断章205

 「実際、世の多くの人々が平和と呼んでいるものは、単に名目だけのもので、事実はむしろ、すべての国を相手に、いつも宣戦布告のない戦争に巻き込まれているのが、自然に適ったあり方だとしなければならない」(『法律』 プラトン)。

 現代世界も一皮むけば生存のための生死を賭した戦いの場であり、現代国家も宣戦布告のない戦争をしているのである。それは、外交・軍事に限らず、経済・技術など全領域においてである。

 

 過ぐる6月20日日本経済新聞の社説にいう。

 「新型コロナウイルス感染症が広がる過程で多くの人が身に染みて感じたのが、政府・自治体のデジタル対応の後進性だ。その挽回に何が必要かを考えたい。

 スイスのビジネススクールIMDの世界デジタル競争力ランキング2019年版によると、日本は63の国・地域中23位だった。上位には欧米アジアの主だった国・地域が並ぶ。アジア地域を取りだしてもシンガポール、香港、韓国、台湾、中国に後れを取る。

 私たちは政府のデジタル後進性がもたらす負の影響をたびたび問題視し、個人や民間企業が各種の行政手続きをデジタルで完結できる仕組みの構築を求めてきた。

 経済財政諮問会議の民間議員も『公的分野のデジタル化の取り組みは失敗だった』と認めた。問題が露見してから指摘するのは誰にでもできる。有識者として政府を導く責務を自覚してほしい。

 今回、浮き彫りになった最大の問題は公的な資金援助の関連だ。仕組みが入り組み、どんな条件の人・企業がどの支援の対象かを知るのが難儀だ。危機時の援助は速さが絶対条件なのに、書面手続きがあり、申請者がお金を手にするまでに数カ月かかる例がある。

 安倍政権を含む歴代の政権は政府のデジタル化を成長戦略に位置づけ、システム開発に巨額の税財源を投じてきた。しかし肝心なときに役に立たないものをつくったと断じざるを得ない。

 コスト肥大を抑えつつユーザー本位の仕組みに再構築すべきだ。重要なのは、(1)手続きはデジタルで完結、(2)ユーザーが行政に一度出した情報は再提出不要、(3)個人情報保護を前提に民間サービスとも接続 ―― という基本原則の再確認だ。

 課題はいまだ20%に満たないマイナンバーカードの普及である。カードの位置づけを、給付金の受け取りや自らの医療情報の確認など『必要なときに個人の権利を確実に行使するための必携の1枚』に改める必要がある。

 カードの個人認証機能を各種手続きの入り口にし、資金援助の条件を満たす人・企業には漏れなく知らせるプッシュ型行政に転換する。この実現は時間との勝負だ。

 また、今のままマイナンバーと各人の銀行口座情報の連結を義務づけても、木に竹を接ぐことになる。効率的な社会保障給付のため、厳重なセキュリティ対策を施し所得・資産情報の把握を前提にした改革をめざすべきである。(以下、省略)」。

 

 それから3カ月。9月23日にNHKが報じるところでは・・・、

 「デジタル庁の新設に向けて政府は、全閣僚がメンバーの会議の初会合を開きました。

 菅総理大臣は年末には基本方針を定め、来年の通常国会に、新設に必要な法案を提出するため作業を加速するよう指示しました。

 初会合には、すべての閣僚が出席し、菅総理大臣は『新型コロナウイルスへの対応で国や自治体のデジタル化の遅れや人材不足など、さまざまな課題が明らかになった』として、課題を抜本的に解決するため、デジタル化を一元的に担うデジタル庁を新設する方針を改めて示しました。

 そして、国と自治体のシステムの統一やマイナンバーカードの普及促進、それに、スマートフォンによる行政手続きのオンライン化などを、進める考えを示しました。

 そのうえで『デジタル庁は、強力な司令塔機能を持ち、官民を問わず能力の高い人材が集まり、社会全体のデジタル化をリードする強力な組織とする必要がある。年末には基本方針を定め、来年の通常国会に必要な法案を提出したい』と述べ、作業の加速を指示しました。

 このあと平井デジタル改革担当大臣は、記者団に対し『すべての閣僚が大きな改革に全力で協力するようにと指示があった。今月中にデジタル庁の設置準備室を立ち上げたい』と述べました」。

 

 デジタル・ICT領域も、未来をかけた重要な戦いである。遅すぎる取り掛かりであっても、しないよりは良い。

 しかし始まる前から、「これまでは、内閣官房のIT総合戦略室がIT戦略の司令塔的な役割を担ってきたが『各省がポストを持って人を送り出していて “各省の出張所”になっている』(内閣官房幹部)のが実情だった。

 こうした『霞が関の悪弊』を持ち込まずに人材登用を進めることができるかどうかも問われることになる。トップを含めて民間人材の登用に失敗すれば、張りぼての組織に終わる可能性がある」(9月25日 産経新聞)と危惧されている様相である。

 

 ちなみに、中国の戦略的決定は素早く着実である。全体主義一党独裁なので“鶴の一声”で決める。

 「中国国家発展改革委員会(発改委、NDRC)は23日、5G(第5世代移動通信システム)や人工知能(AI)、半導体などの中核的技術セクターを含む戦略重点産業への投資を強化すると発表した。

 また、航空機、超小型電子機器や深海採鉱のセクター向けの安定したサプライチェーンの確保のため、新たな素材の開発を加速させるとした。

 ワクチン開発、診断、検査試薬、抗体医薬の開発を急ぐ方針も示した」(2020/09/23 ロイター通信)。

 もたもたしていれば負ける。負ければ、衰退・没落する。