断章316

 わたしたち人間とは何者なのか、どのようにして現在にたどり着いたのか?

 「人間と近縁の類人猿との共通点を考えるとき、なんといっても比較がいちばん簡単なのはチンパンジーのオスと人間の男性だ。チンパンジーのオスは集団で狩りをし、政治的ライバルに対抗して同盟を結び、団結して敵対関係にある近隣の群れから縄張りを守るが、同時に彼らは、地位やメスを巡って張り合う。この連帯と競争の緊張関係は、スポーツチームや企業に所属する人間の男性には非常になじみ深いものだ。男性は仲間内で激しく競争する一方、自分たちのチームが敗北しないためには互いが必要であることも知っている」(フランス・ドゥ・ヴァール)。

 

 また、ある研究者の報告によれば、「8歳になったチンパンジーのアイが学習室のコンピューターの前で、正答のときに出てくるほうびの食べ物が、実際は出ているのに、出ていないふりをして、二回もだました」そうである。この報告で興味深いのは、「だまそうとしたことが発覚した後、このチンパンジーは、研究者が顔をのぞきこむと、視線をそらして、まばたきをし、実にバツの悪い表情をしたくだりである。嘘をついていることが明らかになった時、相手の視線に耐えられずに視線をそらす心理は、ヒトに極めて似たものであり、欺きといい、発覚した後の心理も、ヒトに酷似している」らしい。

 

 チンパンジーボノボなどの「ヒトに似た形態を持つ大型と中型の霊長類を指す通称名が類人猿である。ヒトの類縁であり、高度な知能を有し、社会的な生活を営んでいる(引用者注:なので、彼らには、〈正義〉と〈政治〉の萌芽形態がある)。類人猿は生物学的な分類名称ではないが、生物の分類上都合が良いので霊長類学などで使われている」(Wiki)。

 「霊長類とは、動物分類学上での霊長目(Primates)に相当し、動物の首長たるものという意味である。原猿類、新世界ザル、旧世界ザル、類人猿、ヒトなどを含み、現存するものは約200種知られている」(霊長類研究所)。