断章152

 5月22日、「開幕した中国の全国人民代表大会で王晨副委員長は、抗議活動が続く香港について、『外国勢力が香港に干渉して、国家の安全に危害を与えている』などとアメリカを非難したうえで、香港の治安維持のための法律を中国政府主導で制定するとともに、中国の関係機関による香港での取締りを認める方針を打ち出しました。

 この方針は、来週28日の全人代の最終日に採決される見通しです。(中略)

 今回の全人代で、香港の治安維持のための法律を制定する方針が打ち出されたことについて、中国の現代政治が専門の東京大学公共政策大学院の高原明生教授は、『中国政府としては、香港で新型コロナウイルスの感染が収まりつつある中で、去年のような大規模なデモが再び起きないよう、何らかの措置を取る必要に駆られているのではないか。今回も習近平政権による強権発動で、上から抑え込むような形を取ろうとしている』と分析しています」(2020/05/23 NHK NEWS WEB)。

 

 この全人代では、「あまり目を引かないがチェックしておくべきテーマがある。経済改革への取り組みだ。

 政府活動報告は8つのパートに分けられたが、その4つめが『改革によって市場主体の活力を引き出し、発展の新たなエネルギーを増強する』というものだった。

 李首相は、その説明のなかで『生産要素の市場化配置改革を推進する』『省レベルの政府に建設用地についてもっと大きな自主権を与える。人材の流動を促進し、技術とデータの市場を育成し、各種の生産要素の潜在エネルギーを活性化させる』とコメントした。これは、7年ぶりに動き出した大改革の予兆かもしれない。

 前触れはあった。4月9日、中国共産党中央・国務院(内閣)は①土地、②労働力、③資本、④技術、⑤データの5分野について、これらの配分にさらに市場原理を導入する方針を発表した。

 習近平政権は発足間もない2013年に『資源配分には、市場に決定的な役割を果たさせる』という方針を打ち出していたが、ほどなくして国有企業を重視して政府主導で産業を育成する路線に転換した。そうした経緯があるだけに、コロナ禍という『非常時』に乗じる形で市場原理重視派の主導で抜本改革を進める機運が高まっているのかもしれない。

 政治面で統制を強化しつつ、経済面で市場原理による改革を志向することが現実に可能なのか。5月28日まで続く全人代での議論に目を凝らす必要がある」(2020/05/23 東洋経済・西村豪太の記事を抜粋・再構成)。

 

 およそ40年前に、「資本主義は、国家による総需要の拡大を受け入れなければならない。共産主義は、中央集権的計画経済の放棄と価格と賃金の“自由化”を受け入れなければならない」と、E・トッドは言った。そうなった。その結果、中国、アメリカ、ロシア、もちろん日本も、お互いに似てきたのである。

 

 これは、《弁証法》でいう「対立物の相互浸透」なのだろうか。

 対立物の相互浸透とは、「弁証法の法則の中でも、社会や市場における『競争』の未来を予見するとき役に立つ法則です。

 では、これは、いかなる法則か。端的に述べるならば、『戦いあい、競いあっているもの同士は、互いに似てくる』という法則です。そして、この法則で、世の中を見渡すと、企業と企業、政党と政党、国家と国家、制度と制度など、あらゆる物事に『相互浸透』が起きていることが分かります」(板倉 聖宣)。

 

【補】

 「5月28日に香港での取り締まりを強化する国家安全法制の導入を採択した中国ですが、29日は台湾の独立問題で武力行使を排除しないという発言が相次いでいます。中国政府は台湾の独立阻止を目的とした『反国家分裂法』の制定15周年の会議を開催しました。習近平国家主席李克強首相に続く共産党序列3位の栗戦書全人代常務委員長は『台湾の独立分子が突き進むなら非平和的な手段を含むすべての必要な措置を講ずる』と述べました。また、人民解放軍統合参謀部の李作成参謀長も『台湾海峡の安定のために必要なあらゆる選択肢を持っている』として武力行使も辞さない構えを見せました」(2020/5/30 ANN NEWS)。