断章366

 「世界銀行によると、世界の人口は76億7353万人(2019年)です。2006年時は約65億9300万人だったので、毎年約8300万人ずつ増えている計算になります。

 ドイツの人口が8313万人ですので、『毎年ドイツが誕生している』といっても過言ではありません。

 現在、世界で最も人口が多いのは中国です。第2位のインドとともに10億人を超えています。3億人を超えるのはアメリカ合衆国、2億人を超えるのはインドネシアパキスタン、ブラジル、ナイジェリアです」(宮路 秀作)。

 

 問題は、人口増加だけではない。

 「アジアで人口の『男性超過』が拡大している。インドや中国で特に深刻で、男女の人口差は1億人に達した。不均衡な男女比がもたらすのは結婚難の問題だけではない。経済の非効率を生み、周辺国まで巻き込む社会不安にもつながっている。

 インドでは多くの地区で女児の堕胎や育児ネグレクトにより男女比がゆがんでいる。夫の両親と暮らす父方居住の伝統に加え、女性が嫁ぐ際に持たせる持参金の負担も一因とされる。インドの人口に詳しい西川由比子・城西大教授は『女の子はお金がかかり、自分の家に対する寄与があまり高くない、ということが男の子を求める一つの理由』と指摘する。

 多産だった時代は、男児が生まれるまで生み続けた。教育費上昇などで子供にお金がかかるようになり現実的に生める人数が減ると、選択が始まる。超音波などによる出生前の性別診断技術の発展も重なった。国連の『世界人口推計(2015年改訂版)』によると、2015年時点ではインドの人口全体で男性が女性より約4800万人多くなった」。

 

 中国はどうか?

 「中国の農村部で、男性の結婚難が深刻化している。人口抑制のため40年近く続いた一人っ子政策の副作用もあり、男性が女性より3500万人も多いという人口の不均衡が生じているためだ。農村の男性と結婚を望まない女性も多く、政府も打つ手がない。『男性余り』の解消は全く見通せない。

 10月中旬、泌陽県の農村。平屋建ての民家に『赤い糸結婚紹介サービスセンター』と記した真新しい看板がかかっている。村の結婚難を解消しようと、住民の陳昌欽さん(60)が8月に自宅に開設した。中国メディアによると、泌陽県は結婚適齢期の男女の在住人口比が10対1。『男性余り』が深刻な地域の一つだ。

 陳さんによれば、登録しているのは30~60歳代の数十人で、8割以上が男性という。若い女性の大半は都市部に働きに出ているため、女性の帰省時にお見合いを設定している。それでも『農村での結婚を望まない女性が大半。成婚率は低い』と陳さんは嘆いていた。

 女性が農村から去ってしまう事情だけでなく、そもそも人数的に男性が余っている。(中略)結婚適齢期の20~40歳に限れば、男性が1752万人多く、比率は108.9となる。

 日本の人口性比は2019年、総務省によれば、女性の方が多い94.8だった。中国で生じている深刻な『男性余り』は、一人っ子政策の下で相次いだ、後継ぎとして男児を優先した女児の中絶や出生直後の遺棄も一因とされている。

 農村の習わしとして、男性側に求められる多額の結納も結婚難に拍車をかける。最近では、結納金だけでなく住宅や車も用意するのが一般的だ。山東省や重慶市など少なくとも7省・直轄市の当局が今夏、農村で行った結婚に関する調査で、男性側の金銭負担は最大で200万元(約3,560万円)に上ることがわかった。

 農村部の昨年の1人当たりの平均可処分所得は約1万7000元(約30万円)だ。山東省の農村出身で北京のイベント会社で働く男性(31)は『北京に来て結婚を意識する彼女ができた。地元に残る男性の友人らは、結婚どころか、同世代の女性と付き合うことすら夢物語だ』と話す。

 外国でのお見合いツアーなどを通した国際結婚のケースも多い。ネットメディア・澎湃新聞によると、農村の男性と東南アジアの女性との結婚は1990年代から増え始め、南部の沿海地区にある農村では一昨年、東南アジアから嫁いだ女性が1000人以上いたという。貧困層出身の女性が『出稼ぎ』とだまされて中国に連れてこられた事例もあることから、一部では『人身売買』との批判も出ている。

 習 近平政権は今年7月、産児制限で第3子の出産を解禁した。それでも農村の結婚難が続けば、少子化がさらに進行しかねない。

 湖南省の湘陰県政府は9月、『女性は都市に出ず、故郷で男女比の不均衡是正に協力しよう』と呼びかけた。ニュースサイト・紅星新聞がこれを肯定的に報じると、ネット上で『女性は奴隷ではない』と批判が噴出した。山西省の調査研究機関は農村部の男性と都市部の女性とのお見合いを提案し、『経済格差が大きすぎる』と猛反発にあった。

 北京のテレビ局で働く女性記者(28)は『的外れ』との批判も受けている政府の対策に冷ややかだった。『特に農村は、女性の人生を軽視する考えが根強く残る。それを改めるのが先決じゃないの』と語った」(2021/10/27 読売新聞)。