断章99

 今、「中国経済の拡大ペースは、1990年以降で最低水準にまで減速している。中国のエコノミストは望ましい景気対策を巡って激しい論争を繰り広げているが、景気減速が今後も続くという判断では意見の相違はほとんどない。12日に閉幕した『経済工作会議』を総括した新華社の報道では、『穏』という文字が約30回も使われた。景気失速の防止が実質的に経済政策の最重要目標になっているようだ。

 それが事実ならば、中国経済の減速の勢いが公表より一層激しいレベルまで進んでいるとみてよかろう」(2019/12/20 呉 軍華・日本経済新聞)。

 

 中国共産党は、危機に対して身構えている。

 先日開催された、「第19期中央委員会第4回全体会議(4中全会)で採択した決定」は、「党中央への権限集中を強化する方針のもと、ビッグデータ人工知能(AI)を使って管理する制度や規則を構築する。インターネットの世論管理を強化することなども盛り込み、監視社会を強化する。

 政治、経済、軍事、外交などで全面的に『党中央の権威と集中的な統一指導』を強化する方針も示した。習氏の思想を学ぶ『初心を忘れず、使命を心に刻め』と銘打った党内教育運動を制度化して推進することなども明記した。

 科学技術に関して、難関を突破する挙国体制を構築することを明記した。習指導部の看板政策だったハイテク産業育成の『中国製造2025』に代わり、国内の研究機関や企業の技術や資金を集めて、米国など海外に依存している半導体などの研究開発を進める狙いがありそうだ。

 国内経済に関しては、国有企業を揺るぎなく発展させて、国有企業などの国有資本をより強くする方針を示した。外国企業とのグローバル競争に備え、国有企業の統合再編を加速するとみられる。外国企業の対中投資について安全保障上の審査制度などを改善する内容も盛り込んだ」(2019/11/5 日本経済新聞)。

 

 ここで、「1949年の建国以来の中国を振り返ってみるなら、民衆の政府への信任が、いかにして次第に喪失してきたかをはっきりと見て取ることができる。

 中共執政の初期、民衆の政府への信任は最高であった。民衆の信認は上記の3つのレベルにおいて存在していた。つまり政治制度については、この制度を支えるマルクスレーニンの学説と国家機構から党の大小の幹部に至るまで、また党の最高指導者である毛沢東への信任はまさに神への信仰にも匹敵した。

 1958年の大躍進とそれにともなう3年の大飢饉、1966年に始まる文化大革命など一連の政治運動のもたらした災難を経て民衆の指導者個人に対する政治的信任は大幅に喪失した。だが政治制度への信任はなお強かった。

 1989年の『六四事件』(『天安門事件』)の後、この政治的信任は鄧小平の『発展こそが不動の道理』という方針によって維持され、『先富』を許すという約束は経済発展の中で、民衆にも自分たちにもわずかな分け前があると信じさせた。

 だがここ10余年来、貧富の格差の拡大、絶えざる政府の腐敗とスキャンダル、民衆の生存資源の剥奪、社会治安の急速な悪化などが原因となって民衆は自分たちが経済成長の果実の分け前にあずかれないことに気付き、各種の社会的矛盾が先鋭化してきた。中国当局が手段をえらばずに『安定維持』に全力をあげる一方、民衆は政府による大規模な人権侵犯だけを経験することになり、民衆の大多数はすでに『盛世』から疎外され、さらに厳しい経済的圧力の下で息も絶え絶えになっている」(『中国高度成長の構造分析』何 清漣)。

 

 しかるに、「専制全体主義体制の国家では、選挙を通じて政府指導者を交代させたり、社会的監督によって政府の行為を改善することはできない」ので、「その不満が往々にして累積して政治制度への不満となる」(同前)のである。

 

 だから、中国共産党は、メディアに猿ぐつわをはめなければ、安心して眠ることができない。

 先には、「習近平国家主席(引用者注:『初心を忘れず、使命を心に刻め』と訓戒する男である)の親族に関わるオーストラリア当局の捜査を報じた米紙・ウォールストリートジャーナルの記者が、査証(ビザ)の更新に必要な記者証の発給を中国当局から拒まれ、事実上の国外退去処分となったことがわかった。同紙が8月30日、明らかにした。

 王春翰記者は、7月末に中国外務省に記者証の更新を申請したが受け入れられず、8月30日にビザの期限が切れた。

 中国外務省からは『悪意をもって中国を攻撃する外国人記者は歓迎できない』との説明を受けたという。

 王春翰氏は同紙の別の記者と7月、豪当局がマネーロンダリングの捜査に関連して習氏の親族を調べているとの内容を報じた。中国当局から事前に、掲載を見合わせるよう要請を受けていたという。

 同紙のマット・マレー編集長は『中国政府が記者証の発行を拒んだことに失望している。中国に関するこの重要な話題の報道を続ける考えに変わりはない』とコメントした」(2019/8/31 朝日新聞)ことが起きた。

 さらに、「中国政府が国内メディアへの統制を強めている。記者らを対象にして、習近平国家主席の指導思想『習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想』の理解度を測るテストを今月下旬から新たに実施。合格者だけに新規の記者証を発行する方針だ。

 テストは原則、習氏の演説内容などを学ぶために共産党が開発したスマートフォンアプリ『学習強国』を通じて実施する。10月初旬にはアプリ上で、習氏の演説の空欄に入る言葉を選んだり、『党の新聞世論工作を行う際』に優先すべき点を挙げさせたりする問題が公開された。対象は主要な通信社や新聞、テレビなどの記者や編集者」(2019/10/19 共同通信)だそうである。

 

 今からでも遅くない。

 「科学的常識が絶えず変わるように、歴史的常識も変わるのである。

 そうであるならば、私たちの頭の中の歴史的知識の入れ替えも必要ではないだろうか?

 ソ連は自由で豊かな国だという知識は間違っていたし、中国には搾取や抑圧がないという知識が間違っていたとしたら、共産主義中国共産党に関する知識にも再検討が必要ではないだろうか?」(金子 甫)

 

【補】

  「中国当局が2019年12月下旬以降、人権派の弁護士や活動家ら十数人を、国家政権転覆の疑いなどで連行したり、拘束したりしていたことがわかった。連行・拘束された人たちの知人らが明らかにした。香港で政府への抗議活動が続くなか、中国当局が本土への波及を恐れて取り締まりを強めた可能性がある。

 知人らによると、当局は2019年12月26日ごろから執行を始めた。人権派弁護士で、憲法で保障された権利を求める『新公民運動』の中心メンバーだった丁家喜氏を拘束。2015年7月に全土の弁護士が一斉に拘束された『709事件』で弁護人を務めた文東海氏も、『警察が来た』と知人に連絡した後、行方がわからなくなっている。一部はすでに釈放されたが、当局の監視下にあるという。

 連行・拘束された人の多くは、12月中旬に福建省アモイであった会合に参加していたとの情報もある。会合の内容は不明だが、当局はこうした動きを警戒したとみられる。

 米政府系放送局ラジオ・フリー・アジアによると、今回の対象者は北京や湖北省四川省の弁護士ら少なくとも10人以上とされ、709事件以降では最大規模になるとみられる」(2020/01/04 朝日新聞デジタル)。