断章410

 プーチンの思考・行動様式を追跡してきたフィオナ・ヒルは、こう言っている。

 「子ども時代、彼はレニングラードの通りや中庭で決して諦めなかった。チェチェンでも諦めなかった。ウクライナでも、ほかの近隣諸国でも決して諦めようとはしない。ウラジーミル・プーチンの喧嘩(けんか)のルールは、彼の国内政治や外交の原則と基本的には同じである。信頼を得て、有利な立場を築き、自分の主張を通すまでは絶対に引き下がらない。相手が降伏し、自分の縄張りと条件が確定したら ―― 少なくとも、次の対決の機会がやってくるまでは ―― 仲直りして前に進む」。

 そうやって獲得し積み重ねた成果により、プーチンの国内支配は、盤石のように見える。「プーチン人気の根底にあるのは、1990年代末期のエリツィン政権時の混乱から一転して安定をもたらした内政面での業績だけではない。冷戦終結時『敗戦国』だったロシアを外交・軍事面で大国として蘇らせたことへの評価がある」(2022/03/10 東洋経済・吉田 成之)。

 

 「21世紀に主要国が行った侵略で、これまで唯一成功したのは、ロシアによるクリミア征服だ。2014年2月、ロシア軍は国境を接するウクライナに侵入してクリミア半島を占領し、その後、同半島を併合した。ロシアはほとんど戦火を交えることなく、戦略的に重要な領土を獲得し、近隣諸国を震え上がらせ、世界の大国としての地位に返り咲いた」。

 「21世紀初頭のカフカスウクライナにおける戦争で大国としてのロシアの威信はたしかに高まったものの、ロシアに対する不信と敵意を募らせてしまった」。

 「ロシアがクリミアでの成功をウクライナの他の地方で再現しようとしたときには、はるかに頑強な抵抗にあい、ウクライナ東部での戦争は不毛な行き詰まり状態に陥った。そればかりか、この戦争でウクライナの反ロシア感情に火がつき、ウクライナは盟友から不倶戴天の敵に変わってしまった」。

 それでもしばらくは、「ロシアは、『いちばん弱い子供をいじめろ。だが、やりすぎるな。先生が割って入ってこないように』という学校のいじめっ子の原理を慎重に守ってきた」(以上、ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』を再構成)。

 なぜなら、準備を整える時間が必要だったからである。軍備を新装し、外貨準備を積み増し、プロパガンダを強化し、中国や「北朝鮮」との関係をさらに強化して後顧の憂いを断つ必要があった。

 

 「21世紀の状況下で戦争を起こして成功を収める公式を現に見つける人がいたら、たちまち地獄の門が開くだろう。だからこそ、クリミアでのロシアの成功は、とりわけ恐ろしい前兆なのだ」とユヴァル・ノア・ハラリは言った(希望的観測を述べつつも)。

 

 プーチンは、21世紀の状況下で戦争を起こして成功を収める公式を見つけたのだろうか? その公式の第一は、“核兵器使用”で恫喝すること、第二は、「西側の民主主義諸国が長期間の対峙に備えた胆力を持ち合わせていないことに賭ける」(ライオネル・バーバー)ことなのだろうか?

 中国は、「21世紀の状況下で戦争を起こして成功を収める公式」として、これを採用するだろうか?