断章481

 「生産の持続的な革新、社会状態の絶え間ない動揺、永続的な不確実性と運動が、ブルジョワの時代を他のすべての時代から区別する」(マルクス)。

  ―― マルクスは、この資本制社会(資本制生産様式)の“解剖学”における「知の巨人」である。しかし、喩(たと)えるなら、医者としては、“角を矯めて牛を殺す”ヤブ医者である。だから、マルクスの弟子を名乗る者たち(レーニンスターリン・毛 沢東・ポル ポトなど)は、すべて、何百万、何千万の無辜の民(自由と読め!)を殺して、その手は血まみれになった。

 

 資本制生産様式は、産業革命(機械制大工業)の確立にともない、世界(=社会)全体を制覇する経済システムになった。それは、市場での競争によって〈国家〉〈企業〉〈個人〉が淘汰されるシステムである。したがって、競争に負けた国家は衰亡し、企業は倒産し、労働者は失業する。さらに、資本制生産様式に特有の景気循環金融危機の“定期的”発生がある(それは資本の効率性とダイナミックな成長のためには欠かせないものだが、失業する者はトホホである)。

 

 ここにきて、さらにまた、世界はかつてない大波乱・大変化・大混乱を迎えそうである。

 第一に、コンドラチェフやらなんたらの景気循環各波の谷が同期して大きな“高潮”が来るかもしれない。1929年世界金融恐慌を上回る危機?

 「パラノイア(病的なまでの心配症)だけが生き残る。これは、私のモットーである。事業の成功の陰には、必ず“崩壊の種”が潜んでいる。成功すればするほど、その事業のうま味を味わおうとする人々が群がり、食い荒らす」(アンドリュー・グローブ)。

 1920年代、アメリカは未曽有の成功に酔っていた。そのうま味を味わおうとする人々が群がり、食い荒らし、経済は突然“崩壊”したのだ。

 

 第二に、AIとロボット化による生産体系革新(産業革命に匹敵する)が起こっている。

 たとえば、「臨床検査受託大手のH.U.グループホールデ傘下の富士レビオ・相模原工場(神奈川県相模原市)。2台の人型ロボットがベルトコンベヤーに乗って次々と流れてくるウイルスの抗原検査キットを紙箱に詰め込んでいく。よく見ると紙箱の3面の縁の折り面も素早く折り込み、キットを収納している。2台のロボットの前にはキットを送り込む作業者がいるが、ロボットはこの作業者の熟練度と連動して動作スピードを変えられる。いわゆる人と共働きする『協働ロボット』だ。

 富士レビオでは作業を協働ロボットに切り替え、作業員を8人から1~2人に減らした」(日経ビジネス電子版2021年1月10日)。

 「ロボットを用いた生産効率化や省人化が引きも切らない。

 イオン子会社で東海地方を地盤に食品スーパーを展開するマックスバリュ東海のデリカ長泉工場(静岡県長泉町)。総菜などを製造する4台のロボットが、金属バケットに入ったポテトサラダを取り出し、トレーに次々と盛り付けていく。従来は7人がかりだった作業にロボットを導入し、作業者は3人に減らした。ラインにはさらに追加のロボットも投入する予定といい、マカロニサラダなどほかの総菜でもロボットを活用できないか鋭意、検討中という」(2022/05/23 日本経済新聞)。

 あるいは、「“どんな文章でも3行にできる要約AI”をうたう文章要約AIがある。開発元によれば……、読み込んだテキストを基にAIが一から要約文を生成する。ニュース記事のようなシンプルな文章はもちろん、会議の議事録や対話テキストなどにも対応することが可能。使い方は簡単で、サイトに要約したいテキストデータや記事のURLを貼り付けるだけでいい。

 テキストデータを『言葉として理解し活用するための技術』であるNLPは、技術発展が著しい音声認識や画像認識分野に比べると精度の部分で課題が残り、AIの活用も限定的だった。1つの転換となったのは2018年にGoogleが大規模言語モデル『BERT』を発表したこと。そこから数年で特に英語圏ではNLPの最先端技術を実用化したサービスや事例が急速に生まれ始めているという。

 日本語では技術の実用化が遅れていたが、開発元のELYZAによれば、すでにSOMPOホールディングスと要約AIを活用した実証実験も初めており、企業ともタッグを組みつつ、精度向上を進めながら社会実装に取り組むという」(2021/09/03 DIAMOND SIGNALを再構成)。

 ロボット化・AIを大量導入すれば、(新たな職種・職業が生れても)駆逐され失業する労働者が出るのは避けられない。こうした労働者の職種転換・再就職は、容易ではない。国と中小企業のスキルアップや職種転換への取り組みは、不十分で時代遅れだ。

 

 第三に、世界市場での競争が、一段と厳しくなりそうである。後進諸国は、先進国経済(生活)へのキャッチアップを目指して努力している。韓国・台湾・中国・ベトナム・インドにつづけとばかり、希少資源輸出規制・補助金による輸出ドライブ・国による新産業育成などに努めている。しかも、それらの国々の賃金は、今なお安い。

 市場競争に負ければ、国家は衰退し、企業は倒産し、国民は困窮する。ところが、日本のインテリたちは、「撤退だ」「脱成長だ」と、競争に負けて貧乏国へ転落するバカ話にうつつを抜かしているのである。

 

【参考】

 「シュンペーターは、イノベーションという概念によって、コンドラチェフのいわゆる長期波動説を説明しようと試みたとされています。コンドラチェフの長期波動説の第1波は1780年代末から1850年代初めまで、第2波は1850年代初めから90年代まで、第3波は1890年代から1920年代ごろまでとされています。

 シュンペーターによれば、こうした現象は、第1波においては産業革命およびその浸透の過程、第2波においては蒸気機関を軸とした鉄道の建設と鋼鉄の時代、第3波においては、当時第2次産業革命ともてはやされた電気・化学・自動車の時代としてとらえることによって説明されます。つまり、重要な発明が、旧来の技術を圧倒して企業のなかに取り入れられて、次から次へと関連部門に波及して新投資をよび、新しい企業経営や新しい産業が群生的におこることによって、景気の長期的上昇がもたらされると考えられます。

 また、現在を第4の波として、これからナノテクノロジー、ライフサイエンス、ビッグデータ、ロボティクス、AIがけん引する第5の波が起きてくるとする考えもあります」(国土交通省白書から)。