断章60

 人々は楽観的であり、物事は思っているより良くなることを願っている。しかし、願望や希望は、決して戦略ではない。

 

 「この先には英国のブレグジットや景気後退必至の日本の消費税が控えている。英国が10月31日に合意なき離脱となれば、相場はもたないだろう。ボリス・ジョンソン英首相が今週、ドイツとフランスを訪問して再交渉を迫る意向だが、EU欧州連合)は再交渉にいい顔をしていない。英国が合意なき離脱をすれば、それはグローバリゼーションの終りであり、不満の核心部分である移民受け入れも止まり、将来的にはEU解体への動きとなる可能性が高まる」(2019/8/22 石原 順)。

 

 CNBCが8月15日、レイ・ダリオ氏とのインタビューの内容を報じた。

 レイ・ダリオは、世界最大の債券マネジャーであり世界最大のヘッジファンド創立者である。彼の会社は、15兆円以上を運用している。

 「Q:世界的な成長に対するあなたの悲観的見通しの理由はどこにあるのか?

 ダリオ:4つの要素に焦点を当てている。

 まず、われわれは、短期的な債務サイクルの中にある、それはまたビジネスサイクルとも呼ばれる。過去にはこのように債務と支出が大きく膨らんだことはなかった。バランスシートから見れば、そんなことは不可能だと。したがって、減速が見られるだろう。同時に、年金および医療保険の債務はますます期限が近づいている、それは債務が期限を迎えるのと同じように債務と支出を圧迫する。

 第2に、私たちはまた、長期債務サイクルの後半にある。これは、以前に議論したボトルに残った中央銀行の刺激策が不足していることである。

 第3の要因は、選挙年における政治の二極化であり、これは主に社会主義と資本主義の衝突である。この衝突は伝統的に今日起きている相当な富、収入、機会の格差によるもので、それらはいずれも、資本市場と資本家にとっては良くない政治における大きな変化につながった。例えば、法人税率を引き下げて他の税金を引き上げたことや、あるいは、それはこうした変化につながらないかもしれないが、どちらのケースにおいても、次の景気後退期には裕福な資本家と貧しい社会主義者との衝突は醜いものになるだろう。

 第4の要因は地政学的リスクの増大である。特に中国が引き続き浮上し、多くの分野で米国のリーダーシップに挑戦している。この期間は、1930年代後半に最も類似しており、その時、米国も短期および長期の債務サイクルの終わりにあったため、金融政策には限りがあり、富の差は同様に広く、ポピュリズムが膨張し、英国と米国が世界に対して持っていた力はドイツと日本の新興勢力に挑戦されていた。これらの各要因―借用書が期日を迎えることによってもたらされる下落圧力、刺激する力のない中央銀行、大きな富と政治的な格差、強力な新興世界大国による世界の大国の挑戦、が困難な結果をもたらす」(同前)。

 

 まるで、半世紀ぶりの岩田 弘(宇野派経済学者)の『世界資本主義論』との再会である。

 「世界恐慌→通貨の平価切り下げ競争→経済のブロック化(保護貿易主義)→アメリカやイギリスといった(当時の)“持てる国”に対抗するために“持たざる国”は、自己の“生存権”の確保をめざして死闘した(例えば、日本は“大東亜共栄圏”を構想したが、それはアジア市場に“円ブロック”を築くねらいであった)。

 60年代の帝国主義の不均等発展は、やがてまた1930年代的な貿易戦争、通貨戦争、ブロック化に再帰して出口のない死闘が始まるだろう。この難問は、誰も思いつかないような大胆な方法で解決しなければならない。ゴルディアスの結び目を解く“戦略”は、“世界社会主義革命”だ」(みたいな)。

 

 今では、わたしたちは、2つのことを知っている。

 第一に、1970年頃、もしも本当に日本で“革命運動”が本格化していたら、その政治的混乱(権力の空白)に乗じて、ソ連邦は欲しかった北海道を占領し、韓国は対馬を占領していただろうことを。

 なにしろ、日本の戦後処理過程のドサクサにまぎれて、1952年1月、李承晩韓国大統領は「海洋主権宣言」を行って、いわゆる「李承晩ライン」を国際法に反して一方的に設定し、同ラインの内側の広大な水域への漁業管轄権を一方的に主張するとともに、そのライン内に竹島を取り込み。1954年6月、韓国内務部は韓国沿岸警備隊の駐留部隊を竹島に派遣したことを発表したのである。

 第二に、「社会主義革命」は、「大企業、ついで小企業の国有化、そして強制的な農業集団化(農業生産物をより多く収奪するための)、高率の課税や価格の不平等など、いろんな方法を通じて私有財産を破壊して集団的所有形態を確立した」

 権力を握った「(赤い)特権官僚は、(集団的所有形態にある)これらの財貨を使用し、享楽し、分配する権利を通じて、国家の物財を自分たちの財産にしてしまった」

 「それまでの革命とちがって、階級を廃絶するという名目で遂行された共産主義革命は、もっとも完全な権力をもつ単一の新しい階級を誕生させた。そのほかのあらゆることはごまかしであり、まぼろしである」(ミロバン・ジラス)ことを。

 

【補】

 「ハイテク分野で米国企業と中国企業のつばぜり合いが鮮明になっている。日本経済新聞社がまとめた2018年“主要商品・サービスシェア調査”では、中国勢がスマートフォンなど9品目でシェアを拡大した。米国勢のシェア拡大は8品目だった。先端技術を巡る覇権争いを裏付けた格好だ。激しい中国の追い上げは米国の警戒感を高め、貿易摩擦を長期化させる可能性もある」(2019/7/8 日本経済新聞)。