断章108

 日本人、とりわけ官僚たちは、想定内のことには上手く対処するが、想定外のことにぶつかると全くダメだ、と塩野 七生は言う。

 利害関係者や評論家たちが、木の枝葉を見て、かまびすしく議論している。ところが誰も森を見ていないので、森ごと地滑りに巻き込まれると呆然自失、虚脱状態になる。リスクはしのげるが、ブラックスワンには完全にお手上げなのだ。

 

 ところが現実社会は、不確実性が増し、変化の速度があがり、「Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったVUCA(ブーカ)という言葉も、・・・定着しつつある」(『身銭を切れ』)様相である。

 

 例えば、「北朝鮮」をめぐっては、「日本の排他的経済水域EEZ)にある好漁場『大和堆(やまとたい)』周辺での北朝鮮漁船による違法操業問題で、海上保安庁は8日、スルメイカの漁期にあたる昨年5~12月の取り締まり結果を公表した。EEZに侵入するなどした漁船への退去警告は1300件超に上り、海保の巡視船への投石が10件発生。平成30年の漁期に続き大和堆入域を阻止したとしているが、北朝鮮側の威嚇や抵抗は止まず、警戒を強めている」(2020/01/08 産経新聞)のだが、「北朝鮮」は甚だ機嫌が悪い。

 「北朝鮮」にとっては漁業も“戦闘”なのである。今は、投石ですんでいるが、2001年に東シナ海であった「北朝鮮工作船からの小銃やRPGによる攻撃と同様のことが大和堆(やまとたい)で起きても不思議ではない。この時の銃撃戦では、日本側は海上保安官3名の軽傷ですんだが、次はどうなるかわからない(韓国軍・天安艦爆沈のようなことがあるかもしれない)。

 

 「そんなことが起こるはずがない」と、自称「知識人」リベラルは言うだろう。かつて、横田めぐみさん拉致事件などでも、「明確な証拠がない」と言って、いつまでも「北朝鮮」をかばい続けたことに口を閉ざして。

 

 「現実的な考え方をする人がまちがうのは、相手も現実的に考えるだろうからバカなまねはしないにちがいない、と思ったときである」(マキャベリ

 

【補】

 「外国人と比べると、日本人には決定的とも言えるような大きな欠点があります。・・・あなた方はそうならないで欲しいと願っていますけれど、これは日本の為政者にはよく見られる欠点です。

 つまり、どうも私には、日本人は選択肢をひとつしかもたないというところが目について仕方がないんです。

 たとえば、ペルーの日本大使館で起きた人質事件です。あの時、日本側は平和的解決という選択肢ひとつだけで突っ走ったわけです。と言っても、私は平和的解決を望むのがいけないというのではなく、そのことしか選択しなかったことがいけないと思うんです。ものごとを決断するには、どんな場合でも、いくつかの選択肢があるはずです。それらの中からひとつの方向を決めるには、情報というものが非常に重要になってきます。(中略)

 そういういろいろな情報は、何かひとつだけのことしか頭にない人には通りすぎてしまいます。それを通り過ぎさせないようにする。多くの情報をただ単に集めるのではなくて、項目別に整理するというか、固めておくわけです。こうしてはじめて、選択肢がいくつかもてるようになるのです」。

 「今、日本の中高年は、大胆になれと言われているのに一向になれなくて、あたふたしています。これは若い時から訓練を積んでいないからなんです。そういう人たちが、そのまま何ごともなく戦後50年をやってきて、それが今、突然、自分たちで決めなくてはいけないという事態にぶつかったんです。しかし、情報の集め方も知らなければ、選択肢はひとつに絞ることの他はまったくできない。これまでとはまったく違う事態に直面させられて、どうすればいいのか、決定することができない。

 これから生きていこうとしているあなた方には、やはり、開放的で大胆であることを身につけていただいて、今の大人たちとは違った臨機応変なフットワークを身につけて欲しいと思います」(『生き方の演習 若者たちへ』塩野 七生・朝日出版社)。