断章146

 尼子家の忠臣・山中鹿之助は、主家再興のために戦うにあたり、三日月に向かって、「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ。限りある身の力(ちから)試さん」と祈ったという。

 だが、もし今、コロナ禍の下にある日本に南海トラフ地震なり首都直下地震なり内陸大地震が襲来すれば、いかにタフな山中鹿之助であっても、避難所に行くことをためらって、ひどく肩を落とすことになるのではないだろうか。

 

 今でさえ、「北アルプスの玄関口、上高地周辺で、4月下旬から地震が続いている。新型コロナウイルス感染拡大で、ホテルや旅館、山小屋、キャンプ場など全ての施設が営業休止中。再開の準備にあたる地元関係者は、沈静化しない地震に不安を感じている。

 先月29日、取材のため上高地を訪ねた。バスターミナルから徒歩約1時間の明神池への遊歩道では、地震の影響とみられる地割れ(幅約5センチ、長さ約10メートル)が1カ所あった。また、明神池手前では、ひと抱え以上もある巨大な落石が遊歩道をふさいでおり、『落石注意』の看板があった。明神池では、地鳴りのような音が鳴り響いた。直後に足元が数秒間揺れ、湖面もわずかに波打った。気象庁のホームページを見ると、マグニチュードは2・7。地図上で震源を示すバツ印は上高地付近を示していた。観光名所の河童橋(かっぱばし)近くのホテルの従業員は『23日は余震も多く、雪崩が多発した』と話す。河童橋からは真っ白に雪化粧した穂高連峰が望め、谷筋には雪崩の跡が確認できた。

 長野地方気象台によると、22日未明に震度3を観測して以降、5月1日正午までに県中部で計57回の揺れを観測。ほとんどの震源上高地付近に集中し、最も大きな揺れは4月23日の震度4だった」(2020/05/07 朝日新聞)。

 

 「日本列島の下では、太平洋プレートとフィリピン海プレートの2つのプレートが沈み込む。これらが日本海溝南海トラフ近傍に大きな変形をもたらして超巨大地震を引き起こすのだ。また、南北に伸びる東北日本には太平洋プレートがほぼ西向き、すなわちまともに列島の下へ沈み込むので、東西方向に強い圧縮力が働く。その結果、東北地方では逆断層型の直下型地震が起きる。一方でフィリピン海プレート西南日本に対して斜めに沈み込むために、横ずれ断層が多い。すなわち、東北日本西南日本は、それぞれ太平洋プレートとフリピン海プレートの運動によって異なるタイプの地殻変動が引き起こされているのだ(注:なお、東北日本の変動を引き起こす根源的な原因もフィリピン海プレートにあるのではないかとする考察が、最近、提起されている)」(巽 好幸)。

 

 前掲の『日本最悪のシナリオ 9つの死角』(2013年刊行)の3・首都直下地震には、「30年以内に直下型地震が東京を襲う確率は、場所によっては7割を超える。阪神・淡路大地震東日本大震災を教訓に対策は進むが、その発想は最悪を想定しない“都合の良いシナリオ”に過ぎず、実効性が発揮されるかは疑問」とする。

 そこで、3・「首都直下地震」では、以下のような“課題”が提起されている。

・政府の被害想定で見過ごされてきた東京湾封鎖ならびに電力喪失というシナリオを真剣に検討すべきではないだろうか。

・最悪シナリオにおいて首都機能をどこでどうやって継続するのかの検討が必要ではないだろうか。

ライフラインが途絶して発生する膨大な数の被災者の生活をどう支えるのか。支援を被災地に送る発想だけではなく、被災者を外に出す発想の転換が必要ではないだろうか。

・都県や市区をまたぐ広域的な行政対応をどこがどうやってマネジメントするのか?

・政府のアナウンスが誤解やパニックを招かないようにするにはどうしたらよいだろうか?

・平時から求められるリスク対策の費用負担を、どう考えるべきだろうか?

 

 本書の出版からすでに7年。わたしたちに時間は残されているだろうか?