断章414

 ロシアのウクライナ侵攻があばき出したことの一つは、日本の危機である。各国が自国の“国益”をあからさまに追求する弱肉強食の世界で日本は、中華「帝国」的紅色全体主義体制の中国、儒教的赤色全体主義体制の「北朝鮮」、大ロシア民族主義権威主義体制のロシアと直面している。地政学的には、ウクライナ以上に危ういのである。

 さらに、日本では「左翼」インテリ(ひと昔前の“進歩的知識人”)が、はびこっている ―― かつてはコミュニズムマルクス主義)を賛美していたが、今は中国や韓国の尻馬に乗って日本を貶(おとし)め日本国民の意気喪失に精を出している。

 

 マルクスエンゲルスから学ぶことはたくさんあるし、彼らの理論は、現在においても色あせてはいない。しかし、それを認めることと、土下座して彼らの尻を仰ぎ見ることとの間には、千里の径庭(天地雲泥の差)がある。

 しかも、マルクスの理論に潜在する“ユートピア主義”とレーニンの“前衛党”(それは全知全能であり、革命家は、そこに生き、そこで死すべきとされた)が結合したとき、「全体主義」の理論体系と実践主体が生成するということが、20世紀の教訓である。

 しかし、脳ミソが化石化した日本の「左翼」インテリは、今もなお、この痛苦な20世紀の教訓から目をそむけ、コミュニズムマルクス主義)に迎合し、主観的にはどうであれ客観的には、共産党への同伴を続けているのである。

 

 コミンテルン共産主義インターナショナル)が産んだ中国共産党などの各国共産党は、巧みなプロパガンダと抱き込み作戦によって勢力を拡大し、権力を掌握するや、粛清によって反対派を抹殺し、イデオロギー教育を徹底し密告を奨励した。しかも、官僚的統制経済は、「袖の下」「闇経済」抜きでは円滑に作動しない。そのために、民衆相互の疑心暗鬼、相互不信のはなはだしい社会、秘かに個人的利益のみを追求する社会になった。

 それが、ロシア、中国、朝鮮、東ヨーロッパなど旧共産圏に分布する「外婚制共同体家族」(E・トッド)の伝統とあいまって、規律と秩序と自信を与えてくれる偉大な父のような強いリーダーを求めさせるメンタリティを旧共産圏に育んだ。

 ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン、習 近平、アレクサンドル・グリゴリエヴィッチ・ルカシェンコ、金 正恩たちは、そんな土壌に根ざしている。

 

 ロバート・D・カプランが言ったように、リベラルたちの「ドイツを分断していたベルリンの壁が崩壊して人為的国境が取り払われたことで、人間を分断しているすべてのものを乗り越えられるという思い込み、民主主義が東ヨーロッパを支配したのと同じ位簡単にアフリカと中東も民主主義に接近するという思い込み、そして単なる経済的・文化的な発達段階でしかない『グローバリゼーション』が『世界平和』と『世界市民』をもたらすという思い込み」が許される時代は、終わった。