断章295

 「ジョー・バイデン米大統領(78歳)は17日放送のインタビューで、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は『殺人者』であるとの認識を示し、米選挙介入を試みた『代償を払うことになる』と述べた。ロシア政府はこれを受け、駐米大使を本国に召還。米ロ関係は危機に陥った」(2021/03/17 AFP通信)。但し、ロシア外務省は、「米国政府によって袋小路に追い込まれたロ米関係を改善できるか協議するため」と、煙幕を張った。

 しかし、ロシアの本音は、ラブロフ外相の中国での発言に明白である。

 「ラブロフ外相は22日、中国の王毅外交担当国務委員兼外交部長の招請で1泊2日の日程で北京に到着した。この日、両国外相は18~19日、米アラスカで開かれた米中高官級会談の結果を共有し、対米けん制案を話し合ったとみられる。中国の『グローバルタイムズ』はこれに先立って、18日『中露連携を強化すれば、米国が韓日連鎖会談後に問題を起こすことによる余波を相殺できるだろう』と主張した。ラブロフ外相は22日、中国言論とのテレビ会見で『今日国際舞台で特定国家を処罰するというのは正しくなく、このような論理をロシアと中国に適用するのも賢明でない』と声を高めた」(2021/03/23 中央日報)。

 

 プーチンが主導したロシア憲法改正案が、国民の圧倒的賛成多数で承認され、プーチン2036年まで大統領職にとどまる道が開かれたのは、昨年のことだった。

 「憲法改正案の200箇所以上にわたる改正項目は、一括して全国投票にかけられたので、事実上、プーチンの信任投票となった。

 最大の柱は大統領の任期だ。『2期』に限定されるが、改憲前の任期は算入されない。このため、通算4期目のプーチン氏は2024年の任期満了後もさらに2期12年、83歳まで君臨できる。退任後は『終身上院議員』となり、身分は『不可侵』と定められた。終身大統領制を導入したのも同然だ。

 反体制派の弾圧などで強権的と言われてきたプーチン氏のさらなる専制化が懸念される。

 愛国心を高めるしかけも多い。第二次世界大戦を念頭に、『祖国を守った人々を追悼し、歴史的真実を守る』という条項はその一つだ。第二次世界大戦勝利の記憶を神聖な域にまで高め、求心力につなげるプーチンの政治を反映している」(2020/07/04 毎日新聞)。

 

 以前述べたように、旧・ソ連崩壊後、「共産主義」を放棄して資本主義への道を進もうとしたロシアにあったものは、無秩序と混乱だった。というのは、共産党の長年にわたる監視と密告の支配によって、ロシア社会は相互不信の“低信頼社会”と化していた。なので、当時のロシアに現出したものは、詐欺と恐喝と暴力と強奪のマフィア社会だったからである。

 この無秩序と混乱が、プーチンの強圧的な独裁による秩序と安定を呼び出したのである。

 

 政治体制が、強圧的な独裁になるか、他のもの(例えば、温和な民主制)になるかは条件次第である。国家としての《本質》は同じである。

 

 「国家こそ暴力の根源である、と考える人は多い。しかしこれは転倒した“表象” (イメージ)にすぎない。事実は逆で、国家が国家であるかぎり、それは必ず『暴力の縮減』を第一の機能としてもつ。そうでなければ秩序ある社会の存立はありえない。独占された武力によって普遍的暴力を制御すること。これが『国家』の第一の機能であり、これを果たさなければ誰も国家を必要とせず、承認もせず、つまり国家は存在理由をもたない」(竹田 青嗣)のである。

 スティーブン・ピンカーによれば、「狩猟採集民族の一団や部族や首長制国家が最初の国家の監督下に置かれたとき、集団間の襲撃や反目が制圧されることによって、暴力による死亡率は5分の1に減った。

 ヨーロッパの封建諸侯の封土が合体して王国や君主国となったとき、法執行が統合された結果として、殺人率はさらに30分の1に減った」(『暴力の人類史』)らしい。

 もし、「国家がなければどうなるか。私刑などがはびこる社会になるだろう。私たちが、ちまたの暴力におびえずに生きられるのは、国家が暴力を独占しているからである」(萱野 稔人)。