断章530

 じわじわと迫りつつあること。それは、大混乱・大波乱・大変化の新たな大波である。

 資本制生産様式(資本主義)の基本矛盾は、労働力の商品化である。資本主義の歴史的特殊性は、市場〈競争〉のメカニズムをとおして社会的総労働の比例的配分を自律的(システム的)に実現するところにある。この観点からすれば、資本主義特有の周期的恐慌現象は、資本主義の基本矛盾の爆発形態であるばかりでなく、実は、その解決形態でもある ―― だから、周期的恐慌が到来するたびに“全般的危機論”を持ち出したスターリン主義は、破産したのである。

 言いかたをかえれば、「資本主義体制と自由市場の重要な特徴に、景気後退と金融危機が定期的に発生することがある。それがまさに資本主義のダイナミズムなのだ。実際のところ、それは体制の効率性とダイナミックな成長のために欠かせない」(マーク・ファーバー)ということである。

 とはいえ、経済恐慌による無産大衆の零落は、政治的緊張の高まり、社会的軋轢、国家間対立の増加につながる。「いかにして貧困を取り除くべきかという重大問題こそ、とりわけ近代社会を動かし、苦しめている問題」であり、いまだにマルクスが“召喚”される原因なのである。

 

 この資本制生産様式(資本主義)特有の周期的恐慌現象が、2008年のリーマン・ショックを引き継ぎ、また襲来しつつあるようである。

 たとえば、この3月10日、「米連邦預金保険公社FDIC)は、米SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレー銀行(カリフォルニア州)が経営破綻したと発表した。米メディアによれば、資産規模は全米16位で、以降で最大の米銀破綻となる。同行はテック企業が集積するシリコンバレーなどの新興企業を主な貸出先とし、2022年末の総資産は2,090億ドル(約28兆円)。日本の大手地銀グループに匹敵する規模だ。米連邦準備制度理事会FRB)の急速な利上げによって取引先の新興企業の資金繰りが悪化し、預金引き出しが加速したことで預金額が減少した。保有する有価証券の含み損も発生し、市場からの信用不安を招いた。……市場では『今後もFRBが利上げを続ければ、同規模の他の金融機関でも破綻が起きる可能性がある』(在米の金融機関関係者)との指摘も出ている」(読売新聞オンライン)。

 2008年リーマン・ショック(金融恐慌)からの回復は、超金融緩和によって果たされた。しかし、停滞する経済を浮揚させるため無理矢理の「信用拡大でもたらされた好景気は、結局のところ崩壊するのを避ける手段がない。残された選択肢は、さらなる信用拡大を自ら断念した結果、すぐに訪れる危機か、ツケを積み上げた結果、いずれ訪れる通貨制度を巻き込んだ大惨事かだけである」(ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス)。

 「2022年の株価急落をほぼ正確に言い当てた米モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は『今年の業績悪化を考えると株価は高すぎる』と指摘し、今後3~4カ月以内に一段安の局面がくると予想した。日銀の金融政策見直しについては金融市場にとって『予測不能なリスク』と警戒感を示した。……『過去30年間を振り返ると、インフレや国内総生産GDP)成長率、生産性など、すべての経済変動要因は非常に予測しやすいものだった。労働力やエネルギー、あらゆるものが豊富で、経済の変動はかなり低く抑えられた』。『今後は経済や市場のボラティリティーが上昇する。エネルギーや労働力、資本コスト、輸送能力、さらには貿易関係など、ほとんどすべてで希少性が高まった。これらの変動が現在の経済サイクルを決定する』」(2023/02/24 日本経済新聞)と述べた。

 

 さらに、AI実装とロボット化が同時進行して、労働市場に大きな変化を起こしそうである。その能力はすでに、「米企業が開発した人工知能(AI)に米国の医師資格試験問題を解かせたところ正解率は52~75%で、合格ラインとされる60%前後に達したと米医療企業の研究チームが9日、科学誌プロス・デジタル・ヘルスに発表した。医学関係の知識を追加したり学習方法を改善したりすれば、成績はさらに向上するとみている。問題に挑戦したのは米オープンAIの『チャットGPI』。2021年までに作成されたインターネット上の膨大な文章から言葉の順序や選択を学習しており、22年に公表された例題350問を解いた」(2023/02/10 共同通信)という。

 

 そこに、ロシアのウクライナ侵略である。戦争は、経済や市場のボラティリティーを上昇させる。エネルギーや労働力、資本コスト、輸送能力、さらには貿易関係など、ほとんどすべてで希少性が高まって、どこかでボトルネックが起これば、ハイパーインフレ発生の契機となる可能性がある。

 それだけではない。「ロシアのメドベージェフ安全保障会議副議長(前大統領)は24日、敵対国の国境をできる限り遠くに押し戻さなければ、ウクライナとの永続的な平和は実現しないと主張、北大西洋条約機構NATO)加盟国のポーランドの国境を押し戻すことが必要になる可能性もあると述べた。

 メドベージェフ氏は通信アプリ『テレグラム』でロシアは戦いに勝利すると予想。その後、ウクライナや西側諸国との厳しい交渉を経て『何らかの協定』が成立するだろうと述べた。

 ただ、この協定には『実際の国境に関する根本的な合意』が盛り込まれず、包括的な欧州の安全保障条約にはならないと指摘。ロシアが領土を拡張する必要があるとした上で『だからこそ、特別軍事作戦の全ての目標を達成することが重要だ。わが国を脅かす国境をできる限り押し戻すことだ。それがポーランドの国境であってもだ』と述べた」(2023/02/24 ロイター通信)そうである。あからさまな戦争放火者の放言である。

 

 大混乱・大波乱・大変化に備えなければならない。