断章124

 平成の30年間、日本は黄昏(たそがれ)てきた。ここでの「黄昏」の意味は、「最盛期は過ぎたが、多少は余力があり、滅亡するにはまだ早い状態」のことである。

 黄昏の後、藍色の空が広がるひとときのことを「禍時(まがとき)」という。「禍時(まがとき)」は、「逢魔時(おうまがとき)」とも言う。読んで字のごとくである。禍(わざわい)や魔(ま)が訪れる時刻である。日本は、ついに「禍時」に入りつつあるのだろうか?

 不運は重なり、「弱り目には、祟り目」となりがちである。巨大地震・疾病拡大・スタグフレーション・金融崩落、さらに《備え》を固くしなければならない。

 

 「感染が拡大している新型肺炎をめぐり、医療機関に診察を断られる『たらい回し』とも言える事態が生じている。市中感染が疑われる患者も出始めているが、ウイルス検査の要件が厳しく、すぐに受けられない人も。関係者は『検査基準があいまいで、医療現場も混乱している』と指摘する。

 厚生労働省によると、検査対象となるのは、新型肺炎患者との濃厚接触や流行地域への渡航歴があり、37.5度以上の発熱と入院が必要な肺炎が疑われる症状がある場合。ただ、実際に検査するかは医師の総合的判断に委ねられている。

 東京都内に住む公務員の30代男性は、17日に39度の高熱が出て病院に行き、台湾への渡航歴を伝えると、帰国者・接触者相談センターを案内された。センターでは検査対象外の地域と言われ、別の2カ所の病院でも設備の不備などを理由に診察を断られた。ようやく受診できた総合病院で肺のX線撮影をしたが異常はなかった。その後、回復し仕事に復帰した男性は『時期が時期だけに仕方ない』と話した。

 武漢市に滞在していた人と接触歴がある東京都新宿区の男性会社員(29)も12日夜に39度発熱し、だるさや下痢の症状が出た。同センターに連絡したが、濃厚接触ではなく一般の医療機関を受診するよう促された。都内の病院には診察を拒否され、勧められた感染症専門病院で受診した。

 新型肺炎は症状からの判別が難しく、感染しても重症化しないケースが大半とされる。千葉県疾病対策課の担当者は『実は感染していたが治ったという人も多いのでは』と推測する。20日に感染が確認された同県の70代女性は当初、経過観察となり、16~18日に観光バスなどを利用したツアーに参加。その後も症状が続いたため訪れた病院で初めてウイルス検査を受け、陽性と判明した。

 東京都の担当者は、受診拒否について『(院内感染のリスクなどを恐れ)医療機関も過剰反応しているのでは』と指摘。『検査基準の〈医師の総合的判断〉という文言があいまいで、現場も混乱している可能性がある』と話す。

 NPO法人医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんによると、感染が疑われるが軽症で検査できない人が連日のように訪れている。上さんは『重症でなければ検査できないという基準はおかしい。政府は患者の不安に応える視点が欠如している』と批判した」(2020/02/24 時事通信社)。

 

「2020年1月24日~1月30日。

根室半島南東沖の地震で最大震度4を観測 今期間中、全国で最大震度4を観測した地震が1回、最大震度3を観測した地震が3回発生しました。

1月31日~2月6日。

茨城県南部の地震で最大震度4を観測 今期間中、全国で最大震度4を観測した地震が1回、最大震度3を観測した地震が1回発生しました。

2月7日~2月13日。

福島県沖の地震、及び択捉島南東沖の地震で最大震度4を観測 今期間中、全国で最大震度4を観測した地震が2回、最大震度3を観測した地震が1回発生しました。

2月14日~2月20日

千葉県北東部の地震で最大震度4を観測 今期間中、全国で最大震度4を観測した地震が1回、最大震度3を観測した地震が3回発生しました」(気象庁週間地震報告)。

 

 「先週20日に発表されたアメリカの2月フィラデルフィア連銀製造業景況指数は36.7と、予想の11.0、1月の17.0から大きく上昇した。この数値は3年ぶりの高水準だった。だがこの日のNYダウの引け値は128ドル安の2万9219ドルと低調。日本や韓国など中国外での新型コロナウイルスのまん延を嫌気し、一時は388ドル安まであった。

 そして翌21日のダウは227ドル安の2万8992ドルと続落した。2月製造業PMI速報値が50.8と、1月の51.9から予想以上に悪化し、昨年8月来で最低となった。またサービス業PMI速報値も49.4と予想外に50を割り込み、新規受注も2009年以降で初めての50割れで、総合PMIは49.6と、政府機関が閉鎖された2013年10月以降で最低を記録したことが下げの原因だった。

 冒頭のように強い景気指標が出ても、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に株を売り、21日のように景気指標が悪いとそのまま売り材料とするNY市場の『場味』(引用者注:感触のこと)はこの2日間極めて悪い。

 しかし、この間、株安に逆らうように、米ドルは1ドル=112円台に急騰した。ここで注目すべきは、ダウの下げを優先させたとは言え、大きなサプライズであった『ドル円112円』に対する日本株の反応の悪さだ。このところずっと続いていた『円安=株高』の構造が変わったかと思わせるような動きで、日本株の場味はさらに悪い。

 円安が株高につながらないのは、今回の112円の円安がドル高半分、日本売りの円安が半分で出来上がっているとの見方が多いからだ。新型コロナウイルスの景気に与えるダメージを警戒し、世界が結束して景気支援策を出す中で、日本の出遅れが目立つ。

 すでに異次元緩和を出し続けている日本としては、もはや打つ手がないのかとの印象を世界に与えている。しかも、今の国会の主役はコロナでも景気でもなく『さくら』(引用者注:桜を見る会)では、世界の売り屋ファンドに狙われるのは当然だ。彼らから『世界で最も安心して売れる日本株』との声が聞こえて来るのは極めて残念なことだ。筆者には、円安も、日本株の低迷も、アベノミクスの追加緩和策発動への催促相場(政策当局などに対応を迫る相場)に見えてならない。

 20カ国・地域(G20財務相中央銀行総裁会議サウジアラビアの首都リヤドで22日開催された。麻生太郎財務相は初日の討議終了後の会見で、財政余地のある国には果敢な措置への期待を表明したことを明らかにした。日銀の黒田東彦総裁も前日の月例経済報告関係閣僚会議で、新型コロナウイルスが内外経済に与える影響に日銀として最大限の注意を払うと強調したというが、日本は率先垂範できるのだろうか。

 実際、国内景況感は極めて厳しい。2019年10~12月期実質GDP速報値は前期比1.6%減、年率換算では6.3%減となった。コロナウイルスの影響を考えるとおそらく1~3月期もマイナスとなる可能性が高い。2四半期連続マイナス成長なら『テクニカル・リセッション、景気後退期入り』となる。

 ところが、その後発表された2月月例経済報告では、輸入は、前回の『おおむね横ばい』から『このところ弱含んでいる』に判断を下方修正したが、個人消費は『持ち直している』との表現を維持した。これでは金融緩和策追加的出動はイメージ出来ず、売り方ファンドは安心して日本を売れるはずだ」(2020/02/24 東洋経済・ケイアセット代表 平野憲一)。

 結論として「ここはあわてず焦らず、全体株価の回復を静かに待ったらどうか」と言って、パニック売りを戒めてはいるけれども、信号は完全にイエローである。

断章123

 夜のとばりがおりた頃、フクロウ男が、ネズミ男の自宅にやって来た。「フォー、フォー。こんばんわ。町内会の配りものを届けに来ました」と言う(ミネルバの使いで来たのではないらしい)。

 「ごくろうさま」とドアを開けたら、「おや、奥さんは?」と聞く。フクロウ男は、知りたがりである。「明日、婆さんのカテーテル検査の付き添いがあるので、実家に泊りがけで行ってます」と答えたら、「今この時期に病院は危ないね。ところで、もう夕飯は済ませた?」と、さらに聞く。知りたがりである。仕方がないので、夕飯のメニューを教えてやった。

 「セブンイレブンの378円のホイコーロの半分と、68円の半玉キャベツの半分を塩・胡椒で炒めたものを混ぜ合わせて増量し、丼ぶり飯の上に乗せた『新型ホイコーロ丼』と一掴みのモヤシを入れた味噌汁と目玉焼き。明日の昼は、目玉焼きの代わりに梅干し」と。「へー、なかなかやるね」と言って帰っていった。

 

 ネズミ男にとっての《唯物論》とは、「どんなものを、どんな手立てで食っているか?」である。例えば、「県庁の副知事を退職して地銀の監査役におさまった人間が、料理屋でお高い飯を地銀幹部と会食していれば、県の大金の出納に係わった双方の下心が透けて見える」という《唯物論》である(笑い)。

 最近、ロシアではこんなことがあった。

 「『月収1万800ルーブル(約1万9,000円)で生活できると思っているのか』。ロシアのプーチン大統領が19日、故郷のサンクトペテルブルクを訪れた際、低所得にあえぐ女性から街頭で直接不満をぶつけられ、問いただされる一幕があった。プーチン氏は『非常に厳しいと思う』と答え、政府が対策に取り組んでいると釈明した。

 地元メディアによると、プーチン氏は行事に出席後、市民と交流。その際に女性が発言した。女性が『あなたの給料はだいたい(月に)80万ルーブル(約140万円)だと思う』とただすと、プーチン氏は『まあそうだ』と対応。『大統領が最も高い給料をもらっているわけではない』とも語った。
 その上でプーチン氏は『あなたは正しい。社会保障の分野で国が解決しなければならない問題が非常にたくさんある』と強調した。プーチン氏と市民の交流は事前に入念に準備されていることが多いが、今回の交流が仕組まれたものかは不明。ロシアは欧米の制裁などの影響で経済が停滞し、国民の不満がくすぶっている」(2020/02/20 時事通信ニュース)。

 

 この観点から、ロシア共産党中国共産党日本共産党を振り返る。というのは、「過去の出来事を見つめなおすことが現在起こっていることへの理解を容易にし、いまの出来事を眺めることで、過去を理解することができる」(竹内 洋)からである。なお、出典は、『毛沢東思想の全体像』(金子 甫)から。

 

 『ドクトル・ジバゴ』(Ⅰ、339頁)には、レーニン政権の下で一般民衆が飢餓に喘(あえ)いでいた1919年3月の終わり頃にはすでに非公開の配給所があって、政権の幹部のためにあらゆる種類の食料が用意されていることが描かれている。(引用者:同じ頃だと思うが、秘密指令によって、首都とレーニンたちの別荘を結ぶ直通の特別列車が運行されていたりもした)

 

 中国共産党の苦しかった延安時代について、作家の王実味は、「抗日前線にいる将兵たちが戦い、命を落としているときに、後方の延安の幹部たちは女と歌とダンスに耽(ふけ)っている。病気にかかった同志が麺スープ一口すら飲めず、青年学生が毎日粥を二食しか啜(すす)れないのに、健康な『大人物』は・・・各種の特別待遇を享受し・・・『食は5クラス、衣は3色』と相成っているのだ」と暴露した。

 

 日本共産党も「食は5クラス」だったという。日本共産党の国会議員秘書をしていた兵本達吉氏は立花隆氏との対談「宮本賢治は代々木の金正日」(『WiLL』2005年10月号)で、熱海の党学校で開催された党大会の代議員約1,000人は「食べるもんが違う」と述べている。「副食が、平の代議員だったら2品か3品、中央役員になるともう1皿つく。幹部会員になるとさらにもう1皿・・・常任幹部会員になったらまたまたもう1品つく(笑い)。じゃあ宮本議長は・・・当然、鯛でなきゃ駄目・・・ボディガードやってる連中が熱海のいちばん有名な魚屋へ、真鯛のいちばん立派なやつといって買いにいかされる。彼らは・・・刺身にして食べて毒味するんだよ。熱海の党学校の料理長をやってた人は、かつて帝国ホテルのシェフをやっていた・・・料理の天才と呼ばれた立派な人なんだけど・・・『浜本さん、組織内の身分を・・・副食の数で表示する組織というのは共産党だけです』ってホントに怒っとった(笑い)」。

断章122

 アフリカを、“戦争”“革命”“崩壊”“疫病”が席巻し始めている。まず、間欠泉のように勃発する部族間戦争(ジェノサイド)、またイスラム原理主義派による内戦がある。

 

 戦争やテロの原因は、「ユース・バルジ」(注:直訳すると『若者の膨らみ』)にあると、グナル・ハインゾーンは言う。

 「15歳から29歳までの男性が、人口に占める割合の30%を超えると、雇用機会が限られてしまい、居場所を見つけられない若者が増える。多くの若者は、野心や目標を抱いているのに、社会で手に入れられるキャリアや職業といった『ポジション』が極めて少ないとなると、どうなるのか。人口統計上は“余剰”ともいえる若者たちが、激しいいら立ちを覚え、ストレスにさらされる。怒れる若者たちが向かう先は、限られる。チャンスを求めて、移民として他の国へ渡るか、犯罪に走るか、国家への反逆あるいは革命を起こすか、内戦を起こして社会の少数派を排斥し、暴力によって国を征服しようとする」と言うのである。

 

 この「ユース・バルジ」をさらにわかりやすく説明しようと、グナル・ハインゾーンが考案したのが『戦争指標』だ。

 「男性の年齢階層別のうち、55歳から59歳までの間もなく引退を迎えるグループと、15歳から19歳までのこれから社会で競争していくグループの二つを比較し、どれだけ社会に活躍する場所が生まれるかを測る指標だ。

 1,000人が引退して年金受給者になれば、社会の中に1,000人分のポジションが空くはずだ。単純に計算し、二つのグループの人数が1対1であれば、次の世代に仕事があるということだ。ちなみに日本の戦争指標は0.82。つまり1,000人が引退したとき、若者は820人しかいないため、理論上は全員が仕事に就けるということになる。

 アフリカの『戦争指標』をみてみよう。最悪のザンビアは7.0、ウガンダジンバブエは6.9だ。ザンビアでは1,000人分の職業を巡り、7,000人の若者が競い合わなければならない。戦争指標が3以上の国は、若者の社会不安が大きいと言え、何らかの形で暴力に訴える危険性が高い。そしてそういった若者の比率が極端に高い国は現在、アフリカや中東を中心に52カ国もある。暴力に訴えようとするユース・バルジの若者の数は、2050年に20億人になると推定される。(中略)

 人口推移でみると、1914年にフランスとドイツの人口は合計9,800万人、アフリカ大陸は1億1,500万人だった。しかし、2015年にはフランスとドイツは合計1億4,600万人に対し、アフリカは12億人と急激に増加している。(中略)

 アフリカだけではない。中東から欧州を目指す移民希望者は、8,300万人いると言われている」(『週刊エコノミスト』2016年10月4日号)。

 

 戦争・内戦に加えて、食糧生産の“崩壊”と“疾病”新型コロナ肺炎の危機である。

 

 「いまアフリカ北東部で今世紀最大規模のバッタの襲来により農作物が壊滅的な被害を受け、食料不足が深刻化しています。

 Q.バッタの大群ですか?

 サバクトビバッタと呼ばれ体長は5センチほどで、1日に自分の体重と同じ量の植物を食べます。ケニアでは1千億匹から2千億匹のバッタに主食のメイズやソルガムなどの穀物が食い荒らされ、過去70年で最悪の被害となっています。ソマリアでは農作物が壊滅したとして今月はじめ非常事態が宣言され、エチオピアでは旅客機が緊急着陸を強いられました。すでに被害は7つの国に広がっています。アフリカは人口増加と異常気象、紛争などによって慢性的な食料不足に陥っていますが、そこにバッタによる被害が追い打ちをかけ、FAO・国連食糧農業機関によれば1,300万人以上が深刻な食料不足に陥っているということです。バッタの大量発生による深刻な被害を『蝗害』と呼びますが、FAOは今世紀初の『蝗害』になる可能性もあると警戒しています。

 Q.なぜこれほど多くのバッタが発生したのですか?

 気候変動が原因と見られています。インド洋の海面温度の上昇による大量の雨やサイクロンの襲来が大発生を招いたと専門家は見ています。サバクトビバッタは本来、群れを作らないのですが、気象条件によって密集した状態で育つと変異が起きて子どもは群れを作って行動し植物を食べつくすようになるということです。そうして生まれたバッタは今も増え続け、3か月で20倍、9か月後には8,000倍にもなるそうです。

 Q.手の打ちようはないのですか?

 各国で殺虫剤を散布してきましたが、バッタは猛スピードで1日に150キロも移動するため手に負えませんでした。そこで国連は最新鋭のドローンを使ってバッタの大群を追跡し殺虫剤をまく計画を立てています。現地では穀物の植え付けがまもなく始まりますが、バッタの孵化も始まり今後数が飛躍的に増えることが予想されるだけに、早急に制圧しないと食料危機によって数千万人の命が危険にさらされかねません。さらにアフリカだけでなく南西アジアも要警戒だということで、国際社会全体で取り組む必要があります」(2020年02月17日 NHK・二村 伸)。

 

 「エジプトを含む北アフリカサハラ砂漠より南の地域(サハラ以南アフリカ)と比べて所得水準が総じて高い。それに比例して医療水準にも差があり、世界銀行の統計によると、例えば住民1000人当たりの医療従事者の数はサハラ以南アフリカの平均で0.2人だが、エジプトでは0.8人である。それでも先進国と比べて低い(例えば日本では2.4人)が、エジプトの医療体制がアフリカ大陸のほとんどの国と比べて『まし』であることは確かだ。実際、WHOがあげた特にリスクの高い13カ国にエジプトは含まれていなかった。

 そのエジプトで感染者が確認されたのは、むしろ医療水準がそれなりに高いからで、それがもっと低い国では、ただ感染を確認できていないだけではないかという疑念は大きくなる。この疑念をさらに大きくするのが、中国との往来だ。

 中国のアフリカ進出にともない、アフリカ大陸と中国の間のヒトの往来はかつてなく増えており、デジタル航空情報会社OAGによると、双方の間の渡航者数は2018年にのべ254万人にのぼった。WHOが特にリスクを警戒した13カ国のほとんどは中国との直行便をもつ国で、これもアフリカでの新型コロナ拡散に懸念がもたれた一因だった。

 この観点からエジプトをみると、エジプト航空はカイロ国際空港から北京、広東省広州、四川省成都の他、昨年11月29日からは浙江省杭州への直行便を就航させている。エジプトは中国とのヒトの往来が特に活発な国の一つなのだ。

 ただし、カイロ国際空港は1月末の段階で中国からの航空便を全てキャンセルしている。それでもエジプトで感染者が確認されたことから、中国との直行便をキャンセルしていない国での感染リスクは、さらに大きいと想定される。

 このうちエチオピアでは、エチオピア航空が首都アディスアベバと中国4都市との間で直行便を就航させているが、エジプトと異なり、周辺国から懸念や批判が噴出しても、これらをキャンセルしていない。しかし、これまでのところ感染者は確認されていない。

 その一方で、エチオピアはエジプトよりはるかに貧しく、住民1000人当たりの医療従事者数はサハラ以南アフリカの平均をも下回る0.1人にすぎない。

 これらの条件を重ね合わせれば、エチオピアで感染者が確認されていないことが、実際に感染者がいないことを意味するかは、大いに疑問と言わざるを得ない。

 こうしてみたとき、エジプトで感染者が確認されたことは、すでにアフリカで感染が広がりつつあるのではという疑念を深めるものだ。

 ただし、ヒトの動きがグローバルである以上、『感染者を一人も出さないこと』は事実上不可能とみてよい。その意味で、むしろ重要なことは、適切な検査・治療に関する知見の普及はもちろんだが、感染状況に関する正確な情報を各国が共有することだろう。

 だとすると、エジプトの問題はアフリカ大陸で初めて感染者を出したことではなく、感染者の移動経路などを含む情報を公開していないことにある。感染が蔓延しているとみなされれば、現在の日本がそうであるように、観光業などに大きなマイナスとなることは確かだが、情報が不十分なら感染はさらに拡大しかねない」(2020/02/16 ニューズウィーク・六辻彰二)。

 

 アフリカ・中東からさらに多くの移民・難民が、地中海を渡り、ヨーロッパに押し寄せるだろう。

断章121

 自称「知識人」リベラルには、戦争に対する嫌悪や恐怖はあっても、戦争とは何か、戦争の法則とは何か、その戦争の性格は何かといった、戦争(軍事問題)の本質的な分析や掘り下げは全くない。

 

 「『戦争反対!』『悲惨な戦争を繰り返すな!』というのはまことに正論ではある。しかし、そういう正論や戦争の悲惨さを声高に主張するだけの教科書的な論説からは、なぜそれでも戦争になるのか、どのように人々が戦争に巻き込まれていくのか、戦争を抑止するためには平和なときから何に気をかけるべきか、いざ戦争が始まったらどのような行動をとるべきなのか、そうした内実ある教訓が抜け落ちている」(楠木 建)。

 

 さて、最近の諸列強の軍事的な動向はどうか?

 

 アメリカの「米議会上院は17日、2020会計年度(19年10月~20年9月)の国防予算の大枠を定める国防権限法案を賛成多数で可決した。下院では11日に可決済みで、近くトランプ大統領の署名を経て成立する。予算総額は7380億ドル(約80兆円)。中国やロシアに対抗するため、人工知能(AI)や5Gなど先端技術の開発に力を入れた。

 中国やロシアとの競争をにらみ、陸海空軍などと同格となる6番目の独立した軍としての『宇宙軍』創設を盛り込んだ。宇宙軍はトランプ氏が創設を強く求めていた。

 中国政府への情報漏洩を警戒し、中国製ドローンの購入や中国の国有企業から国費を投じての鉄道・バス車両の調達を新たに禁じる。中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)への禁輸措置を容易に解除できなくするための条項を新たに盛り込んだ。19年度の国防権限法にある同社の政府調達を禁じる条項の効力は継続する。

 日本と韓国の米軍駐留経費の総額や両国の負担額などをまとめた報告書を作成するよう米政府に要請した。仮に約2万8500人にのぼる在韓米軍を削減する場合、韓国、日本との事前協議のほか米議会への事前報告を義務付けるよう求めた」(2019/12/18 日本経済新聞)。

 

 中国は、相変わらず「日本の排他的経済水域における『相互事前通報の枠組み』あるいは国連海洋法条約の手続きに従わない中国の海洋調査船の度重なる活動や、東シナ海の日中両国の中間線付近での資源開発、中国原子力潜水艦による国際法違反の領海内における潜水航行など日本の安全保障や主権的権利その他の権利を侵害する深刻な事案を続けている」。

 また、「スウェーデンシンクタンクストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は1月27日、兵器生産量に関する報告書を発表し、中国がロシアを抜き、米国に次ぐ世界第2位に浮上したと明らかにした。

 SIPRの報告によると、これまでは透明性の欠如により謎に包まれていた中国の兵器生産量は増加しており、兵器生産企業上位10社のうち3社を中国企業が占めるまでになった。

 年間売上高は推定700億~800億ドル(約7兆6000億~8兆7000億円)。その大部分を人民解放軍(PLA)のさまざまな部門や部隊が購入している。

 以前はロシアとウクライナから大量の兵器を輸入していた中国は、この10年間で劇的な転換を見せており、報告書の共著者の一人、ナン・ティアン氏は、『兵器に関しては、もはや他国を頼る必要はない』とコメントした。

 報告書によると、中国の兵器輸出に関して入手できる公式統計はないが、中国の兵器生産業界が『国外で中国製兵器の需要が高まるレベル』にまで成長し、中国は世界第5位の兵器輸出国になっていると推定される。

 ティアン氏は、兵器輸出国としての中国のサクセスストーリーの一つとして、一般的にはドローンとして知られるUAV(無人航空機)の分野を挙げた。UAVはリビアとイエメンでの紛争で使用されている。

 兵器の輸出量が増えるほど兵器が拡散するリスクも高まるが、中国政府は2013年に国連総会で採択された武器貿易条約(ATT)をはじめ、既存の武器管理規定の多くに署名していない。このためSIPRI調査員は、中国の世界の兵器市場への進出を特に懸念している」(2020/01/27 AFPBB News)。

 

 ロシアは、活発に動いている。

 例えば、シリアでは、「全土の奪還作戦を進めるアサド政権軍には、ロシアが空爆支援。イランが送り込んだレバノン武装組織ヒズボライラクアフガニスタンシーア派民兵軍団、ロシアの傭兵部隊が地上戦を支援している。政権軍の相手はトルコが後押しする『シリア国民軍』などの反体制派と、国際テロ組織アルカイダ系の過激派『シリア解放機構』(旧ヌスラ戦線)だ。『シリア解放機構』には依然、約3万人の戦闘員がいると見られている。(中略)

 ロシアがアサド政権軍のイドリブ攻撃を支援していることに対し、トルコ・エルドアン大統領の不信感が募っていることは間違いない。エルドアン氏は先月末、『ロシアはトルコとの合意を順守していない。われわれは我慢の限界だ』などとロシアを珍しく非難した。

 こうしたエルドアン氏の非難に対し、ロシア国営のメディアは『トルコが過激派組織(旧ヌスラ戦線)の創設に手を貸した』『過激派の戦闘員はトルコから1カ月100ドルの給料をもらっている』などと批判。これにトルコの政府系有力紙は『プーチン政権は信用できない。ロシアはアサド政権軍にイドリブ攻撃をそそのかしている』などとやり返した」(2020/02/12 ウェッジ・佐々木伸)。

 また、アフリカのリビア。「ロシアでは経済の悪化で『新しい靴を買えない家庭が3割強』といわれるほど市民生活がひっ迫している。さらに、『フェイクニュース規制』を名目にSNS規制が強化されたこともあり、政府への不満は高まっている。こうした背景のもと、リビアで新たな戦線を開くことは、プーチン大統領にとってもハードルが高いが、正規軍でない部隊なら、その心配も小さくて済む。そこで、ロシアの民間軍事企業『ワーグナー・グループ』の出番だ。ワーグナー社員の多くはロシア軍出身者だが、なかにはウクライナ人、アルバニア人セルビア人などもいるとみられ、これは要するに傭兵だ。ワーグナー社員の1カ月の給料は8万~25万ルーブルといわれ、これはロシアの平均月収(約4万6千ルーブル=約8万円)の2~6倍にあたる。

 ワーグナーウクライナやシリアでも活動が報告されているが、リビアに関してはUAEとの契約に基づき、昨年末の段階で約1000人がリビア国軍を支援しているとみられている」(2020/02/15 YAHOOニュース・六辻 彰二)。ワーグナーは、ロシア国防省の一部とみる向きもある。

 

 「米国、英国、フランス、インドの核保有4カ国が核兵器の製造・開発などのため民間企業28社と少なくとも1160億ドル(約12兆円)の契約を結んでいることが、国際非政府組織(NGO)のPAX(本部オランダ)の調査報告で2日までに分かった」(2019/05/02 毎日新聞)。

断章120

 今朝の「動物王国」は、身を切るような寒さである。

 朝っぱらから、騒々しくハチ男が飛んできた。「てぇへんだ、てぇへんだー!」。

 ネズミ男「なんでぇ、ハチ、騒々しいぜぇ」。ハチ男「何をのんびりしてるんですよー。ほら、この前、教えてくれた『増毛隊日記』の話ですよー」。

 ネズミ男「待て、待て。いくらわたしが薄毛だからって、『増毛隊』はないだろ。『草莽隊日記』だよ」。ハチ男「そうでしたっけ? それよりも大変なんすよ。『増毛隊』(こらこら。こいつは人の話をちゃんと聞いているのか)の『お上のパンデミック対策が甘すぎる』って話ですけどね。『対策が甘すぎる』のは、実はー、巨大な陰謀だってウワサがあるんすよ」。ネズミ男「いつも言ってるだろー。陰謀論は聞いても人に言うなって」。

 ハチ男「でもー、聞いたら驚きますぜー。防疫が甘いのは、大騒ぎして、習近平国賓来日に水を差したくないという中国への忖度(そんたく)からじゃなくって・・・、あの新型肺炎は持病持ちの老人の死亡率が高いんで、パンデミックが起きて、持病持ちの老人が大勢死んだら、将来の『年金』支払いや『国民医療費』が助かるから本気で防疫してないって言うんですぜ」。

 ネズミ男「馬鹿馬鹿しい。今ここで感染爆発が起きて困るのは、誰よりも、お上じゃないか。持病持ちの老人は、案外気にしてない。うちのハムスター女なんか『もう人生十分楽しんだから、罹って死んだらそれまで。さよならだけが人生よ』って、キョロットでスーパー巡りしてるぜ。

 これは、王国の官僚の悪癖なんだよ。まぁいろいろ諸説はあるけど、太平洋戦争でのガダルカナル島を巡る攻防(注:ミッドウェー海戦と共に太平洋戦争における転換点となった。日本側は激しい消耗戦により兵員に多数の餓死者を発生させたうえ、軍艦、航空機、燃料、武器等多くを失った)も“戦力の逐次投入”が敗因のひとつと言われてるなー。

 一般的には、“戦力の逐次投入”を愚策と評価するのは、古典から現代までの戦史を通じた鉄則の一つなんだが、バブルの不良債権処理にも見られたように、また大事なところで王国の官僚の悪い癖が出ているのさ」。

 「そうなんですかねー」と尻をふりふり、ハチ男は帰っていった。ネズミ男は、「おお、寒~」とひとりごちて宅配バイトに出かけたのでありました。

断章119

 「好むと好まざるとに関係なく、変化はやって来る。・・・歓迎できない変化もあれば、・・・いい面と悪い面の両面を併せ持つ変化もある。米中貿易戦争のように、影響が読みにくい変化もある。世界を景気後退に引きずり込む可能性もあるが、日米同盟の強化につながったり、将来的に中国を好ましい方向に変える要因になったりするかもしれない。

 未来は不透明だが、日本人は楽観していい。理由は2つある。

 第1に、構造的な低成長に悩まされている国は、日本だけではなくなった。

「Japanification(日本化)」という英単語を検索すると、何万件もヒットする。世界中で超低金利状態が加速していることからも明らかなように、多くの国で成長への期待がしぼんでいる。

 第2に、日本はこれまで数十年にわたり、この状況を経験してきた。低成長時代への心理的対応が既にできていて、新たな対処法も見いだしている。

 少子化の進行でも、世界が日本を追い掛けているようだ。いまヨーロッパには、日本より出生率の低い国が10カ国以上ある。男女平等と手厚い子育て支援で知られる北欧のフィンランドでも、合計特殊出生率は日本と大差ない。

 バングラデシュやネパールなどの貧しい国も、人口の維持に必要な出生率を辛うじて保っているにすぎない。人口減少は世界的な問題になりつつある。

 日本社会で高齢化が進んでいることは事実だが、人々が引退生活を送る年数が増えなければ高齢化は問題でない。日本銀行エコノミスト、関根敏隆によれば、今の日本の高齢者は昔より生物学的に若くなっている。今日の70~74歳の平均的な歩く速度は、10年前の65~69歳と同程度だという研究もある。

 現在、65歳以上の日本人の就業率は約25%。西欧ではこの割合が5%に満たない国もある。日本には80代でエベレスト登頂に成功した人やAV男優として活躍している人もいる。日本は高齢者が元気な国なのだ」と、ピーター・タスカは言った。

 

 では、人口大国、中国は今どうなっているのか。中国の新聞や雑誌、ネットに載ったニュースを手がかりに、今起きている出来事をつかもうとした本がある。『中国 人口減少の真実』(村山 宏・日経プレミアシリーズ419)である。

 

 「1980年前後から厳格に実施され2015年末にようやく幕を閉じた一人っ子政策は、様々な弊害をもたらした。

 例えば、年収の何倍もの罰金を科されるので、生まれてきた子どもの出生届を出さなかったことなどで、この世の中に存在していないことになり、学校にも行けず、身分証明書が無いのであらゆる社会活動から排除される推定1,300万人の『闇っ子』と呼ばれる無戸籍者がいる。

 男女バランスが大きく歪み、男余りが3,000万人ともいわれ、外国人をふくむ若い女性たちが花嫁として農村に売られる事件が相次いでいる。

 子どもの誘拐も後を絶たない。

 あるいは、一人っ子同士が結婚して子どもができれば、祖父母が4人、夫婦が2人、子どもが1人という構成の『421家庭』と呼ばれる家族関係が定着した。甘やかされて育った一人っ子たちは、身の回りのことが自分でできなくなっている。中学校の軍事教練(中国の学校では今でも軍事教練がある)で、3分間でひもを靴に通して結ぶ作業をさせたら、新入生の3割が時間内に結べなかった」(第1章の摘要・再構成)。

 

 「中国では、少数民族一人っ子政策の適用外だった。総人口に占める少数民族の比率は上昇している。1982年のセンサスでは少数民族の全人口が6,730万人、比率は6.68%だった。2010年のセンサスでは人口は1億1,379万人に増え、比率は8.49%に上昇した。『少数民族進城』と呼ばれる、少数民族が仕事を求めて都市部に移住する現象があり、地元民とのあつれきや、少数民族同士の衝突事件が数多く伝えられている」(第2章の)。

 

 「中国の宅配便取扱い個数は、2018年に500億個を超えた。テンセントなどのネット通販(IT産業)が急速に発展したのは、大量の低廉な労働力があったからだ。日本では低賃金では配送員が集まらず、配送料金が高止まりする。配送コストが高くなり、ネット通販でも価格は実店舗とそれほど変わらない。その点、中国の都市部には農村から出てきた多くの労働者がいた。中国の配達員の90%以上が現地以外の出稼ぎ労働者で占められているといわれる。貧しさゆえに農村出身者は工場での勤務と同じように、配達業務でも熱心に働いた。朝7時から夜9時まで荷物を抱えて街を走りまわった。現在の日本なら即、ブラック企業の烙印を押され、ますます人が集まらなくなっていただろう。

 それでも、2010年代に入ると急激に賃金が上昇し始めた。中国は2012年頃に『ルイスの転換点』を迎えたといわれる。これはノーベル経済学賞受賞者のW・A・ルイスが唱えた学説で、発展途上国の労働力が過剰から不足へと移行する点を指す。大学進学率の上昇もあり、20歳前後の低廉な労働者の数が少なくなった」(第3章の)。

 

 「年金は現役時代の職業によっても大きな差がある。中国社会科学院が2011年8月に福建省アモイで実施した年金調査が格差の実態を物語る。年金の平均額は公務員が5669元、軍人などが2900元、企業従業員が1964元、農民を含むその他の住民が1233元だった。社会主義を掲げる中国の主人公は『工、農、兵』と(労働者、農民、兵士)と呼ばれてきたが、社会保障を見るかぎり公務員(党・政府職員)、兵士、労働者、農民の順で保障が手厚くなっている。

 中国は、計画経済時代と市場経済時代どちらの体制であっても、農民の社会保障、福利厚生を最小限に抑えることで経済成長に邁進してきた」(第4章の)。

 

 「中国はすでに中国近海の魚を獲り尽くして遠洋漁業に出るしかなくなっている。例えば、2016年6月アルゼンチン沿岸警備隊はアルゼンチンの排他的経済水域内で違法操業していた中国漁船を撃沈した。2018年には中国漁船に機銃掃射、2019年にも同様に射撃した。

 多くの中国漁船が北海道沖の公海にも現われ、サンマ漁をしている」(第5章の)。

 

 「アリババとテンセントはAIによる顔認証システムを実用化し、顔を認識させるだけで決済が完了するシステムの普及に本腰を入れ始めた。中国では買い物の支払いにスマホすら不要になりつつある。中国でこれほどAIの実用化が進んだのは、プライバシーや法治システムなどの概念が弱いことが関連している。中国の街角のいたるところに顔認証システムを採用した監視カメラが設置されている。2020年、中国の監視システム『天網』の監視カメラは、6億2600万台に増えるとされている。

 経済成長が続いて自分と家族が幸せに暮らせるならば、政府の政策に従っていればよいと言う考えは庶民の間で少なくない。

 AIとロボットの発達で、ごく少数のエリートが社会を統治するシステムができるかもしれない。最近はデジタルレーニズム(デジタル技術を使った一党独裁)と呼ばれている」(第6章から)。

 

 中国式“社会主義”とは、中国共産党プロパガンダにすぎない。毛沢東主義というスターリン主義(特権的共産党官僚による国家資本主義建設を土台とした全体主義)と「農民戦争論」のアマルガムは、その主観主義・主意主義によって中国経済を破壊した。その悲惨な苦境を打開するための「改革開放」で出来上がったものは、中国の特徴を備えた社会主義ではなくて、中国の特徴を備えた資本主義だったのである。

断章118

 「たった一度 忘れられない 恋ができたら 満足さ」(『ヘビーローテーション』♪ AKB48)。

 昨日のネズミ男の夕餉(ゆうげ)は、ヘビーローテーションの鍋だった。近江牛も平牧三元豚ズワイガニもカキも高級魚も入っていない。一人前3個、小さな冷凍ワンタンが入っているだけの野菜メインの鍋である。それでも、肉屋さんからタダで貰ったハムの切れ端(当時はタダだった)と一袋10円だったモヤシの炒め物、具がネギだけの味噌汁、田舎から送ってくれた米だけで食事をしていた頃にくらべると、豪勢である。健康的でもあるのだ。

 ネズミ男は、中華人民共和国の貧しい下級国民に思いを馳せながら、『中国 ―― とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ』(何 清漣)の後半を読んでいる。

 

 「中国の歴代王朝の滅亡は、いくつかの大きな危機が折り重なってやって来た時に生じることが多い。その危機とは(A)統治集団内部の危機、(B)経済危機(最終的には財政危機に集約される)、(C)社会の底辺層の叛乱、(D)外敵の侵入である。こうした危機があいついで出現したり、同時発生すると、その王朝は間違いなく滅んできた。(中略)

 では中国共産党政権はどうだろうか?

 Aについては、利益集団民主化への願望より遙かに強く共産党が崩壊しないことを望んでいるし、海外に移住するだけの財力がない中下級の役人と中産階級は、習近平が中国の現状をなんとか持ちこたえ、致命的な災厄が訪れないことを願ってさえいる。

 Bについては、中国政府には不動産税の徴収のような政策的予備があり、中国政府が財政的になお国家の暴力装置を支え続けられる限り、共産党政権が崩壊することはあり得ない。

 Cについては、中共政権はみずからの権力奪取の経験に基づいて社会の反対勢力を消滅させ、体制を転覆するような組織力の見当たらない『ばらばらの砂』のような状況に民衆を置いている。

 Dについては、中国共産党自身がソ連の全面的支援を受けて国民党に勝利し、政権を奪取した歴史的経験からも、一貫して外部の力が中国に影響を及ぼすことを『平和的転覆』と呼び、きわめて厳格に対応してきた。中共政権は体制をあげて過剰なまでの防御措置を施している」。

 「現代の政治は代理人に委託する政治であり、民衆は選挙で権利を行使することしかできない。しかし、数年に一度のこの選挙は要するに別の政権を選択する機会を民衆に与えているのだ。だが、中国はそうではない。中国共産党政権は武力で奪取した政権であり、現在も銃でにらみをきかせ、民衆はほぼすべての権利を奪われている。西側諸国の人権はとっくに第4世代に入り、同性愛やトランスセクシュアルトランスジェンダーおよびその結婚が保障される時代である。ところが中国人は第1世代の人権すら持ちあわせていない。すなわち公民の政治的権利(選挙権、言論の自由、出版の自由、集会の自由)が認められていないのだ。

 中国の政治的特色は、非民選による無責任政治である。政府と共産党の首脳はそもそもみずからの失政による責任を負う必要がないし、数年に一度の総選挙で政権の座を追われる心配もない。中国を分析する外部のウオッチャーはこの点を見過ごしがちである。

 したがって、たとえ中国の経済が重症に陥り、実体経済が低迷にあえぎ、失業人口が増え続け、政府の借金が膨らみ、金融システムが危機に瀕し、外貨準備高が急速に縮小しようと、政府が引き続き財政吸収(引用者注:徴税)能力を保ち続け、資源(引用者注:諸々のリソースの)吸収ルートが確保され、政府と暴力装置(軍と警察)等々を養えられる限り、中国共産党が政権の座を降りることはあり得ない」(上記著作を要約・再構成)。

 

 結語に言う。「以上から、今後10年以内に中共政権が崩壊するような危機の共振現象が発生しないことは明らかだろう。だが、だからと言って北京がまともな政府のように中国をきちんと統治し、危機に満ちた社会を正常な軌道に導くと期待してはならない。中共政権は高圧的な安定維持、プロパガンダ・マシーンの運用、批判的言論の封殺を除けば、その他の正常な管理能力をもはや失っている。この『衰退しても崩壊しない』状態が長引けば長引くほど、中華民族が社会の再建に要する資源はますます失われてしまうのだ」(『中国 ―― とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ』何 清漣・2017年刊)。