断章305

 「予想はウソヨ、予測はクソヨ」。

 また言ってしまった。「バカのひとつ覚え」に違いない。では、「予言」は? 

 

 エマニュエル・トッドは、近著『パンデミック以後』(朝日新書)の裏表紙で、「1951年、フランス生まれ。歴史家、文化人類学者、人口学者。家族制度や識字率出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機アラブの春、英国EU離脱などを予言」と紹介されている。

 トッドは、かねてから「アメリカはロシアと敵対するのをやめて中国から引き離す戦略に転じてほしい。ロシアはほかのどの国よりも中国を恐れています。そのことを理解しなければなりません。日本と同じようにロシアも隣国として中国に脅威を感じているのです。もし、優れた米国の大統領が、ロシアを中国から引き離し、友好的な関係を結べば、最先端の軍事技術を中国から遠ざけることができます」と語ってきた。わたしは、この見識に賛成する。

 

 ところが今、わたしたちが現実に目にしていることは、「ロシアのプーチン大統領は25日までに、敵対的な行動を取る『非友好国』のリストを作成するよう関係機関に命じた。ロシア外務省のザハロワ情報局長は同日放映された国営テレビ番組で、リストに米国が含まれていると明かした。リストに入った国は在ロ大使館の活動や職員の数で制限を受ける。

 バイデン米政権が発表した米駐在のロシア外交官追放を含む制裁に対抗する動き。バイデン大統領が提案した米ロ首脳会談に向け、交渉を有利に進める狙いもあるとみられる」(2021/04/26 共同通信)という確執である。

 

 国際関係学をチンパンジーから学ぶ必要がありそうである。

 「成熟した強力なオスが2匹の場合、最強のオスは、メスの広範な支持を得てライバルを孤立させ、安定した権力構造の確立に成功した。しかし、成熟したオスが3匹の場合、次点のオス2匹が連合関係になると、最強のオスがメスの支持を得ても、この連合に対抗できない。3匹の成熟したオスがいる、という状態は、権力構造を不安定化させるらしく、次点のオス2匹が連合して最上位のオスを追う、というパターンが、この群れの中で繰り返された」。

 「国際政治学を学んだ人間は、この本から、大きな感動と驚きを得る。集団での権力獲得を目指すチンパンジーの行動が、大変洗練され、むしろ人間のほうがそこから学ぶべきものがあるように感じられる」(『チンパンジー政治学 ーー  猿の権力と性』へのアマゾン・レビュー)からである。