断章78

 「北朝鮮」が文在寅(政権)にいらだつ理由

 

 先日の韓国紙は、「北朝鮮金正恩氏の口が荒くなった。韓国への誹謗(ヒボウ)はもちろん、脅威性発言まで生の声で吐き出している。文在寅大統領を狙って暴言を吐く場合がとりわけ増えた。(中略)

  金正恩委員長の文大統領を責め立てる発言は言葉だけで終わらなかった。文大統領の8・15光復節祝辞翌日、北朝鮮は新型戦術地対地ミサイル2発を日本海に発射した。先月25日、KN-23ミサイル2発をはじめ、6回連続で挑発を繰り広げたが、8・15祝辞の一日後のミサイル発射はメッセージに他ならなかった。(中略)

 金正恩委員長が決心して文大統領に火ぶたを切ったのは4月12日最高人民会議施政演説だ。当時、金委員長は『南朝鮮当局は様子を見ながら右往左往して多事な行為を催促し、差し出がましい仲裁者、促進者の振舞いをするのではなく、民族の一員としてまともな精神状態を持って自身が言いたいことは堂々と言いながら民族の利益を擁護する当事者にならなければならない』と主張した。(中略)

 一部ではハノイ・ノーディール以降南北関係と韓半島情勢を管理するための南北の水面下での接触や非公開特使派遣の過程で何かがあった可能性も提起している。北朝鮮から具体的な要求があった公算も大きいということだ。金正恩委員長としては昨年、3回も南北首脳会談に応じ、特に9月平壌首脳会談の場合、大規模のパレードと15万群衆を動員した文大統領演説など『スケールの大きい』贈り物を与えたと考えている。

 匿名を求めた北朝鮮専門家は『6・15共同宣言当時4億5000万ドルの北朝鮮への秘密送金や10・4宣言の大規模のインフラ支援合意のような前例をあげてある種の相応のカードを水面下での接触過程で文在寅政府に打診したかもしれない』と指摘した」と伝えた。

 

 上記の前例とは、「2000年6月、初の南北首脳会談を控え、北朝鮮に4億5000万ドルを秘密裏に送った事件は、韓国国民だけでなく西側諸国に大きな衝撃を与えた。金正日との会談を対価にした天文学的な現金提供というとことだけでなく、対北朝鮮情報機関である国家情報院とその責任者が出て不法両替所役を果たしていたという点で国民から批判が噴出した。米議会調査局(CRS)が報告書を通じて疑惑を提起すると、青瓦台と政府が積極的にウソの説明をして事態を悪化させた。結局、ノ・ムヒョン政権が北への送金特別検査を行うほかはない状況になり、林東源元国家情報院長ら4人が大法院での有罪が確定した。

 金を受け取った事実を言い逃れて『ねつ造劇』と主張していた北朝鮮も、その時初めてそっと尻尾を下ろした」(2019/7/12 中央日報)あの一件である。

 

 「北朝鮮」は、韓国・文在寅にいらだっている。鍵になる“言葉”がある。上記にある「民族の利益を擁護する当事者にならなければならない」という金正恩の発言である。

 つまり、「我々は同じウリなんだから、アメリカの顔色ばかりうかがわずに、いかなる手段を使ってでもワシントンを動かし制裁解除を引き出せ。約束した(秘密の)資金援助を早くよこせ」と言っているのである。

 

 韓国・文在寅大統領もさぞかし頭が痛いことだろう。一応、表向き、「北朝鮮経済制裁が維持され、世界が見ている中で、ワシントンを動かすことも、秘密の資金援助もかなり困難だからである。それとも、米議会調査局(CRS)がまた新たな疑惑を提起する日が来るだろうか。

 

【補】

 「米国の元政府高官が『北朝鮮はここ1年間、韓国左派へのイデオロギー攻勢で大きな成功をおさめた』と指摘した。2018年4月の南北首脳会談をはじめとして、韓国国内の左翼勢力に対話攻勢を仕掛けることで彼らの民族感情を刺激し、北朝鮮に同調する勢力として引き入れることに事実上成功したということだ。

 ブッシュ政権で東アジア太平洋担当の筆頭国務次官補を歴任したエバンス・リビア氏は10月17日、米政府系放送ボイス・オブ・アメリカVOA)に出演した。リビア氏は北朝鮮が韓国に対して露骨な暴言などを使っていることについて『北朝鮮としては韓国を外交的、政治的、イデオロギー的に(利用する)都合の良い位置に置いたことを把握し、蔑視しているということだ』とした上で、上記のように述べた。北朝鮮がいかなる行動をとったとしても、韓国は無条件でそれに従うため、かえって韓国を無視するようになったというのだ。

 リビア氏は『このような(イデオロギー攻勢の)成功は、韓国国内における北朝鮮に同調する動きや反応を北朝鮮が当然視するレベルにまで達した』『北朝鮮は自分たちよりも韓国のほうがより対話や協力を願っていることと、北朝鮮がどんな行動をとっても韓国は常に手を差し出し、協力を求めることを確信するようになった』と指摘した」(2019/10/19 韓国紙ワシントン特派員)。

 

【参考】

 「ある体制の体質を変えるには、身を捨てる覚悟の批判者が出なければならないのである。だが北朝鮮にそういう人物が出てくる気配は全くない。金日成父子はここ3、40年の間に、まつろわぬ者を徹底的に剔出して、超管理体制を作り上げてきたからである。したがって、現在のままで北朝鮮に援助をすれば、悪しき体制を延命させるだけで、東アジアはこれまで通り、不安定なままに残ることになる」(『韓国はなぜ北朝鮮に弱いのか』)。

 

【参考】

 「ビンセント・ブルックス元韓米連合司令官は15日『北朝鮮が“自主”の概念を強調し、韓米同盟を弱体化させるのを阻止すべきだ』と呼び掛けた。ブルックス氏はこの日、大韓民国陸軍協会がソウルで開催した『韓米同盟、このままでよいのか』をテーマとするセミナーで『主権と(同盟と)の共同利益の間でバランスを取ることが、韓米同盟の直面している大きな挑戦だ』とした上でこのように述べた。

 ブルックス氏は『北朝鮮が“米国から独立的になれ”と韓国に圧力を加える意図を持っていることを懸念している』『私はGSOMIA(韓日軍事情報包括保護協定)もこれと関係があると信じている』などの見方も示した。韓国政府によるGSOMIA破棄の決定に、北朝鮮の意向が作用している可能性を示唆したのだ」(2019/10/15 韓国紙)。