断章38

 香港でミソをつけたようだが、中国本土の支配は安泰のようにみえる。

 

 国際ジャーナリストの高橋氏は、「憲法改正により、習近平による独裁体制を強化しており、個人の発言、言論の自由を締めつけている。その一方、市民は『自由ではない』ことに慣れているため、『生活が豊かであればいい』という満足感すらある」と中国国内の世論について説明する。

 

 国家社会主義ドイツ労働者党も“豊かな生活”を実現した(その後の軍備拡張と戦争でパーにしてしまったが)。

 「ヒトラーは、ドイツ国民に豊かさへの夢も与えました。首相就任直後、金持ちの象徴だった自動車を庶民でも持てるようにする国民車構想を掲げました。

 設計を任されたのはフェルディナント・ポルシェ。後にスポーツカーメーカーとしてその名を遺す天才エンジニアです。国営会社が設立され、フォード社と肩を並べる世界最大級の自動車工場が建設されました。会社はフォルクスワーゲンと名付けられました。

 ヒトラーは、国民生活の向上も掲げ週休2日、週40時間労働を全国の企業に求め、今でいうワークシェアリングを始めようとしました。大企業には社員食堂の設置を推進。様々な福利厚生施設も設けられました。

  統計によると、ドイツの工業総生産は政権発足から5年で倍に。税収は3倍に伸びました。公共投資で景気回復をはかるという先進的な経済政策は大きな効果を上げ、ドイツはいち早く恐慌から抜け出していきました。

 1934年に行われた国民投票では、ヒトラーは89.9%の支持を得ました」

(NHKスペシャル  新・映像の世紀 第3集)。

 

 驚くべき経済成長を実現したナチスロシア共産党ソ連共産党)も、滅亡・崩壊した。だが、全体主義者にも学習能力がある。

 では、中国共産党は、ナチスロシア共産党の滅亡・失敗から何を学んだのであろうか。

 「問題の答えを教えてやろう。つまりこうだ。我が党が権力を求めるのは、まさにそれが目的であるからだ。他人の幸福など関係ない。関係あるのは権力のみ、純然たる権力のみだ。では、純然たる権力とは何か。いまから教えてやろう。我々が過去の少数独裁と違うのは、自分たちが何をしているのか理解しているところにある。我々と似ているものもあるが、結局は臆病で偽善的だった。例えば、ナチスドイツもロシア共産党も方法論的には我々と非常に似通っている。だが、奴らには自分たちの動機を自覚するだけの勇気がなかった。自分たちが不本意かつ暫定的に権力を握ったふりをしたのだ。しかも、人々が自由かつ平等に暮らす楽園がすぐそこにあると装った。あるいは、本当にそう信じていたのかもしれない。しかし、我々は違う。権力を手放す気がある者に権力をつかめたためしはない。権力は手段ではない。目的なのだ。革命を守るために独裁を確立するのではない。独裁を確立するために革命を起こすのだ。迫害するために迫害をする。拷問するために拷問をする。権力をふるうために権力をつかむのだ」(『1984年』ジョージ・オーウェル)。