断章235

 「今日のような乱気流の時代にあっては、変化は常態である。変化はリスクに満ち、楽ではない。悪戦苦闘を強いられる。だが、この変化の先頭に立たないかぎり、企業、大学、病院のいずれにせよ、生き残ることはできない。急激な構造変化の時代にあっては、生き残れるのは、自ら変革の担い手、チェンジ・リーダーとなる者だけである。したがって、このチェンジ・リーダーとなることが、あらゆる組織にとって、21世紀の中心的な課題となる。チェンジ・リーダーとは、変化を機会としてとらえる者のことである。変化を求め、機会とすべき変化を識別し、それらの変化を意味あるものとする者である」(ドラッカー)。

 

 11月25日付けの韓国・聯合ニュースによれば、「韓国の文在寅大統領は25日、ソウル郊外の国際展示場、KINTEX(京畿道高陽市)で開かれた韓国版ニューディール人工知能(AI)に関連した行事に出席し、韓国をAI大国として躍進させるとの決意を表明するとともに、行事に参加した企業関係者を激励した。行事にはNAVER(ネイバー)、KT、カカオエンタープライズサムスン電子SKテレコム、LGユープラスなど、AIに関連した主な企業の関係者が出席した。文大統領は昨年10月に開催されたAI関連のカンファレンスでAI基本構想を発表し、最も賢くて人間らしいAIを作ると表明。政府はその後、エコシステム、活用、人間中心の3分野で100大課題を盛り込んだ国家戦略を策定した。今回の行事で文大統領は、韓国企業を飛躍させた半導体モリーDRAMになぞらえながら、『AI向け半導体を第2のDRAMにする』とし、『人工知能半導体産業発展戦略』を先月策定したのに続き、2029年までに1兆ウォン(約940億円)を投資する計画と紹介した。また韓国版ニューディールにより、AIに関連した人材を計10万人に増やす計画と説明した。文大統領は『韓国の夢はコロナ以降の時代を先導する国になることで、それはAIを最もうまく活用する国』だとし、『人を中心とした温かいAI時代を開く』と力説した。新型コロナウイルス克服に向け、AIを活用した企業の努力も紹介し、『人を中心としたAI技術を実現する皆さんが真の開拓者』とたたえた」(2020/11/25 韓国聯合ニュース)そうである。

 

 あいかわらず美辞麗句のお好きな大統領である。

 というのは、AI・ICT・ロボットなどは、職務合理化・省力化を推進するのであるから、結果的に、リストラ・賃金低下につながる可能性が大きいからである。

 経済のグローバル化の進行による中国など低賃金国との競争、産業構造の変化などにより、労働市場から排除されたアメリカ成人男性の賃金は、1969年から2009年までの間に28%も下落した。

 「21世紀は、AIやICTを駆使できるエリートには『胸躍る』時代であるが、それ以外の人には『恐ろしい』時代となる」。「多くの働き手の実質賃金が下落し、新たな下層階級が出現する。それを回避する手立てはおそらく見いだせない」(『大格差 ―― 機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』)という知見もあるのだ。だから、楽観的一面的に「温かいAI時代を開く」とは語れない。

 

 とはいえ(結果がどうであれ必然として、ともいえる)、ロシアのプーチンも言ったように、「AIを制する者が次の時代を制する」ということになりそうである。ならば、日本も手をこまねいてはいられない。韓国は2029年までに1兆ウォン(約940億円)を投資するという。遅れの目立つ日本は、2029年までに1兆円を人工知能・サイバー領域(教育訓練投資を含む)に投資してもよいのではないだろうか?