善良で悪意がありません。驚くほど名誉心の強い人びとで、他の何ものよりも名誉を重んじます」と日本人の印象を伝えた。

 

 およそ500年後、フランス人のエマニュエル・トッドは、少子高齢化対策としての外国人労働者の受け入れ拡大によせて、「日本は自信を持つことです。日本の文化は、間違いなく、人類史の素晴らしい達成の一つです。実際、日本文化に魅了されて、多くの外国人が日本にやって来ています。

 そのようにやって来た外国人が長く定住するようになれば、次第に日本社会に属することを誇りに思い、さらには『日本人になりたい』と思うはずです。

 日本は、そのくらいの自信を持った方がいい。自信をもって外国人に寛容に接すれば、必ずや『同化』は成功するはずです」と語った。

 

  自分が生まれ、育ち、暮らしている日本を愛することができず、日本の「民族主義」「軍国主義復活」を批判するが、中国・「北朝鮮」・韓国の「民族主義」「現にある軍国主義」については沈黙する自称「知識人」リベラルたち。

 「みずから説教壇に立つとまともな話もできないくせに、説教している人の落度や勇み足を指摘することにかけては大変な才能を発揮する」(『ドン・キホーテ』)、ろくでもない鳩山・菅たち。

 

 国道の分離帯に散乱するゴミを見れば日本人の倫理規範の衰えを感じずにはいられないし、夜郎自大、唯我独尊になっては困るが、わたしたち日本人は、もっと日本に「自信」を持ってもよいのではないだろうか。

 

 「いまの多くの日本人が、ごく普通のあたりまえのこととして受け取っている、言論の自由表現の自由、政府の政策を批判したり抗議したりする自由、それがどんなにすばらしいことかわかるのは、私のような独裁国家から来た人間だからではないだろうか」(『北の喜怒哀楽・45年間を北朝鮮で暮らして』)。

断章48

 「嘘つきは泥棒の始まり」ですよ。

 

 「中国軍は、6月29日または30日に南シナ海で対艦弾道ミサイルの発射試験を実施した。米国防総省アジア担当報道官は7月2日、中国軍のミサイルは『スプラトリー諸島に近い人工建造物から発射された』と発表した。報道官は、中国習近平主席が2015年9月に訪米し、首脳会談後に発表した声明にある『南シナ海に造った人工島を軍事拠点化しない』との声明に矛盾しているとして、『憂慮すべき事態だ』と懸念を表明した」(「大紀元」)。

 これが、中国のいつもの手口である。

 

 「その典型的な例が、中国が歩んできた核武装への道筋です。1964年、中国は初めて原子爆弾の実験に成功し、核保有国の仲間入りを果たしました。・・・中国は自らが核武装するまで、アメリカが核兵器を持つことを批判し、世界の反核運動を主導するかのような立場をとってきました。このころに西側社会で反核運動に身を投じていた人々は、この中国の存在を力強く感じていたのです。

 ところが中国は、反核を叫ぶその裏側で秘かに原爆技術の開発を進めていました。そして自国が核実験に成功するや、『反核』の『は』の字も口にしなくなるのです。西側社会にあって反核運動を推進してきた人々は、はしごを外され言葉を失いました。2013年2月に3回目の核実験を行った北朝鮮が、その行為を批判した中国に対して、『自分たちが核実験を行った60年代にはどんな主張をしていたのか』と皮肉交じりに反論した」(『中国の破壊力と日本人の覚悟』)のである。

 つけくわえると、中国の最初の頃の核実験は“大気圏内”核実験であり、ウイグル自治区ウイグル族の居住地には“黒い雨”が降り、他の地域の漢人と比べて、悪性腫瘍の発生率が35%も高くなったと報告されている。

 「中国の戦略的なウソは、・・・宇宙空間の軍事利用についてもまったく同じ経過をたどっています。自国がその技術を手に入れるまでは、宇宙の軍事利用に邁進するアメリカを『宇宙の平和利用』の名の下に批判し続けていたのですが、自らがその技術を手に入れた瞬間から、手のひらを返して口をつぐむという二面性を露骨に見せたのです」(同)。

 

 2007年頃から、南シナ海の大半は中国のものだと言いだした。

 やはり、「嘘つきは泥棒の始まり」だったのである。

断章47

 「日本は、庶民に階級社会だと気づかせない、恐ろしい階級社会である。三代働かなくても、子弟を全員、慶応の下から上まで上げてしまうような祖先からの蓄えのある家がごろごろあるのだ」(『日本文明圏の覚醒』15頁・古田 博司)。

 「名家の友人とつきあっていると教えられることが多々あった。彼が『ノーブレス・オブリージュ』という言葉をよく使うので、どういう意味か辞書で調べるのだが、『身分の高い者、豊かな者はそれにふさわしい義務を果たす必要がある』と、書かれてある。具体的によく分からないので尋ねると、『乞食のもっているパンを百円で買ってやることだと、祖父ちゃんが言っていた』と、一撃の答えが返ってきた。じつに分かりやす。」(同17頁)。

 

 わたしは、年老いた貧しくて無名のネトウヨである。

 「上を見たらキリがない。下を見たら後が無い」のである。

 ベビーをバギーに寝かせた美人ママがひとりで、六本木のホテル・グランドハイアット内の日本料理店「旬房」で目でも楽しめる三段彩り弁当「旬彩」5300円をお食べになっている。中央省庁が集まる霞が関周辺では税込みで350円の格安弁当が若手官僚を中心に話題らしい。一方、わたしは、激安スーパーのハンバーグ弁当184円にするか半額セールの5個148円の冷凍うどんを買って帰ってカミさんに「ぶっかけうどん」を作ってもらうかで迷っている。

 

 世界的な生存競争と危機の激化する時代。すでに、「アメリカは想像を超えた悲惨さをもたらす手段を持った状態で(冬の時代に)突入することになり、しかも、自分たちとまったく同じ手段を持った敵と直面することになるかもしれないのだ」(『フォース・ターニング』すでにわれわれは冬の時代にいる)と、告げられていた。

 一段と激化する世界的な生存競争から誰も逃れることはできない。

 生き残りをかける企業は、AI化・ロボット化、人件費の安い国に製造拠点を移したり、スキルの高い外国人を採用したり、外国人研修生を安く使ったりしなければならない。

 例えば、「損害保険ジャパン日本興亜は2020年度末までに、国内損保事業の従業員数を4000人減らす。17年度に比べて人員を2割弱、削減する。IT(情報技術)の活用で生産性を高めるほか、新卒採用も絞る」(日本経済新聞)。

 「ロボットは今後10年間で世界の工場労働者の8.5%に当たる2000万人の仕事を奪っていく――。グローバル予測・定量分析会社オックスフォード・エコノミクスが6月26日、こんな報告書をまとめました」(同)。

 安川電機の最新鋭工場では、「IT活用で、ラインの作業者数も従来なら300人必要だったところを100人まで減らした」(同)そうである。

 

 専門技術職・各種エンジニアが増えたとしても(現在、IT業界は深刻な人手不足だが、この業界は不況に脆弱でもある)、日本の中間層の没落は避けることができないだろう。

 「日本人の大半が年収180万円の下流層に転落する時代が来る」(鈴木 貴博)とすれば、その衝撃に備えなければならない。

 

【補】

 「サラリーマンなどが加入する社会保険料は2003年にボーナスを含む総報酬制に変わったため単純に推移を比較できませんが、賞与を5カ月分として同時期(1997~2019年)の引き上げ幅を概算すると、厚生年金は12.2%から18.3%(1.5倍)、健康保険は5.8%%から10%(1.7倍)、介護保険は0.98%から1.73%(1.8倍)になりました。同じ時期に消費税は5%上がったわけですが、社会保険料は、合計すると11%も引き上げられたのです。その結果、年金と健康・介護保険を合わせた社会保険料率は報酬の30%に達するまでになりました(労使折半)。

 ところが、こんな“大増税”が行なわれたにもかかわらず、国会で問題になることもマスコミが大騒ぎすることもいっさいありませんでした。なぜなら消費税とちがって、社会保険料は国会審議なしに、厚労省の一存でいくらでも引き上げることができるからです。

 給与から天引きされる社会保険料が増えれば、当然、その分だけ手取りの収入が減ります。これは誰でもわかりますが、見過ごされているのは、会社負担分は企業にとって人件費で、保険料の引き上げは給与や賞与の減額によって調整されることです。こうして「給与が減らされ、手取りはさらに減る」という、踏んだり蹴ったりの事態になります。

 平成のあいだにサラリーマンの平均年収が下がったり、同じ年収でも手取りが減りつづけていることが指摘されますが、その原因の一端は“社会保険料の大増税”にあるのです。

 年収500万円のサラリーマンの場合、国に支払う社会保険料の総額は95万円から150万円に増えました。本人負担分だけでも年75万円ですから、多少給料が上がったくらいでは焼け石に水で、いくら働いても生活が苦しくなるのは当たり前です。

 トイレットペーパーの買いだめもいいですが、100円や200円節約したくらいではどうにもならない現実についても、たまには考えてみたほうがいいのではないでしょうか」(橘 玲・『週刊プレイボーイ』10月15日号)。