断章429

 イギリス国防省筋は、ウクライナ軍の戦果を伝えている。しかし、誰もが秘かに思っているように、戦局が膠着すれば、時間はロシアに味方する。

 「国防費を一瞥(いちべつ)するだけで両国の差は浮き彫りとなる。先週発表された国際戦略研究所の報告書『ミリタリー・バランス』によると、ウクライナの2021年の国防費は47億ドル(約5,400億円)。これは核兵器を持つロシアの458億ドルの10分の1程度に過ぎない」(2月26日 CNN)。ロシアの装甲戦闘車両は15,000台余もあるという。

 

 そもそも、ロシアの酷薄な戦争文化を軽視してはならない(ナポレオンやヒトラーも敗北した)。

 自国領土を焦土化しても抗戦する。容赦なく督戦隊 ―― 軍隊において、自軍部隊を後方より監視し、自軍兵士が命令無しに勝手に戦闘から退却或いは降伏する様な行動を採れば銃撃を加え、強制的に戦闘を続行させる任務を持った部隊 ―― を配置する。敵を畏怖させるためには、レイプを許し、民族浄化さえ躊躇(ちゅうちょ)しない。資源大国であり、農業大国でもあるから、後は武器さえあれば、飯を食い戦争を継続できる。

 資源もなく食糧自給もできないまま戦争に突入し、「粘土の足の巨人」と揶揄(やゆ)された戦前日本とはまったく違うのだ。しかも、ロシアの背後には、ロシアの敗北を望まない中国が控えていることを忘れてはならない。

 

 エストニアの首相カヤ・カラスは言った。「ウクライナは、正気を失った人間による一度きりの誤算の犠牲者ではない。私たちが目撃しているのは、人的犠牲があろうとも、力づくで近隣諸国を支配しようとするクレムリンによる長期にわたる計画的なキャンペーンだ」。

 

 ようやく、4月27日になって、「ドイツ政府がウクライナへの新たな支援として、対空戦車を送ると明らかにしました。ドイツ国防省は26日、ウクライナへの新たな支援として『ゲパルト対空戦車』50台を提供すると発表しました。『ゲバルト』はドイツ製の対空戦車で、すでに退役し、現在は使われていないものです。ウクライナのゼレンスキー大統領は、西側諸国に軍事支援を何度も呼びかけてきましたが、ドイツは慎重な姿勢を崩さず、ヘルメット5,000個などを送るにとどめていました。戦闘が長期化するなかで『ヘルメットしか送らない』という強い批判を受けて、政策を転換し、初めて重火器を提供します」(テレ朝ニュース)。重火器というが、小粒で、腰が引けている。ドイツには、「レオパルト」という優れた戦車がある。なぜ、「レオパルト」を提供しないのか? 

 

 ロシア軍をウクライナからすみやかに駆逐すべきである。戦局が膠着すれば、時間はロシアに味方する。

 第一に、すでに、EUNATOを揺るがすべく、エネルギー資源の供給制限で脅しをかけている。

 「ロシアのプーチン大統領がついに後戻りできない一線を越えた。ポーランドブルガリアへの天然ガス供給を止め、他の欧州諸国に対してルーブルで代金を払えという自らの要求に従うか、ガス供給停止措置を受け入れるか迫っているからだ。これで欧州連合EU)は否応なく、その団結力を試される重大な局面に突入する」(2022/04/27 ロイター通信)。

 第二に、占領地で着々と“ロシア化”“併合”の既成事実化をすすめている。

 「ロシア国営メディアは28日までに、同国の占領下にあるウクライナ南部ヘルソン州の使用通貨が来月1日からロシア通貨ルーブルに移行する見通しだと報じた。ヘルソン州行政当局の幹部はRIAノーボスチ通信に対し、移行期間は最大4カ月で、その間はルーブルウクライナ通貨フリブナの両方が流通することになると語った。その後ルーブルに完全移行するという。 CNNは幹部の発言を独自に検証できていない。CNNは先の報道で、ロシア軍が26日にヘルソンを統治する新たな地方政府を据えたことを確認した。ロシア軍はその数日前にヘルソン市の市庁舎を制圧。選挙で選ばれた市政府を排除し、治安要員をロシア兵に置き換えていた」(2022/04/28 CNN.co.jp)。

 

 「今日は人の身の上、明日は我が身の上」である。すでに日本は、ロシアから「非友好国」と認定された。いまさら誰の顔色を見ているのか? ヘルメットと防弾チョッキだけでよいのか?

 

【補足】

 「ポーランドのメディアは29日、同国が保有する旧ソ連開発のT72型戦車をウクライナに供与したと報じた。台数は200両以上という。このほか、ドローン(無人機)や砲弾なども含め、軍事支援額は16億ドル(約2070億円)規模になるという。

 ロシア軍によるウクライナ侵攻開始から2カ月以上が経過し、依然として戦闘が収束しない中、ロシア軍の攻勢に耐える兵器の支援が不可欠と判断した模様だ。ポーランドにはウクライナからの難民が多数押し寄せている」(2022/04/30 毎日新聞)。