断章420

 「われわれは、国益のために暴力を使う用意がある隣国がいることを認識する必要がある」(ドイツ・ショルツ首相)

 

 ロシアは北海道の鼻先にいる。

 「ロシア国防省北方領土を含む地域で、機関銃と砲兵部隊の計3千人が訓練を始めたと発表しました。

 ロシア国防省によりますと、対戦車ミサイルシステムなど数百の装備が投入され、戦闘訓練が行われました」(2022/03/25 北海道文化放送)。

 

 「北朝鮮」はミサイル発射実験を重ねている。

 「岸防衛相は25日午前の閣議後の記者会見で、北朝鮮が24日に発射した新型の大陸間弾道ミサイルICBM)について、『これまでの一連の発射とは次元の異なる、わが国や国際社会の平和と安定に対する深刻な脅威だ』と強く非難した。

 今回のミサイルは通常より高角で迎撃が困難な『ロフテッド軌道』で発射された。岸氏は、通常軌道で発射された場合、飛行距離は1万5千キロ・メートル超に及ぶとの見方を示し、『米全土が射程に含まれることになる』と述べた。2月27日と3月5日に発射されたICBM級と同型だったとの分析も明らかにした」(2022/03/25 読売新聞)。

 

 また中国は、開催中の全人代全国人民代表大会)で、「人民解放軍の報道官が台湾問題について『日米が騒げば騒ぐほど我々は強硬になる』と牽制(けんせい)しました。

 全人代に参加する人民解放軍武装警察の代表団の報道官は9日、台湾問題に触れて『アメリカと日本は台湾カードを切り、台湾を利用して中国を抑え込もうとしている』との主張を展開しました。そのうえで、日米に対して『騒げば騒ぐほど我々の主権と領土を守る行動は強硬になる』と牽制した。

 一方、増加が続く国防予算については武器の近代化などが主な使い道だと説明し、『複雑な安全保障上の試練に対応するために必要だ』と強調しました」(2022/03/10 テレ朝NEWS)。

 

 しかも、「米インド太平洋軍のアキリーノ司令官は21日までに中国が周辺国と領有権を争う(引用者注:日本のエネルギー動脈でもある)南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島の3礁を完全に軍事化したと指摘した。AP通信のインタビューに答えた。対艦・対空ミサイルシステムや戦闘機などを配備できるとし『周辺で活動する全ての国や、国際海域・空域を脅かしている』と警戒感を示した。

 3礁はミスチーフ(中国名・美済)、ファイアリクロス(永暑)、スービ(渚碧)で、これまでも軍事拠点化が指摘されていた。APによると、レーザーや電波妨害装置なども備えられるという」(2022/03/22 共同通信)。

 

 そして、コロナ禍による経済停滞のなかで、ウクライナ侵攻への“制裁”の結果、世界的な資源エネルギー価格と食糧価格の上昇が見られる。アメリカには、大々的な武器輸出やエネルギー輸出や食料輸出でうるおう業界がある。一方、日本は、エネルギーや小麦などの輸入価格が上昇して個人の実質所得にマイナスの影響が発生する一方、紛争で日本の製品やサービスに需要が高まる効果はないのである。

 そうしたなかで、「円安が進んでいる。・・・金利の上昇が見込まれるドルが買われ、円が売られた。資源高と輸入物価の上昇につながる円安で、海外との取引状況を示す経常収支の赤字額が膨らんでいる。お金の国外流出は円売りを招きかねない。円安の定着は家計や企業の収益を圧迫する」(2022/03/11 日本経済新聞)。

 景気後退と物価上昇が同時に進むスタグフレーションが起きる懸念がある。

 

 不気味なことに、全国各地で地震が頻発してもいる。

 「3月4日~3月10日、全国で最大震度4を観測した地震が1回、最大震度3を観測した地震が4回発生。3月11日~17日、全国で最大震度6強を観測した地震が1回、最大震度5弱を観測した地震が1回、最大震度4を観測した地震が1回、最大震度3を観測した地震が3回。3月18日~3月24日、最大震度5強を観測した地震が1回、最大震度4を観測した地震が1回、最大震度3を 観測した地震が6回」」(気象庁週間地震データ)。

 全面的な1930年代型複合危機の到来に備えよう!

断章419

 日本を豊かな強い国にするためにではなく、もっぱら日本を貶(おとし)めネガティブな“空気”を助長するために、「~国では」を語る“出羽守”たちがいる。彼らの多くは、“空想的平和主義”者でもある。引き合いに出される国の一つ、ロシアに隣接し旧・ソ連から侵略され領土を奪われた過去をもつフィンランドは今?

 

 3月24日付の日テレNEWSに中継があったのでご参考までに。

 「ウクライナへのロシアの軍事侵攻から1か月をむかえました。そして今、ヨーロッパが直面しているのが、<ロシアの脅威にいかに備えるのか?>です。

 首都ヘルシンキの地下鉄の駅。ロシアとの国境からは160km程度しか離れていないということもあり、ロシアからの攻撃を想定して有事の際にはシェルターとして使われる場所です。天井が銀色の鉄板で衝撃に耐えられるように補強されているほか、化学兵器による攻撃も想定して防護扉も備え付けられています。

 ヘルシンキでは地下鉄の駅のほか、いざという時に地下シェルターとして転用されるこんな施設もあります。スイミングプールは、30年前に地下の固い岩盤を数十メートルもくりぬいてつくられたもので、有事の際はプールの水を抜いてシェルターになります。このほか普段は体育館やカフェなどとして使われながら、いざという時には地下シェルターとして使われる場所もあります。

 フィンランドの人たちはウクライナへの侵攻をどう感じているのでしょうか? フィンランドはこれまでNATOには加盟せず、『中立』の立場を維持してきました。しかし状況は大きく変わりつつあります。ヘルシンキ市民へのインタビュー。『こどもの頃から恐れていたことが現実になりました。明日にでもNATOに加盟するべきです』。別のヘルシンキ市民。『国防の話やNATOに入るべきかを以前よりも議論するようになりました』。

 フィンランドではNATO加盟を支持する割合はこれまで2割程度でしたが、ウクライナへの侵攻後は一気に6割を超えました。

 次は自分たちかもしれないという危機感が高まっているということでしょうか?

 そうです。こうした中、射撃や応急処置などの訓練に参加する一般市民が7倍にも急増したということです。23日、取材した16歳の少年は、『ウクライナを見て自分の国を守らなければという気持ちになった』と語っていました」。

断章418

 目を皿のようにしてロシアによるウクライナ侵攻を見ている国が、間違いなくアジアに3つある。中国と台湾とベトナムである。中国と台湾は当然、ベトナムもまた当事者として。

 なぜなら、ロシア・ウクライナと中国・ベトナムは、地政学的な構造が同じであるから。

 野嶋 剛は、1979年の中越戦争について、こう記している。「わずか1カ月に満たない短い戦争だったが、殺された双方の兵士の数はあわせて数万人を軽く超える凄惨なものだった。かつては兄弟国としてともに社会主義をアジアに広げていく夢を抱いた同士の近親憎悪がその根底にあった。中国側は、兄貴分としてベトナムを『懲罰』するという大義名分を掲げ、ベトナムは『侵略だ』と激しく反発した。南シナ海をめぐる中越の対立の根っこにはこの中越戦争の後遺症による両者の不信と猜疑が横たわっている」。

 では、日本は?

 

 米海軍大将、NATO欧州連合軍の最高司令官を歴任したジェイムズ・スタヴリディス提督が、ウクライナ侵攻で見えてきたロシア軍の3つの問題を指摘し、この先の展開を予測する。

 「<ロシア軍の何が間違っているのか?>という質問をこの頃くりかえし受ける。西側の多くの人は、ロシアの軍事機構を北大西洋条約機構NATO)とほぼ互角と誤解してきた。だから、そんな巨大な軍隊がそれよりはるかに小さく軍備も劣る隣国のウクライナを制圧するのにこれほど難儀していることに驚くのだ。

 私がNATOの軍事司令官を務めていた頃、ロシア軍と当時その参謀総長だったニコライ・マカロフ将軍と面談する機会があった。親しみやすい人柄のマカロフは、ロシアの軍隊を現代化するための努力について私に話してくれた。その手始めは、軍隊を専門化し、残酷な徴兵制をやめるということだった。サイバー攻撃能力や精密誘導の兵器、無人航空機・車両を改良する計画もあった。マカロフはロシア軍が進歩することを確信しているようだったが、ウクライナでの事態を見る限り、そうした長年の努力は報われておらず、徴募兵だらけだ。ハードウェアが改良された証もない。ロシア軍は、洗練された21世紀の軍隊ではなく、むしろ第二次世界大戦風の無骨な軍隊然としている。

 ロシア軍が実動していたものの本格的な常備軍との戦闘がなかったシリアとは違い、今回のウクライナでの戦闘はロシア軍の訓練や装備、組織の仕方にあるいくつもの“裂け目”を示しているのだ。ここで強調すべき重大な問題が3つある。どれも即座には解決しえないものであり、となればロシア軍はウクライナでの軍事作戦をずるずると続けることになろう。

 3つの重大な問題とは?

 第一の問題は明らかで、兵站(へいたん)の失敗だ。素人は戦略を学ぶが、玄人は兵站を学ぶと軍人のあいだではよく言われる。銃弾、燃料、食糧、熱源、電源、通信機器を部隊に送り込むことは極めて大事だ。とくに燃料を前線へ送るのにロシア軍が非常に苦労していることがわかってきたが、これは西側の軍隊にしてみれば兵站の基本だ。キエフ郊外でロシア軍の戦車と輸送トラックが集団で立ち往生して60キロメートル超の列をなしている光景は、無能さの好例だ。現代の西側の軍隊なら、これほどのおびただしい攻撃兵器がおそろしく無防備な地帯に何日も留まることなどないよう詳細な計画を立てるだろう。シリアでの比較的小さい部隊への供給は、20万の兵力を養うことに比べればたやすい話だったのだ。

 第二の問題はそこまで明らかではないが、さらにたちが悪いものだ。ウクライナに侵攻している部隊では、徴募兵か予備兵がかなりの数を占めている。彼らは職業軍人ではないし、職業軍人下士官幹部たちに統率された自発的な軍隊でもないのだ。自分たちの使命の重大さに文字どおり気づいていないロシア兵の事例がいくつも紹介されている。ウクライナ人に捕まって初めて、これはロシアでの軍事演習ではなかったのかと知った者すらいるというのだ。

 第三の問題は、鮮やかなまでに示された統率力の悪さだ。ロシアの計画には、ウクライナを6つの異なるベクトルから攻撃することが含まれていたが、これは軍隊を大いに分割するものだ。軍隊を6軸に広げる戦術にはそもそも欠陥がある。これが間違った想定と諜報のせいであることはほぼ間違いない。ロシアの将軍たちは、ウクライナ人が花とウォッカで自分たちを歓迎してくれると期待していたに違いない。銃弾とモロトフカクテル(火炎瓶)ではなく」(2022/03/16 クーリエ・ジャポン)。

 

 ロシア軍の“ハードウェア”については、以下の“リーク”がある。

「米情報活動に詳しい米当局者3人によると、米政府はロシアのウクライナへの精密誘導ミサイル攻撃について、一部ミサイルの『失敗率』が最大で60%にも上ると分析している。

 ロシア軍よりもウクライナ軍の方がはるかに小規模に見えるのに、ウクライナの空域の無力化(制圧)などができていない理由を説明する一助になる可能性がある。一方で、ロシアの爆弾は住宅地や学校や病院などに着弾し、多数の死者を出している」(2022/03/24 ロイター通信)。

 

 さしあたり、「日本は今回の戦争を教訓として、どのようなUAV(注:人が搭乗しない無人航空機のこと。なお、ドローンは、無人航空機のことを指す用例も多い)の導入を加速すべきでしょうか。

 トルコ製TB2は、対空火器が不十分な相手には高いコストパフォーマンスを発揮しますが、日本にとっての当面の脅威は中国軍です。もしも中国軍と戦闘になる場合、TB2では活躍の場が限られてしまいます。

 現在、日本は『グローバルホーク』など複数のUAVを運用していますが、導入を急ぐべきなのは、Orlan-10のような、軽易でありながら高い性能を持つUAV、そしてトルコ製クズルエルマのような強力なステルスUAVでしょう。

 どちらも、日本が独自に開発することは十分に可能です。Orlan-10はほとんどの部品が市販品であり、同等のものを極めて短期間に開発することができます。

 日本はOrlan-10に性能が近い製品として、米軍が使用する『スキャンイーグル』を既に導入しています。しかし、一式13億円もするため、損失を気にせず運用するには少々高級過ぎます。クズルエルマのようなUAVは、先進技術実証機である『心神』などの技術を活かすことで開発できます。輸出を行うこともできるでしょう」(2022/03/23 JBpress・数多 久遠)。

断章417

 「今回の戦争は多くの戦訓を日本に提供するが、ドローンもまた例外ではない。ドローンがあれば勝利できるわけではないが、もはやドローンなくして勝利はない。ドローンを軽んじ、いまだに武装ドローンも自爆ドローンも保有せず、研究も対策もない自衛隊は新時代の戦闘には耐えられない。このままではドローン大国の中国に必敗するだろう。

 少なくともロシア軍よりもドローン対策が遅れ、ミサイル弾薬も少なく、訓練も研究もなく、はるかに兵站の脆弱な自衛隊が、中国軍のようなドローンを前提とする軍と対峙すれば、生身(なまみ)の自衛官やそれが搭乗する兵器、そして兵站がドローンに一方的に殲滅される悲惨な結果になりかねない。

 認知領域における戦いでも、中国軍は映像メディアとしてのドローンの使い方に秀でており、有事の際には自衛隊を撃破する映像等を投稿して“善戦”と“正当性”を印象付けようとし、それはかなりの効果を発揮してしまうだろう。

 期せずして、今年は国家安全保障戦略と防衛大綱の改定が予定されており、これは自衛隊を脱皮させる最後のチャンスだ。これを逃せば5年後まで本格的なドローンの導入・技術産業戦略・ドクトリンの策定は遅れ、ますます自衛隊は時代遅れの武装集団に堕していく。

 もう残された時間はない」(2022/03/23 文春オンライン:安全保障アナリスト・部谷 直亮)。

 

 あなたは覚えているだろうか? 

 日本で武装ドローンや自律型戦闘ロボット開発の必要性が論じられたとき、「左翼」インテリがこぞって“絶対反対”の金切り声をあげたことを。

 

 「左翼」インテリとは、経済好況期にはもっぱら“人間疎外”を、経済停滞期にはもっぱら“格差拡大”をキャンペーンして、社会に暗いムードをかもし出し、そうすることで「左翼」政党の伸長と自著の拡販をもくろんできた輩(やから)たちである。

 “昭和元禄”や“平成宝永”(なお宝永4年には、巨大な宝永地震があった)と呼べる時代には、彼らは放置された。

 というのは、韓国・台湾・中国からの急速な経済的追い上げはあったが、戦後の順調な経済成長でそれなりに豊かになった日本国民は、それほどモノを欲しいとは思わなくなるし、それほど激しく働かなくなるし、企業はリスクを覚悟で冒険しようとはしなくなり、日本政府も民間もまるっと“幻想の平和”にまどろんでいたからである。

 

 しかし、「アジアが奇跡的な経済発展をとげられたのは、軍事的な圧力にさらされていなかったからだ。そしてそれは、軍事覇権国アメリカによって平和が保障されていたからにほかならない」。けれども、「アジアの経済力の高まりは、軍事力の高まり」、すなわち、軍拡をもたらした。「ユーラシアの沿岸地帯が、アメリカだけでなく、野心を果たそうとする中国やインドなどの艦艇でますます混み合い、また北極海航路の利用可能性がかつてないほど拡大して、ユーラシアと北米の距離が縮小しているなか、世界規模の覇権争いは速度と激しさを増すばかりである」(以上、『地政学の逆襲』ロバート・D・カプラン)。

 そして、ロシアのウクライナ侵攻は、あらためて、「国際社会は、・・・法と秩序を守る中央権力のない社会」(ニコラス・ J ・スパイクマン)、「いいかえれば、世界は無法状態にあるということ」(『地政学の逆襲』)を明らかにした。

 ということは、「左翼」インテリが、武装ドローン・自爆ドローン・自律型戦闘ロボットなどの研究に反対して妨害することは、彼らの“主観的意図”がどうであれ、客観的には自衛官だけでなく日本国民全体の生命と財産を危険にさらしていることになるのである。

 「左翼」インテリたちの「反日プロパガンダとの戦いもまた、急務である。残された時間は少ない。

断章416

 哲学者を名乗る内田 樹が、AERA朝日新聞出版が毎週発行する週刊誌)3月28日号に書いた記事がAERAdotにあった。

 「ウクライナ侵攻が始まって3週間余りが経過した。侵略3日後に私はSNSにこう書いた。『プーチンのシナリオは(1)電撃的にウクライナ軍を撃破(2)キエフ占領(3)大統領逮捕(4)傀儡(かいらい)政権樹立(5)傀儡政権によるロシアとの平和条約締結と東部独立承認(6)反ロシア派市民の大量国外脱出、というものだったと思う。それを48時間以内くらいで仕上げるつもりだった。ふつう戦時大統領に対しては熱狂的に支持率が高まるが、ロシア国内世論はそうなっていない。プーチンが一番恐れているのは国内で<この戦争には大義がない>という世論が広まることだろう』。

 プーチンのこのシナリオは破綻(はたん)した。親露派による傀儡政権を立てて、ウクライナ属国化の既成事実を作ってしまえば、欧米は足並みが乱れて効果的な制裁に踏み切れない。プーチンはそう予測してことを始めたのだと思う。私のような門外漢でも公開情報からそれくらいのことは推測できる。

 問題なのは私のような素人でも推理できる程度の『プランA』だけしか持たずにプーチンが戦争を始めたらしいということである。短期間に首都を制圧できなければ当然泥沼の持久戦になる。ウクライナ市民の抵抗の意思は強く、士気は高い。一方、ロシアの側には国内外から熱烈な支援を集められるほどの大義がない。『ウクライナ政府はネオナチに支配されている』というプロパガンダを信じるのは情報統制下にあるロシア国民だけだろう。この国際的孤立の中でどうやってロシアは退勢を挽回(ばんかい)する気なのか。

 プーチンは早々と『核攻撃』というカードを切ってきた。これは第3次世界大戦を始めてもいいのだという意味である。自分が退場する時には人類を道連れにしてもいいという意思表示である。『プランA』がダメならBもCもなく、いきなり『プランZ』というのは要するに『プランがなかった』ということである。これは大国の指導者としてはあり得ない失策である。失敗の可能性をゼロ査定して戦争を始めた時点でプーチンはすでに負けていた。彼が何億人かを道連れにできたとしても『負けた』という歴史的事実は変わらない」。

 

 まるで床屋政談あるいはアマチュア軍学者のような筆致だから、わたしも内田の論説に同様な突っ込みを入れてみよう。

 第一に、侵略3日後に内田がSNSに書いたという「プーチンの6段階のシナリオ」なるものは、わりと早くからイギリス国防省筋なるものが流していた「シナリオ」で、独自の目新しい分析ではない。

 第二に、「問題なのは私のような素人でも推理できる程度の『プランA』だけしか持たずにプーチンが戦争を始めたらしいということである」というが、どうしてそんなことが今の段階でいえるのか? B、C、Dとあって、考究の結果、プランAを採用したが、まもなくプランBに切り替えるかもしれない。なにしろ、ロシアの戦争目的が、ウクライナの併合なのか、“ベラルーシ化”なのか、“フィンランド化”なのか、東部2州の併合なのか、まだ全貌が見えないのだ。だから、作戦もキエフ占領からウクライナ焦土化”に変えるかもしれない。ロシアには自国の首都の“焦土化”さえやってのける“戦争文化”がある。

 歴史家のニーアル・ファーガソンは、「プーチンの狙いが何なのかもわかっていませんし、私たちがロシアの力を侮っていたのは事実です。たしかにロシアの戦車は破壊されていますが、ロシアには戦車が無数にあるのです。1939年のソ連フィンランド侵攻を忘れてはなりません。あのときもソ連軍は出だしでつまずきましたが、最終的には求めていたものをすべて手に入れています」とクーリエ・ジャポンで警告している。

 第三に、「短期間に首都を制圧できなければ当然泥沼の持久戦になる」と、内田は言う。だが、たとえ首都を制圧されても、抗戦意志が強ければ、持久戦をすることは多い。

 第四に、「『ウクライナ政府はネオナチに支配されている』というプロパガンダを信じるのは情報統制下にあるロシア国民だけだろう」と、内田はいう。しかし、ウクライナ政府はネオナチに支配されていると思う人は、中国やセルビア(さらにはアメリカ人の一部)を合わせると十数億人だ、と中国ネット民は呼号している。

 また、ロシア国民はプロパガンダにだまされているのだという単純な決めつけも安易である。プーチンが、ポルタヴァの戦いに臨んでのピョートル大帝の演説の精神 ―― 「ロシア軍よ、ときは訪れた。いま祖国の全運命が汝たちの手中にある。ロシアが負けるのか、それとも新たに生まれ変わり、興隆していくのか。それが決まろうとしている。汝たちはこのピョートルのために闘うため、武装して集められたのではない。汝たちはピョートルに委ねられた国家のため、汝たちの親族、全ロシアの民のために闘うのだ。知っておけ。このピョートルはロシアの信仰心と栄光と繁栄のためなら自分の命を惜しまぬつもりである」(上記、記事から) ―― で国民と一体化していることもありそうなことである。

 第五に、「この国際的孤立の中でどうやってロシアは退勢を挽回(ばんかい)する気なのか」と、内田はいう。内田は、北京オリンピック開催時のプーチン習近平会談(共同宣言)を軽視している。中国は、そこでロシアを支えると約束した(ロシアにもウクライナにも恩を売るつもりだから、プーチンの機嫌を損ねない範囲でウクライナ援助もするが)。

 第六に、「プーチンは早々と『核攻撃』というカードを切ってきた。これは第3次世界大戦を始めてもいいのだという意味である。・・・失敗の可能性をゼロ査定して戦争を始めた時点でプーチンはすでに負けていた。彼が何億人かを道連れにできたとしても『負けた』という歴史的事実は変わらない」と、わけしり顔で無意味な結論を内田は述べる。

 内田よ。ロシアのウクライナ侵攻から学ぶべき教訓なり、今後の日本の進路についてのアドバイスは無いのか?

 「中国側から見るならば、習 近平はプーチンウクライナを軽視して侵攻に失敗したと考えているのではないでしょうか。それと同時に、台湾侵攻のリスクもあまり大きなものではないと確認したはずです。米国は軍事介入しませんし、経済制裁は中国には通用しません。習 近平にとって台湾は究極の目標なので、彼が台湾を諦めることはありません。任期を伸ばしたのも台湾のためだったといって過言ではないのです。ロシアのウクライナ侵攻に対する米国の対応を見てしまった以上、私は近いうちに台湾危機が勃発する確率が高いのではないかと考えています」(ニーアル・ファーガソン)。

 

【参考】

 2月27日、ドイツ連邦議会でショルツ首相は、「安全保障により多くの資金を投じなければならない」と演説した。

 そこでは、「F-35戦闘機を導入し、トルネード戦闘機を置き換えることを検討。これは、核シェアリングの担保となる。武装ドローンなどの実戦兵器を購入する」ことも述べている。

断章415

 「平和と民主主義」を守るためには、国防力を強化しなければならない。

 ドイツ首相の発言を心に刻むべきである。

 

 「ドイツが冷戦後の外交・安全保障政策の大胆な転換に動いている。第2次大戦の反省もあり、ロシアとは対立よりも協力を優先してきたが、ロシアのウクライナ侵攻で警戒が急速に高まった。これまで米国に促されても拒んできた国防費の大幅な増額を決め、エネルギー調達でもロシア依存からの脱却を急ぐ。

 『我々は今日、重要な一歩を踏み出した』。ランブレヒト独国防相は14日、最新鋭ステルス戦闘機F35を35機購入する計画を明らかにした。F35は米国との『核共有』の枠組みの中で、核爆弾を搭載する役割も担う。これまで軍備増強に消極的だったドイツが、ロシアへの対抗を明確にした。(中略)

 ドイツは連邦軍を増強するために1000億ユーロ(約13兆円)を用意し、国防費を国内総生産GDP)比で2%以上に増やす。装備の老朽化が懸念されてきたが、『平和と民主主義を守るため』(ショルツ氏)に大胆な投資に動く」(2022/03/19 日本経済新聞・石川 潤)。

 

 とはいえ、日本の国防力を強化することは、容易ではない。というのは、国防に関することには“なんでも反対”“絶対反対”の政党が存在するし、賛成派においても“総論賛成・各論反対”ですんなり決まらないことが多いからである。なにより、白髪老人化と公共事業散財のために財政がキツキツで、金がない。「軍がなければ主権は無い」というが、「財がなければ軍は無い」のである。

 

 なので、わたしは提案したい。宗教法人に、国防のための税負担をお願いしよう。

 平和であり、主権があってこその、自由な布教であり、宗教法人である。

 「権威主義体制に支配されても、全体主義体制に支配されても、宗教は心の問題なのだから、変わりなくやってゆける」などと考えてはならない。権威主義体制や全体主義体制の下では、“邪教”として弾圧されたくなければ、権力者の靴をなめなければならないのである。

 日本人は、マイルドだったアメリカ軍の占領 ―― それでも禁書やプロパガンダや謀略はあった ―― のせいで、他国・他民族による苛酷な支配への理解不足がある。だから、安易に、「ウクライナは早く降伏した方がいい」という愚か者がいる。満州樺太での赤軍(ロシア軍)の所業を、旧・ソ連(現・ロシア)による旧・共産圏支配の実態を知るべきである。

 軍がなければ主権は無く、財がなければ軍は無い。国防のための税負担を、宗教法人にお願いしたい。

 

【参考】

 「京都市の財政難が深刻化する中、寺や神社に税負担を求める市民の声が目立ちつつある。市民の負担増が避けられない一方、固定資産税などを免除されている寺社が不公平感を抱かれているようだ。ただ宗教界も新型コロナの打撃を受けて台所事情は厳しく、寺社関係者には困惑が広がっている。(中略)

 多数の末寺を束ねる宗派の関係者も『文化財の建物は、国の補助を得ても修復に数十億円単位の持ち出しがある。思われるほど余裕はない』と主張。『固定資産税が課されれば、境内の一部をつぶしてマンションや駐車場に変える寺社も増えるのではないか』と懸念する神職もいる。(中略)

 ただ、観光客が多い寺の中には『(税金で維持される)道路やバスがあってこそ参拝してもらえる。寺側もできる負担はするのが筋ではないか』との声も。京都で財政難が続く限り、寺社からの財源確保を巡る議論が途絶えることはなさそうだ」(2022/03/19 京都新聞)。

断章414

 ロシアのウクライナ侵攻があばき出したことの一つは、日本の危機である。各国が自国の“国益”をあからさまに追求する弱肉強食の世界で日本は、中華「帝国」的紅色全体主義体制の中国、儒教的赤色全体主義体制の「北朝鮮」、大ロシア民族主義権威主義体制のロシアと直面している。地政学的には、ウクライナ以上に危ういのである。

 さらに、日本では「左翼」インテリ(ひと昔前の“進歩的知識人”)が、はびこっている ―― かつてはコミュニズムマルクス主義)を賛美していたが、今は中国や韓国の尻馬に乗って日本を貶(おとし)め日本国民の意気喪失に精を出している。

 

 マルクスエンゲルスから学ぶことはたくさんあるし、彼らの理論は、現在においても色あせてはいない。しかし、それを認めることと、土下座して彼らの尻を仰ぎ見ることとの間には、千里の径庭(天地雲泥の差)がある。

 しかも、マルクスの理論に潜在する“ユートピア主義”とレーニンの“前衛党”(それは全知全能であり、革命家は、そこに生き、そこで死すべきとされた)が結合したとき、「全体主義」の理論体系と実践主体が生成するということが、20世紀の教訓である。

 しかし、脳ミソが化石化した日本の「左翼」インテリは、今もなお、この痛苦な20世紀の教訓から目をそむけ、コミュニズムマルクス主義)に迎合し、主観的にはどうであれ客観的には、共産党への同伴を続けているのである。

 

 コミンテルン共産主義インターナショナル)が産んだ中国共産党などの各国共産党は、巧みなプロパガンダと抱き込み作戦によって勢力を拡大し、権力を掌握するや、粛清によって反対派を抹殺し、イデオロギー教育を徹底し密告を奨励した。しかも、官僚的統制経済は、「袖の下」「闇経済」抜きでは円滑に作動しない。そのために、民衆相互の疑心暗鬼、相互不信のはなはだしい社会、秘かに個人的利益のみを追求する社会になった。

 それが、ロシア、中国、朝鮮、東ヨーロッパなど旧共産圏に分布する「外婚制共同体家族」(E・トッド)の伝統とあいまって、規律と秩序と自信を与えてくれる偉大な父のような強いリーダーを求めさせるメンタリティを旧共産圏に育んだ。

 ウラジーミル・ウラジーミロヴィチ・プーチン、習 近平、アレクサンドル・グリゴリエヴィッチ・ルカシェンコ、金 正恩たちは、そんな土壌に根ざしている。

 

 ロバート・D・カプランが言ったように、リベラルたちの「ドイツを分断していたベルリンの壁が崩壊して人為的国境が取り払われたことで、人間を分断しているすべてのものを乗り越えられるという思い込み、民主主義が東ヨーロッパを支配したのと同じ位簡単にアフリカと中東も民主主義に接近するという思い込み、そして単なる経済的・文化的な発達段階でしかない『グローバリゼーション』が『世界平和』と『世界市民』をもたらすという思い込み」が許される時代は、終わった。