断章511

 「武器を使用するのを厭(いと)う者は、それを厭わぬ者によって必ず征服される」(クラウゼヴィッツ)。

 

 1月20日、注目されていたウクライナへの武器供与をめぐる支援国会合が、ドイツ西部ラムシュタイン米空軍基地で開かれた。しかし結局、ドイツは、ウクライナが求めていたドイツ製主力戦車「レオパルト」の供与を明言するには至らなかった。

 「ロシア政府は、西側諸国がレオパルトを供与すれば『非常に危険』な紛争激化につながると警告している。レオパルトはフィンランドポーランドなども保有しているが、ウクライナへの供与にはドイツの承認が必要。供与を躊躇(ちゅうちょ)するドイツ政府は、他国からの厳しい批判にさらされている。

 ボリス・ピストリウス独国防相は記者会見で、『レオパルトについては、決定の時期や内容はまだ分からない』とした上で、供与の障害となっているのはドイツだけだとの見方を否定した。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦車の『代わりとなるものはない』として、西側諸国による供与を改めて求めていく意向を表明した」(2023/01/21 AFPBB News)。

 ちなみに、侵略者・ロシアの「西側諸国がレオパルトを供与すれば『非常に危険』な紛争激化につながる」という理屈は、「死にたくなければ逆らうな」と言う武装銀行強盗の警告と同じものである。

 

 問題は、ドイツである。北欧諸国やポーランドには、苛立(いらだ)ちが見える。

 たとえば、「ポーランドのモラビエツキ首相は19日、ポーランドウクライナにドイツ製戦車を供与する許可を得るか、『我々単独で正しいことをするか』のどちらかだとの認識を示した。レオパルド戦車はドイツで製造されているため、供与には通常ドイツ政府の許可が必要になる。

 モラビエツキ氏はドイツの供与許可が遅れていることについて聞かれ、ポーランドは既にウクライナに戦車14両の供与を申し出たと明らかにした。そのうえで『他国もこうしたニーズを満たすようにしなければならない。他国の中でこれまで最も積極性に欠けているのはドイツだ』と指摘した」(2023/01/20 CNN.jp)。

 ドイツは、ロシア・ベラルーシと国境を接する諸国で、評価を下げ信頼を失いつつあるに違いない。

 

 かつてアメリカのネオコン新保守主義者)は、「お前ら(注:ヨーロッパ)を俺様(注:アメリカ)が、汗をかき血を流して守ってやってんのに、俺様のやることにぶつぶつ文句を言うな! 綺麗ごとだけを言うな! 自分の手を汚してから文句を言え! 国防予算ぐらい増額せんかい!」と啖呵(たんか)を切った。

 現下のドイツの積極性に欠ける頼りないふるまい(対ロシア、対中国)をつぶさに見るとき、当時のアメリカのネオコン新保守主義者)の“苛立ち”も無理からぬように思うのは、わたしだけだろうか?

 省(かえり)みるに、日本は、世界から、そしてアメリカから、どう見られているのだろうか?

断章510

 これまでの日本には、自称「知識人」リベラルを筆頭に、いわゆる「出羽守」がゾロゾロいた。ドイツ・フランス・イギリス・北欧諸国の事例と比較して、日本(人)はダメだとさげすむ人たちである。

 ロシアのウクライナ侵略後、いったい彼らは、どこに行ったのか?

 

 ロシア(皇帝ダース・プーチン)は、ウクライナに侵攻して「第三次世界大戦」というパンドラの箱を開けた。歴史的大惨事を呼ぶ放火である。

 北欧諸国は、自国のことのように事態を憂慮している。

 だから・・・、「英国やポーランド、バルト3国など欧州11カ国は19日、ロシアの侵攻が続くウクライナを援護するため、主力戦車や重火器を含む『前例のない支援一式』を提供すると約束した。エストニアの首都タリンで国防相らによる会合後、共同声明を発表した。

 20日にドイツ南西部ラムシュタイン米空軍基地でウクライナ軍事支援の国際会議が開かれるのを前に、共同歩調を打ち出した形だ。

 11カ国は声明で『ウクライナが自国領土からロシアを追い出すための装備を提供するのは、領土を守るための装備を提供するのと等しく重要だ』と強調。『ウクライナが抵抗からロシア軍の駆逐に移行するのを支援し続ける』と宣言した。

 共同声明は『タリン誓約』と名付けられ、主力戦車や重火器、防空システム、弾薬、歩兵戦闘車両などの武器供与を約束。20日の会議で他の参加国に追加支援を促す方針も明記した」(2023/01/20 時事コム)。

 共同声明が『タリン誓約』と名付けられていることに留意すべきである。

 

 そして、「フィンランドのミッコ・サボラ国防相20日、大口径砲や弾薬などウクライナに対して4億ユーロ(約560億円)に上る過去最大の軍事支援を行うと発表した。サボラ氏は声明で『ウクライナは領土を守るために引き続き支援を必要としている』と強調した。

 (フィンランド国防省は供与する兵器の詳細については明らかにしなかったが、同省特別顧問はAFPに対し、ドイツ製の高性能戦車『レオパルト』は含まれないと述べた。

 一方、スウェーデンは19日、ウクライナ政府が数か月にわたって供与するよう求めていた自走榴弾(りゅうだん)砲『アーチャー』 ―― スウェーデンノルウェーが共同開発した新世代の自走榴弾砲ボルボのダンプトラックの荷台に52口径155mm榴弾砲の砲塔を搭載し、この砲塔は自動装填装置で無人化され連続砲撃が可能であり、GPS内蔵砲弾は60Km先への長距離精密射撃が可能 ―― 、装甲車、対戦車ミサイルウクライナに提供すると表明した」(2023/01/20 AFPBB News)。ボルボは、「意識高い系」が好むおしゃれな「乗用車」だけをつくっているのではないのだ。

 さらに、「カナダ政府は18日、ロシアの侵攻を受けるウクライナに対し、装甲兵員輸送車200台を追加供与すると明らかにした。カナダのアナンド国防相が同日、ウクライナ首都キーウ(キエフ)を訪問し発表した。

 提供するのは、カナダのロシェル社製『セネター』で、総額9000万カナダドル(約86億円)相当。カナダ政府は『ウクライナからの具体的な要請に応じた』と強調した。ウクライナのレズニコフ国防相は『われらの勝利を近づけるものだ』と歓迎した。

 カナダ政府によると、ウクライナ侵攻が始まった昨年2月以降、ウクライナに対するカナダの軍事支援は総額10億カナダドル(約960億円)を超えた」(2023/01/19 日本経済新聞)。

 

 なにかにつけて、欧米・北欧諸国の事例と比較して、日本(人)はダメだとさげすんできた、自称「知識人」リベラル・「出羽守」たちは、今こそ声を大にすべきときである。

 「欧米・北欧諸国“では”、軍事支援に力を入れているぞ」と。(できるかな?)

断章509

 日本の自称「知識人」たちは、祖国を卑しめ、日本人を辱しめ、民衆を見くだし、“資本主義”を罵倒(ばとう)することで忙しい。そんな自称「知識人」たちは同意しないだろうが、現代世界 ―― そして、日々衰えつつあるとはいえ現代日本も ―― は、彼らが言うほど悪くはなかった。

 

 「われわれは、すばらしく機会に恵まれた時代に生きている。死産の危険を乗り越えて生まれ、学校に通い、貧困から抜け出し、高等教育を受け、よその土地から来た人々と出会い、就職し、起業し、生計を立て、新しいものに投資し、投票し、質の高い医療を受け、国境を越え、わが子にも同じ恩恵を与える。今までに、これほど多くの人間が機会に恵まれた時代があっただろうか。今、何十億もの人々が、中世の王侯たちでさえ手に届くことのなかった快適さや機会に囲まれて暮らしている。人間の発明は一世代前ですら想像もできなかった域に達している」(イアン・ブレマー)。

 個人にとって「イノチ」の次に大切なものは、時間だという。だから、現代の平均寿命 ―― たとえば、日本厚生労働省の2021年分の簡易生命表によれば、日本人男性の平均寿命は 81.47 年、女性の平均寿命は87.57年 ―― の長さは、(高齢者の増加による諸問題はさておき)、いま生きている個人にとっては、恵まれた時代であることを示している。

 1歳未満の乳児死亡率は、ローマ時代のエジプトでは1,000人当たり329人、1301~1425年のイングランドでは1,000人当たり218人、1740~1749年のフランスでは1,000人当たり296人と非常に高かった。そのため、平均寿命は20歳台であった。

 

 ところが、今、時代は大きな曲がり角を迎えた。まるで『ヨハネ黙示録』の「馬に乗る者」がやって来た合図であるかのように、核大国・ロシアは核の使用をちらつかせながらウクライナに侵略した。

 わたしは危惧する。『ヨハネ黙示録』の「赤い馬に乗る者」とは赤色全体主義のことであり、「黒い馬に乗る者」とは黒色全体主義のことであり、「蒼ざめた馬に乗る者」とは激甚なパンデミックのことではないかと。

 そして、わたしたちがこれからの大混乱・大波乱・大変化の時代に進むべき正しい道を見失ったときには、超絶した知能をもつと自認するホモ・デウス(神のヒト)が「白い馬」に乗って現われ、デジタル独裁 ―― 今後現われる独裁形態で、IT機器を駆使して過去にない精度で国民を監視する政治システム ―― で、わたしたち凡愚を支配するのではないかと・・・。

断章508

 「ならず者国家」もまた大混乱・大波乱・大変化を引き起こす。

 「著名な国際政治学者イアン・ブレマー氏が社長を務める米コンサルティング会社ユーラシア・グループは3日、毎年恒例の『世界の10大リスク』を発表した。

 2023年の1位には、ウクライナ侵攻を続けるロシアを挙げた。世界で最も危険な『ならず者国家』として、欧米などの安全保障に深刻な脅威を与えると指摘した。

 侵攻から1年近くになるなか、ロシアは欧米が支援するウクライナの抵抗を受け、戦争に勝つための軍事的な選択肢を失っていると分析した。一方で、核による威嚇が強まり、偶然や誤算による核使用のリスクは1962年のキューバ危機よりも高まると警鐘を鳴らした」(2023/01/04 朝日新聞デジタル)。

 

 ロシア当局は、ウクライナ侵攻について、「『特別軍事作戦』と呼べ。『戦争』と呼べば、“懲役刑”だ」と国民を脅している。ところが、皇帝ダース・プーチンは、先日ついうっかり、「戦争」と口をすべらせてしまった(シマッタ!)。

 

 戦況は停滞しているように見える。局面打開のためか、プーチン大統領は「部分動員令」を発動した。

 キャノングローバル戦略研究所の吉岡 明子は、2022年10月12日付けレポートで、ロシア語メディア等が報じたロシア国内の様々な反響を紹介した(耳寄り情報なので無断転載。すまん)。

 「ロシアの独立系メディアやロシアの各地方の地元ニュースサイト等の情報によると、今回の『部分動員』はロシアの各地に大きな衝撃と動揺をもたらしたようだ。実は、これまでプーチン大統領は動員の可能性を度々否定してきた。例えば、今年3月8日の国際婦人デーにおける女性たちに向けたメッセージや、その数日前に行われたアエロフロート航空の客室搭乗員らとの会見のなかで、プーチンウクライナでの『特別軍事作戦』に参加しているのは職業軍人であり、予備役らが戦地に赴くことはないと明言している。9月16日にも、外遊先のウズベキスタンで行われた記者会見で、ウクライナで戦っているのは契約に基づく軍人のみである点を強調した。

 そのわずか数日後、プーチン大統領は部分的とはいえ動員による兵力増強に踏み切った。ロシアの多くの政治アナリストらは、9月初旬のハルキウでのウクライナ軍の猛攻を受け、ロシア国内の強硬派からの圧力が一気に高まったことが、今回プーチンが動員の決断をせざるを得なかった背景にあると見ている。一方で、動員された兵士らは、まともな装備も与えられず、適切な訓練もないまま、既にその一部がウクライナの前線に送られているとの情報もソーシャル・メディアに上がり始めている。真偽は不明だが、今回動員されたばかりのロシア兵のなかから、早くもウクライナへ投降する者や戦死者が出ているという。

 そもそも、今回の部分動員には不透明な点も多く、それが国民の動揺や動員を直接実行する各地方の混乱に拍車をかけている。プーチン大統領が9月21日、国民に向けた演説のなかで部分動員を表明した直後、ショイグ国防相が国営テレビに出演し、動員の規模について『予備役の中から30万人』と説明したが、動員の対象について詳細には触れなかった。

 また、動員される兵士の総数についても、プーチンが発令した10項からなる動員令のなかで、肝心の総数が記された第7項は非公開とされ、不明確なままである。なお、ロシアの独立系メディアのノーバヤ・ガゼータ・ヨーロッパは、大統領府関係筋の話として、この第7項には、30万人ではなく100万人動員できると記されていると伝えた。同じく独立系メディアのメドゥーザも、120万人が動員される可能性を伝えている。

 今回の動員のインパクトをロシアの地方の視点で振り返ってみたい。ロシアの複数のメディアによると、国家を構成する共和国や州といった各地方(ロシアでは『連邦構成主体』と呼ぶ)の首長らは、自身が管轄する連邦構成主体における動員数を『ノルマ』として課せられたとされる。その割り当て数については、当初、各連邦構成主体の単純な人口比に基づくとの情報が流れたが、それとは異なるような実態が明らかになってきている。そのため、それぞれの連邦構成主体において、不当に大きな負担を強いられているとの不満が、ロシアの地方を中心に広まりつつある。

 例えば、ロシア極東に位置するブリヤート共和国の場合、同共和国の動員割り当て数は公にはされていないが、今回の動員がかなり大規模かつ強引な形で行われたことが、数々の地元住民らの証言で明らかとなっている。同共和国の地元ニュースサイトや人権団体によると、地区の当局者らが深夜に一軒一軒各家庭を周って召集令状を手交。しかも、人権団体に寄せられた証言によると、拒否したり考える時間を与えないためか、翌朝4時までに入隊事務所に集合するよう命じられたり、その場で30分以内に支度をするよう迫られたケースも数多くあったようだ。

 ブリヤート共和国は、バイカル湖の南岸を囲むロシアの連邦構成主体のひとつで、人口はおよそ98万人。モンゴル系民族のブリヤート人が4分の1を占め、その多くが仏教徒である。のどかな風景が広がるブリヤートだが、部分動員令が発動された21日の夜、当局の『一斉検挙』が行われたかのような異様さに包まれたという。『対象者らをベッドから起こし、車に乗せ、即座に入隊事務所に連行せよ、という口頭の指令を受けていた』 ―― ブリヤートのある地区の当局者自身も、地元メディアにこう打ち明けている。

 地元の人権団体によると、本来動員の対象外であるはずの軍務経験のない男性をはじめ、18歳の学生から72歳の高齢者、障碍者、はては2年前に亡くなった死者の名前で召集令状が届けられた。この人権団体の推計によると、最初の3日間だけで7,000人のブリヤート人に招集令状が配られたとされる。

 こうした状況を受け、ソーシャル・メディアには、『ブリヤートで行われたのは、“部分動員”ではなく“総動員”だ』との住民らの抗議の声が数多く上がった。さらに、ロシア人の村ではなく、ブリヤート人の村ばかりが狙われているとの疑念の声も噴出した。ブリヤート人の若者を戦地に送ることで、民族の血を根絶やしにしてしまおうとしているのではないか ―― 。ソーシャル・メディア上では今、ロシア政府によるブリヤート民族への『ジェノサイド』という議論まで飛び出している。

 メドゥーザが政府関係筋の話として伝えたところによると、政府当局は各連邦構成主体に今回の動員を実行させるにあたり、『可能な限り都市部からではなく、農村部から動員するよう推奨』したとされる。都市部と異なり、農村部にはメディアや反体制派の目が行き届かないというのがその理由だ。

 農村部は、都市部よりもウクライナ侵攻への支持者が多いとも言われ、そのあたりにも当局の思惑がありそうだ。例えば、ロシアの独立系調査機関レバダセンターで長年所長を務めてきたグトコフ氏が、今年3月にユーロニュースのインタビューのなかで語ったところによると、現在行われているウクライナ侵攻のロシアにおける基本的な支持層は、地方に暮らす低学歴者など“社会的周縁”という言葉で一定程度表現され得るという。彼らは日々テレビを主な情報源としており、政府が流すプロパガンダを受け入れやすい。

 しかし、『都市部ではなく農村部から動員せよ』という方針は、各連邦構成主体の中での話にとどまらなかったことは、ブリヤートをはじめとする辺境地域で行われた動員が、特に大規模かつ熾烈であった様子からも読み取ることができそうだ。つまり、政府当局による各連邦構成主体への動員数割り当てが行われた際、モスクワやサンクトペテルブルクといった大都市圏ではなく、首都から離れた辺境の地に、より多くの動員数をノルマとして課した可能性が取りざたされているのである。ロシアのメディアのなかにも、この可能性を仄(ほの)めかすような関係者の証言が出始めている。

 実際の連邦構成主体ごとの動員数は公式には明らかにされていないため、この点についてはいまだ不透明な部分が多い。だが、ロシアの複数のメディアによると、人口1,200万人超のモスクワに今回割り当てられた動員数は16,000人、プーチン大統領の出身地であるサンクトペテルブルク(人口約530万人)は、動員割り当てはわずか3,200人との報道もある。人口98万人のブリヤートで、地元人権団体が言うように最初の3日で7,000人以上が動員されたことが事実であれば、その比重の偏りは歴然であろう。これでは、大きな負担を強いられた地方が、中央に対して反発を抱くのは必至である。そこに民族的な要素が入っていた可能性があるとすればなおさらだろう。(中略)

 ウクライナでの戦地に少数民族が多く駆り出されているのではないかとの声は、ロシア極東に暮らす朝鮮系の市民の間からも上がっている模様だ。中央日報の日本語版は5月16日、朝鮮系ロシア人将校の戦死の報を伝えるなかで、ウクライナに投入されているのは朝鮮系を含む少数民族が主力であり、朝鮮系のなかにも多くの戦死者を出していると推定されると伝えた。

 こうした背景があるなかで、これら少数民族が多く暮らす地域において今回の動員に対する住民らの反発は、地方当局の想定を凌ぐ勢いとなった。ブリヤート共和国から多くの男性らが徴兵を逃れるため、モンゴルとの国境へと向かう様子が連日メディアで伝えられた。通常、政治にあまり口を出さないとされるダゲスタン共和国ムスリムの女性たちが、動員反対の声を挙げて警察ともみ合い、100人以上が拘束されるという異例の事態も起こった。

 一方で、各地区の徴兵担当者らが功を焦り、ずさんな動員を行ったことが、各地の混乱に拍車をかけたという側面も指摘しておきたい。ダゲスタン共和国では、ある地区の動員担当者が、車両を走行させながら地区の全ての男性に速やかに入隊事務所に出頭するようスピーカーで命じて回っていたことが明らかとなり、責任問題となっている。極東ハバロフスク地方でも、今回徴兵された人々のうち半数以上が兵役の基準を満たしていなかったとして、動員担当者が引責辞任に追い込まれた。ブリヤート共和国の首長も、本来動員の対象外であるはずの学生や障碍者などについてはすぐに帰宅させるなど、各地で対応ぶりが一様ではないようだ。

 プーチン大統領自身も、動員に対する各地の激しい反発を受け、軌道の修正を迫られているとみられる。9月24日には、学生を動員から除外することを明記した新たな大統領令に署名、さらに29日には、安全保障会議のなかで『誤りがあったとすれば正さなければならない』と述べ、ロシア各地で実際の動員の過程で誤りがあったことを認め、是正していく方針を打ち出した。

 住民の不満を少しでも和らげるため、サハ共和国サハリン州など一部の連邦構成主体は、国から動員兵に支給される給与等とは別に、動員された兵士の家族に対して独自の一時金を支給する方針を打ち出した。一時金を支払う余裕のない連邦構成主体、例えばトゥバ共和国は、動員される兵士一人につき、生きた羊一匹と石炭などの配給を約束した。

 西側からの制裁や欧米企業の撤退は、既にロシアの地方経済にとっても大きな打撃となっているだけに、今回の動員により地方で生まれた不公平感が、今後中央に対する反発の土台となっていく可能性がある。今ロシアの地方政治においては、プーチン大統領が9月30日に一方的に併合を宣言したウクライナの4つの州の復興資金が、今後地方に押し付けられるのではないかとの警戒感が広がり始めているところだ。地方からのこうした不満や不公平感が高まっていくようなことになれば、中央からの猛烈な遠心力がロシア各地で働いた90年代のように、それが中央を揺るがす可能性も考えられよう。プーチン大統領指導力が今問われている。今後、ウクライナ戦争とロシア地方政治との関係にも目を向けていく必要がありそうだ」。

断章507

 パンデミックの脅威もつづいている。

 新型コロナの世界感染者は、直近で累計6.63億人。合計死亡者数は670万人である。

 「日本の厚生労働省によりますと、1月6日に発表した新型コロナウイルスによる全国の死者数は456人で、2022年12月29日の420人を上回って、一日の発表としては、これまでで最も多くなりました。

 また、1月6日に発表した国内の新たな感染者は、空港の検疫などを含め24万5542人で、静岡、大分、茨城、和歌山、鳥取、岡山、山梨の7つの県で過去最多となりました」(2023/01/06 NHK)。

 日本の「感染者数累計は、3千万人を超えた。死者数も1カ月余りで1万人近く増え、過去最速のペースで(合計死亡者数)6万人に迫る。専門家は『対策の緩和や気の緩みが影響している』と指摘する。地方での感染拡大も顕著で、医療現場も切迫してきている」(2023/01/06 朝日新聞デジタル)。

 

 中国については、昨年末、「英国の医療関連調査会社エアフィニティーは29日、中国での新型コロナウイルスによる死者が1日当たり約9,000人との試算を示した。1週間前の試算からほぼ倍増となる。

 発表では、中国での12月1日以降の死者数が10万人に達し、感染者数は合計1,860万人に上ると指摘。試算には感染者数の報告に関する変更が実施される前の中国各省のデータに基づくモデルを用いたという。

 中国のコロナ感染は1月13日に最初のピークを迎え、1日当たり370万人に達すると予想。1月23日には死者数がピークに達し1日当たり約2万5,000人になると見込んだ。12月以降の累積死者数は58万4,000人になるという」(予測を)、ロイター通信が報じている。

 さらに、「米国で新たなオミクロン株の下位系統XBB.1.5が急速に拡散している。現存するオミクロン下位変異株のうち免疫回避力が最も強いといわれ、米保健当局が緊張している。

 2日(現地時間)、米疾病管理予防センター(CDC)によると、先月31日基準でXBB.1.5が新型コロナウイルスの全体感染例のうち40.5%を占めることが明らかになった。これは先月24日基準の21.7%から1週間で倍近くに増えた数値だ」(2023/01/03 韓国・中央日報)。

 

 感染症パンデミックの脅威は、早くから警告されていた。たとえば、日本の(財)日本再建イニシアティブは、『日本最悪のシナリオ 9つの死角』(2013)で、「アメリカでは1982年を境に、感染症による死亡者数が増え始めた。しかもエイズ出現後、感染症アウトブレイク(集団発生)とパンデミックは、数が拡大し、さらに加速する傾向。高病原性鳥インフルエンザ(1997)、ニパウイルス感染症(1998)、ウエストナイル熱(1999)、SARS(2003)、パンデミック・インフルエンザ(2009)、病原性大腸菌О104(2011)。

 原因は抗生剤の乱用による耐性菌の出現や、地球温暖化による微生物の分布の変化など環境がウイルスにとって優位に変わっていることがあげられる。また、グローバル化も影響しているだろう。……人の移動や物流にともない、ウイルスが赤道をまたぎ、大陸から大陸に簡単に移動する。ウイルスにとって地球は狭くなったのである」と述べていた。警告は、ほとんど無視されたのである。

 

 他にも、「性感染症である梅毒の感染者の、2022年の報告数は8,456人(9月11日現在)に達した。現在の調査方法となった1999年以降で最多だった2021年の7,875人(速報値)を上回り、過去最多を更新したことになる。

 (医師によれば)「『梅毒に関する正しい知識がないからこそ、増えてしまっている状況も考えられます。このまま増えると数年後に、症状はないものの血清抗体価が下がっていない潜伏梅毒の人が、脳や心臓などの中枢神経系にまで感染が広がり、命にかかわる状況になりえます。そういう人がどんどん増える可能性があり、注意すべき状況です。……女性の感染者に、CSW(コマーシャルセックスワーカー。性的なサービス提供を仕事にしている人)が多く含まれている可能性があると思います。性行為をする年齢層であれば感染の危険があるので、最も若くて10代後半にも感染者がいる可能性はあるでしょう』」(2022/10/05 AERA dot.)という。

 あるいは、「千葉県は3日、同県旭市の養鶏場で高病原性の疑いがある鳥インフルエンザウイルス(H5亜型)が発生したと発表した。福岡県古賀市の農場でも同日、ダチョウに似た大型の鳥エミューの感染が確認された。

 農林水産省によると、今季の農場・施設での高病原性鳥インフル発生件数は23道県54件となり、1シーズンの事例数としては2020年度(20年11月~21年3月)の18県52件を上回って、過去最多を更新した。(中略)

 感染の確定を受け、千葉県は鶏約9,600羽、福岡県はエミュー約430羽の殺処分を始めた。今季の全国での殺処分の対象は約775万羽に上っている」(2023/01/03 読売新聞オンライン)。

 「鳥インフルエンザウイルスは、通常ヒトには感染しませんが、感染した鳥に触れる等、濃厚接触をした場合などにきわめてまれに感染します。ヒトが感染した場合、1~10日の症状のない期間があった後、高熱、咳などの症状を示します。急激に全身の臓器が異常な状態になり、死亡することもあります」(Wikipediaから)。

断章506

 天災は、大混乱・大波乱・大変化の契機になる。しかも、まるで平仄を合わせるかのように、天災と人災の生起には奇妙な一致がある。

 新春早々、ジャーナリスト・石 弘之は言う。

 「地下のマグマが一気に地上に噴出し、壊滅的な被害や寒冷化を引き起こす超巨大噴火は『破局噴火』と呼ばれる。世界中には大噴火の過去をもつ大火山が分布しており、万が一噴火すれば、地球全体に影響がおよび、その地域では住民の大量死、さらには深刻な寒冷を引き起こしかねない。

 では、今後起きるかもしれない破局噴火はどこにあるのか? 

 もしも最悪の破局噴火が起きるとしたら、その最有力の候補は『地上最大の活火山』といわれるアメリカのイエローストーン国立公園だ。世界初の国立公園に指定され、世界自然遺産に登録された世界で最も人気の高い国立公園の1つだ。カルデラを中心に広がる8991平方キロの公園は、あちこちで噴気が上がり熱水のプールが点在し、観光名所の間欠泉が1~2時間ごとに熱水を噴き上げる。草原では、バファロー(アメリカ野牛)やワピチ(大型のシカ)がのんびり草をはんでいる。

 これまで、約210万年前、約130万年前、約64万年前の計3回、破局噴火を起こした。

3回目は比較的小規模だったが、それでも巨大噴火の代名詞でもある1883年に起きたインドネシアのクラカタウ噴火の50倍の規模があった。噴火の周期は約60万年で、最後の噴火からするとその周期を迎えている。地下1500メートルほどの浅い地殻に、この公園の面積に匹敵する巨大な『マグマ溜まり』があって刻々とエネルギーをため込んでいるとみられる。(中略)

 イエローストーン国立公園が噴火した際には、人類の存亡の危機になると火山学者から警告されている。それは最大10億人の命を奪い、北米大陸を荒廃させる可能性がある。英国の科学者によるシミュレーションは、もしもイエローストーン国立公園で破局噴火が発生した場合、火砕流だけでも雲仙普賢岳噴火の1000万倍以上になり、3~4日以内に大量の火山灰がヨーロッパ大陸にまで運ばれる。

 火山から半径1000キロ以内に住む90%の人が有毒ガスや火山灰で窒息死し、地球の年平均気温は10~12℃下がり、寒冷化は6~10年つづくと考える研究者もいる。『世界のパン籠(かご)』といわれるアメリカの農業地帯は崩壊することになる」。

 「(あるいは)日本国内では、巨大カルデラ噴火を起こした火山は7つあり、そのうちの4つが九州に集中している。なかでも最大のものが、熊本地震で活発化が懸念される、阿蘇カルデラだ。神戸大学教授の巽 好幸は『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』のなかで、阿蘇山破局噴火した場合、2時間ほどで火砕流が700万の人々が暮らす領域を焼き尽くす、火山灰が日本列島を覆い、北海道東部と沖縄を除く全国のライフラインは完全に停止する、と断言する。

 日本列島では、これまで何度も富士山の宝永噴火の1000倍以上のエネルギーを放出する巨大カルデラ噴火を経験してきた。国内で最後に起きた巨大カルデラの鬼界噴火は、7300年前の縄文時代に遡る。

 プリニー式噴火であるこのカルデラ噴火は、数十キロの高さにまで巨大な噴煙柱が上がり、周囲から取り込んだ空気が熱で膨張するため噴煙はさらに勢いを増していく。大量のマグマが噴出したことで空洞ができ、それが陥没してカルデラができる。火砕流が発生した場合には、その速度は時速100キロを超えることもあり、付近の谷を埋め山々を乗り越えていく。

 九州の広い面積が焼き尽くされた後、中国・四国では空から火山灰が降り注ぎ、昼なお暗くなるだろう。そして降灰域はどんどんと東へと広がり、噴火開始の翌日には近畿地方へと達する。大阪では火山灰の厚さは50センチを超える。とくに雨が降れば火山灰の重量は約1・5倍にもなり、木造家屋はほぼ全壊する。さらに、首都圏でも20センチ、青森でも10センチもの降灰が予想される」。

 「かつて『世界第2の経済大国』として国際社会で畏敬された日本は、今や『衰退途上国』とさえ呼ばれるほどの経済の低迷がつづいている。豊かさを示す指標となる『1人当たりGDP』(市場為替レートによるドル表示)では、2021年には世界の30 位にまで低落した。2000年にはルクセンブルクに次ぐ世界第2位で、第5位のアメリカよりも高かったのに。

 かつては高い技術力を誇ったが、新型コロナウイルスの国産ワクチンは流行に間に合わず、累計1兆円の開発費を投じながら、国産ジェット旅客機はついに日の目をみなかった。30年前に日本の半導体ICの世界市場シェアは50%を支配していたのが、2020年には6%にまで落ち込んだ。2020年版『世界競争力ランキング』によると、世界主要63ヵ国・地域のなかで日本は34位で、過去5年間で最低順位に落ち込んだ。

 国債発行額は過去最高に積み上がり最悪の財政状態にある日本が、もしも大災害に直撃されたら直接的な被害だけでなく『経済破局』を招かないだろうか」(以上は、2023/01/02 東洋経済オンライン記事を再構成)。

断章505

 大混乱・大波乱・大変化に備えなければならない。

 記憶は薄れるものだ。過去のことは忘れやすい。たとえば、「私の曾祖母が生れた頃は、人間は馬より速い速度で旅することはできなかった。それからしばらくたってからも、蒸気機関車が限界だった。夜の闇から逃れる方法はロウソクか石油ランプしかない。……家が女性の仕事場であり、料理をするにはかまどに火をおこさなければならず、火をおこすには薪を削らねばならなかったし、水は川か井戸から汲んで運ばなければならなかった」(カール・B・フレイ)。世界大戦の記憶、経済的大破局の記憶もまた薄れている。

 

 「第二次世界大戦後の経済成長と繁栄は、スタグフレーションとごく短期間の景気後退で何度か中断したが、世界は総じて長期にわたる繁栄と平和と生産性の伸びを謳歌してきた。過去75年間にわたって経済はおおむね安定し、景気後退はいくつかの例外を除いて比較的短かった。イノベーションが次々に出現して生活の質は向上し、大国間の全面戦争はなかった。そして多くの国の多くの世代が、親世代、祖父母世代を上回る生活水準を謳歌している。

 だが残念ながら、長く続いた平和と繁栄の時代はこれ以上続きそうもない。現在起きているのは、安定の時代から不安定と紛争と混乱の時代への大転換だ。これまでに遭遇したことのない巨大な脅威に人類はさらされている。

 しかも、累積債務と過剰債務の罠、信用緩和と金融危機人工知能(AI)と技術的失業、脱グローバル化と大国間の地政学的緊張関係、インフレーションとスタグフレーション通貨危機と所得格差の拡大とポピュリズム、気候変動とパンデミックという具合に、脅威は相互に関連している。

 いまや大恐慌以来の経済・金融危機に襲われるリスクが迫っている。さらに、気候変動、人口高齢化、自国第一主義や移民排斥、米中対立、技術革命と技術的失業などがこの危機に追い討ちをかけるだろう。

 いま私たちは断崖の上を危なっかしく歩いており、はるか下の地面は揺れている。それなのに、未来は過去の延長だとまだ考えている人が多い。これはとんでもないまちがいだ。すでに鳴り響いている警報に耳を澄ませてほしい。経済、金融、技術、貿易、政治、地政学、健康、環境に関わるリスクは、これまでとは桁ちがいの規模に膨れ上がっている。よく知っていると思い込んでいた世界をすっかり変えてしまう巨大な脅威の時代が来るのだ。

 私だって、人類の未来についてもっと楽観的になりたい。株価は上がる、利益は増える、雇用も所得も増える、平和と民主主義が世界に広がりどの国も平和と繁栄を謳歌する、持続可能で包摂的な成長が実現する、国際的な合意により公正で誰もが受け入れるルールが定められる、と言えたらどんなにいいだろう。だがそれはできない。好むと好まざるとにかかわらず、危機は迫っている。人類が直面する巨大な脅威は世界を大きく変えてしまうだろう。生き延びたいなら、見ないふりをしてはいけない。備えることだ」(ヌリエル・ルービニ、『MEGA THREATS』(メガスレット)の一部を再構成・引用)。