断章19

 四面楚歌であるだけではない。

 

 すでに雲は低く垂れ込めはじめており、ブラックスワンのはばたく音が聞こえるのである。

 「世界の中央銀行が総ハト派化し、どこを見回しても金融緩和の中毒状態となっている。行くところまで行くしか残された道はなく、二度と戻ることができないだろう。まさに金融政策のホテルカリフォルニア状態である。さらには、緩和を恒久化すればいいという理論(MMT)まで飛び出してきた。通常、伝統的な経済理論を超えると、そろそろ相場の終わりが近い。『困った時には中央銀行がなんとかしてくれる。もうリスクは無くなったのだ』と、市場は浮かれているが、リスクが死ぬなんてことはあり得ない。リスクは総楽観で暴発するものである」(石原 順)。

 ブラックスワンがまた地上に降り立つとき、どれほど悲惨な世界が姿をみせるだろうか。

 

 日本が拠って立つ土台もグラグラである。

 第一に、政府の地震調査研究推進本部地震本部)によると、今後30年以内にマグニチュード(M)8~9クラスの巨大地震が起こる確率は、静岡県から九州沖合にかけての南海トラフ沿いが70~80%と予測されている。さらに、北海道東部の千島海溝沿いを震源とする巨大地震も警戒されている。他の自然災害も増えている。

 第二に、既述したように、同盟国としてのアメリカの信頼性への疑問が生じている。安倍政権は、アメリカの歓心を得るために次々と贈り物(新法)をしたが、アメリカがそれで納得するかどうかは誰も知らないのである。

 第三に、「日本の名目国内総生産は2012年の494兆円から2017年までの5年間で過去最大となる549兆円に増加したこと、5年間に就業者数は270万人増加と失業者の110万人減少、2017年時点で失業率は2.8%で最も低い水準になったこと、景気拡張傾向が61カ月連続で続き過去2番目の長期好況になり」、安倍政権への若年層の支持につながったアベノミクスが、限界寸前なのである。

 第四に、これも既述したように、国内の所得格差の拡大による分断が進みつつある。全分野においてIT化、自動化が進展して中間層の没落・空洞化と外国人労働者との競合による下層民の苦境増大が見られる一方で、富裕層の子供は高学歴によりエリートを保証されるという現実がある。

 アメリカ国内の分断の現実について、ジェフリー・ガントラックは、「世の中がますます分断されている。2016年(アメリカ大統領選挙)の結果は民衆にとってショックであったが2020年はもっとあり得ないことが起きるかもしれない。上院と下院で大統領候補が割れるかもしれない。そして2020年の選挙キャンペーンでは暴力沙汰を見るかもしれないし、暴動も起きるかもしれない」と語っている。すでに日本でも、「上級国民は、云々」という怨嗟の声が聞こえるのである。

 第五に、老人が氾濫することである。

 逆走し暴走するジジイが増えているだけではない。2018年、70代の金融資産(2人以上世帯)は平均で1780万円らしいが、実は3世帯に1世帯は金融資産がゼロといわれている。

 生活苦から、「金なし、先なし、怖いモノ無し!」と自暴自棄になって人混みで暴発するジジイが増えるだろう。

 

 頭上、足元、四面楚歌。日本は、誠に危ういのである。