断章306

 「歴史は繰り返さない。歴史は韻を踏むのだ」という。しかし、「人類は歴史の教訓を決して学ばない」(E・トッド)らしい。なので、歴史は韻を踏むだけでなく、繰り返しもするのである。太古の昔から。太古とは?

 

 「人間が引き起こす身の毛もよだつ大量殺戮、血腥(ちなまぐさ)い権力闘争、暴力などは、さも動物時代の野蛮さの名残であるかのように言われてきた一方、親切や思いやりなどは『人間らしい』美点として喧伝されてきた。しかし、動物の側から言わせれば、これは公平な見方ではない。たしかに、人間と98%のDNAを共有しているチンパンジーは、権謀術数に長けた攻撃的なサルではある。だが同じだけのDNAを共有しているもう一つの種であるボノボは、チンパンジーとは対照的に、平等で平和な社会を好み、思いやりの心に富んだ心優しいサルなのである。つまり、階級社会も平等社会も、戦争も平和も(はたまた人間が専売特許だと思っている正常位のセックスや、他のあれやこれやのお楽しみも)、すべてチンパンジーボノボと同じ祖先から遺伝的に受け継いできたものなのだ」(『道徳性の起源』宣伝コピー)。

 

 「政治の起源は、人間性の起源より古い」とも言われる。

 「チンパンジーたちも集団生活を送るためにはリーダーを必要とするが、腕力で現在のリーダーを倒しても他のチンパンジーたちはそれをリーダーと認めないのである。リーダーを目指すチンパンジーは周到な根回しを行わなければならない。他のチンパンジーには各自の思惑があり、自分に都合のよいものをリーダーに推す。リーダーになるためには、各グループのボスたち(メスグループのボスたちも)の思惑を理解して利権を約束して協力を得なければならない。また、直接権力闘争に参加しないチンパンジーたちは日和見主義を決め込んで、どの場面でどう動けば利益が大きいかを判断する。チンパンジーたちは、政治の世界に熟達」(『チンパンジー政治学 ーー 猿の権力と性』の宣伝コピー)しているらしい。

 「コモンチンパンジーは計画を立てて相手の命を奪い、隣り合う集団を皆殺しにする。相手の縄張りを征服するために戦争を行い、メスのチンパンジーを略奪している。

 こうしたチンパンジーの行動が示しているのは、人間の特質である集団生活がどうして始まったのかというおもだった理由だ。つまりほかの集団から身を守るために集団生活が始まり、とりわけ武器や待ち伏せを計画できるほどの大きな脳を得てからは、その必要性は高まっていった。私たち人間は捕食者であると同時にその餌食でもあり、そのためにいやおうなく集団生活を始めるようになったのかもしれない」(ジャレド・ダイアモンド)。

 

 ほかの集団から身を守るために始まった集団生活。それが「国家」の始原なのだろうか?

 例えば、農耕民と遊牧民の間の争い。それは現代にも存在する。「ナイジェリアの警察当局は24日、同国中部で遊牧民とみられる集団が農耕民の集落を襲撃し、86人が殺害されたと発表した。一帯には夜間外出禁止令が出され、ムハマドゥ・ブハリ大統領は平静を呼びかけた。

 現場はプラトー州のバーキンラディ地区。一帯では、キリスト教徒が多いベロム人の農耕民が、イスラム教徒が多いフラニ人の遊牧民に21日に攻撃を仕掛け、これがきっかけとみられる武力衝突が数日にわたって続いていた。〈中略〉

 専門家はこの抗争について、2009年以降少なくとも2万人の死者を出しているイスラム過激派組織『ボコ・ハラム』による襲撃をしのぎ、ナイジェリアにとって最も懸念すべき治安上の問題になる可能性もあるとみている」(2018年6月25日 AFP通信)。