断章184

 「全体主義に必要な6要素とは、1.社会をおおいつくすイデオロギー 2.独裁者が君臨するピラミッド構造の唯一の党 3.秘密警察による恐怖 4.メディアの独占 5.暴力の独占 6.中央計画経済」(C・J・フリードリッヒ、Z・ブレジンスキー)だという。中国(共産党)は、絵に描いたような、成功した全体主義である。

 

 中国は、1989年の天安門事件で国際的に孤立したとき、外交・安保方針を、当時の最高指導者・鄧 小平の「韜光養晦(とうこうようかい)」、すなわち「野心と爪を隠して国際社会での存在空間を広げつつ、経済力を養い力を蓄える」に決めた。

 今や中国共産党は、これまで隠してきた野望と爪をむき出しにしつつある。なぜなら、これまで養ってきた経済力、構築しつつある軍事力、安定した政治支配力に自信を深めたからである。押さえてきた習 近平の「強中国夢」が、香港であふれ出している。

 

 中国共産党は、じっくり“得失”を考えた上で、ゴー・サインを出したのだろう。

 西側諸国の反発、例えば、「スイス外相は8月2日発行の現地紙で、中国は西側に対する開放路線から離れつつあり、もし中国がこの姿勢を維持する場合、西側はさらに断固とした対応を取るだろうという見方を示した。スイスのイグナツィオ・カシス外相は日曜紙ゾンタークスブリックに対し、中国における経済の自由化は政治の自由化と比例しておらず、人権侵害が深刻化しつつあると指摘。

 『われわれは、中国が開放路線から外れていく様子を目の当たりにしている』と述べたカシス外相は、『このことは、スイスも同様に自国の利益と価値観をより堅固に守らなければならないことを意味する。そのためには、国際法と多国間体制の強化などが必要になるだろう』と話した。さらにカシス氏は、スイスと中国との対話の中には常に『法の支配と人権』がテーマとして掲げられてきたが、『事態はわれわれが予想した以上に不穏であることが分かった。人権侵害が増加し続けている。わが国はこれらの権利を守りたいと考えている』と訴えた。

 その上で外相は、『もし中国が香港の“一国二制度”を放棄するのであれば、香港で投資をしてきた多くのスイス企業にも影響が及ぶ』として、『中国がこの新方針に固執するのであれば、西側世界はより断固たる対応を講じるだろう』と述べた」(2020/08/03 AFPBB News)。

 こうした反発も、やがては中国14億人とのビジネスによる儲けの誘惑によって霧散し、忘れっぽい西側世論も鎮まると読んでいるのだ。

 

 そもそも、かつて国共内戦時に人民解放軍が上海を占領したとき、「共産党は『今後50年間は資本主義の制度をそのまま温存する。民族資本家を尊重する』と言っておきながら、何年も経たないないうちに約束を破り、民族資本の企業を没収して国有化し、民族資本家を迫害した。子供たちも学校に行けないようにするなど、行動の自由を束縛した。そのとき、共産党の約束を信用して上海にとどまった人たちはみな貧乏クジを引いたのだが、逃げ出して香港に行った人たちが香港を繁栄させた」(岡田 英弘)ことなど、みな忘れているのだ。

 

 「香港の民主化運動の『女神』と呼ばれる周庭さんが、香港安全維持法に違反した容疑で逮捕されたと複数の香港メディアが報じています。

 香港メディアは周庭さんが10日夜、国家の分裂をあおったとして『香港国家安全維持法』違反の容疑で逮捕されたと報じました。周さんは自身のSNSで『今、家にたくさんの警察が来ている』と投稿していて、その後、管理者を名乗る人物が逮捕されたことを認める書き込みをしています。

 香港メディアは、白い服を来た周さんが両手を後ろで縛られた状態で車両に乗せられる様子を生中継で報じました。

 香港当局は、中国に批判的な論調のメディアの創業者を逮捕するなど、国家安全維持法によって民主派やその支援者への締めつけを強めています」(2020/08/11 FNNオンライン)。

 

【補】

 「香港で教科書から削除次々。『社会運動』『文革』『民主派』をNG。

 中国政府による統制が強まる香港で、教科書の記述から社会運動や中国の歴史などに関する内容を削除する改訂が相次いでいる。教育現場への締め付けを強める香港政府当局に対して、一部の市民は、全体主義による監視、統制社会の恐ろしさを描いたジョージ・オーウェルの小説『一九八四年』で、歴史の書き換えを行う『真理省』にたとえて批判する声も出ている」(2020/8/23 中日新聞)。