断章121

 自称「知識人」リベラルには、戦争に対する嫌悪や恐怖はあっても、戦争とは何か、戦争の法則とは何か、その戦争の性格は何かといった、戦争(軍事問題)の本質的な分析や掘り下げは全くない。

 

 「『戦争反対!』『悲惨な戦争を繰り返すな!』というのはまことに正論ではある。しかし、そういう正論や戦争の悲惨さを声高に主張するだけの教科書的な論説からは、なぜそれでも戦争になるのか、どのように人々が戦争に巻き込まれていくのか、戦争を抑止するためには平和なときから何に気をかけるべきか、いざ戦争が始まったらどのような行動をとるべきなのか、そうした内実ある教訓が抜け落ちている」(楠木 建)。

 

 さて、最近の諸列強の軍事的な動向はどうか?

 

 アメリカの「米議会上院は17日、2020会計年度(19年10月~20年9月)の国防予算の大枠を定める国防権限法案を賛成多数で可決した。下院では11日に可決済みで、近くトランプ大統領の署名を経て成立する。予算総額は7380億ドル(約80兆円)。中国やロシアに対抗するため、人工知能(AI)や5Gなど先端技術の開発に力を入れた。

 中国やロシアとの競争をにらみ、陸海空軍などと同格となる6番目の独立した軍としての『宇宙軍』創設を盛り込んだ。宇宙軍はトランプ氏が創設を強く求めていた。

 中国政府への情報漏洩を警戒し、中国製ドローンの購入や中国の国有企業から国費を投じての鉄道・バス車両の調達を新たに禁じる。中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置を容易に解除できなくするための条項を新たに盛り込んだ。19年度の国防権限法にある同社の政府調達を禁じる条項の効力は継続する。

 日本と韓国の米軍駐留経費の総額や両国の負担額などをまとめた報告書を作成するよう米政府に要請した。仮に約2万8500人にのぼる在韓米軍を削減する場合、韓国、日本との事前協議のほか米議会への事前報告を義務付けるよう求めた」(2019/12/18 日本経済新聞)。

 

 中国は、相変わらず「日本の排他的経済水域における『相互事前通報の枠組み』あるいは国連海洋法条約の手続きに従わない中国の海洋調査船の度重なる活動や、東シナ海の日中両国の中間線付近での資源開発、中国原子力潜水艦による国際法違反の領海内における潜水航行など日本の安全保障や主権的権利その他の権利を侵害する深刻な事案を続けている」。

 また、「スウェーデンシンクタンクストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は1月27日、兵器生産量に関する報告書を発表し、中国がロシアを抜き、米国に次ぐ世界第2位に浮上したと明らかにした。

 SIPRの報告によると、これまでは透明性の欠如により謎に包まれていた中国の兵器生産量は増加しており、兵器生産企業上位10社のうち3社を中国企業が占めるまでになった。

 年間売上高は推定700億~800億ドル(約7兆6000億~8兆7000億円)。その大部分を人民解放軍(PLA)のさまざまな部門や部隊が購入している。

 以前はロシアとウクライナから大量の兵器を輸入していた中国は、この10年間で劇的な転換を見せており、報告書の共著者の一人、ナン・ティアン氏は、『兵器に関しては、もはや他国を頼る必要はない』とコメントした。

 報告書によると、中国の兵器輸出に関して入手できる公式統計はないが、中国の兵器生産業界が『国外で中国製兵器の需要が高まるレベル』にまで成長し、中国は世界第5位の兵器輸出国になっていると推定される。

 ティアン氏は、兵器輸出国としての中国のサクセスストーリーの一つとして、一般的にはドローンとして知られるUAV(無人航空機)の分野を挙げた。UAVはリビアとイエメンでの紛争で使用されている。

 兵器の輸出量が増えるほど兵器が拡散するリスクも高まるが、中国政府は2013年に国連総会で採択された武器貿易条約(ATT)をはじめ、既存の武器管理規定の多くに署名していない。このためSIPRI調査員は、中国の世界の兵器市場への進出を特に懸念している」(2020/01/27 AFPBB News)。

 

 ロシアは、活発に動いている。

 例えば、シリアでは、「全土の奪還作戦を進めるアサド政権軍には、ロシアが空爆支援。イランが送り込んだレバノン武装組織ヒズボライラクアフガニスタンシーア派民兵軍団、ロシアの傭兵部隊が地上戦を支援している。政権軍の相手はトルコが後押しする『シリア国民軍』などの反体制派と、国際テロ組織アルカイダ系の過激派『シリア解放機構』(旧ヌスラ戦線)だ。『シリア解放機構』には依然、約3万人の戦闘員がいると見られている。(中略)

 ロシアがアサド政権軍のイドリブ攻撃を支援していることに対し、トルコ・エルドアン大統領の不信感が募っていることは間違いない。エルドアン氏は先月末、『ロシアはトルコとの合意を順守していない。われわれは我慢の限界だ』などとロシアを珍しく非難した。

 こうしたエルドアン氏の非難に対し、ロシア国営のメディアは『トルコが過激派組織(旧ヌスラ戦線)の創設に手を貸した』『過激派の戦闘員はトルコから1カ月100ドルの給料をもらっている』などと批判。これにトルコの政府系有力紙は『プーチン政権は信用できない。ロシアはアサド政権軍にイドリブ攻撃をそそのかしている』などとやり返した」(2020/02/12 ウェッジ・佐々木伸)。

 また、アフリカのリビア。「ロシアでは経済の悪化で『新しい靴を買えない家庭が3割強』といわれるほど市民生活がひっ迫している。さらに、『フェイクニュース規制』を名目にSNS規制が強化されたこともあり、政府への不満は高まっている。こうした背景のもと、リビアで新たな戦線を開くことは、プーチン大統領にとってもハードルが高いが、正規軍でない部隊なら、その心配も小さくて済む。そこで、ロシアの民間軍事企業『ワーグナー・グループ』の出番だ。ワーグナー社員の多くはロシア軍出身者だが、なかにはウクライナ人、アルバニア人セルビア人などもいるとみられ、これは要するに傭兵だ。ワーグナー社員の1カ月の給料は8万~25万ルーブルといわれ、これはロシアの平均月収(約4万6千ルーブル=約8万円)の2~6倍にあたる。

 ワーグナーウクライナやシリアでも活動が報告されているが、リビアに関してはUAEとの契約に基づき、昨年末の段階で約1000人がリビア国軍を支援しているとみられている」(2020/02/15 YAHOOニュース・六辻 彰二)。ワーグナーは、ロシア国防省の一部とみる向きもある。

 

 「米国、英国、フランス、インドの核保有4カ国が核兵器の製造・開発などのため民間企業28社と少なくとも1160億ドル(約12兆円)の契約を結んでいることが、国際非政府組織(NGO)のPAX(本部オランダ)の調査報告で2日までに分かった」(2019/05/02 毎日新聞)。