断章23

 今の日本の富裕層は「鼓腹撃壌」であり、庶民は「さしあたり穏やかに暮らしてゆけるならそれで良い」としている。

 

 富裕層とは、「鼓腹撃壌」とは・・・

 野村総合研究所の2017年の調査によると、純金融資産5億円以上の「超富裕層」は8万余世帯で、彼らが持つ純金融資産は84兆円とされている(純金融資産であることに注意)。

 

 「『図解・富裕層ビジネス最前線』(中経出版)によれば、日本には10億円以上の資産を有する層は3万人いて、職業別の内訳は、経営者1万6900人、医者、歯科医8000人、優良企業役員1650人、著名人1590人・・・だ」

 「2015年から『財産債務調書』の提出が義務付けられた。・・・富裕層の全国一斉調査である」「ただ、その“見える化”の試みも今回はまだ不発に終わりそうだ。年間所得が3000万円、5000万円あっても資産や有価証券を持たない人は対象外だ。引退して所得のない高齢者はどれほど資産家であっても報告不要。代々の土地持ちで、資産の額は莫大でも年収は普通のサラリーマンと変わらないという御曹司も同様だ」「こんなことで日本の富裕層の実態が浮き彫りになり、税金の徴収がうまくいくというのだろうか」と古俣慎吾氏は疑問を呈している。

 (例えば、名古屋市の近郊都市の駅前に大型商業施設があるとする。所有地をこの商業施設に貸して毎月1000万円、年1億2000万円の賃料を得ている人でも、名古屋市内の会社に勤めて年収700万円の範囲内で普通に暮らし、怠りなく税金対策をしているような場合には、『財産債務調書』を提出しなくてもよいのだろう)

 「日本企業はグローバルに見た場合、高い業績は上げていないものの、役員報酬もその分だけ低いというのが常識だった。だが、ここ数年、役員報酬の金額はうなぎ登りに上昇しており、業績は相変わらず国内基準だが、役員報酬だけはグローバル基準という経営者にだけ都合のよい企業が増えてきた。ある大手電機メーカーのトップは2018年3月期に15億円もの報酬を得ている」(加谷 珪一)。

 

 片や「さしあたり穏やかに暮らしてゆけるならそれで良い」としている庶民は、「日本の就業者数は約6500万人なので、雇用者報酬250兆円を就業者数で割ると、労働者1人あたりの報酬が計算できるが、ここでは約385万円となる。大雑把にいうと労働者として働いた場合の平均年収は385万円と考えてよく、この数字は各種統計から得られる平均年収とほぼ一致している」(同)ということである。

 なお、労働者たちの平均年収の内訳に立ち入れば、すでにご存じのように日本経済は二重構造であるから、上層の上位、上層の下位、下層の上位、下層の下位、最下層と、ここにも明らかな格差があるのである。

 

 念のために言えば、格差(所得、資産)は、いつの時代にも、いつの国にも存在した。

 「戦前の三井合名会社の部長クラスは、現代の価値で4000~5000万円相当の年収」(鈴木 貴博)だった。

 「住友財閥系での月給は、帝国大学卒は80円、早・慶卒は65円、専門学校卒60円、中等学校卒35円。一方、世間の大多数の人は、小学校卒で、日給制で月額10数円もあればうらやましがられた」(『昭和の恐慌』)のである。

 

 今、1億2千万人を乗せた日本丸は、豪華ラウンジで楽しむ富裕層からエンジン音が響きわたる油臭い船底にいる最下層民までを乗せて、海賊が待ち構える海図のない海を漂っている。巨大氷山は無いと言い切れるだろうか?