断章470

 「友人に聞いた話だが、米国の知人が持ち家を売りに出しているという。450平米の中古住宅でプール付き、リフォーム済みのきれいな家を1年前に120万ドルで売りに出していたが、それをいま何と34万ドルに値下げしているとのこと。ところが、それでも買い手が現れず、『買ってくれない?』と相談を持ちかけられたらしい。

 FRB米連邦準備制度理事会)の相次ぐ利上げを背景に、米国10年債利回りは9月28日に4%台をつけたが、米国住宅ローンの30年物固定金利も6.7%(9月29日時点、前週6.29%)と2007年以来の水準に上昇している。これでは住宅市場が冷え込むのも無理はないが、米国では住宅市場の動向が個人消費の趨勢に結びつくだけに、先行きの景気減速が懸念される」(2022/09/29 富田 隆弥)。

 そして、「9月30日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均株価の終値が2万9000ドルを割りこみ、前の日に比べて500ドル10セント安い、2万8725ドル51セントとなりました。終値としては2020年11月上旬以来、1年11か月ぶりの安値で取引を終えています。

 市場ではアメリカのFRB連邦準備制度理事会)をはじめ、世界の主要中央銀行の大幅な利上げにより景気後退への懸念が強まっています。また、この日に発表されたアメリカの個人消費に基づく物価指数が市場の予想を上回り、物価の高止まりが警戒されたことなどから売り注文が膨らみ、ほぼ全面安の展開となりました」(2022/10/01 TBS NEWS)。

 

 去る9月25日、日本経済新聞日経ヴェリタスの記事を転載し、警告していた。

 「『物価安定の回復に失敗すれば、後々にはるかに大きな痛みを伴う』。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、米連邦公開市場委員会FOMC)後の記者会見で強調した。

 今回のFOMCでは3会合連続となる0.75%の大幅利上げを決定。政策金利の誘導目標は3.00~3.25%に達した。FOMC参加者の22年末時点での政策金利見通しの中央値は4.4%となり、11月の次回会合でも大幅利上げが継続する可能性が高まった。

 FRBが改めてタカ派姿勢を示したことで、インフレがピークアウトし利上げが早期に止まるとの楽観論は後退した。21日の米ダウ工業株30種平均が3カ月ぶりの安値で終え、米2年物国債利回りは一時4.1%台と15年ぶりの水準まで上昇(債券価格は下落)。株と債券の同時安が進んだ。

 欧州中央銀行(ECB)も9月に0.75%の利上げを決めており、米欧の中銀は競うようにインフレ鎮圧に向けた利上げを急ぐ。8月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.3%上昇と市場予想を上回り、家賃などの上昇が目立つ。ユーロ圏の消費者物価指数も8月に9.1%上がり、インフレが加速している。

 第4次中東戦争イラン革命により2度のオイルショックが発生した1970~80年代には、FRBの不十分な利上げがインフレ加速を招き、米国経済は大きな打撃を受けた。『中央銀行が当時の失敗を強く意識している』(インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジスト)だけに、目先の景気を犠牲にしてでも利上げを推進し続ける可能性は高い。

 ただ、利上げが抑制できるのはあくまで雇用や消費といった需要だ。ロシアのウクライナ侵攻による資源高のような、インフレの元凶ともいえる供給制約の改善には役に立たない。

 高インフレと景気後退が併存する『スタグフレーション』が現実味を帯びる。

 こうした状況下では株・債券の同時安が進行するリスクは高い。世界景気の後退懸念が強まり、MSCIの先進国株指数は今年すでに2割下落。本来ならば株価と逆方向に動きやすい米国債の代表的な指数も、FRBの利上げの影響で1割以上下がった。(中略)

 日本は欧米と比べて物価上昇が緩やかで、日銀も低金利政策を維持している。それでも欧米で物価高と景気後退が同時進行すれば、日本の株価や金利も影響は免れず『日本の資産だけに資金を振り向けている投資家にとってもスタグフレーションは他人事ではない』(ニッセイ基礎研究所の上野剛志上席エコノミスト)。多くの投資家が未知の困難に立ち向かい、資産を守る方法を探る必要がある」(2022/09/25 日本経済新聞)。

 

 同じような雰囲気が漂っている。一度あることは二度ある。

 たとえば、「ロシアのプーチン大統領は現地時間30日午後、ウクライナ東・南部4州の一方的な併合を宣言する見通しだ。2014年のクリミア半島併合に続く暴挙は、戦前の帝国主義の時代を想起させる。

 ナチス・ドイツは1938年、『ドイツ系住民への迫害』を主張してチェコスロバキアズデーテン地方の併合を要求した。英国やフランスは戦争回避の(対ドイツ)融和策として、併合を認めたが、増長したドイツは翌年ポーランドに侵攻し第2次世界大戦が始まった。

 ソ連も直後にポーランドに侵攻し、同国は独ソによって分割された。ソ連リトアニアなどのバルト3国にも軍を進め、ソ連に組み込んだ」(日本経済新聞)。

 だから、1929年世界大恐慌の再来に対しても、「想定外」としないで、備えるべきである。

断章469

 ロシアがウクライナに侵攻して6ヵ月後の8月25日、ダニエル・トリーズマンは、CNNで侵攻の“回顧と展望”を行ない、最後にこう述べた。

 「プーチン氏によるウクライナ侵攻であらゆる疑念は残らず取り除かれた。我々は今や、新たな冷戦のただ中にいる。これを過熱させずに置くためにはスキルが必要になるだろう。今回、西側と敵対しているのはロシアだけではない。クレムリンと中国との関係はかつてないほど緊密になっている。米国が一方から他方へ『軸足を移せる』と考えるのは、現状不合理に思える。プーチン氏は権力の座にある限り、西側の弱体化に向けて動くだろう。中国との協力は一部の領域で依然可能とはいえ、習 近平(シーチンピン)国家主席も見たところ米国の覇権に挑戦する意思を固めている。

 痛みを伴う判断が、西側を向こう6ヵ月にわたって待ち受ける。この2月に我々が目にしたのは、民主主義諸国は時間こそかかるものの、ひとたび脅威が明確になれば自分たちで奮起できるということだった。西側が一致団結してウクライナを支えた今春の状況は、強烈な印象を残した。

 現在の課題は、その結束をガスの供給が縮小していく冬の間も維持することだろう。プーチン氏の西側の友人たちが我々の分断を図っている。これらの友人にはロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン『ノルドストリーム2』の復活に意欲を燃やす独企業のほか、フランスやイタリアの政治家も数え切れないほど含まれる。

 エネルギー危機の到来はまだ序の口だ。西側諸国は現時点で、中ロをはじめとする数多くの新たな脅威から自分たちを守るのに要するコストを受け入れていない。1980年代後半以降、西側の指導者たちは、浮かれたポピュリスト政治家らと同様、北大西洋条約機構NATO)の拡大と予算における軍事費の割合の縮小を同時に成し遂げられるふりをしてきた。巨額の『平和の配当金』に目がくらみ、彼らは同盟の新たな境界線及びその向こうの境界地帯の防衛をごく軽度のもので済ませた。この状況は改めなくてはならず、相応の資金が必要になるだろう。

 プーチン氏はこの6ヵ月間で、これ以上はほぼ考えられないほどの大きな失敗を犯した。しかし確かな情報を持つ専門家らによると、ブルームバーグ・ニュースが報じた通り、同氏は自分が時間を味方につけていると強く信じている。西側については今後経済的な圧力に直面して瓦解するとみている。プーチン氏が正しいかどうかは、次の6ヵ月で明らかになるだろう」。

 

 それから1ヵ月。皇帝ダース・プーチンは、手にする鞭(むち)をさらに増やした。

 「9月21日、ロシアのプーチン大統領ウクライナでの戦闘における劣勢打開を狙い、第二次世界大戦後初めてとなる動員令を出した。

 現時点の公式説明では総動員ではなく、数カ月かけて予備役30万人を段階的に召集する部分的な動員となる。ショイグ国防相は、総動員をかければ2,500万人の人的資源を当てにできると述べた。

 ロシアの法律では、理論的には18歳から60歳の男女をランクに応じて予備役として召集することができる。西側の軍事アナリストは以前から、ロシア軍はウクライナでの戦闘で甚大な損失を被り深刻な兵力不足に陥っていると指摘してきた。一方でロシアの国家主義者らは数カ月前から、行き詰まった作戦を活性化させるために何らかの動員を実施すべきだと訴えていた」(2022/09/22 ロイター通信)。

 

 今後のロシアの継戦能力をどう見るか? 参考になる記事がある。

 「現代ロシアは輸入依存社会である。ほとんどの産業は西側からの輸入でまわっている。たとえば10数年前、ロシア現地法人の本社屋を建設したときのことだ。建設に必要な機材や資材は、ほとんど輸入品に頼らざるを得なかった。外壁パネルから断熱材、ドア、サッシ、ガラスから職人たちが使う工具類にいたるまで、ほとんど皆、ドイツ、イタリア、ポーランドなどヨーロッパ各国から輸入した。内装品や照明器具、オフィスの机、椅子の類い、キャンティーンの厨房機器、自家発電のためのボイラーシステムなどは言うにおよばない。国産品には要求レベルに見合うものがなかったからだ。他方、ロシア国内で調達した物はといえば、基礎工事に使う生コンや杭、レンガ、鉄筋、それにコンクリートの地盤に埋め込むためのワイヤーメッシュぐらいだった。

 さすがに、これには愕然とした。旧・ソ連の指令経済は、『規模の経済』にもとづいて、全土的な分業生産体制を徹底した。そのもとで、企業は特定の製品や部品の生産に特化し、巨大な産業連鎖に組み込まれてそれぞれ独占的に生産した。ところが、ソ連崩壊により、この分業の鎖が分断たれた。産業界は壊滅的な打撃に苦しんだ。ちなみに、そのときウクライナが直面した混乱を、私は『通貨誕生 ―― ウクライナ独立を賭けた闘い』(1994年、都市出版)に書いた。

 この20年、ロシアは崩壊した分業・調達体制を、グローバル貿易による調達に切り替え、西側の技術を取り込んで、めざましい経済復興を遂げた(原油価格の高騰という僥倖にも恵まれた)。ロシアのウクライナ侵攻後、西側はロシアの貿易金融の大半をおこなう大手銀行(最大手のズベルバンク、ロシア農業銀行を含む。ガスプロムバンクを除く)をSWIFT(国際銀行間通信協会)からつぎつぎに排除した。そのため、多くのロシア企業は必要な商品やサービスをグローバルに調達することがほとんどできなくなっている。残念ながら、ウクライナ侵攻後、ロシア政府は毎月の貿易統計を公表していない。だが、断片的に流れる情報によれば、ウクライナ侵攻後のわずか2ヵ月間で、ロシアの輸入は前年比で40%以上も減ったという(イギリス『エコノミスト』誌、5月14日号)。

 あれから10年余りで、産業の成り立ちが大きく変わったとも思えない。いったん輸入が止まればどうなるか、容易に想像がつく。貿易統計を公表しなくなったのも、そこを隠したいからなのだろう。原油高で糊塗されて産業の実態は見えないが、ロシアは確実に弱っているはずである」(2022/08/22 ニュースソクラ・西谷 公明:元トヨタロシア社長)。

 けれども、歴史が教えるように、ロシアの戦争における“底力”(いざという時に出る力)は、あなどれない。

 

 日本は、20日の国連総会で、岸田首相が演説し、「ロシアによるウクライナ侵攻で国連安全保障理事会の機能不全が露呈した現状を踏まえ『国連の信頼性が危機に陥っている』と指摘した。ロシアを名指しし『国連憲章の理念と原則を踏みにじる行為だ。断じて許してはならない』と非難し、国際社会の結束を呼びかけた」というが、相変わらず、“言葉”“演説”“声明”の次元をうろついているだけである。

 それでも、非難された皇帝ダース・プーチンから見れば、日本は立派な“敵性国家”である。ウクライナに侵攻しているロシアの極東軍は、北海道の目と鼻の先におり、ここ最近は、日本海での中国軍との共同軍事演習に力を入れている。

 言葉から、さらに一歩前へ。日本は、冬が来る前に実のあるウクライナへの軍事支援を実施すべきである!

断章468

 わたしは、日本は〈富国強兵〉〈殖産興業〉に邁進しなければならないと主張する。すると、どこかで、「明治時代かよ」とか、「古典的帝国主義時代の提案だな」という声がする(ような気がする)。

 しかし、21世紀といえども、戦場としての世界でいま起きていることは、「国連のウクライナ調査委員会を率いるエリック・モーセ委員長は23日、ロシア軍が占拠したウクライナの一部地域で性的暴行や拷問、処刑、子どもの監禁などの戦争犯罪が行われたと発表した。

 国連人権理事会で『委員会が集めた証拠に基づき、ウクライナ戦争犯罪が行われたと結論づけた』と述べた。何件の戦争犯罪が行われたかは言及しなかったが、その後のインタビューでは、ロシアによって『数多くの』犯罪が行われた一方、ウクライナによるものはロシア兵の虐待に関する2件のみだったとした。ロシア側は理事会を欠席した。ロシア政府からの公式な見解も現時点で得られていない。ウクライナ検察当局もコメント要請に応じていない。 調査委は27カ所を訪問し、キーウ、チェルニヒウ、ハリコフ、スムイのこれまでロシアが占拠していた地域で150人以上の被害者や目撃者にインタビューを実施。手を縛られた遺体や喉を切られた遺体、頭部に銃弾を受けた遺体など多くの処刑が行われた証拠を発見したほか、性的暴行を受けた4歳から82歳の被害者も特定したという」(2022/09/24 ロイター通信)。

 あるいは、「国連ウクライナ人権監視団のボグナー団長は11日までに、ウクライナに侵攻したロシアが拘束した戦争捕虜に虐待や拷問を加えていることを確認したと発表した。ロシアは監視団に捕虜収容施設の調査を認めていないと批判。水や食料、医療が適切に提供されていない施設があると訴えた。

 ボグナー氏によると、ロシアは多くのウクライナ人捕虜に対し、家族に収容場所や健康状態を伝えることも禁じている。妊娠した女性らも拘束しており、人道的見地から即時解放するよう求めた。ウクライナ東部ドネツク州の親ロシア派支配地域オレニフカの捕虜収容施設では、A型肝炎結核などの感染症がまん延しているという」(2022/09/11 毎日新聞)ことである。

 その他にも、ロシアは、「ウクライナから数十万トンの穀物を強奪した」とか、「米シンクタンク、戦争研究所は23日、激戦の末にロシアが5月に制圧したウクライナ東部ドネツクマリウポリから千人以上の子どもがロシア・シベリアに移送され、ロシア人家庭で養子になっているとの分析を発表した。養子受け入れを決めた市民には補助金が支払われ、当局は300人以上の子どもが『新しい家族に会えるのを待っている』と宣伝しているという。具体的な移送先として、チュメニ、イルクーツク、ケメロボ、アルタイ地方を挙げた」(2022/08/24 ロイター通信)という記事がある。

 さらには、「ウクライナ東部と南部のロシア軍占領地域で始まった『ロシアへの編入』を問う親ロシア派勢力の住民投票について、ウクライナ参謀本部が『ロシア側が武器で住民を威嚇し、精神的な圧力をかけて投票への参加を強制している』と非難しました。一方、ロシアではプーチン大統領の号令による予備役兵の動員が進んでいますが、国外脱出の動きが伝えられるなど、混乱も起きています」(2022/09/25 朝日新聞デジタル)ということである。

 NHKの石川解説委員が、「プーチン大統領は、ロシアへの占領地の編入を考えていると思います。大統領の意図がわかるのは、クレムリンの内政担当の第1副長官キリエンコ氏がたびたび占領地を訪問していることです。内政担当の第1副長官というのはクレムリンの動向を見る上で最重要なポストで、プーチン体制の内政を取り仕切っています。キリエンコ氏は有能な行政官としてプーチン大統領に評価信頼されています。

 もともとはリベラル系で首相も務めたキリエンコ氏ですが、今はロシア愛国主義を前面に出しています。『ロシアは占領した土地を手放さない』として住民へのロシアパスポートの交付やルーブルへの切り替えを進めています。……キリエンコ氏はプーチン大統領と直接接触できる数少ない側近で、プーチン大統領が占領地のロシア編入を考えているとみて間違いないでしょう」と言ったのは、すぐる7月28日のことだった。

 〈富国強兵〉〈殖産興業〉に邁進しなければ、戦場としての世界で日本が生き残ることはできないのである。

断章467

 今はどういう時代で、これから先どうなるのだろうか? 

 

 「左翼」インテリには酷評されるけれども、いつの間にか世界の主な国々の社会生活の基礎になっている“資本主義”。インテリのジジイ・ババアには嫌われているが、「私らしく自由に生きることができることは素晴らしい」と娘たちには好まれている“資本主義”。

 では、“資本主義”以前の世界は、どんな世界だったのだろうか? 

 「1754年、ロンドンのチェルシー地区に住んでいた19歳のジョアン・ランボールドはジョン・フィリップスに出会った。3年後、フィリップスの後身ごもったジョアンは、淋病を患ったうえに彼に捨てられた。他に頼るところもなかった彼女は、収容施設に入れられた。仕事が見つかり、ジョンは近くのブロンプトンへと送られたが、息子のジョン・ ジュニアは施設にとどまり、2年後に死んだ。捨てられる女や子供の姿といった悲劇は、当時は珍しくなかった

 ……このような話はごくふつうにあることだった。人間の歴史の始まりからあったことだ。当時、あるいはそれ以前には、ヨーロッパ中そして世界中の何百万、何千万人もの少女たちが同じような目にあっていたはずだ。

 ……歴史的に見れば、ついこの間まで人生は悲惨で残酷で短かった。工業化以前の社会については、食料、住居、誕生と死、そして無知、衛生や健康という概念の欠如と、どのような面から説明してみても、現在の読者にとっては衝撃的だろう。たとえばスペインのワイン生産が盛んな地域の農家では、収穫期には家族総動員で仕事をするため、幼い子の母親も子どもたちを『お腹が空いて泣いいても、オムツが濡れたまま放っておいた』。放置された子どもは、家の中に入り込んできたニワトリに目を突かれたり、ブタに手をかじられたり、火の中に転げ落ちたりした。戸口に無造作に置かれたたらいの水で溺れることもあった。18世紀にスペインで生まれた子の四分の一から三分の一が、一歳の誕生日を迎える前に死んだのも不思議ではない。ピレネー山脈の向こう側のフランスでも、人口の大半を占めていた平均的な農民の生活は似たり寄ったりだった」(『人口で語る世界史』)。

 それは、「貧しくて無慈悲で福祉もなく変化も望めなかった」(同上)時代だった。「昔ののどかな田園生活を称える物語は、工業化以前の生活の実態を忘れてしまうほど都会化された社会でしか通用しない」(同上)のである。

 

 産業革命から後、A国が先んじて近代化(産業化)すれば、B国は「追いつき追い越せ」と、がむしゃらに近代化(工業化)する。なぜなら、「ブルジョワジーは、あらゆる国民に、滅亡したくなければブルジョワ的生産様式をとりいれるように強制する」(マルクス)。

 覇権を競えば、戦争にもなる。近現代の戦争は「総力戦」だ。工業力を強化し人口を増やし新兵器を使えるように、公教育・公衆衛生にも力を入れた。

 その結果、「19世紀・20世紀の目に見える形での成長が常態化した社会をもたらしました。……それは技術・生産力の面で進歩しただけでなく、人々の移動の自由や職業選択の自由などを拡張することで、欲望を充足する個々の活動も前近代に比べるならば、はるかに制約の少ない仕方で営まれるようになりました。

 そうした自由が近代にはほぼ確立したとするなら、現代は、そうした自由を付与しても欲望を十全に充足できない者(「弱く劣った個人」)でも欲望を追求できる方向に誘導する諸種の制度・運動・政策が採用されて、欲望は単に制約から解放されただけでなく、人為的・社会的に維持され、また創出されるようにすらなりました」(小野塚、2018)。

 

 しかし、1万2千年前と比べるなら、地球上の総人口は現在およそ2千倍に増えている。600年前と比べても20倍に増えている。この世界システム、この経済システムは、「この先、大丈夫なのか?」という問いが出ても不思議ではないのである。

 だから、また確認しておこう。「いま、もし、資本主義社会は最適の社会ではないと考えるのなら、まず第1に、かつてマルクスエンゲルスが19世紀中葉の資本主義社会を論じたのと同程度に透徹した仕方で、21世紀の資本主義を、そこに含まれている問題や矛盾とともに捉え直し、その上で、第2に、資本主義とは異なる理想(ないし資本主義のよりましなあり方)を明晰に提示し、第3に、現状からそこにいたる変革の戦略を実際的に示すという3つのこと(これまでの社会主義者共産主義者も達成できなかったこと)をしなければならない」(同上)のである。

 

 先の見えない時代、困難な時代は、まず基本に戻ろう。天気予報が雨なら、傘を持って出かけよう。国は、〈富国強兵〉〈殖産興業〉に邁進する。企業は、〈イノベーション〉〈マーケティング〉を推進し、倒産しないように経営を〈マネジメント〉する。個人は、さまざまなスキルを学び、失業にも耐えうる生計的自立、さらには独立自営、できれば協同組合や株式会社への出資も視野に入れた〈勤倹力行〉〈創意工夫〉に努めよう。

断章466

 「〈市場原理〉が働いてこそ、資本主義である。〈市場原理〉が働くとは、自由競争が作動するということは、資本主義には倒産と失業がつきものだということである」(小室 直樹)。また、“資本主義”では、恐慌あるいは金融危機が定期的に発生する。それは、「資本主義体制と自由市場の重要な特徴で、それがまさに資本主義のダイナミズムなのだ。実際のところ、それは体制の効率性とダイナミックな成長のために欠かせない期間である」(マーク・ファーバー)。

 

 とはいえ、資本システムが世界に拡大するにつれて、恐慌あるいは金融危機は、その広がり、深さ、激しさを増し、より多くの勤労大衆(経営者さえも)を苦しめるようになった。こうした経済・社会危機は政府危機・政治危機を生む。

 

 金融資産・実物資産を保有し運用することで生活している“資産家階級”は、資産収益の最大化を目的としているので、政治と経済と資産市場の「安定」「安全」を渇望(かつぼう)する。“資産家階級”は、危機を鎮(しず)めるために“国家”の介入を要求し歓迎する。それが、世界の主要な先進国が第二次大戦後、“国独資”政策や“福祉国家”政策を採用してきた理由である。ところが、それは〈市場原理〉の働きを規制・妨害することでもある。

 〈市場原理〉が作動しなければ、経済は停滞する。なぜなら、変化する環境に適応できない企業を淘汰し、変化する環境に適応できない労働者(経営者をも含む)を失業させて、新しい企業、新スキルの労働者を舞台に上げるメカニズムが、〈市場原理〉だからである。

 

 停滞する経済を浮揚させるために、“超金融緩和”が行われる。だが、無理矢理の「信用拡大でもたらされた好景気は、結局のところ崩壊するのを避ける手段がない。残された選択肢は、さらなる信用拡大を自ら断念した結果、すぐに訪れる危機か、ツケを積み上げた結果、いずれ訪れる通貨制度を巻き込んだ大惨事かだけである」(ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス)。

 

 マルクス主義コミュニズム)に、友愛の世界、平等な社会、自由な人間の“夢”を見る善意の人々は、「資本主義がグローバルに展開するなかで、資本主義が内在させている矛盾が全面的に暴露されてきた。その矛盾は、マルクスがすでに予言していたものだ。だからマルクスを注意深く読めば、資本主義が今後どんな方向に向かっていくか、それを考えるヒントを得られる。マルクスは、その歴史的な意義を失ったわけではなく、ますます思想的な重要性を増しているといえる。今ほどマルクスを読む意義が高まっている時代はない」と言う。

 

 現実の歴史が教えたことは、マルクスの“夢”、それを実現するための“社会主義革命”“プロレタリアート独裁”という選択は、ボリシェヴィズム(赤色全体主義)に行き着くことである。今ほどジョージ・オーウェルの『動物農場』(Wikipedia:ある農場の動物たちが劣悪な農場主を追い出して理想的な共和国を築こうとするが、指導者の豚が独裁者と化し、恐怖政治へ変貌していく過程を描く)を読む意義が高まっている時代はない。

断章465

 19世紀の大混乱・大波乱・大変化からは、マルクス主義コミュニズム)が生れた。マルクス主義コミュニズム)は、「いまの世界と自分はこれでいいのかという煩悶(はんもん)を感じる人々に、歴史のなかで進むべき道を見失った人々に、人生の意味を提供した。さらに、強固な信念の持ち主には大きな心の安らぎ ―― “同志共同体” ―― という恩恵さえ提供したのであった」(『幻想の過去』解説を再構成)。

 「では、そうした人は、いまの世界のどこがいけないと感じたのか? いうまでもなく『腹黒いブルジョワ』の支配である。金儲(かねもう)けしか眼中にないブルジョワに対する憎悪というのは万国共通である」(同上)。

 

 「第一次世界大戦後の大混乱・大波乱・大変化からは、ボリシェヴィズムとファシズムが生まれた。これが第二次世界大戦を用意した。

 この二つはブルジョワ憎悪で共通しているだけでなく、革命、党、人民(国民)の名による独裁などの“用語”の使用において相似形をなしていた。しかも両者は、相互依存関係にあった(たとえば、独ソ不可侵条約を見よ)。

 では、自由の敵であるこの二つの全体主義のうち、知識人が圧倒的にマルクス主義コミュニズム)に惹(ひ)かれたのはいかなる理由によるのか?

 第一には、コミュニズムフランス革命の継承者であると謳(うた)い、ブルジョワ民主主義批判の彼方に普遍主義を置いたこと。つまり、ファシズムが最上位に据えたのが国家や種族という人類の特定部分でしかなかったのに対し、コミュニズムは、革命の後に『人類全体』の解放を用意していると主張したことである。
 第二は、コミュニズムが『科学と道徳を一つに結びつけているかのごとき外観を呈して』いたこと。

 第三は、ボリシェヴィキの10月革命が『勝利した革命』だったという事実である。人々が革命に夢中になった最大の理由は、革命が発生したという事実だったのであり、また革命は革命が持続しているというそれだけで、たちまち殆(ほとん)ど神話的な地位を獲得したのである」(『幻想の過去』解説を再構成)。

 

 次の大混乱・大波乱・大変化もまた、勤労大衆の多くを(さらに経営者をも)あたかも泥水や炭火の中に落とされたような苦しい境遇に突き落すだろう。すると、ボリシェヴィズム(赤色全体主義)とファシズム(黒色全体主義)が、先進国においてさえカムバックするだろう。

 

 けれども、「景気後退と金融危機が定期的に発生することは、資本主義体制と自由市場の重要な特徴で、それがまさに資本主義のダイナミズムなのだ。実際のところ、それは体制の効率性とダイナミックな成長のために欠かせない期間である」。(マーク・ファーバー)。

 テスラのイーロン・マスクに言わせれば、「米国経済がリセッションに陥ることは有益だ」。「あまりにも長い間、愚か者にカネの雨が降っていた。いくつかの倒産が起こる必要がある。また、コロナ禍におけるステイホームのようなものが人々を騙し、実際には一生懸命働く必要がないと思わせている。怠惰な目覚めがやってくるだろう」。「(不況の期間は)過去の経験からすると12ヶ月から18ヶ月だろう。本質的にキャッシュフローがマイナスの企業(つまり価値を破壊している企業)は、リソースの無駄遣いを止めるために滅びる必要がある」。

 

 「ところが、社会主義志向が強い学者や介入主義者ほど、この『非効率的な生産者と無礼な投機家の一統を一掃する』期間を不公平とみなし、しかも『市場経済と資本主義体制の欠陥』とみなしたがる。

 また、権力に取りつかれた政治家やエリート御用学者は財政・金融政策で経済と資産市場を支援しようとする。循環して起きる経済・金融危機の期間に乗じて、自分たちの権利と権限をさらに強くするためだ。特にここ数年はゼロ金利、さらにはマイナス金利だった。政府がゼロコストで自らに資金を調達できるのであれば、大盤振る舞いが、特に選挙前にできるのは明らかだ。

 しかし、よく考えてみると、政府がある分野、ある企業、または人々の所得に助成金を支給するたびに、それらが政府の介入にますます依存し、脆弱になっていることに気づく。

 人々を政府に依存させる方法の好例が基本所得保障(ベーシックインカム)によるバラマキだ。人々は基本所得保障を受け取ることに慣れたとたん、こうした給付金を支払う政府の意欲と能力に、またさらに依存するようになるだろう」(同上マーク・ファーバーを再構成)。

断章464

 世界的な大混乱・大波乱・大変化は、間違いなくやって来る。

 「アメリカ資産運用大手GMOの共同創業者兼チーフストラテジスト、ジェレミー・グランサム氏は、7日、世界経済は根強いインフレやタカ派的な金融政策、地政学的緊張を背景にここ数年で最も不安定な状況にあるとし、金融市場は一段の下落に備える必要があるとの見方を示した。

 ロイター・グローバル・マーケッツ・フォーラムで『世界経済は2007年の住宅バブル時の狂気よりも危険に見える局面にある』と述べた。極めて過大評価された“スーパーバブル”資産の一部は昨年にピークに達したとした上で、今後は大幅に膨らんだ成長株の価値下落や物価上昇に加え、利上げによって生じ得る世界の住宅市場の混乱に対処する必要があると指摘。『世界的なファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の悪化は実に衝撃的だ』と述べた。

 経済や市場の動揺により、金融引き締めを通じてインフル抑制を目指す各国中央銀行の決意が試されるとも指摘した。S&P総合500種指数の見通しについては、現在のトレンドを踏まえると、直近の3979.87から1年後には3000前後に下落していると予想。これを容易に下回るリスクもあるとした。

 さらに、気候変動に関連した経済の混乱や世界的な労働力の減少、限られた天然資源などが要因となってインフレ圧力は持続する可能性が高いとし、株式のリターンを一段と圧迫するとの見方を示した」(2022/09/08 ロイター通信)。

 

 「資本制生産様式が支配的に行なわれている社会」の経済の〈運動法則〉 ―― 法則であるから個々の人間の主観や願望によっては絶対に動かすことができない ―― が発現させるものは、〈恐慌〉である。

 ―― ここでは、資本制生産様式とは、「生産手段を資本として私有する資本家が、自己の労働力以外に売るものを持たない労働者から労働力を商品として買い、それを上回る価値を持つ商品を生産して利潤を得る経済構造。生産活動は利潤追求を原動力とする市場メカニズムによって運営される」(デジタル大辞泉)経済システムとする。

 

 イギリスは、1825年以降、1836、1847、1857、1866、1873と循環的に〈恐慌〉に見舞われた。恐慌のたびに、多くの労働者が塗炭の苦しみ(あたかも泥水や炭火の中に落とされたかのような苦しい境遇)に落ちた。

 1873年の恐慌は、5月のウイーン取引所恐慌に始まり、19世紀最大の世界恐慌になった。1873年の〈世界恐慌〉以後、それまでのほぼ10年周期だった循環が変わった。1896年に再び好況になるまでの23年間は、短期の好況と長期の不況が続いた。独占体の形成や国家の経済介入 ―― とはいえ、「自由市場への干渉行為は干渉の立案者やその支持者が求めている目的を果たせないだけではなく、逆に元の状態よりも悪化した結果と状況に至る。さらに、その悪化した状況を是正するために干渉を追加すれば、市場は死んでしまう」(小室 直樹) ―― が通例になると、典型的な〈恐慌〉は発生しなくなったように思われた。

 それでも、経済の〈運動法則〉は形を変えて発現する。それが、1929年世界金融恐慌であり、その後も、度々の通貨危機、あるいは金融市場が大きく上昇しては暴落、を繰り返してきた。

 

 そして、「2008年のリーマン危機で金融資本主義が崩壊した後は、国家管理相場という中央銀行バブルをつくることでバブルは延命してきたが、それは米欧日がQE量的緩和)によって資金を注入し続けたからである。今、金融緩和を続けている国は日本以外に存在しない。(中略)

 FRB米連邦準備制度理事会)はコロナ禍を背景としたリセッション局面が終息した後も2年近くにわたって超緩和政策を続けた。このMMT(現代貨幣理論)政策がインフレを生んだのだ。MMTは政府が自国通貨建ての借金をいくら増やしても財政は破綻せず、インフレもコントロールできるとする理論である。米金融当局は米国経済をソフトランディングできると自信を見せているが、インフレは一度加速し始めると、沈静化させるのが非常に難しい。

 インフレに対処するために非伝統的な政策を段階的に廃止し、政策金利を引き上げれば、大規模な債務危機と深刻な不況を引き起こすリスクがある。しかし、緩い金融政策を維持すれば、二桁台のインフレに陥り、次の負の供給ショックが発生したときに深いスタグフレーションに陥るリスクも高い」(2022/06/16 石原順)。

 大混乱・大波乱・大変化に備えなければならない。