断章126

 新型コロナウイルスパンデミックに直撃され、ニューヨーク株式相場の直近高値からの下落率は13%に達した。先週の株式相場は2008年のリーマンショック金融危機)以来、最悪の1週間だった(高値から10%の下落は、一般的には、上昇相場から下降相場への転換とみなされる)。

 これから何が起きるのか? 「そして、あなたはどう生きるか?」

 

 新型コロナは、中国経済を直撃中である。中国経済は、2008年リーマンショック時は元気一杯だった。しかし、中国には少子高齢化の影が忍び寄っていた。

 「内需不振で『14億人の巨大市場』に元気がない理由は、携帯電話の販売動向から浮かぶ。中国情報通信研究院によると19年の出荷台数は3億8900万台と3年連続で前年割れし、16年からの減少幅は1億7千万台に及ぶ。

 実はこのわずか3年間で18~30歳の若者は3千万人も減った。90年代に『一人っ子政策』が浸透し、99年生まれは1400万人と90年生まれ(2800万人)の半分しかいない。スマホや自動車、衣服が売れないのは消費意欲が旺盛な若者の減少も大きな要因だ。

 1月17日に発表した19年の出生数は前年比58万人減の1465万人と3年連続で減った。1人の女性が生涯に生む子どもの数を示す『合計特殊出生率』は12~16年平均で1.2程度。出産適齢期の女性も25年までの10年間に約4割減り、出生数の減少は今後も続く。

 高速成長を支えた『農民工』らも頭打ちだ。農村部からの人口流入は都市部でマンションの爆発的な需要を生んだ。だが戸籍のある場所を離れて暮らす『流動人口』は19年末に2億3600万人と5年連続で減った。高齢化した農民工が故郷に帰っているからだ。

 医療や年金など社会保障への財政支出も17年の1.2兆元(約20兆円)から急拡大する。19年には中国社会科学院が『公的年金の積立金が35年に底をつく』との試算を公表した。軍事や治安などの支出も圧迫しそうで、習指導部が掲げる『中華民族の偉大な復興』にも影を投げかける。これまで中国は『人口ボーナス』のメリットを最大限に享受してきたが、逆回転が始まった」のである(2020/1/17  日本経済新聞記事を再構成)。

 

 武者 陵司は、3月3日付けレポートで言う。

 「一人当たりGDPほぼ1万ドルと中進国上位に躍進した人口14億人の中国が、6%という高成長を維持することには無理がある。過剰債務の積み上げ、政府の補助金知的所有権の盗用など、中国経済の発展モデルそのもののサステイナビリティ(持続性)に対して疑義が強かったが、今回のコロナウイルス問題がダメ押しになる可能性が大きい。

 中国はセメント6割 、鉄鋼5割に始まり、家電、スマホなど多くの分野で過半の世界シェアを築き上げ世界の工場になっているが、過度の中国依存のリスクは大きい。まして米国が中国依存の引き下げに躍起になっている米中貿易戦争のさなかである。ロス米商務長官は新型コロナウイルス蔓延に際して、『企業が同国の生産拠点を米国内に回帰させる可能性がある』との無神経な発言をして非難を浴びたが、それがなくても各国企業は中国に大きく依存しているサプライチェーンの抜本的見直しを余儀なくされるだろう。

 すでにアジア新興国の中で中国の人件費は最も高く、労働集約産業は中国から脱出しつつあった。米中貿易戦争でハイテクも脱中国を迫られつつある。新型コロナウイルスの発生は中国のグローバルサプライチェーンにおける地位を引き下げる分水嶺になるだろう。中国の競争相手として台湾、ASEAN(東南アジア諸国連合)などが浮上し、両者間で価格競争が強まるだろう。中国の貿易、経常収支は悪化し、外貨市場ではドルの調達難が一段と進行するだろう。それは国内の金融緊張を高め、バブル崩壊の土台を作る。また、度重なる財政出動と公的部門による民間投融資(例えば体質が悪化したHNAグループ、海航集団は海南省によって公的管理下に置かれた)は財政バランスを急速に悪化させていくだろう」。そして、「経済不況→金融危機→社会不安→レジームチェンジ(体制破綻と再生)という長い落日と再生への行程が始まったといえるかもしれない」と。

 

 この中国の危機は、まるでモスラのような巨大な黒い羽根を広げたブラックスワンの飛来として、わが国に連鎖的金融危機をもたらす可能性がある。

 厄介なことに、日本が直面しているものは、新型コロナのパンデミックとスパイラル的な経済危機だけではない。

 まるでゴジラの襲来のような巨大地震(大津波)である。2011年3月11日には、東北地方を中心に未曾有の被害を引き起こした東日本大震災があった。死者は12都道県で1万5899人、行方不明者は6県で2529人だった。首都直下、また南海トラフなどの発生確率は極めて高い。

 

 ところが、現在日本が持ち合わせている(残っている)、危機に対処するための財政政策的金融政策的なリソースは、お寒い限りである。すでに日本の政策金利は、-0.10%である。さらに、「国債発行残高は、年々積み上がり、2019年度末で897兆円となる見通し。この額は一般会計税収の約15年分に相当し、国民1人当たりに換算すると713万円の借金を負っていることになる。超低金利政策によって金利は低く抑えられているが、金利が上昇すれば、利払い費が重くのしかかる」(nippon.com)のである。

 

 株式市場の下落を受けて、FRB米連邦準備制度理事会)は3日に0.5%の緊急利下げを行った。日銀は過去最大級のETF買い入れ=PKO(株価維持操作)をおこなった。

 しかし、「金利を下げたところでウイルスの感染拡大が止まるわけでも、目詰まりを起こしているサプライチェーンが復活するわけでもない。リーマンショックの時と違って、疫病と関連する景気後退を金融市場は消化できないだろう。ここからの焦点は、米国での感染拡大と中国が封鎖解除できるかという2点となる。

 今後、新型コロナウイルスの拡大が続き、実体経済の悪化から企業倒産が増えてくると、リーマンショック級の金融システム崩壊に見舞われる可能性も否定できないだろう。疫病という問題は、非常にやっかいだ。

 グローバリゼーションは発展途上国からの安価な製品輸出によって、グローバル規模の低インフレやデフレをもたらしたが、貿易戦争や新型コロナウイルスパンデミックリスクは、その巻き戻しである物価上昇というコストプッシュインフレを促す可能性は否定できない。

 トランプ米大統領の登場(アメリカファースト=自国問題最優先主義)で、グローバリゼーションは終わった。今回のパンデミック騒ぎによる隔離政策はこれをより強固なものにするだろう。長期金利が1%割れの現在では、想像のらち外にあるが、いずれはグローバルサプライチェーン(多国間にまたがる生産・流通のネットワーク形成)の分断による供給側のリスクから、インフレやスタグフレーション(不景気の物価高)の問題が浮上してくるだろう。中央銀行バブルの終わりはインフレ(金利上昇)である。その時が本当の危機だ」(2020/03/05 石原 順)。

 なぜなら、インフレになれば、あの最終兵器、最後の禁じ手も役に立ちそうにないからである。むしろ、あの最終兵器、最後の禁じ手が、ハイパーインフレの呼び水になりかねないからなのである。