断章37

 「このところ中国の外交官と知識人は『トランプの任期さえうまく乗り越え、米国との戦争さえないなら時間は中国の味方』という話を流す。中国は毛沢東時代の自力更正スローガンまで叫んで長期戦に備える態勢だ。習近平は米国に対抗してロシアと組み、『中国は世界最大の製造・貿易および外国為替保有国に成長した。中国はどんな危険と挑戦にも対応できるあらゆる必要な条件と能力・自信を持っている』と話した」(6/10 韓国・中央日報)そうである。

 

 だが、時間は中国に味方するだろうか。

 まず、今や中国に対して厳しい目線を送っているのは、トランプたちだけではない。

 「2000年に設立された与野党合同の『米国議会中国関係執行委員会』は、2018年10月10日に年次報告書を発行した。いわく『世界の中心的地位を確立しようと台頭するより強引な中国を、われわれは目の辺りにしている。そのために中国は、開発、貿易、インターネット、さらには人権に関する新たな世界規範を構築しようとしている。中国の独裁主義は、アメリカの自由、並びに最も重要な価値観および国益を直接脅かしている』。(中略)

 過去10年間のアメリカにおける中国に対する根本的な変化である。オバマ政権発足当初の2009年には、アメリカでの大方の中国に対する見方は、貿易や経済関係が促進され、さらに外交や文化交流が活発になると、中国の開放と政治的自由化につながるというものであった。

 しかしこうした期待は裏切られ、習近平国家主席の下の中国共産党は、上で引用された議会の調査によれば、『国家権力を背景とした抑圧、監視、および教化を通して権力の独占を維持することに深く執着している』ということである。

 この認識の変化は3つの点から注目に値する。

 第1に、この認識は民主党共和党問わず共通であり、両党の議員たちは、中国は世界におけるアメリカのリーダーシップへの挑戦だという見解を共有している。(中略)

 認識の変化は、政界のみならず、アメリカのビジネス界にも広がっている。自社製品やサービスを中国で販売し、さらに中国で製造することを望んでいたアメリカ企業は、つい最近までは中国に対して厳しい措置をとることを求めていたアメリカの政治家に難色を示していた。

 ところが、中国市場への参入障壁や技術・知的財産の盗用、外国企業にとって有害な法律や規制の変更など多数の問題により、アメリカのビジネスリーダーの多くがアメリカ政府の中国に対する厳しい対応を公然と支持するようになった。そして、研究者を含むアメリカの知的コミュニティも、言論の自由、学問の自由、市民社会を、中国国外でさえも抑圧しようとする中国政府の取り組みに警戒するようになっている」(グレン・S・フクシマ 東洋経済)のである。

 

 なによりも、「中国の少子高齢化が加速する。国家統計局の21日の発表で、2018年の出生数は17年比200万人減の1523万人だった。毛沢東による“大躍進政策”の失敗で多くの餓死者を出した1961年以来、57年ぶりの低水準。一方で高齢者は増え、65歳以上が人口に占める比率は18年末に11.9%と前年比0.5ポイント上昇した。社会保障の財政負担や個人消費の低迷につながりそうだ」(日本経済新聞 2019/1/22)。

 

 「中国では2000年に、60歳以上の高齢者人口が10%を超え、高齢化社会に突入した。2013 年 には60歳以上の高齢者人口は1億9390万人になり、総人口の14.3%を占めた。中国は1億人以上の高齢者人口を抱える唯一の国となった。高齢者人口は今後毎年860万人ずつ増加し、2050年には高齢者が総人口の3分の1を超え4億5千万人に達する見込みであり、80歳以上の人口が1億人を超えると予測されている。

 中国の高齢化社会は、第一に急速な高齢化(中国の高齢化は世界平均より速い速度で高齢化が進んでいる。国連の予測によると、1999年から2020年の世界高齢人口の年平均増加率は2.5%だが、中国の同期での増加率は3.3%となっている)。

 第二に“未富先老”(急速なスピードで経済成長を遂げている中国であったのが、その途上で人口高齢化を迎えてしまったことになる。豊かにならない段階で高齢化の時期を迎えてしまったため、経済発展水準とのバランスを欠いてしまっている状況)。

 第三に地域格差という特徴がある。くわえて、“空巣家庭”(子が独立し、家を離れ、老人だけが残される家)が増加し、都市部では51%、農村部では49%に達していると いった特徴がある」(周 金蘭 2015年)。

 

 さらに、マネーが中国から逃げ出している。10年で130兆円におよぶ行方のわからない資金流出が起きている(とりわけ香港を通じて)。

 「輸出で稼いだ外貨を積み上げ、米国債購入や新興・途上国への融資により世界での自らの存在感を高める――。そんな中国の外貨パワーが陰ってきた。資金流出で中国の対外純資産は頭打ち傾向になっており、国際通貨基金IMF)の予測通り経常収支が赤字になれば減少に転じる」(2019/6/23 日本経済新聞)。

 

 これから圧し掛かってくるのが、幾つかの“空母打撃群”の建造と運用などの巨費である。

 「ロシアメディアは2013年、中国初の国産空母の建造費用が約30億ドル(約3300億円)に上るとの建造関係者の話を報じている。空母打撃群としての運用・維持には、さらに数千人の空母乗組員や数十の艦載機、さらには一体運用する駆逐艦や潜水艦などが必要となり、莫大な費用がかかることは間違いない」(産経新聞 2017年)。

 

 中華人民共和国の建国以来、プラグマティックな中国要人の朝令暮改・豹変は、すでに世界の常識である。明日、中国要人が180度違うことを言いだしても誰も不思議に思わないだろう。