断章140

 ネズミ男は、「ヘーゲル」を齧(かじ)ってみた。まるで歯が立たなかった。低学歴で地頭(じあたま)も良くない現実を突きつけられたのである。かてて加えて連日の外出自粛である。つれあいのハムスター女と、「殿。まだ名前も歳も聞かれておりませぬ」「よーく知っておるわ」と、バカ殿ごっこをしても気分は晴れないのである。何日か悩んでいたネズミ男は昨夜、風呂に入っているときに、大きな決断をしたのである。

 風呂から出るなり、「決めた、決めたぞ!」とハムスター女に告げたのである。外出自粛のおかげでいつもより多い500円玉貯金を取り崩し、立憲民主党の高井 崇志のように“セクキャバ”に行くことにしたのである(な、わけないだろ)。

 500円玉貯金の総額は、約3万円だった。AMAZONで本をしこたま買うことにした。独学に限界があることはつねづね痛感している。しかし、今こそ系統的な学び直しをすべきである、と思ったのである。

 

 「コロナウイルスの感染拡大防止のため、外出自粛が要請されています。週末の外出も抑制され、『家にばかりいてやることがないから、面白くない』などと言う声が聞かれます。考えを転換してください。いまこそ、勉強をする絶好のチャンスなのです。

 コロナ騒動は、それがいかに過酷なものであったとしても、いつかは終息します。終息した後の世界で、社会は、前と同じように営まれていくでしょう。その新しい世界においてあなたがどのような地位を占めるかは、この期間にどれだけ勉強するかにかかっています。

 自宅に閉じこもることが要請されるために、勉強の方法も、これまでとは違うものへと変わらざるをえません。それは、学校や塾などでの対面の教育・勉強から、『独学』への移行です。外出したり、人と接触したりすることを避けねばならない状況下において、独学こそが最も望ましい勉強の方法です。(中略)

 多くの人は、専門学校や英会話学校に通えば、自動的に知識や学力がつくような錯覚に陥っています。そんなことはありません。(中略)

 外国語の勉強については、昔から多くの人たちが独学で学習してきました。最も有名なのは、ハインリヒ・シュリーマンでしょう。彼は、トロイの遺跡を発掘したことで知られるドイツの考古学者です。この人は、まともな学校教育を受けることができなかったのですが、外国語については成人してから、まったくの独学で学び、何十カ国の言葉を巧みに操ったと言われます。そうした技能によって彼は事業に成功し、そこで得られた経済力で遺跡の調査を行ったのです。(中略)

 もともと、勉強は楽しいものです。自分の実力を向上させてくれるというだけではありません。それまで知らなかった新しい世界を見せてくれます。こうした勉強の楽しさは、学校に通って先生の言うことを受動的に受け入れているだけでは、なかなか実感しにくいものです。独学によって自ら新しい世界を切り開いていくことによってこそ、勉強することの楽しさを実感することができます。

 コロナウイルスの問題は、われわれの生活に大きなストレスを与えています。それができるだけ早く終息してくれることを心から願ってやみません。ただ、このことを、単に試練とだけ考えるのではなく、積極的に受け止めることも必要です。そのための具体的な方法が、この機会に独学で自分の能力を飛躍的に高めることなのです」(2020/04/14 東洋経済・野口 悠紀雄)。