断章275

 「今日、世界は激動の中にあり、予測困難な事変が多発している。過去10年程度を顧みただけでも、2008年の世界金融危機、ユーロ危機、アラブの春とその後の中東の混乱、ロシアによるクリミアの奪取、中国の東シナ海南シナ海への進出、ヨーロッパの難民問題、世界各地で頻発するテロ、EU離脱を決めたイギリスの国民投票などが挙げられる。

 また、経済統計を見ると、世界の国内総生産(GDP)に占める世界貿易の比率は、2008年以降、横ばいで推移している。これは、戦後最長の停滞である。GDP比で見た対外直接投資のフローも、2007年以降、著しく低下し続けている。これまでグローバリゼーションは、不可避・不可逆の歴史的な潮流であるかのように言われてきた。そう信じるものは未だに少なくない。ところが現実には、グローバリゼーションとは逆の現象がすでに起きている」。

 「ロシアはかつてのソ連の勢力圏を復活させたいと願っている。中国は、アジアからアメリカの勢力を追い出そうとしている。イランは、サウジアラビアを盟主とするスンニ派に支配された中東を、イラン率いるシーア派が支配するものへと代えるという野心を持っている。〈中略〉

 東アジアの国際秩序は、冷戦期から今日に至るまで、日米同盟を要としていた。この日米同盟に基づく既存の秩序に対して、急速に勢力を拡張した中国が挑戦しようとしている。

 日本は主たる当事国である」(中野 剛志 『富国と強兵』 東洋経済新報社・2019年第6刷から抜粋)。

 

 今の日本が当面する国際情勢は、およそ200年昔、江戸時代後期の日本が直面した国際情勢と比較して決して有利なものではない。というのは、江戸時代後期のロシアは、日本に対して軍艦を遊弋させてチャンスを探っていただけだが、今では核兵器保有し、北海道の目と鼻の先に居座っている。江戸時代後期の清は、衰えつつある大国にすぎなかったが、今の中国は、核兵器保有し、尖閣諸島に侵入し、日本の輸出入の大動脈である南シナ海を我が物にしようとしている。江戸時代後期の朝鮮は、中国の冊封国として存在していたにすぎない国だったが、今では核兵器保有する「北朝鮮」と「反日プロパガンダ」の韓国になった。

 

 帝国主義植民地主義の荒波の時代、世界に乗り出した日本は、若々しい、サムライの“気概”に満ちた国だった。今の日本は、医療費や年金の増大に、その逆に子供やイノベーションの減少に、苦しむ老人大国になった。これは、国家として危機に瀕しているということではないのか?