断章236

 ネズミ男は、大洋に浮かぶ小さな「動物王国」に住んでいる ―― この「動物王国」は、大陸にある『動物農場』(G・オーウェル)に自国経済(儲け)の大きな部分を人質に取られているので、言うべきことも為すべきことも中途半端な、国らしくない国である。また、「動物園」(そこには、エサを与えられるので、日々、戦う“気概”を失いつつあるオオカミがいる)のようでもある。今どき「狼生きろ、豚は死ね」なんて言えば、“ポリティカル・コレクトネス”で武装したアタマでっかちな人たちから、「時代錯誤の動物差別。レイシスト」と指弾されるかもしれない。“紅葉狩り”より“言葉狩り”が流行る時代である。それはさておき。

 

 戦後日本のマルクス主義日本共産党に同伴する理論(思想)界隈では、2回、大揺れがあった。

 一度目は、1956年ハンガリー動乱のときである。「ハンガリー国民が政府に対して蜂起した。彼らは多くの政府関係施設や区域を占拠し、自分たちで決めた政策や方針を実施しはじめた。駐留ソ連軍は1956年10月23日と停戦をはさんだ1956年11月1日の2回、このような反乱に対して介入した。1957年の1月にはソ連邦は新たなハンガリー政府を任命し、ハンガリー人による改革を止めようとした。蜂起は直ちにソ連軍により鎮圧されたが、その過程で数千人の市民が殺害され、25万人近くの人々が難民となり国外へ逃亡した。ハンガリーでは、この事件について公に議論することは、その後30年間禁止されたが、1980年代のペレストロイカ政策の頃から再評価が行われた。1989年に現在のハンガリー第三共和国が樹立された際には、10月23日は祝日に制定された」(WIKI)。

 このとき、後に「過激派」と呼ばれるようになった「反日共系」セクトの源流が生まれた。彼らの合言葉は、「マルクス(とりわけ初期マルクス)に帰れ」であり、共産党の「スターリン主義」を批判した。日本共産党は、彼らを「反党反革命トロツキスト」と悪罵して石を投げた。当時の日本共産党スターリンに対する公式の立場を、今はもう忘れられたであろう榊 利夫の『現代トロツキズム批判』(1968年初版、新日本新書)でみておこう。

 「スターリンは、レーニン亡きあと、帝国主義の包囲下で、外部からの攻撃の脅威を受けている状況のもとで、ソ連の党と人民を指導しつつ、社会主義を建設する事業をすすめた。また、コミンテルン当時の国際共産主義運動においても、たとえば反ファッショ統一戦線など、すぐれた指導的役割をはたした。第二次世界大戦において、日独伊のファッショ的、軍国主義的枢軸を打ち破るうえでのスターリンの戦略・戦術の功績は現代世界が正当に評価しているものである。

 理論面においてもトロツキーブハーリンジノビエフその他の『左』右両翼の日和見主義的偏向とたたかって、マルクスレーニン主義の諸原則をまもり、党を守り固め、また、民族・植民地問題などで一定の理論的貢献をおこなったほか、ポピュラーな理論的活動でもすぐれたものがあった。ソ連社会主義および国際共産主義運動にたいするスターリンの積極的役割と地位は、歴史的に正確な評論が必要であり、その身ぐるみ否定は不毛でしかない」。

 二度目は、1991年の旧・ソ連崩壊のときである。このときも、かなり揺れて、部分的なレーニン批判やエンゲルス批判にまでは踏み込んだ。それも結局のところ、「マルクスに帰ろう」ということで終息したのであるが、一度目と比べれば、小さな揺れにすぎなかった。「スターリン批判」から40年後に、いまさら“実践的唯物論”を持ち出されてもね~、なのであったから。

 結果、日本のマルクス主義日本共産党に同伴する理論(思想)界隈に生息するものは、マルクス聖典(教説)の解説で飯を食う“腐儒”(気力も意欲もない、くされ学者)だけになった。なので、たまに白井 聡のような若い(未熟)のが出てきて『武器としての資本論』なんてタイトルの本を書くと、大喜びしてもてはやし、天狗にさせてしまうのである。

 

 昨今、人々はマルクス主義共産党を「死んだ犬」のように扱っている。

 ネズミ男は違う立場に立つ。マルクス主義共産党は、現代の「水に落ちた狂犬」である。ネズミ男は、マルクス主義共産党を、たとい岸にいようとも、あるいは水中にいようとも、すべて打つべき部類だと考えている。というのは、その性格・性情は依然として変らない。マルクス主義共産党は、油断していると、かならず岸へ這い上がってきて、必ずまた人に咬みつくからである。

 

 マルクスには学べることがある(当然、フョードル・ドストエフスキーシモーヌ・ヴェイユたちにもある)。しかし、そのことと、経済的社会構成体の進化の歴史的必然として共産主義(地上の楽園)が到来するという“マルクスユートピア”を信認することの間には、「踰(こ)ゆべからざる巨大な径庭がある」ことを知らなければならない。“ユートピア”を約束する思想・イデオロギーは、“ディストピア”を、“キリング・フィールド”を産むからである。

断章235

 「今日のような乱気流の時代にあっては、変化は常態である。変化はリスクに満ち、楽ではない。悪戦苦闘を強いられる。だが、この変化の先頭に立たないかぎり、企業、大学、病院のいずれにせよ、生き残ることはできない。急激な構造変化の時代にあっては、生き残れるのは、自ら変革の担い手、チェンジ・リーダーとなる者だけである。したがって、このチェンジ・リーダーとなることが、あらゆる組織にとって、21世紀の中心的な課題となる。チェンジ・リーダーとは、変化を機会としてとらえる者のことである。変化を求め、機会とすべき変化を識別し、それらの変化を意味あるものとする者である」(ドラッカー)。

 

 11月25日付けの韓国・聯合ニュースによれば、「韓国の文在寅大統領は25日、ソウル郊外の国際展示場、KINTEX(京畿道高陽市)で開かれた韓国版ニューディール人工知能(AI)に関連した行事に出席し、韓国をAI大国として躍進させるとの決意を表明するとともに、行事に参加した企業関係者を激励した。行事にはNAVER(ネイバー)、KT、カカオエンタープライズサムスン電子SKテレコム、LGユープラスなど、AIに関連した主な企業の関係者が出席した。文大統領は昨年10月に開催されたAI関連のカンファレンスでAI基本構想を発表し、最も賢くて人間らしいAIを作ると表明。政府はその後、エコシステム、活用、人間中心の3分野で100大課題を盛り込んだ国家戦略を策定した。今回の行事で文大統領は、韓国企業を飛躍させた半導体モリーDRAMになぞらえながら、『AI向け半導体を第2のDRAMにする』とし、『人工知能半導体産業発展戦略』を先月策定したのに続き、2029年までに1兆ウォン(約940億円)を投資する計画と紹介した。また韓国版ニューディールにより、AIに関連した人材を計10万人に増やす計画と説明した。文大統領は『韓国の夢はコロナ以降の時代を先導する国になることで、それはAIを最もうまく活用する国』だとし、『人を中心とした温かいAI時代を開く』と力説した。新型コロナウイルス克服に向け、AIを活用した企業の努力も紹介し、『人を中心としたAI技術を実現する皆さんが真の開拓者』とたたえた」(2020/11/25 韓国聯合ニュース)そうである。

 

 あいかわらず美辞麗句のお好きな大統領である。

 というのは、AI・ICT・ロボットなどは、職務合理化・省力化を推進するのであるから、結果的に、リストラ・賃金低下につながる可能性が大きいからである。

 経済のグローバル化の進行による中国など低賃金国との競争、産業構造の変化などにより、労働市場から排除されたアメリカ成人男性の賃金は、1969年から2009年までの間に28%も下落した。

 「21世紀は、AIやICTを駆使できるエリートには『胸躍る』時代であるが、それ以外の人には『恐ろしい』時代となる」。「多くの働き手の実質賃金が下落し、新たな下層階級が出現する。それを回避する手立てはおそらく見いだせない」(『大格差 ―― 機械の知能は仕事と所得をどう変えるか』)という知見もあるのだ。だから、楽観的一面的に「温かいAI時代を開く」とは語れない。

 

 とはいえ(結果がどうであれ必然として、ともいえる)、ロシアのプーチンも言ったように、「AIを制する者が次の時代を制する」ということになりそうである。ならば、日本も手をこまねいてはいられない。韓国は2029年までに1兆ウォン(約940億円)を投資するという。遅れの目立つ日本は、2029年までに1兆円を人工知能・サイバー領域(教育訓練投資を含む)に投資してもよいのではないだろうか?

断章234

 「人間とは何であり、何であるべきか」、そして短期的な逆流や局地的な抵抗があったとしても、大局的に、「わたしたちはどこから来て、どこへ行くのか」という自問自答は続く。

 

 近現代、すなわち19・20世紀を検討する前に、また18世紀を一瞥しておこう(ウィリアム・H・マクニール『戦争の世界史』を抜粋・再構成することで)。

 

 「18世紀前半のヨーロッパは経済的好況に恵まれた。この好況は政府がとった何らかの政策によるというよりは、長年にわたって豊作が続いたことと、新大陸原産の作物 ―― なかでもトウモロコシとジャガイモ ―― がヨーロッパに普及して広く栽培されるようになったことに起因することは間違いない。だがそれでも、1714年にスペイン継承戦争終結したのち40年あまり続いた比較的平和な時期に、西はアイルランドから東はウクライナの平原までヨーロッパ全域にわたって経済成長がおこった」(前掲書)。

 

 その頃登場してきたのは、1701年に成立したプロイセン王国である。

 「プロイセンの政治的成功の基礎は、単に領土の広さではなく、他国にまさる厳格さで国家を戦争のために組織化しおおせたことであった。(中略)

 国の貴族階級と軍の将校団とを一体化するという特異な国柄を作った。(中略)

 将校も兵士もひじょうにつましい、というかみすぼらしい耐乏生活をしていたが、集団としての『名誉』の精神と、義務の感覚によって、プロイセン陸軍は、ヨーロッパの他のいかなる軍隊も足元にも及ばない水準の効果的戦力 ―― と低コスト ―― を達成した」(前掲書)。

 「1740年に即位した『大王』フリードリヒ2世は、『兵隊王』と呼ばれた前王がつくりあげた軍隊を増強して苦しい戦いに耐え抜き、『大王』の治世の間にプロイセン王国の領土と人口は約2倍に、常備軍は22万になった」(Wiki)。

 

 「ロシアの毛皮商人は、・・・シベリア全土を踏破して早くも1741年にアラスカに渡った。・・・シベリアの広大な荒野の征服は地図の上ではひじょうに印象的だが、実はそれよりも、ウクライナとその周辺のステップ地帯穀物栽培農民が占拠したことの方がずっと重要であった。それらの労働により、18世紀のあいだにヨーロッパの食糧生産はひじょうな増加をとげ、人口の面でも物資の面でも、ロシア帝国の成長のための土台が築かれた」(前掲書)。

 ロシアは、プロイセンオーストリアを指向している隙に、「かつてピョートル大帝がヨーロッパの方式にしたがって成功裡に改造した軍隊を駆使して、ロシアの国境に隣接する、弱体で組織化の度合いも低い諸国家をつぎつぎと併呑して膨張することができた。1772~95年にはロシアは亡国ポーランドの最大の切り身をさらっていった。1783年にはクリミアを併合した。オスマン帝国に対しては1792年までに、東においてはコーカサス地方にくいこみ、西においてはドニエストル川まで、それぞれ領土を拡大した(引用者注:プーチンのロシアは250年あまり昔の女帝のロシアとご同様の行動様式である)。

 フィンランドへも、スウェーデン人の勢力を排除して進出した(179 2年)。ウクライナにおける穀物生産の急速な発達と、ウラル地方とロシア中央部での商工業の成長とが相まって、帝国の力が空前の高みに達するのを助けた。大エカテリーナ女帝(1762~96年)のもとで、ロシアはそれ以前とは面目を一新した組織力で、人員、原材料、耕地などの資源を動員してその陸海軍を維持し、その軍隊は西ヨーロッパ諸国の陸海軍にもたいしてひけをとらない効率性の高さを達成したのである。いいかえればロシアは、組織化の度合いにおいてヨーロッパの水準に追いつきつつあったのであり、そうなればたちまち巨大国ロシアの物量がものをいいはじめた。(中略)

 だが、ロシアの場合は、資源の動員は究極的には、国家官吏と国家の特許を受けた民間業者とからなるエリートの命令で動く農奴労働にもとづいていた」(前掲書)。

 

 同じ頃、「世界の他の部分では王侯たちは依然として民間資本を、財産没収同然の重税を課するための誘惑的な当然の標的とみなすのが普通であったときに、西ヨーロッパ、とくにイギリスやフランスでは、王侯とその官僚たちと、資本家や起業家たちの間には、意識的な協力関係が成立していることの方が常態となった。そこでは、税率に厳密な限度を設けて、定額の税金を広く公平に徴収することにより、民間の富と税金収入とを双方ともに増やすことができるのだと考え、その信念に立って行動するようになっていた。

 本国での王侯たちと資本家との協力関係におとらず密接だったのが、海外での両者の協力であった。じっさい、18世紀におけるヨーロッパ人の商業的拡大の最重要の秘訣は、かれらが自分の身体と財産とを比較的低いコストで保護することができたことだった。それはひとつにはヨーロッパ人の作る船舶と要塞の技術的優越と、それと組み合わせられた鉄製大砲の数と相対的な安価さによるものであった。そしてそれと同じくらい、ヨーロッパ人商人の保護コストを低めるうえで決定的であった要素は、ヨーロッパ式に訓練された部隊、将校、文民行政官がごくふつうに示した、卓越した組織力と規律であった」(前掲書)。その力は、海外現地の戦いで歴然と示された。

 「優勢な軍事力と、ほとんどあらゆる束縛を脱した商業的私利の追求とは、18世紀のヨーロッパ(注:とりわけイギリス)の海外事業を特徴づけたひとしく顕著なふたつの性格であった」。

 

 「ロシア式の指令による辺境資源の動員と、イギリス式の価格誘因(=商業的私利追求)によるその動員とは、対極というよりはむしろ程度の差であった。だが、強制の程度の差は重要な結果を生んだ。ロシア式のやり方は(砂糖生産諸島における奴隷経済もそうだが)しばしば人間労働を浪費する傾向があり、これとは対照的にイギリス式の民間企業の利潤最大化の努力においては、いかなる生産要素の使用量も、節約すれば必ずその分だけ見返りがあるのが常だった。ことばをかえれば、市場志向的行動様式は、強制によってはめったに達成できない高水準の効率性へむけて経済行動を誘引したのである。(中略)

 イギリスの経済運営システムにおいては、自由な市場の動きに対する反応度が高かったために、生産に大幅な改善をもたらすことのできる新しい技術が頻々ととりいれられたのに対し、ロシアにおいては、新しい技術革新を生み出したり普及させたりしようとする機運は、せいぜい散発的に起こったにすぎなかった。(中略)

 市場志向的行動様式には、技術革新が起こればすぐさま旧技術をとりのけて道をあける卓越した柔軟性が備わっており、その結果、最終的にはイギリスと西ヨーロッパ諸国一般が、経済的・軍事的な効率性をロシアや東ヨーロッパ諸国が追いつけないレベルまで引き上げ」(前掲書)たのである。

断章233

 「われわれは裸で生まれ、また裸で死んで行く」という“法話”がある。

 しかし、生まれてくるときに、金のスプーンを咥(くわ)えて生まれる児もいれば、粗末な木の匙(さじ)を咥えた児もいる。また、死に際しても、痒(かゆ)い所に手が届くケアを受けつつ死ぬ老人もいれば、貸間に詰め込まれて“生活保護費”を掠め取られながら死んでいく下流老人もいる。そもそも、こんな“法話”をする僧侶からして、拝観料でガッポリ稼いで高級外車に乗る観光寺院の僧侶もいれば、檀家が激減した寒村でやっとのことで古い軽四を維持している女僧侶(男の僧侶はみんな都会に去った)にと、格差拡大・大分断なのである。

 

 今日も今日とて、高級ホテルにある「なだ万」に、マダムがお二人、ランチをしようとご来駕なさいました。ホールスタッフの案内でいつものお席に着座されると、すぐにフロアマネージャーがやってきた。「奥様。申し訳ございません。実は、いつものマグロが、海が荒れて市場に入荷しておりませんので、今日はお出しできないのですが」と、腰をかがめて言うのであった。「しょうがないわね(韓流ドラマなら、チッと舌打ちする場面である)。じゃあ、今日は、天婦羅御膳をいただくわ(注:税サ込で7,623円である)」と、年かさのマダムがおっしゃった。

 

 片や、今日も今日とて、コンビニの駐車場に停めた車の運転席で、会社員がレン・チンした「チャーハン弁当」(398円)をかき込んでいる。

 そして、わたしの今日の昼食メニューは、1個88円の半玉キャベツの三分の一を塩・胡椒で炒めて茶碗飯に乗せたキャベツ丼と、ゆでたワンタンメン(5袋で298円)である。半熟の目玉焼きを乗せると完璧だが、予算オーバーで断念である。

 

 作家の橘 玲は、11月19日の『ZAI』オンラインに、「アメリカの極端な経済格差は持続不可能だが、超富裕層の資産に高率の課税をすれば、多くの社会問題が解決する」と主張する『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』(光文社)の紹介記事を書いている。

 

 「雑誌『フォーブス』によると、資産10億ドル(約1000億円)以上のビリオネアがアメリカには705人もいる(2019年)。その一方で、国民の半分ちかくがその日暮らしの生活をしている。この極端な経済格差は新型コロナでさらに広がっているとされるが、こんな異常な状況が長く維持できるとは思えない(持続可能性がない)。

 だったらどうすれいいのだろうか。今回はエマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマンの『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』(光文社)から『富裕税』という興味深い提案を見てみたい。(中略)

 サエズとズックマンは冒頭で、2016年9月26日に行なわれたヒラリー・クリントンドナルド・トランプの大統領候補テレビ討論会を取り上げる。トランプが納税申告書の公開を拒否していることについて、『カジノのライセンスを申請したときに提出した納税申告書しか公開されていませんが、それを見るかぎり、彼は連邦所得税を1銭も払っていません』とクリントンが批判した。するとトランプはほこらしげにそれを認め、『それは私が賢いからだ』と返したという。

 著者たちは、これが『不公平税制の勝利の瞬間』だという。もはやアメリカでは、税金を払わないことが誇るべきアピールになったのだ。その結果、いったいなにが起きたのか。アメリカの経済格差についてはすでの多くの報告があるが、その驚くべき実態をかんたんにまとめておこう。(中略)

 1) 労働者階級(成人の1億2000万人)の平均所得は1万8500ドル(約190万円)。著者たちが強調するようにこれは計算間違いではなく、1億人を超えるアメリカの成人が年収200万円程度の生活をしている。

 2) 中流階級(9600万人)の平均所得は7万5000ドル(約750万円)。これは日本のサラリーマンの平均収入(平均441万円/2018年)より7割も多く、アメリカの中間層は『世界的に見ればいまだ裕福なひとびと』だ。この層の収入は1980年以来、年1.1%の割合で増加している。微々たるものに思えるが、これでも70年ごとに所得は倍増し、孫世代が祖父母世代の2倍稼ぐことになる。アメリカの中流階級の子どもたちは親のゆたかさを超えられないかもしれないが、祖父母は超えられるのだ。

 3) 上位中流階級(2200万人)の平均所得は22万ドル(約2200万円)。アメリカの典型的な富裕層で、郊外に広々として家を所有し、子どもたちを学費のかかる私立学校に通わせ、十分な年金を積み立て、保証が手厚い医療保険に入っている。

 4) 上位1%(240万人の富豪たち)の年間平均所得は150万ドル(約1億5000万円)。その頂点にいるのがジェフ・ベゾス(資産13兆円)、ビル・ゲイツ(10兆円)、ウォーレン・バフェット(8兆円)などの超富裕層だ。

 この所得分布からわかるのは、『現在のアメリカ経済において憂慮すべき問題は、中流階級が消失しつつある点にあるのではなく、労働者階級が驚くほど少ない所得しか受け取っていない点にある』ことだ。

 著者たちは、こうした極端な経済格差はアメリカに特有な現象だという。1980年当時、上位1%の所得が国民所得に占める割合は、アメリカでも西欧諸国でも10%程度だった。現在、西欧諸国では上位1%の所得の割合は12%に増加したにすぎないが、アメリカは20%にもなった。同時に、下位50%の所得の割合はアメリカが12%に減ったのに対し、西欧諸国では24%から22%になったにすぎない。『高所得民主主義国のなかで、アメリカほど格差が拡大している国はない』のだ。

 なぜこんなことになるのか。ひとつは、給与税(社会保険料)や消費税(売上税)など逆進的な税制によって所得の少ないアメリカ人に過酷な税負担が課されていること。もうひとつは、アメリカの富裕層が税金を払っていないことだ。アメリカのほとんどの社会階層が、給与税や消費税を含め所得の25~30%を税金として国庫に納めているが、超富裕層だけは例外的に20%ほどしか払っていない。―─これは日本も同じで、合計所得金額1億円までは累進的に所得税の負担率が上がり30%程度になるが、それ以降は下がりはじめ50億円を超えるあたりから20%以下になる(関口智立教大教授『資産課税の累進性高めよ』日本経済新聞2019年11月17日)。

 フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグの資産の大半は配当しないフェイスブック株で、含み益には課税されない。その結果、税を徴収できるのはフェイスブック法人税だけになるが、それも〈タックスヘイヴン〉を使った租税回避で消えてしまう。

 『合法的税圧縮』の手法を税の専門家たちがグローバル企業や富裕層に広めたことで、アメリカは法人税や資本課税の大幅な引き下げを余儀なくされた。高い税率のままだと、ますます租税回避が進むだけだからだ。〈タックスヘイヴン〉の存在によって世界各国は税率の引き下げ競争に巻き込まれ、『資本への課税はますます減り、労働への課税はますます増える』悪循環に陥ってしまったのだ。(中略)

 提案されるのが『富裕層への課税強化』だ。・・・もちろん法人税や富裕層への税率を大幅に上げれば、資金は〈タックスヘイヴン〉に逃げてしまうだろう。したがってこれは、国際社会が租税回避を完全に封じることが前提になる ―― 引用者注:この後、著者たちの租税回避を完全に封じ、どこにも逃げ場がなくなった状況での“行動プラン”が説明されるが、実現可能とは思えない。興味のある方は『ZAI』オンラインか原著を参照してほしい。(中略)

 保育への公的支援が貧弱なアメリカでは、託児所の年間費用が幼児1人あたり2万ドルに及ぶケースもざらにある。アメリカの母親の収入は第一子の出産後、父親に比べて平均31%も減少するが、これは「事実上、政府支出の不足分を補うため、女性の時間に重税を課しているのに等しい」。アメリカは国民皆保険でないため、民間医療保険の保険料が「民間の税金」となり、もはや人頭税と化している。医療保険の年間平均保険料は労働者1人あたり1万3000ドル(約130万円)で、あまりに高すぎて成人のおよそ14%が無保険のままだ。

 北欧などヨーロッパのリベラルな国々はどこも高率の消費税で社会保障を賄っているが、消費税には逆進性があるため、それによってさらに格差を拡大させてしまう。それにもかかわらずなぜ消費税の税率だけが上がっていくのかというと、個人所得税法人税、資本課税の引き上げが租税回避の誘因になってしまうからだ。

 だが誰もが『同額の所得には同額の税金を支払う(租税回避の逃げ場がない)理想世界』では、もはや効率の悪い消費税に依存する理由はない。消費税を廃止して、国民所得(労働所得+企業利益+利子所得)に6%の均等税(国民所得税)を課して基礎税収を確保したうえで、富裕層課税で国民所得のおよそ10%分に相当する税収を確保すれば、国民全員に医療や育児を提供できるし、公立大学への助成金の増加などにより、高等教育を受ける機会も均等化できるという。(中略)

 民主的な社会では、市民(有権者)の95%が得をする提案が受け入れられる可能性はじゅうぶんにあるだろう。国家がさらに財政支出を拡張できるというMMT(現代貨幣理論)が話題になっているが、政府の借金が増えればひとびとは『国家破産』を恐れてお金を使わなくなるだろう。それを考えると、財政を悪化させずに95%の国民の可処分所得が増える富裕層課税のほうが、これからの“左派ポピュリズム”の主流になっていくのではないだろうか」。

 

 わたしは、日本の未来のために(“左派ポピュリズム”だからではない)、資産課税の累進性を高めることに賛成である。

断章232

 「ちょっかいをしかけてくる外敵に対して自衛することのできない社会は、かならず自主独立を失い、場合によっては集団としてのアイデンティティをも失って離散消滅するであろう」(『戦争の世界史』)。

 

 鳥は余りにも飛びすぎて、羽はボロボロになり、すっかりくたびれ果てて、巣の中に籠(こも)っている。なので、見ようによっては、鳥はいなくなったように見える。すると、鳥無き里のコウモリ(注:すぐれた者や強い者のいない所で、つまらない者がいばることのたとえ)ということが起きるのである。

 2001年のアルカイダによる本土攻撃以来、アメリカは20年に及ぶ戦争を、あのアレキサンダー大王でさえ弱音を吐いた地域で継続してきた。そして諸々の要因の重なりによって、世界を飛び回ることが困難になっている。コウモリは、「いよいよ出番だ」と腕まくりしている。

 

 「中国とインド両軍がにらみ合っているインド北部ラダック地方の係争地域で、中国軍が『マイクロ波』による攻撃を仕掛けたと中国の学者が16日までに明らかにした。攻撃を受けたインド兵は占拠地の一部から撤退し、奪還に成功したと主張している」(2020/11/16 毎日新聞)。

 本当にそうなら、それは南シナ海でも尖閣諸島でもありうることである。インド・ヒマラヤの風は冷たいが、日本周辺海域の波も高いのである。

 

【参考】

 「さまざまな予想が飛び交っているが、結果がどうなろうと、ひとつだけはっきりしていることがある。仮にバイデン氏が大統領になったとしても、米国がいきなり世界への関与を深め、かつてのような指導力を振るうわけではないということだ。いま各国にとって大切なのはこの現実に目を向け、今後の対応をより深く考えることだ。

 むろんバイデン氏が勝てば表面上は、米国が発信する政策は大きく変わるだろう。温暖化対策の国際枠組みである『パリ協定』や世界保健機関(WHO)への復帰、同盟の再生……。バイデン氏は1月20日の就任日にこれらを表明し、『米国が戻ってきた(The US is back)』と宣言するに違いない。

 しかし、世界のリーダーに求められる外交力や政治力を、米国がただちに取り戻せるとは思えない。米国は今、長い治療を要する内患に苦しんでいるからだ。バイデン陣営の幹部もそのことは分かっている。同氏の外交・安全保障ブレーンは最近、欧州の一部識者との会合でひそかにこう力説したという。『自分たちが政権を取っても、すぐに米国が世界に復帰(come back)すると思わないでほしい。新型コロナウイルスへの対応など、当面は国内の難題に忙殺される。米国が何をしてくれるかではなく、米国復帰のために何ができるか考えてほしい』。

 米国は中東やアフガニスタンで約20年、米近代史上で最長ともいえる戦争を続けてきた。米社会には戦争疲れが広がっている。米シカゴ・グローバル評議会の世論調査(今年7月)によると、国際問題に積極的に関与すべきだと考える人は68%で、2年続けて減った。外交目標の実現に極めて効果的な方法をたずねると、同盟維持は55%、軍事介入は17%にとどまる。他国への軍事支援については共和、民主両党の支持層の36~47%が減らすべきだと答えた。

 新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかける。感染による死者は22万人を超えた。ベトナム戦争の4倍に迫る人数だ。コロナ対策で、財政赤字先の大戦に次ぐ規模にふくらみ、貧富の格差もすさまじい。1%の金持ちが米株式・投資信託資産の約半分を占めるほどだ。

 米政治に詳しいラリー・サバトバージニア大教授は『南北戦争を除けば、米国はいま最も分断された状態にある』と語る。まず、この分断を癒やし、国内をまとめなければ、米国が世界のリーダー役を担うのは難しい。それには数年ではなく、十数年かかるかもしれない。

 だとすれば、少なくともその間、他の民主主義国が中心になって米国の役割を補い、秩序が壊れないよう支えていくしかない。主要7カ国(G7)のメンバーである日英独仏、イタリア、カナダといった準大国(ミドルパワー)が、まずその役目を引き受ける必要がある。

 こうした情勢を話し合おうと、日英の政治家や有識者による日英21世紀委員会は9月11~12日、オンラインで会議を開いた。約7時間にわたる議論では、次のような意見が印象的だった。

・仮にバイデン政権が生まれても外交上、米国に過剰な期待を抱いたり、性急に何かを要求したりするのは賢明ではない。

・国連機関などに米国を深く関与させるには、米国も恩恵を感じられる姿に改革する必要がある。

・それにはミドルパワーが主導的な役割を果たすしかない。

 日本は何ができるのか。日本は環太平洋経済連携協定(TPP)を主導するなど、通商分野では米国の「不在」を埋める役割を果たしてきた。米国以外の準大国(ミドルパワー)の役割が重要になる

 より課題になるのは安全保障である。インド太平洋では核保有国の中ロやインド、パキスタンがひしめき、朝鮮半島台湾海峡でも緊張が高まっているからだ。そこでヒントになるのが、政策研究大学院大学が今週まとめた提言だ。日米豪印による定例協議を首脳級に格上げし、そこに英国などを加える。米中ロ印パを含めた、インド太平洋のミサイル管理の枠組みを提唱する――ことなどを挙げている。後者の実現は簡単ではないにしても、議論に一石を投じる意味はある。

 もっとも、日本自身が防衛への投資をもっと増やさなければ、こうした提案は説得力を持ちづらい。日本が安定した防衛力を整えなければ、地域の安全保障も損なわれてしまうからだ。日本の防衛予算は国内総生産GDP)の1%程度にとどまっている。中期的に、北大西洋条約機構NATO)が基準とする2%をめざすべきだ。

 米民主党系のシンクタンク幹部は、『バイデン政権が生まれ、日米同盟の強化に動いたら、日本側はどう応えてくれるのか。防衛予算をGDP比2%に増やす用意はあるだろうか』と問いかける。米国の同盟国であるオーストラリアは向こう10年間で国防予算を1.4倍に増やす方針を決めた。現地メディアによると韓国はGDP比ですでに約2.5%の予算を3%にもっていく目標を掲げる。

 米国の一極体制が終わったといわれてから久しい。準大国が米国の指導力に頼っていればよかった休息の時代は終わった」(2020/10/29 日本経済新聞電子版・秋田 浩之)。

断章231

 「戦争は繰り返し起きている。文明が発展しても、民主政治が行われても、戦争は減らない。記録の残る過去3421年のうち、戦争がなかったのはわずか268年である。現在、戦争は人類の競争と自然淘汰の究極の形となっている。ヘラクレイトスは『戦いは万物の父である』と述べた。戦争、あるいは競争は、アイデア、発明、制度、国家などあらゆるものが生まれ出る有力な源だということである。平和は不安定な均衡状態であり、超大国が存在するか、互いの力が釣り合っていないかぎり、平和は保てない」(『歴史の大局を見渡す』)。

 

 「2020年9月27日からはじまった『ナゴルノ・カラバフ戦争』は、11月10日夜のアゼルバイジャンアルメニア、ロシアの首脳による、紛争地域での敵対行為を終わらせるための合意文書への署名でひとまず終結した。合意はアゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領、アルメニアのニコル・パシニャン首相、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が署名したもので、アリエフがこの合意を『アルメニアの事実上の軍事的降伏』と呼んだように、アルメニアの敗北を強く印象づける内容になっている」(塩原 俊彦)。

 この戦争の死者は、10月23日時点で民間人を含め1,000人を超えた(プーチン・ロシア大統領の発表では5,000人近い)。ナゴルノ・カラバフの住民の半数の約7万人が難民となった。公表された動画を見れば、アゼルバイジャン側の無人攻撃機を含む航空優勢が推測できる(一部報道では、トルコ軍がアゼルバイジャンを支援して参戦した)。

 

 「インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方の国境地帯で11月13日、両国軍が過去1年で最大となる砲撃戦を繰り広げ、双方で13人以上が死亡、数十人が負傷した。当局が明らかにした。戦闘が起きたのは13日午前。双方は『正当な理由のない』攻撃を仕掛けたとして互いを非難している。住民によると、砲撃は夜になっても続いた。

 インド支配地域の多くの住民は、停戦ライン『実効支配線』から避難を余儀なくされた。一方でパキスタン当局は、同国の支配地域側でインドの砲撃により多数の民家が焼けたと明らかにした。インドの軍と警察によると、兵士4人と8歳の少年1人を含む民間人4人、計8人が死亡。また、治安部隊や民間人少なくとも12人が負傷した。

 一方、カシミール地方のパキスタン支配地域のトップを務めるラジャ・ファルーク・ハイデル氏は、激しい砲撃により5人が死亡し、31人が負傷したと明らかにした。パキスタン軍は、死者のうち1人が同軍の兵士だったと認めている」(2020/11/14 AFPnews)。

 

 「日中の安全保障上の摩擦は強まっている。日本領空に近づく中国機に対する緊急発進は高水準が続いている。飛行空域は東シナ海上空が中心で、尖閣諸島上空を所管する南西航空方面隊による対応が大半を占めた。中国は西太平洋など遠方への戦力展開を目指しており、間に位置する日本周辺での活動量の増加につながっている。2019年10~12月には毎月末に人民解放軍の情報収集機『Y-9』が対馬海峡上空を経て東シナ海日本海を飛行する動きがあった。

 中国の動きは海上でも活発だ。この11月、尖閣諸島沖の接続水域を中国当局の船が航行する日数は年間282日を超え、過去最多になった。日本の“海の国境警備”は難しい対応が続く」(NHKニュースなどから抜粋)。

 

 「中国軍制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席は『能動的な戦争立案』に言及。習 近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、米国の新政権発足後も台湾や南シナ海をめぐる緊張が続くと予想し『戦って勝てる軍隊』の実現を目指しているもようだ。

 10月下旬に開かれた共産党の第19期中央委員会第5回総会(5中総会)は、軍創設100年を迎える2027年に合わせた『奮闘目標の実現』を掲げた。目標の具体的内容は明らかではないが、5中総会は『戦争に備えた訓練の全面的強化』を確認した。

 これに関連し、許氏は今月上旬に発行された5中総会の解説書で『受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への(態勢)転換を加速する』と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。国営新華社通信によると、陸海空軍などによる統合作戦の指揮、作戦行動などに関する軍の要綱が7日に施行された。要綱は軍の統合運用を重視する習氏の意向を反映したもので、新華社は『戦争準備の動きを強化する』と伝えた。

 党機関紙・人民日報系の環球時報英語版(電子版)は、今後の軍事演習では、敵国の空母による南シナ海台湾海峡の航行阻止を想定し、海軍の潜水艦、空軍の偵察機や戦闘機、ロケット軍の対艦弾道ミサイルが動員されることになりそうだと報じた。また、人工知能(AI)などの新技術を使い米軍に勝る兵器を開発するため、軍と民間企業が連携する『軍民融合』がさらに強化される見通しだ。5中総会で採択された基本方針には『軍民の結束強化』を明記。5中総会解説書は『国防工業と科学技術の管理で軍民が分離している状況が見られる』と指摘し、国家ぐるみの兵器開発体制の促進を求めた」(2020/11/16 時事通信社)。

断章230

 「現代とは一方では、近代から継承した『自由』と『豊かさ』を尊重する社会であり、他方では、その『自由』と『豊かさ』を人為的に維持・増進するために諸種の介入・保護・誘導・統制が導入された時代でもあります。自由と介入とは一見するなら相容れませんが、これら両面を有することが現代の特徴です。矛盾する2つの原理を調和させながら、人びとの『自由』と『豊かさ』を、社会として意識的に追求してきた動態が現代という時代」(小野塚 知二)だという。

 

 すなわち、資本主義とは、頑張って働けば、豊かになれると人々に約束する社会である。それは、企業・個人が、〈市場〉(=マーケット)で競争をくりひろげるシステムである。〈市場〉が「自由で公正」であるほど、早く大きなイノベーション・生産性の向上・経済成長が実現される。

 しかし、競争とは、本質的に弱肉強食・優勝劣敗である。〈市場〉のメカニズム、〈市場原理〉の下では、没落・倒産する企業、失業・零落する個人が出てくることは避けられない。〈市場原理〉は、生産力の飛躍的な向上に大いに役立つが、その裏面は富の偏在であり富の集中なのである(光には常に影が付き従う)。

 恐慌時やバブルが破裂すれば、おびただしい倒産・失業が発生し、社会的な混乱が起きる。それを回避しようとして、国家が諸種の介入・保護・誘導・統制をするようになったのである。

 その結果は、巨額の財政赤字、政財官の癒着、既得権益の蔓延、資産バブル、格差拡大、経済停滞などであり、あるいは重税国家(デンマークの消費税率は25%、国民負担率は約70%である。なお日本の国民負担率は約50%)である。コロナ禍も相まって、世界中の国々が困難な状況に逢着している。

 

 この状況を抜け出す道は、共産主義革命ではない。

 というのは、「生々流転、無限なる人間の永遠の未来に対して、我々の一生などは露の命であるにすぎず、その我々が絶対不変の制度だの永遠の幸福を云々し未来に対して約束するなどチョコザイ千万なナンセンスにすぎない。無限又永遠の時間に対して、その人間の進化に対して、恐るべき冒涜ではないか。我々の為しうることは、ただ、少しずつ良くなれ、ということ」(坂口 安吾)だからである。

 共産主義(地上の楽園)実現の実践において、「われわれが見出したのは、第1に『否定主義』。実現されるべき肯定的なものの明確なヴィジョンよりも『とりあえず打倒』という情念。第2に『全体主義』。社会の理想の実現のために特定の政党や指導組織に権力を集中し、思想言論の統制を行なうことが必要であるというイデオロギー。第3に『手段主義』(引用者注:あるいは利用主義)。未来にある『目的』のために、現在生きている人々のそれぞれに一回限りの生を手段化する(引用者注:利用する)、という感覚である」(見田 宗介)が、それらがもたらしたものは、陰惨な全体主義支配だったからである。

 

 改革は一歩一歩着実に!

 当面、富裕層への資産課税を強化して財源を確保し、AIやICTやロボットに対応できる有意義な「科学技術教育」(さらに職業職種転換訓練)への投資を、また中低所得者層の可処分所得が増えるような実質的減税をすべきである。