断章59

 8月14日「米ニューヨーク市場は、景気後退への懸念が高まったことから、大企業で構成するダウ平均が急落した。終値は前日比800.49ドル(3.05%)安い2万5479.42ドルで、今年最大の下げ幅となった」(朝日新聞)。「ブラックスワンを見た」、「灰色のサイの機嫌が悪そうだ」と、なにかと賑やかな金融界であるが、また肝を冷やしたのである。

 その後、3日連続で反発したが、毎日、切った張ったの金融鉄火場で、急落・急反発には慣れっこのはずの参加者も、これはもしかすると「デッド・キャット・バウンス」で、ここから大暴落になるかもしれないと不安げである。

 

 なにしろ、「ドイツ銀行は過去4年間、生き残りをかけて策を講じてきたがうまくいかなかった。それはデリバティブという簿外債務の問題が大きい。コメルツ銀行との合併交渉が破談に終わった現在、ドイツ銀行は先の見えない状況となっている。

 こうした大きな銀行が危なくなった時、通常は『大きすぎてつぶせない』という大義名分で公的資金を入れて救済する。問題は、メルケル独首相が(南欧危機で厳しい態度を取った手前)、『ドイツ銀行を救済しない』と言明していることである。

 先週の8月12日(金)にドイツ銀行は大商いとなり、通常の3倍出来高を記録している。運用者の間では大口の投資家が売却したとの噂が出ており、しばらく、ドイツ銀行の動きからは目が離せなくなってきた」(石原 順)。

 

 そんなところに、「欧州系格付け大手フィッチ・レーティングスは8月16日、アルゼンチンの国債の格付けを『B』から『トリプルC』に引き下げ、デフォルト(債務不履行)の可能性を警告した。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)も『B』から『Bマイナス』に引き下げた。

 フィッチは今回の格下げについて『政治の不確実性を反映したものだ』と指摘し、『デフォルトの可能性が高まっている』とした。

 11日の大統領選予備選挙で、市場経済や財政規律を重視する中道右派の現職マクリ大統領がポピュリズム的な中道左派候補に敗れ、10月の本選での再選が危うくなったことで市場の懸念が強まっている。

 アルゼンチン株式市場は12日、前週末から4割近く値下がりした。通貨ペソも対ドルで3割程度下落する場面があった」(共同通信)。

 平家軍が富士川の合戦で水鳥の羽音に驚き慌てて逃げ去ったように、強欲金融資本の逃げ足も速いのである。

 

 そんな時に、「炭鉱のカナリア」まで鳴いたというのだ。

 「20世紀はアメリカの世紀として、『その100年でアメリカを象徴した会社を1社挙げよ』と言われれば、普通の人はGE(ジェネラル・エレクトリック)を挙げるだろう。GEはトーマス・エジソンに由来する。そしてそのエジソンパトロンだったJPモルガン本人にとっても、同社は帝国の要の一つであり、それはロックフェラーの時代になっても変わらなかった。

 そして1980年代にはジャック・ウエルチ会長の元で大改革に成功。その後もアメリカを代表する会社であり続けた。しかしそのGEも、ちょうど中国の台頭と前後するように衰退。そして昨年6月、ついにNYダウ工業平均の開設以来、110年間守り続けたダウ採用銘柄を外れた。

 そのGEが、偶然ではあるが8月15日、あのバーニー・マドフ元ナスダック会長の不正を暴いたハリー・マルコポロス氏によって、約4兆円の不正会計をしていると糾弾されたのだ。この額は、破たんしたエンロンを超える規模だ。

 この問題に結論が出るのは相当時間がかかるだろう。マドフ事件でも、当初マルコポロス氏の主張は全く相手にされなかった。それはそうだ。当時のマドフ氏はナスダックの会長をつとめた業界の重鎮。どちらを信用するかは明白だった。

 今回、GE側は、マルコポロス氏の糾弾を『ヘッジファンドから報酬をもらった人間の戯言』と否定している。同時にGEのラリー・カルプ会長は市場で自らの資金を投じて自己株買いを断行、健全性をアピールした。だが、マルコポロス氏はヘッジファンドとの関係も隠さず認めているのだから、本人は余程の証拠を握っているつもりなのだろう。(中略)

 市場では、直前までどれほど流動性があっても、信頼を失った瞬間に崩壊する。その意味で、GEというアメリカのシンボルに疑義が生じたことは、『炭鉱のカナリア』がついに鳴いたと考えている」(2019/8/20東洋経済・滝澤 伯文)。

 博打場では、「予想はウソヨ、予測はクソヨ」という。しかし、きな臭い。

 

【参考】

 「灰色のサイ(グレーリノ)は、マーケット(市場)において、高い確率で存在し、大きな問題を引き起こすにもかかわらず、軽視されがちな問題のことをいいます。これは、米国の作家・政策アナリストのミシェル・ウッカー氏が2013年1月に世界経済フォーラムダボス会議)で提起したもので、発生する確率が高い上に、影響も大きな潜在的リスクのことを指します。その語源は、草原に生息するサイは体が大きくて反応も遅く、普段はおとなしいですが、一旦暴走し始めると誰も手を付けられなくなること(爆発的な破壊力)に由来します」(金融経済用語集)。

 

 「デッド・キャット・バウンスとは、長期的な下落相場の途中の少しばかりの反発という意味です。高い所から落とせば、死んでいる猫でも跳ね返る。でも、もうその猫は死んでいるのだから、どうせそのあともダメだよって意味です」(「中卒君が偉そうに世界経済について語るブログ」)。

 

 「炭鉱のカナリアは、何らかの危険が迫っていることを知らせてくれる前兆をいいます。 これは、有毒ガスが発生した場合、人間よりも先にカナリアが察知して鳴き声(さえずり)が止むことから、その昔、炭鉱労働者がカナリアを籠にいれて坑道に入ったことに由来するものです」(金融経済用語集)。