断章509

 日本の自称「知識人」たちは、祖国を卑しめ、日本人を辱しめ、民衆を見くだし、“資本主義”を罵倒(ばとう)することで忙しい。そんな自称「知識人」たちは同意しないだろうが、現代世界 ―― そして、日々衰えつつあるとはいえ現代日本も ―― は、彼らが言うほど悪くはなかった。

 

 「われわれは、すばらしく機会に恵まれた時代に生きている。死産の危険を乗り越えて生まれ、学校に通い、貧困から抜け出し、高等教育を受け、よその土地から来た人々と出会い、就職し、起業し、生計を立て、新しいものに投資し、投票し、質の高い医療を受け、国境を越え、わが子にも同じ恩恵を与える。今までに、これほど多くの人間が機会に恵まれた時代があっただろうか。今、何十億もの人々が、中世の王侯たちでさえ手に届くことのなかった快適さや機会に囲まれて暮らしている。人間の発明は一世代前ですら想像もできなかった域に達している」(イアン・ブレマー)。

 個人にとって「イノチ」の次に大切なものは、時間だという。だから、現代の平均寿命 ―― たとえば、日本厚生労働省の2021年分の簡易生命表によれば、日本人男性の平均寿命は 81.47 年、女性の平均寿命は87.57年 ―― の長さは、(高齢者の増加による諸問題はさておき)、いま生きている個人にとっては、恵まれた時代であることを示している。

 1歳未満の乳児死亡率は、ローマ時代のエジプトでは1,000人当たり329人、1301~1425年のイングランドでは1,000人当たり218人、1740~1749年のフランスでは1,000人当たり296人と非常に高かった。そのため、平均寿命は20歳台であった。

 

 ところが、今、時代は大きな曲がり角を迎えた。まるで『ヨハネ黙示録』の「馬に乗る者」がやって来た合図であるかのように、核大国・ロシアは核の使用をちらつかせながらウクライナに侵略した。

 わたしは危惧する。『ヨハネ黙示録』の「赤い馬に乗る者」とは赤色全体主義のことであり、「黒い馬に乗る者」とは黒色全体主義のことであり、「蒼ざめた馬に乗る者」とは激甚なパンデミックのことではないかと。

 そして、わたしたちがこれからの大混乱・大波乱・大変化の時代に進むべき正しい道を見失ったときには、超絶した知能をもつと自認するホモ・デウス(神のヒト)が「白い馬」に乗って現われ、デジタル独裁 ―― 今後現われる独裁形態で、IT機器を駆使して過去にない精度で国民を監視する政治システム ―― で、わたしたち凡愚を支配するのではないかと・・・。