断章117

 金融市場は新型肺炎ショックからの驚異的な回復を果たした。

 「新型コロナウイルスの感染拡大は続いているものの、金融市場では早くも影響は一時的との楽観論が広がり始めた。新型ワクチンの早期開発や、今後の気温上昇で流行が抑制されるとの期待感が浮上したため、・・・2月5日の米国株式市場では、S&P総合500種が続伸して2週間ぶりに最高値を更新。新型肺炎発生後の下げ幅をすべて埋めた」(ロイター通信)。NYダウは4日間で1123ドル余り上昇し、史上最高値を約3週間ぶりに更新した(さすがに昨日は227ドル下げて終った)。

 

 「相場の下げを止めたのは米国のFRBではなく、中国の人民銀行である。中国人民銀行中央銀行)が大規模な資金供給で市場を崩さぬ『決意』を見せた。中国人民銀行は3日に1兆2000億元を金融市場に供給すると表明したのに続き、レポ金利の引き下げ、翌4日も5000億元の供給を実施するなど、矢継ぎ早の対応を見せた」(石原 順)。

 日本円にして、実に総額26兆円余である!

新型肺炎の感染が拡大する中、ミンスキーモーメント(パニック売りによる流動性パニック)を回避するため市場に潤沢な流動性を供給した。株価のPKO(プライスキーピングオペレーション/価格維持政策)と銀行の貸し渋り貸しはがしを防止するのが狙いである。また、中国は相場下落を緩和するため、先物市場の夕方の取引を3日から停止し、中国証券監督管理委員会はファンドに対して『株式を売り越さないように指導した』と報道されている」(石原 順)。

 

 もう一度、言おう。2日間で、なんと総額26兆円余である!

 「金融システムは一国の経済の中枢神経であり、どんなことがあっても死守しなければならない。(中略)

 中国政府が他国の政府と違う最大の点は、それが専制政府であり、資源(引用者注:金融政策などを含む各種リソース)を集中させる能力が民主的な政府とはけた違いに強いということである。執政者が危機はどこにあるかを察知さえすれば、その防衛能力は民主的な政府より、とりわけ無力で弱弱しい民主的な政府よりはるかに高い」(何 清漣)のである。

 

 中国、もちろんアメリカも、そして日本も、「国家管理下の人為相場だが、レバレッジの増加によって促進される成長は決して持続可能ではない。それでも、その持続不可能な金融政策は、それが終わると誰にも受け入れられない結果が待っているという単純な理由から継続している」(石原 順)。

 だがしかし、例えば世界的なサプライチェーンの崩壊によるスタグフレーションの到来などで、現下の巨大な世界的資産バブルがはじけたとき、わたしたちは、かつてない悲惨な世界に出会うことになるだろう。

 

【補】

 「昨今の市場はFRBがリセッション(景気後退)は起こさせないと保証し、株式市場と住宅市場は永続的に上昇するかのような観測が多い。FRBはもはや制御できないモラルハザードモンスターバブルを作り出してしまった。危機が起これば起こるほど株が上がっていくというニューアブノーマル相場となっている。しかし、中央銀行管理バブルという『出口のない政策』に乗り出した以上、ミンスキー・モーメント(ミンスキーの瞬間)は避けられない。それが、いつ起こるかというだけの話である。

 ミンスキー・モーメントとは、信用循環または景気循環において、投資家が投機によって生じた債務スパイラルによりキャッシュフロー問題を抱えるポイントである。

 経済学者のハイマン・ミンスキーは、景気循環は、労働市場における企業と労働者の間の伝統的に重要であると考えられてきた関係よりも、銀行システムの急増と信用の供給に大きく左右されると主張した。

 言い換えれば、(引用者注:相場が)強気の期間中に、それらが十分に長く続くならば、無謀で投機的な活動によって生成された過剰は、最終的に危機につながるだろう。もちろん、投機が長引くほど、危機はより深刻になる。

 ミンスキーは、金融市場に固有の不安定性があると主張した。彼は、異常に長い強気の経済成長サイクルが市場投機の非対称的な上昇を促し、最終的に市場の不安定性と崩壊をもたらすと仮定した。 『ミンスキー・モーメント』危機は、長期にわたる強気の投機に続き、これは個人投資家機関投資家の両方が引き受ける高い債務にも関連している。

 ミンスキーは、市場は短期記憶であり、今回は違うと繰り返し思い込むものだと教えた。悲しいことに、経済的および政治的リスクの高まりに直面した今日の市場の活気から判断すると、ミンスキーは再び正しいと証明される可能性が高いだろう」(2020/02/20 石原 順)。