断章270

 日本の自称「知識人」リベラルは、人類の交雑(混血)の歴史を知ると、浅薄にも、「すべての人間は混血である。“民族”とか“国家”という区別は、無意味で、恣意的だ」とか言って、現代の“民族”“国家”を相対化(不要化)しようする。しかし、主流となった現生人類の集団に滅ぼされ、今ではDNAにしか痕跡を残していない滅亡した集団の立場に立てば(ライクはそれを「ゴースト集団」と呼ぶ)、別の教訓を引き出さなければならない。

 

 「ステップの草原地帯は、中央ヨーロッパから中国へ約8000キロにわたって延びている。5000年前より以前については、考古学的な証拠から、川の流域から離れたところには人が住んでいなかったことがわかっている。雨が少なすぎて農業ができず、動物が水を飲める場所が少なすぎて牧畜もできなかったからだ。こうした状況は、5000年前ごろにポントス・カスピ海ステップ地帯に広がったヤムナヤ文化の登場で一変する。

 ヤムナヤ文化の経済活動は羊と牛の牧畜の上に成り立っていた。この文化は、ステップとその周辺にすでににあったさまざまな文化から生まれたのだが、それらよりもはるかに効率よくステップの資源を利用している。ヨーロッパのハンガリーから中央アジアアルタイ山脈の麓まで広がり、先行した異質な要素を含む文化にあちこちで取って代わって、均一な生活様式を普及させた。

 ヤムナヤ文化の拡散を推し進めた原動力の一つは車輪の発明だった。この文化の隆盛の少なくとも数百年前に発明されたが、いったん現れるとユーラシア中にあっという間に広まったため、正確にどの地域で生まれたのかはわからない。車輪を用いた荷車は、南方の隣人、つまり黒海カスピ海の間のコーカサス地域のマイコープ文化から、ヤムナヤ文化に取り入れられたのかもしれない。ユーラシアの多くの文化と同じように、マイコープ文化にとっても車輪は非常に重要だったが、ステップ地帯の人々にとってはさらに重要な意味を持っていた。まったく新しい経済活動と文化をもたらしたからだ。

 荷車に動物をつなぐことによって、ヤムナヤの人々は水や補給物資を開けたステップまで運搬できるようになり、それまでは手が出せなかった広大な土地を利用できるようになった。もう一つの新機軸が、ステップのさらに東部でそのころ家畜化されていた馬の導入だった。馬の乗り手が1人いれば、徒歩で追うより何倍も多くの家畜を管理できるため、牧畜の効率が高まった。ヤムナヤ文化では生産性も飛躍的に向上したのだ。

 ヤムナヤ文化とともに文化の全面的な変容が始まったことは、ステップ地帯を研究する多くの考古学者にとって疑う余地のない事実だ。ステップの土地がいっそう効果的に利用されるようになるのと同時に、恒久的な住居がほぼ完全に姿を消した。ヤムナヤ文化が残した建造物はほぼすべてが墓、つまりクルガンと呼ばれる巨大な土の塚だ。クルガンには荷車と馬も一緒に埋められている場合があり、彼らの生活にとって馬が重要な存在であったことがしのばれる。車輪と馬が経済活動あまりにも大きく変えたため、人々はついに村落での生活を捨て、移動しながら暮らすようになった。古代版トレーラーハウスというわけだ」。

 「ヤムナヤ文化は、巨大な埋葬塚の建造、馬の重用や牧畜、それに、副葬品の大きなメイス(斧)に反映されるように暴力を礼賛する極めて男性中心的な文化」だったという。

 

 やがてヤムナヤの遊牧民は、新たな土地を求めて移動を開始する。

 このうち西に向かった集団が現在のヨーロッパ人の祖先だ。

 「4900~4300年前に、ステップ地帯由来のDNAをもつ人々が中央ヨーロッパ住民の少なくとも70%を占めるようになった。4500~4200年前、ステップ地帯由来のDNAをもつ人々がブリテン島住民の最大90%を占めるようになった。4500~4000年前、ステップ地帯由来のDNAをもつ人々がイベリア半島住民の最大30%を占めるようになった」。

 「古代DNAには人々の過去の移動を証明する力がある。古代DNAは、およそ4500年前にヨーロッパで大規模な集団置換が起こったことをはっきり示している」(ライク)。

 

 「ステップのDNAをもつ人々はいったいどうやって、すでに定住者のいる地域での大々的な“置換”を引き起こしたのか? 

 仮説の一つは、それまでの住人が全面的に所有権を主張していたわけではない土地を開拓して、自分たちが生活できるようにしたことである。

 別の仮説は、すでにペストへの抵抗力をつけていたステップの人々が持ち込んだペストによって免疫がなかった先住の農耕民が激減したことである。実は、ヨーロッパとステップから採取した101件の古代DNA試料から、…ペスト菌のDNAが見つかった」(『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』を抜粋・再構成)。

 

 移動してきた人間集団が、恐るべき新兵器によって、あるいは持ち込んできた未知の感染症や変異した既知の危険なウイルスによって、先住の人間集団を駆逐したり征服したことは、過ぎ去った歴史のお話ではない。コロナ禍やサイバー攻撃は、わたしたちが同じようなリスクに出会っていることを教えている。

断章269

 現生人類と旧人類の間で交雑(交配)があったとしても、その後に旧人類に起きたことは、アメリカ大陸を「発見」したヨーロッパ人の銃と病原菌による惨禍に見舞われたアメリカ先住民にまさる悲劇だった。すなわち、「絶滅」である。

 

 「7万年前、世界には非常に多様な形態の人類が住んでいた。その人類集団とは現生人類、ネアンデルタール人、シベリアのデニソワ人、南方に分布していたアウストラロ(南)デニソワ人、インドネシアフローレス島で見つかったホビットである。古代DNA解析によれば、5万4000~4万9000年前頃、ネアンデルタール人と現生人類の、4万9000~4万4000年前頃、デニソワ人と現生人類の交配があった」。

 「2016年になると、パンドラの箱を開けたかのように、古代人DNAのデータ量が爆発的に増えた。試料を整理した結果、ヨーロッパ狩猟採集民の歴史における5つの大きな出来事がわかった。

 アフリカや中東から出た現生人類の先駆者集団はヨーロッパ全土に拡散した。遅くとも3万9000年前頃には1つのグループがヨーロッパ狩猟採集民の系統を創始しており、それが途切れずに2万年以上続くことになる。やがて、このヨーロッパ狩猟採集民集団の東方分岐に由来するグループが西方に拡散し、すでにいたグループに取って代わった。その後このグループ自体も氷河の拡大につれて北ヨーロッパから押し出された。氷河が後退するにつれ、西ヨーロッパには、数万年にわたって首尾よく存在し続けていた集団が南西方面から戻ってきて再び住むようになった。最初の強い温暖期に続くその後の移住は、南東方面からの拡散もあってさらに大きな影響があり、西ヨーロッパの集団を変容させただけでなく、ヨーロッパと中東の集団を均質化させた」。

 「1万2000年前から1万1000年前の間にトルコ南東部とシリア北部で農耕が始まり、その地域の狩猟採集民が小麦、大麦、ライ麦、えんどう豆、牛、豚、羊など、今も西ユーラシアの多くの人々が頼りにしている動植物の大半を栽培したり家畜化したりし始めた。

 9000年前頃以降に農耕が西に広がって今のギリシアに達し、だいたい同じ頃に東にも広がって、現在のパキスタンにあるインダス渓谷に達した。ヨーロッパでは地中海沿岸を西のスペインまで広がり、北西へはドナウ川流域を通ってドイツに達し、ついに北はスカンディナヴィア半島、西はイギリス諸島と、このタイプの経済活動が成り立つ極限の地にまで広がった」。

 「植物の栽培や動物の家畜化の技術の目覚ましい進歩によって、狩猟や採集に頼っていた時代よりはるかに高い人口密度維持できるようになったため、東の農耕民は移住や近隣集団との交流を活発に行うようになった。しかし、一つのグループが他のすべてを押しのけて絶滅に追いやるという、かつてヨーロッパでの狩猟採集民の拡散の際に一部で見られた図式とは違い、中東では、拡散するあらゆるグループが、先住のグループと混じり合い、のちの集団のDNAに寄与した。今のトルコにいた農耕民はヨーロッパにまで広がった。今のイスラエルやヨルダンにいた農耕民は東アフリカに広がり、彼らの遺伝的遺産は今のエチオピアに最も多く残っている。

 今のイランにいた農耕民と同族の農耕民は、黒海カスピ海の北のステップ地帯はもちろんインドにまで達し、地元の集団と混じり合って牧畜に基づく新しい経済圏を打ち立てた。そしてこの農業革命によって、農作物の栽培に適さない地域にまで農業が広がった。異なる食物生産集団が混じり合うこともあり、5000年前ごろ以降の青銅器時代にいろいろな技術が発展してくると、交雑はさらに盛んになった。西ユーラシアの集団が互いに交雑した結果、青銅器時代には、遺伝的な差異が現在見られるような非常に小さいレベルまで下がった。これは技術 ―― この場合は栽培や家畜化という技術 ―― が、単に文化的な均一化だけでなく遺伝的な均一化にも影響したことを示す驚くべき例と言える。産業革命や情報革命によってわたしたち自身の時代に起こっている変化は、人類の歴史において決して特異な出来事ではないのがわかる」(『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』から引用・紹介)。

断章268

 「わたしたちは何者なのか」「人類の過去を研究するのは、美術や音楽、文学、あるいは宇宙論の研究と同じように不可欠なことだ。なぜなら、人類が共有するさまざまな側面に気づかせてくれるからだ。極めて重要でありながら、これまでは想像もしなかったような側面に」(デイヴィッド・ライク)。

 

 「2001年、ヒトゲノムの塩基配列が初めて決定された。その化学的な文字の大多数が解読されたのだ。2006年にはDNA文字列を読む自動解析装置が売り出されて解読コストが1万分の1になり、すぐに10万分の1になって、さらに多くの人のゲノムのマッピングが安価にできるようになった。こうして、ミトコンドリアDNAのような少しばかりの孤立した配列の比較だけでなく、ゲノム全体の配列の比較が可能となり、それをもとに各人に伝わる無数の系統を復元できるようになった。これは人類の過去についての研究に革命をもたらした」(注:分子生物学の立場からは、すべての生物を一元的に扱いたいという考えに基づき、ゲノムはある生物のもつ全ての核酸上の遺伝情報としている)。

 「ゲノム革命が圧倒的な成功を収めているのは、ヒトの生物学的特性を説明するというより、ヒトの移住を明らかにする分野だ。この数年、古代DNAによって加速されたゲノム革命は、誰も予想しなかったほど、ヒトの集団が互いにつながり合っていることを明らかにしている。浮かび上がってくる物語は、わたしたちが子供のころ学んだことや、大衆文化から取り入れたことと違っている。多様な集団の大規模な混じり合いと、広範囲の集団置換と拡散に満ちた驚きの物語だ」。

 「私たちは今日地球上にいる唯一の人類、すなわち現世人類に属する。人類のサブグループのひとつである現生人類は5万年前ごろより後にユーラシア全域に広がって、他の人類を駆逐、あるいは絶滅させた。(中略)しかし4万年前ごろまでは、世界には多様な旧人類が住んでいて、姿形は私たちと異なるものの、直立歩行し、私たちと共通する多くの能力を持っていた ―― 例えば、ネアンデルタール人もルヴァロワ技法として知られるやり方で石器を作った。この技法には、高い認知スキルと器用さが要求される。慎重に選んだ石核から薄片を打ち落として、最初の形とはまるで違う形の道具にしていくため、作り手は最終的な道具の形を頭の中に明確に描いたうえで、複雑な工程をたどって、目指す形を完成させなければならない。そうした旧人類とわたしたちの間にはどんなつながりがあるのだろうか。考古学的記録では、そうした疑問に答えることはできない。だがDNA記録ならできる」。

 「40万年前ごろのヨーロッパで一番幅を利かせていたネアンデルタール人と現生人類との出会いについては、確かな科学的証拠がある。出会いが、ヨーロッパだけでなく中東でも起こっていたのはほぼ間違いない。7万年前ごろ以降、強くて勢いのあるネアンデルタール人集団がヨーロッパから中央アジアへ進出して遠くアルタイ山脈に達し、中東にも入り込んだ。現生人類はアフリカに退いた。しかし、現生人類は6万~5万年前ごろ中東に戻ってきて、ネアンデルタール人を追い出し、その後は、ネアンデルタール人が敗者となり、中東だけでなく、やがてはユーラシアの他の場所でも絶滅してしまった。二つの集団は交配したのだろうか?」。

 

 「今ではネアンデルタール人との交配の証拠がヨーロッパ人だけでなく東アジア人やニューギニア人でも確認されている。

 いったいどこでネアンデルタール人と現生人類は出会って交配し、ヨーロッパだけでなく東アジアやニューギニアまで広がる集団を生んだのだろうか。考古学者は、中東では13万年前から5万年前の間に少なくとも2回、ネアンデルタール人と現生人類が優勢な集団としての地位を交代していることを明らかにしており、この間に両者が出会ったと考えるのが理にかなっている。こうして中東で交配が起こったと考えると、ヨーロッパ人と東アジア人が、共にネアンデルタール人のDNAを受け継いでいることがうまく説明できる」。

 「遺伝学的データからすると、アフリカ外の現生人類がアフリカから出て世界中を席巻したグループの子孫であることは明らかだが、いくらか交配があったことも、今ではわかっている。

 ネアンデルタール人は想像していたよりもわたしたちに似ていて、たぶん、わたしたちが現生人類特有のものと考えている行動の多くを行う能力があったと考えられる。文化の交流があったに違いないし、それに伴って交配も起こっただろう。ネアンデルタール人からは生物学的な遺産、たとえばユーラシアのさまざまな環境に適応するための遺伝子などが非アフリカ人に伝えられたこともわかっている。(中略)

 今では、ネアンデルタール人と現生人類の交雑集団がヨーロッパさらにはユーラシア全土で生きていたこと、その多くはやがて死に絶えたが、一部は生き残ってこんにちの多くの人々の祖先となったことがわかっている。現生人類とネアンデルタール人の系統が分かれた時期もだいたいわかっている。そうした系統が再び出会ったときには、生物学的な不適合性の限界に達するまで進化していたこともわかっている。そこで次のような疑問が湧いてくる。ネアンデルタール人はわたしたちの祖先と交配した唯一の旧人類だったのだろうか?

 それともわたしたちの過去にはほかにも大規模な交配があったのだろうか?」(『交雑する人類 古代DNAが解き明かす新サピエンス史』を抜粋・再構成)。

断章267

 日本のマスメディア、「左翼」インテリは、「反権力のイドラ」とでも呼ぶべきものに取り憑かれている。ところが、そうした「反権力のイドラ」は、現下の国際情勢下では、全体主義国家や寡頭専制国家からつけこまれ悪用されて、自由民主主義国家の自由主義・民主主義を傷つけ分断を促進するために利用されている。

 全体主義国家やマルクス主義政党や独裁者は、「人類の将来についての開かれた議論に加わることは念頭になく、自由民主主義の信用を傷つけることにしか関心がないからだ。彼らは自由民主主義が抱える問題は嬉々として議論するものの、何であれ自らに向けられた批判は、まず許さない」(ユヴァル・ノア・ハラリ)のである。

 

 経済のグローバル化の恩恵をうけて力をつけ自信をもった中国は、「中華民族の偉大な復興」を呼号し、いまや明清王朝的な尊大な態度で、「冊封体制」の現代版かと見紛(みまが)う「一帯一路」構想を推進しつつある。

 

 「『経済の結びつきが深まれば、国と国の関係は安定し、紛争が起きづらくなる』。大まかに言えば、リベラル系の国際関係論の識者は長年、こう説いてきた。

 約20年前、世界貿易機関WTO)に中国を入れたのは、そんな強い期待があってのことだ。

 しかし、そうした仮説は裏切られつつある。習近平(シー・ジンピン)政権が近年、各国による対中依存を逆手にとり、外交の武器にしているためだ。

 中国の立場に同調するよう求め、従わない場合、事実上の貿易制裁を科すケースが増えている。いちばん際立っているのが、オーストラリアへの仕打ちだ。豪州は200年4月、新型コロナウイルスの発生源をめぐって独立調査を求めた。怒った中国は検疫問題やダンピングがあったとして、豪州産の牛肉輸入を制限し、大麦にも80%超の追加関税を課した。両国の報道によると、11月上旬には銅やワイン、石炭、木材など7品目の輸入も差し止めた。輸出の3割超を中国が占める豪州には、大きな打撃である」(2020/12/08 日本経済新聞)。

 また、「中国の王毅外相は、最近、東南アジア諸国を2回にわたって歴訪し、中国製コロナワクチンの無償支援などを約束した。興味深いのは、10のASEAN加盟国のうち唯一ベトナムだけが訪問国から外れているという点だ。ベトナムだけは除外した。ASEAN加盟国のなかで一番はじめに中国の通信企業のファーウェイを拒否し、新型コロナの初期に中国国境を封鎖したこと。南シナ海の領有権問題とメコン河流域の水資源開発問題で軋轢があるからだとされている」(2021/01/18 ハンギョレ新聞)。

 

 そして、軍備拡大は大車輪で続いている。

 「中国の著名な軍人、劉明福国防大教授が新著で、中国軍が今世紀半ばまでの目標としている『世界一流の軍隊』とは、米軍をもしのぐ『世界最強』になることだと断言していることが15日までに分かった。

 習近平国家主席が2017年の第19回共産党大会で掲げた目標『世界一流の軍隊』とは『米軍並み』と見る向きが多かった。より野心的な目標であり、米軍などは警戒感を強めそうだ。

 新著は昨年10月に発行された『新時代中国の強軍の夢』。劉氏は、スポーツ試合と異なり『戦場に2位の序列はなく、勝つか負けるかの結果だけだ』と強調した」(2021/01/15 共同通信)。

 

 この報道に踵を接するかのように、「中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語版)は18日、上海で建造中の3隻目の新型空母が年末までに進水する可能性があるとの観測を報じた。2025年までに海軍に引き渡されるとの見通しも伝えている。

 同紙によると、陝西省西安で発行されている政府系の軍事専門誌『兵工科技』が最新の写真を分析したところ、ほぼ完成形に近づいているのが確認されたという。習近平指導部は、共産党が今年で創建100年を迎えるのに合わせて空母建造の進展を誇示し、国威発揚を図る可能性がある。

 従来の2隻は船首部分に傾斜のついたスキージャンプ式の甲板で艦載機の離艦を行うタイプだが、同紙によると、3隻目は艦載機を発進させるための電磁式カタパルト(射出機)を装備しているとみられるという」(2021/01/19 日本経済新聞)。

 

 また以前書いたように、「中国は『世界記録並みの』急ピッチで強襲揚陸艦の建造を進めており、すでに2隻目が試験航海を開始した。排水量約4万トンの同揚陸艦について、『台湾海峡南シナ海での軍事衝突で優位に立つ』という中国政府の念願実現の鍵を握る存在だと強調している。これらの海域では今年に入り、中国海軍と米海軍の睨み合いが頻発している。

 人民解放軍は075型強襲揚陸艦を計8隻発注している。現在3隻目が建造中で、2021年の前半には同軍に引き渡される見通しだ。中国メディアは、中国はまるで『餃子をつくるような』ペースで艦船を進水させていると表現した。

 報道によれば、075型強襲揚陸艦は、最大30機の攻撃ヘリコプターと最大900人の部隊の収容可能。2020年には複数のアナリストが、中国軍は今後075型に戦闘機も搭載する必要があり、フル稼働できるようになるのは2030年頃かもしれないと指摘した。

 米シンクタンク戦略国際問題研究所CSIS)は11月に発表した報告書の中で、中国軍が075型強襲揚陸艦のウェルドック(注水可能なドック型格納庫)から上陸用装軌車を発進させることも考えられると述べている。〈以下略〉」(2020/12/24 ニューズウィーク)。

断章266

 唾棄すべきは、日本の自称「知識人」リベラルである。

 彼らは、大半がシャンパン・リベラル ―― 貧困・格差是正・難民受け入れなど口では「正義」「公正」「平等」などメディアで聞こえのよい主張で人気取りのパフォーマンスをし、上から目線で勤労大衆を馬鹿扱いしつつ、実生活では自らの富・地位・特権を維持したままの二枚舌で偽善的な左派インテリ ―― である。

 最近も、概ね次のようなツイート(ブログ)があった。

 「『若者に平等に貧しくなれ』といってる上野千鶴子は、都心のタワーマンションに住み、八ヶ岳山麓に別荘を持ち、高級外車を乗り回している団塊金持ちだということは、もっと知られるべきである。自分は高度成長期の繁栄を享受しておきながら、下の若い世代には繁栄を与えず、裕福な自分の生活は手放さない。その上で、上から目線で貧困になれと平然と言う。吐き気を催す邪悪だ」。

 

  人間は、十人十色である。見習いたい人もいる。

 こつこつ貯めた5億円を九州大学に寄付した中本博雄さんは、旧満州から終戦翌年に帰国した。生計をたてる親に代わり、弟をおぶって小学校に通った時期もあった。科学や数学が好きで九州大学への進学を勧められた。「高校の先生が家に5回も来てくれたが、おやじは返事をしてくれなかった」。家計を考えると、泣く泣くあきらめた。あきらめるしかなかった。

 高校を出て父が営む商店で働いた。仕事の一つが設計図の複写。感光紙に焼き付ける青写真が主流だった。「普通の紙に複写できれば便利なのに」。仕事を終えた夜、開発に没頭した。静電気、元素の性質、設計。独学して6年。「なんべんも失敗した」末に、「静電気を使った任意変倍可能な複写装置」の試作機が完成した。「幸福の女神は透明で、深く考えた時に初めて見える。なにせ考えることです」。「情熱が執念に変わるまで勉強すれば道は開ける」。

 米国でも日本でも特許を得た。今のコピー機の元祖の一つだが、特許料はもらっていない。「大学の卒業証書のつもりでした」。
 1987年に製図や印刷の会社を福岡市で創業。2004年に経営を次男に譲り、郊外で妻と暮らす。愛車は軽自動車、自宅は築45年である。「苦労してためたお金ですが、貧しくても勉学したい人が使えば何十年か後に生きると思うんです」。

 子どもも孫もいるが、「相続しすぎると独立心が育たない」と考え、かつて進学を目指していた大学への寄付を決めた。妻の稔恵さん(74)も二つ返事で賛成してくれた。

 「死んで財産を残すよりも若い方に渡した方が、お金が生きる。そこから新しい発明や発見が出て、日本が栄えていけばいい。あの世に行ったときは財産ゼロという死に方をしたい」。

断章265

 建前(たてまえ)と本音(ほんね)は、何かしらに対する人の感情と態度との違いを示す言葉である。どちらを信用すべきだろうか?

 

 「近く着任する姜昌一(カンチャンイル)駐日韓国大使が17日、日本メディアとの会見に応じ、元徴用工問題や慰安婦問題を念頭に『文在寅(ムンジェイン)大統領は韓日の関係正常化と協力強化に強い意思を持っている』と語った。東京五輪をめぐり文氏は『開催成功のため、できることは最大限行う』とも述べたという。大統領府を14日に訪問した姜氏に対し、文氏が語った内容として紹介した。姜氏は『韓日は前に歩まないといけないのに、歴史問題でできていない』とし、『1965年の国交正常化以来、最悪の状態だ』と語った。そのうえで『経済や安保での協力、新型コロナウイルスへの対応、東京五輪の開催成功、少子化や人口減少など、ともに対応するべき問題は山積している』と訴えた。豊臣秀吉朝鮮半島へ侵攻した『文禄・慶長の役』の後、江戸時代に朝鮮王朝が派遣した外交使節団『朝鮮通信使』や、当時、両国の橋渡し役として活躍し『誠信の交わり』を外交方針として説いた儒学者雨森芳洲を引き合いに『(日韓関係は)今は寒い冬のなかにあるが、春を迎える準備をしなければならない』と強調した」(2021/01/18 朝日新聞デジタル)。

 

 「春を迎える準備をしなければならない」という建前を語りつつも、しっかりと棘(とげ)をひそませている。というのは、「韓日は前に歩まないといけないのに、歴史問題でできていない」と言うが、いったい誰が(どの国が)、歴史問題のどんな扱いをすることで、冬になっているかを言っていない。それはつまり、韓国の立場=日本は謝罪して金を払え、という本音を隠していることを意味するのである。日韓慰安婦合意、徴用工訴訟に対するムンジェイン大統領のこれまでの行動(言葉ではなく!)を思い出すべきである。

 

 韓国の本音は、ここ最近の行動にも明らかである。

 「海上保安庁は11日、東シナ海の日本の排他的経済水域EEZ)内で海洋調査をしていた測量船が、韓国公船から中止を要求されたと発表した。日本政府は、要求は不当だとして外交ルートを通じ韓国政府に抗議した。同海域では昨年夏にも海洋調査で同様の中止要求があった。

 発表によると、11日午前3時25分頃、長崎県五島市女島の西方約139キロで、海洋調査中の測量船「昭洋」に韓国海警察庁の船が接近し、無線で『韓国の海域で科学的調査を行うには事前の同意が必要』と中止を求めてきた。昭洋は『日本のEEZ内の正当な調査だ』と応じ、調査を継続している」(2021/01/12 読売新聞)。

 韓国は、中国に対しては同様の行動をなしえない。

断章264

 さらなる危機に備えよう。なぜなら・・・

 「米ジョンズ・ホプキンス大のまとめによると、新型コロナウイルスによる新規死者数は12日に世界で1万7195人と、過去最多になった。13日時点で、アメリカの累計死者数は38万人を超えている。

 米疾病対策センター(CDC)は、累計死者数が1月末までに最大で43万8000人に増える可能性があると予測する」(2021/01/14 日本経済新聞)。

 「新型コロナウイルスの感染が確認された人は、日本時間の1月11日午後3時の時点で、世界全体で9027万9044人と9000万人を超えました。また、亡くなった人は193万4784人となっています」(2021/01/11 NHKニュース)。

 

 そして、「6,400人を超える犠牲者を出した阪神・淡路大震災(1995年)の前、『関西には大地震は来ない』という迷信があった。神戸や大阪は地震を周期的に起こす活断層に囲まれているにもかかわらず、その事実が一般市民にはほとんど伝わっていなかったのだ。実は、阪神・淡路大震災を契機として、日本列島の内陸では直下型地震が増えている。これも地球科学が予測していることだが、西日本で内陸地震が増え続けたピーク付近で、南海トラフ巨大地震が起きるのだ。日本はどこにいても地震からは逃れられず、『揺れる大地』で生き延びる方策を常に考えなければならない」(『座右の古典』 鎌田 浩毅)。

 気象庁は、大規模地震の切迫性が高いと指摘されている南海トラフ周辺の地震活動や地殻変動等の状況を定期的に評価するため、南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会、地震防災対策強化地域判定会を毎月開催している。幸いなことに、1月8日現在、「南海トラフ沿いの大規模地震の発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと考えられる特段の変化は観測されていません。

 しかし、南海トラフ沿いの大規模地震(M8~M9クラス)は、『平常時』においても今後30年以内に発生する確率が70~80%であり、昭和東南海地震昭和南地震の発生から既に70年以上が経過していることから切迫性の高い状態」(気象庁)であることに変わりはない。

 

 あるいは、金融市場のバブルの破裂も危ぶまれる。

 「今回の“救済”の結果、単年での財政赤字幅拡大は民主党左派サンダース候補が予定していた2兆ドルを上回る。大統領選まではトランプ政権も民主党も選挙に勝とうと『救済の手』を緩めないはずだが、最後、市場原理は等しく襲い掛かる。『自国通貨建ての国債は好きなだけ発行できる』などといったMMT(現代金融理論)は、机上の空論でしかない。

 『返すつもりがない債券』発行の繰り返しは、必ず、とりかえしのつかない債券の暴落を招く。ただし今は、国家が救済を優先することを、誰も止められない」(2020/04/09 滝澤 伯文・東洋経済)。

 「長年にわたる欧州や日本の超緩和的金融政策が生み出した大量のマイナス利回り債券によってゆがめられた市場で、投資家は最終的に大惨事に見舞われるだろう」「私が言っているのは、これだけの紙幣を印刷し、バランスシートに何兆ドルもの証券を積み上げていれば、ある時点で何かが壊れるということだ。近い将来にそうなるとは言わないが、そうなった時に債券投資家(メインプレイヤーのひとつは、日本の金融機関である!)が被る損失は壊滅的なものとなるだろう」(JPモルガンAM、ウィリアム・アイゲン)。

 

 さらに、粛々と進行する少子高齢化・人口減少。

 「人口減少に関する日々の変化というのは、極めてわずか。ゆえに人々を無関心にする。だが、それこそがこの問題の真の危機、『静かなる有事』である」。