断章476

 愚か者や詐欺師たちが、「資本主義からの撤退」「資本主義の終焉」を盛んに言いふらしている。しかし、資本主義は、「王侯貴族だけでなく、一般大衆が自分たちの夢をかなえる」うえで最適の経済システムである。だからこそ、ひとびとを魅了し、世界を席巻したのである。

 たしかに、昨今のグローバル化において経済先進国の中間層と後進国貧困層は所得が低迷し、逆に先進国の上位1%の富裕層の所得だけが大きく伸びた。さらには今や1930年代型の複合危機に直面していることは事実だ。しかし、グローバル化を通じて中国やインド・ブラジルなどに幾千万人の膨大な中間層が生れ、欧米先進国と旧植民地諸国の経済格差が縮小したことも事実なのである。

 

 資本の論理に呑み込まれる以前の社会の実際。たとえば江戸時代を見てみよう。八幡 和夫「江戸時代の残酷すぎる10のこと」によれば……

 「①鎖国のせいで軍事力が低下し植民地にされかかった。

 鎖国は弊害もあるがそのお陰で独立が守れたという人がいます。しかし、ポルトガルもスペインも金属製の武器すら無かった中南米と国家未形成のフィリピンを植民地にしただけで日本を植民地にする力などなかったのです。逆に鎖国で技術(導入)開発が遅れ、武器が火縄銃のままだったので、黒船がやってきたときに植民地化されそうになりました。

 ②科学技術も300年遅れたままだった。

 鎖国で日本人の海外渡航はほぼ全面的にできなくなり、西洋のことを書いた書籍の輸入もほぼ禁止されました。そのために、科学技術はもちろん国際法などの知識も2世紀以上遅れることになりました。

 ③国民の大半は引っ越しも旅行も禁止の半奴隷状態だった。

 町人は比較的に自由でしたが、農民のほとんどは引越も旅行も原則として禁止という農奴状態でした。

 ④女性差別と部落差別は江戸幕府が創り出した。

 戦国時代の日本女性は自由で男女差別も少ないと宣教師たちは報告しています。ところが、李氏朝鮮から朱子学が輸入されて、それを幕府が規範として採用したので、女性差別は厳しくなりました。また、もともと差別されている人たちがいなかったわけではありませんが、のちに問題になるような深刻な部落差別は江戸幕府がつくりだしたものです。

 ⑤武士道は明治時代に新渡戸稲造が捏造した。

 江戸時代の武士は戦国時代のご先祖の遺族年金として禄を食んでいるだけの年金生活者でした。軍人としても官僚としても実務能力を備えていませんでした。武士道などという言葉すらほとんど使われず、武士道は明治になってから、新渡戸稲造が西洋の騎士道に似たものがあったとして半ば捏造したものです。

 ⑥教育レベルは低く識字率が高いというのも嘘。

 科挙があった中国や朝鮮と違って江戸時代の武士は教育が不要でした。寛政から天保にかけてようやく藩校ができましたが漢文を教えるだけで、たいていの武士は九九もできませんでした。識字率が高いというのは、中国や朝鮮で数千字の漢字ができる率と、日本で仮名ができる率を一緒に比べたらというだけのことです。

 ⑦下級武士から上級武士になるのすら不可能に近かった。

 親と子が同じ職業につくのが原則で、とくに、上級武士(馬に乗れて殿様に会える)とそれ以外が峻別されました。福沢諭吉は中津藩では江戸時代を通じて数例しかなかったといってます。

 ⑧北朝鮮なみに禿げ山だらけで環境先進国は嘘。

 江戸時代にものを大事にしたり、リサイクルが発達したのは事実ですが、それはものがなかっただけです。いまの北朝鮮がそうであるのとおなじです。そして薪や炭を主たる燃料にしたのでほとんどの山が禿げ山でした。

 ⑨1980年代の北朝鮮と同じように餓死者が続出。

 ⑩裁判や警察制度が不十分で切り捨て御免も伝説ではないし、サドマゾ刑罰に拷問もやり放題」(引用者により一部再構成)。

 貨幣経済(これは資本の萌芽である)の浸透と「勤勉革命」の拡大によって民富が蓄積される以前の江戸時代の現実は、こうしたものだったのである。