断章177

 「エマニュエル・トッドは、フランスの歴史人口学者・家族人類学者である。人口統計による定量化と家族構造に基づく斬新な分析で知られる。フランス国立人口学研究所に所属していたが、2017年5月17日付けで定年退職した。2002年の『帝国以後』は世界的なベストセラーとなった。経済よりも人口動態を軸に歴史を捉え、ソ連崩壊やイギリスのEU離脱アメリカでのトランプ政権誕生を予言した」(Wikipedia)。

 彼は、「日本と周辺国における歴史認識問題については、『欧州でもユダヤ人虐殺の贖罪意識が大きすぎるため、パレスチナ民族の窮状を放置しがち』としてヨーロッパの状況をふまえたうえで、『日本は戦争への贖罪意識が強く、技術・経済的にもリーダー国なのに世界に責任を果たせないでいる。過去を引き合いに出しての“道徳的”立場は、真に道徳的とはいいがたい』として日本の態度を批判した」(Wikipedia)そうです。

 ちなみに、現・第25代フランス大統領は、エマニュエル・ジャン=ミシェル・フレデリックマクロンです。また、『エマニエル夫人』は、1974年のフランスの官能映画です。

 ―― トッドの業績については、鹿島 茂の『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』(ベスト新書543)が、「簡にして要を得る(かんにしてようをえる)」手引きになっています。 

 

 トッドは、欧米の「向上心」の高いエリートほど、自己実現と自己利益だけを追求するナルシシズムに陥っていることを批判しています。

 

 彼らは、「『ヒト、モノ、カネの自由な移動』を語る一方で、同盟国の政治的自由を奪うEUエリートたち。『移民』への寛容を説きながら、『国民』に対する寛容を示せない各国の特権階級。差別の解消を言いながら、都市的『知性』から農村的『反知性』を差別するグローバリストたち」であり、「心から信じてもいないPC(ポリティカルコネクトネス)的言辞を弄(ろう)し」「深くつき合う気もない『弱者』への同情」(浜崎 洋介)を装う人たちです。

 トッドは、欧米のエリートについて語っています。

 

 では、日本はどうでしょうか? 日本のリーダー層や高等教育機関に女性が占める割合が少なすぎることなどについて、慶應SFC安宅研の学生たちと安宅 和人が議論したら、「本当にショックです」「この事実を知ったら日本人男性と結婚したい女性はいなくなるのではないか」「早期にこの国を脱出することを真剣に検討します」という声が口々に出たと、安宅 和人は著書『シン・ニホン』に書いています。安宅は、自分が前向きにフォローしたことも付け加えています。しかし、学生の反応にはエリートとしての“自覚”“責任感”が抜けているように思われますので、彼らもまた欧米のエリートのようなエリートのナルシシズムに簡単に陥っていくのではないでしょうか。