断章225

 「新国立劇場・2019/2020演劇シーズン、シリーズ『ことぜん』の第一弾は、ロシアの作家ゴーリキーの『どん底』を上演します。この作品は我が国の演劇界において、1910年(明治43年)に『夜の宿』と題して初演されて以来、百年を経た現在でもたびたび上演され、数々の名舞台を産み出してきた名作です。母国ロシアでの初演が1902年だったことを鑑みると、そのわずか八年後の日本初演も画期的であれば、その後上演され続けてきたことも驚異的で、我が国で最も愛された海外戯曲のひとつと位置付けることも可能です」(新国立劇場HPから)。

 

 血を吐いて長期療養する生存の「どん底」。爪に火を点すような経済的「どん底」。山谷・釜ヶ崎といった「ドヤ」暮らしと大差はなかったのである。そして、日ごとにおのれの思いと隔絶していく組織(集団)との関係の「どん底」。わたしの「どん底」は、三重苦だった。

 

 現代日本の医療・福祉のおかげで生存の「どん底」を抜けた。その後に心がけていたことは、完全食品の「納豆」を食べることだった。

 その効能については、コロナ禍中にも、以下のような記事があった。

 「新型コロナは感染後、基礎疾患や高齢により悪化しやすいが、普段の栄養状態も関係すると言われている。欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)は早くから、新型コロナ患者のための栄養ガイドラインを提示していた。

 なかでも注目されているのは、動脈や骨の健康に欠かせないと言われるビタミンKだ。昨年くらいから健康に敏感な人たちのあいだで密かなブームとなっていたようだが、さらにこの度、オランダの医師たちがビタミンKと新型コロナ症状緩和に関連性を見出したことから、にわかに注目が集まっている。K1とK2があるが、体内吸収率のより高いK2が非常に多く含まれる納豆が特に注目されている。(中略)

 ビタミンKには血液を凝固させる作用や、骨中のカルシウムを内外に移動できる特殊なタンパク質を活性化する働きがある。(中略)ビタミンKにはK1とK2があり、K1はほうれん草や小松菜などの緑黄色野菜に多い。体内吸収率のより高いK2はチーズなどに多く含まれるが、なかでも注目されているのが納豆だ。納豆には1パック(40g)あたり約240μgものビタミンK2が含まれる。ちなみに、ドイツ栄養学会(DGE)の推奨する1日の摂取量が51歳以上の女性で約65μg、男性で80μgであることからも、その豊富さがわかるだろう。

 オランダの研究者たちは現在、臨床試験補助金の申請をしているようだが、プロジェクトを率いるロブ・ヤンセン博士はガーディアンに『私はロンドンで日本人科学者と一緒に働いたことがあるが、彼女は日本で納豆をたくさん食べる地方ではCovid-19による死者が1人も出ていないと言っていた。だから、試してみる価値はある』と述べている。

 この発言を受け、ヨーロッパでは納豆を紹介するサイトなどが増え始めている。納豆は免疫力を高めることでも知られているので、一石二鳥だ」(2020/06/23 ニューズウィーク日本語版・モーゲンスタン陽子)。

 

 爪に火を点すような経済的「どん底」は、現場仕事からセールスマンに転じて抜け出した。商売人としてのセンスが無かったので、結局、大儲けできなかった。なので、暮らしは、いまだに下級国民である。

 

 日ごとにおのれの思いと隔絶していく組織(集団)との関係の「どん底」は、抜け出すことができないだろう。

 というのは、わたしは、低学歴で(つまり高等教育での論文指導をされたりしたことがない)、読書量が少なく教養がなく、したがって視野が狭く理論的に極めて貧困である。そうした場合、わたしが属する国、あるいは政党、あるいは集団が、おのれの思うところと隔絶(あるいは乖離)していくことに対して、思想的理論的には戦うことができなかった。漸(ようや)くにして、独学を再開する機会を得たときには、もはや人生の残り時間が少ないという残念な現実。だが、まだ生きている。学び続けよう。「どん底」とかつて一度も面々相対したことのないお気楽な自称「知識人」リベラルや空想的「左翼」学者たちと戦うために。