断章412

 ロシア、さらにベラルーシには断固たる“制裁”をしなければならない。しかし、“制裁”の効果にあまり期待はできない。というのは、あの経済小国・「北朝鮮」に対してさえ、“制裁”では、当初の目的(核放棄や弾道ミサイル廃棄)を実現できていないからである。

 中国やロシアが、自国の〈国益〉のために、「陰(かげ)になり日向(ひなた)になり」(注:ある時は裏面から、またある時は表面に立って、さまざまに援助すること)したからである。

 

 中国は、ロシアを助けるだろう。なぜなら、アメリカの重圧を一身に背負って立ちたくないからであり、西側諸国の“価値観”を否定する“同志”だからである ―― 現実主義的な外交から逸脱したアメリカ“価値観外交”の副作用でもある。

 

 中国の最高指導者・習 近平国家主席は、ロシアのウクライナ侵攻直前の2月4日に北京五輪の開会に合わせて訪中したプーチン氏と会談し、共同声明に署名した。

 「両国は共同声明で、欧州での北大西洋条約機構NATO)の拡大とアジアでの米国の同盟関係構築に共に反対するとし、民主主義の推進は西側の陰謀だという見方でも合意した」。

 「それどころか習氏は3月7日にプーチン氏に賭ける姿勢を一段と鮮明にした。中国の王 毅外相はこの日、全国人民代表大会全人代、国会に相当)に合わせて開いた会見で、中ロの友情は『岩のように強固』で、中国を抑え込もうとする米国の試みに対抗するための戦略的なパートナーシップであり、世界に平和と安定をもたらすものだと語った」。

 「一般の人からみれば、プーチン氏の肩を持てば中国の評判に傷がつくのは明らかだ。中国の国営メディアや外交部(外務省に相当)の報道官が恥ずかしげもなくロシアが流すウクライナに関する悪質な偽情報をそのまま繰り返し、プーチン氏を侵略者と批判するのを拒否していてはなおさらだ。

 だが習氏が意に介する様子はない。同氏が西側と対立することこそが賢明な選択だと考えているのだとすれば、残念ながら説明はつく」(以上、日本経済新聞掲載の『エコノミスト』の記事を再構成)。

 

 「人間の自由を抑圧し、権威主義的な支配の拡大を狙う党の活動は国境線の内側にとどまってはいない。抱き込み作戦とプロパガンダを組み合わせて自らの政策と世界観を国の外に押し広げようとしている」。

 「中国は新たな朝貢体制を中国製造2025、一帯一路構想、そして軍民融合という重複する三つの大がかりな政策を動員して作り上げるつもりだ。中国共産党が21世紀版の朝貢体制の完成に成功したならば、世界はより不自由で、より貧しく、より危険になるだろう」(『戦場としての世界 自由世界を守るための闘い』H・R・マクマスター)。

 

【補足】

 東京・港区のウクライナ大使館前。在日ウクライナ人のナザレンコ・アンドリー氏(27)は、高々と国旗を掲げた。「故郷・ハリコフでは、私が通った中学校も専門学校も破壊されました。実家から50m先の家にも爆弾が落とされ、両親はハリコフから80km離れた町に避難しましたが、そこもいつ狙われるかわかりません。恐怖と怒り、悲しみが交互に訪れる精神状態です」。ナザレンコ氏は貿易会社に勤務しながら、ツイッターやメディア出演で、ウクライナ侵攻について盛んに発信を続けている。だが、本誌のインタビューでナザレンコ氏が強調したのは、日本の“危機” だった。

 「今回、ロシアは日本を『非友好国』と認定しました。すでにオホーツク海日本海で、中国軍と何度も軍事演習をおこなっており、領空侵犯も繰り返しています。ウクライナの現状は、日本にとって他人事ではないのです」。

 そして今、中国がウクライナ情勢を注視しているという。「ロシアがウクライナを占領すれば、中国は台湾侵攻を決め、沖縄や日本本土も標的になる可能性がある。中国船が尖閣諸島周辺で領海侵犯し、北朝鮮のミサイルも日本海に飛来しています。中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた日本のほうがよっぽど危険です」。

 日本が攻め込まれた場合、アメリカが守ってくれるという考えは甘いという。「中国が尖閣を占領しても、『派兵すれば第三次世界大戦になる』といった理由をつけ、アメリカは介入しない可能性がある。どこも自国第一です」。“平和ボケ”の日本人には、当事者意識が決定的に欠けているという。

 「ウクライナも“平和ボケ”でした。かつてウクライナは、ロシアとアメリカに次ぐ世界第3位の核保有国でしたが、すべての核兵器をロシアに譲り、80万人の軍隊を20万人に削減しました。代わりに米英露はウクライナの安全を保障すると約束したのです。しかし、ロシアはウクライナに侵攻し、米英は軍隊を派遣していません」。

 日本では、これ以上犠牲者を出さないために、ウクライナは降伏すべきとの声もある。「ウクライナにとっては迷惑な考えです。降伏したら、待っているのは民族への弾圧、そして虐殺です。独裁主義に勝たせた先例を作ってはなりません」。橋下 徹氏など、「逃げろ」とまで言う論者もいる。「ポーランドに逃げたら、今度はポーランドが侵攻されてしまうかもしれない。一度領土を譲れば、ウクライナ人の居場所はどこにもなくなる。そもそも、先祖代々の土地を明け渡す理由などありません」(2022/03/15 FLASH)。