断章123

 夜のとばりがおりた頃、フクロウ男が、ネズミ男の自宅にやって来た。「フォー、フォー。こんばんわ。町内会の配りものを届けに来ました」と言う(ミネルバの使いで来たのではないらしい)。

 「ごくろうさま」とドアを開けたら、「おや、奥さんは?」と聞く。フクロウ男は、知りたがりである。「明日、婆さんのカテーテル検査の付き添いがあるので、実家に泊りがけで行ってます」と答えたら、「今この時期に病院は危ないね。ところで、もう夕飯は済ませた?」と、さらに聞く。知りたがりである。仕方がないので、夕飯のメニューを教えてやった。

 「セブンイレブンの378円のホイコーロの半分と、68円の半玉キャベツの半分を塩・胡椒で炒めたものを混ぜ合わせて増量し、丼ぶり飯の上に乗せた『新型ホイコーロ丼』と一掴みのモヤシを入れた味噌汁と目玉焼き。明日の昼は、目玉焼きの代わりに梅干し」と。「へー、なかなかやるね」と言って帰っていった。

 

 ネズミ男にとっての《唯物論》とは、「どんなものを、どんな手立てで食っているか?」である。例えば、「県庁の副知事を退職して地銀の監査役におさまった人間が、料理屋でお高い飯を地銀幹部と会食していれば、県の大金の出納に係わった双方の下心が透けて見える」という《唯物論》である(笑い)。

 最近、ロシアではこんなことがあった。

 「『月収1万800ルーブル(約1万9,000円)で生活できると思っているのか』。ロシアのプーチン大統領が19日、故郷のサンクトペテルブルクを訪れた際、低所得にあえぐ女性から街頭で直接不満をぶつけられ、問いただされる一幕があった。プーチン氏は『非常に厳しいと思う』と答え、政府が対策に取り組んでいると釈明した。

 地元メディアによると、プーチン氏は行事に出席後、市民と交流。その際に女性が発言した。女性が『あなたの給料はだいたい(月に)80万ルーブル(約140万円)だと思う』とただすと、プーチン氏は『まあそうだ』と対応。『大統領が最も高い給料をもらっているわけではない』とも語った。
 その上でプーチン氏は『あなたは正しい。社会保障の分野で国が解決しなければならない問題が非常にたくさんある』と強調した。プーチン氏と市民の交流は事前に入念に準備されていることが多いが、今回の交流が仕組まれたものかは不明。ロシアは欧米の制裁などの影響で経済が停滞し、国民の不満がくすぶっている」(2020/02/20 時事通信ニュース)。

 

 この観点から、ロシア共産党中国共産党日本共産党を振り返る。というのは、「過去の出来事を見つめなおすことが現在起こっていることへの理解を容易にし、いまの出来事を眺めることで、過去を理解することができる」(竹内 洋)からである。なお、出典は、『毛沢東思想の全体像』(金子 甫)から。

 

 『ドクトル・ジバゴ』(Ⅰ、339頁)には、レーニン政権の下で一般民衆が飢餓に喘(あえ)いでいた1919年3月の終わり頃にはすでに非公開の配給所があって、政権の幹部のためにあらゆる種類の食料が用意されていることが描かれている(引用者:同じ頃だと思うが、秘密指令によって、首都とレーニンたちの別荘を結ぶ直通の特別列車が運行されていたりもした)。

 

 中国共産党の苦しかった延安時代について、作家の王実味は、「抗日前線にいる将兵たちが戦い、命を落としているときに、後方の延安の幹部たちは女と歌とダンスに耽(ふけ)っている。病気にかかった同志が麺スープ一口すら飲めず、青年学生が毎日粥を二食しか啜(すす)れないのに、健康な『大人物』は・・・各種の特別待遇を享受し・・・『食は5クラス、衣は3色』と相成っているのだ」と暴露した。

 

 日本共産党も「食は5クラス」だったという。日本共産党の国会議員秘書をしていた兵本 達吉氏は立花 隆氏との対談「宮本 顕治は代々木の金正日」(『WiLL』2005年10月号)で、熱海の党学校で開催された党大会の代議員約1,000人は「食べるもんが違う」と述べている。「副食が、平の代議員だったら2品か3品、中央役員になるともう1皿つく。幹部会員になるとさらにもう1皿・・・常任幹部会員になったらまたまたもう1品つく(笑い)。じゃあ宮本議長は・・・当然、鯛でなきゃ駄目・・・ボディガードやってる連中が熱海のいちばん有名な魚屋へ、真鯛のいちばん立派なやつといって買いにいかされる。彼らは・・・刺身にして食べて毒味するんだよ。熱海の党学校の料理長をやってた人は、かつて帝国ホテルのシェフをやっていた・・・料理の天才と呼ばれた立派な人なんだけど・・・『浜本さん、組織内の身分を・・・副食の数で表示する組織というのは共産党だけです』ってホントに怒っとった(笑い)」。