断章46

 「日本における人文社会科学とは単に西洋人の考えをモデルとし、そのモデルで事象を紡いだものに過ぎなかったのではあるまいか」(古田 博司)とおっしゃる方もおいでになる。

 わたしは、「うん、うん、学歴の無いアタマの悪いネトウヨなんだから、この程度は許されるよね」と勝手にハードルを下げて、他人様の言説を無断で総動員して、やっとこさ自分の考えらしきものをまとめるのである(「アウト!」だったら、まっこと申し訳ないことでございやんす。以下、引用)。

 

  「チベットの現代史は悲劇的だ。1950年の中国によるチベット侵略以降これまで続いている占領と弾圧は、大日本帝国による朝鮮統治よりも残忍に見える。チベット仏教の指導者ダライ・ラマ14世(1935~)は、侵略後に中国政府が実施した政策の結果として、100万人以上のチベット人が殺されたと語った。彼は、1957年に中国人民解放軍チベットの自由の闘士に加えた残虐行為について、自叙伝でこのように記している。『十字架刑、生体解剖、犠牲者のはらわたを引きずり出したり指を切ったりといったことは普通だった。ひどいときは頭を割ったり、焼き殺したり、死ぬまで殴ったり、生き埋めにしたりすることもあった。』出家した僧侶に対する醜悪な性的拷問も記録している。

 民族主義者であれば、大抵はこうした非人間的行為に対して怒りと敵対心を燃やし、中国共産党指導部を『かたき』と規定しがちだ。そして中国の圧政に抵抗して逮捕され、処刑された抵抗軍を『義士』として追悼し、圧政に抗議して焼身自殺した100人以上の僧侶や青年たちの魂を大いにたたえるだろう。

 だがダライ・ラマは全く違う。自叙伝には、悲しみはあっても怒りは見られない。『ガンジーに対する賛辞』と題したノーベル平和賞受諾演説(1989年)でも、彼は中国の圧政は批判しつつ、次のような祈りで演説を締めくくっている。『私は抑圧者と友人を含むわれわれ全てのために、人間的な理解と愛を通してもう少し良き世界を建設することに、われわれが共に成功できるよう祈ります。』

 ダライ・ラマは、敵対感や怒りなしに、チベットの惨状を世界に、そして中国の善良な人民に知らせるため自叙伝を書いたと語った。彼にとって記録は未来のためのものであって、過去史に対する憤怒や清算、復讐心ゆえではない。

 彼は、驚くべきことに、時には中国の官僚をも瞑想の対象とし、『彼らの憤怒、疑念、否定的な感情を受け入れ、そこに私の愛、私の慈悲、私の許しを与えた』と語った。彼にとって許しは、加害者が反省した後に与えるものではなく、まず与えるものだ。こうした愛と慈悲の技術法は、仏教に由来する。彼は、民族の生存よりチベットの霊的伝統、すなわち仏教文化の方を重視している。重視する理由は、特に、その文化を抹殺しようとする中国人のためだという。ダライ・ラマは、こうして、仏教をあらためて世間に知らしめた。

 現代韓国人は、今の日本を指して『われわれ』に含めることができるだろうか。ダライ・ラマに尋ねたら、破顔大笑しつつ『日本との対立は主に過去史に関するものであって、侵略も抑圧もない今、共に未来を描いてみることほどたやすいことがどこにあろうか』と問い返されそうだ。民族主義という文化の遺伝子が強固な理由は、生存欲求ゆえだろう。だが平素、隣人と和平を維持することも生存に利する。韓国政府がビザを与えないせいで来ることができないダライ・ラマのことを思い、韓国人の心が少し広くなるとしたら、それは釈迦生誕日を祝う良き方法ではないだろうか」(2019/7/7 朝鮮日報オンライン  ホ・ウソン慶煕大学哲学科名誉教授・非暴力研究所長)。

 

 「朝鮮は、高麗時代までは仏教立国であったが、高麗末期までに仏教ははなはだ腐敗し、新たに王朝を開いた李氏朝鮮王朝は、儒教をもってこれを刷新した。具体的には宋代の朱子の『礼』をもって大衆教化に乗り出したのである。その教化は苛酷にして激烈なものであり、葬式に僧侶や巫女を呼ぶものは百叩き、火葬したものも百叩き、埋葬しないものは斬り殺し、再婚した婦女は拷問など、暴力的な手段で『礼』の実践を大衆に強要した」(『東アジア・イデオロギーを超えて』古田 博司)ので、現在の韓国社会でも、仏教は大きな影響力を有していないと思われることが残念である。

断章45

 韓国政府は、韓国大法院判決後およそ8カ月近く日本政府の対話提案に応じなかった。にもかかわらず、日本政府が半導体材料の輸出規制強化を発表するや、「待っていました」とばかりに対策を打ち出している。

 

 今回の日本の規制発表は、文在寅政権にとって完全に想定内のものであった。

 むしろ、こうなるのを「待っていた」と言ってもよいのである。

 

 わたしは、以前すでに、

 「韓国・文在寅政権が大法院徴用工判決に対して手をこまねいていることは意図的なものだ。文在寅は、『三権分立の司法が決めたことだから』『経済交流と政治は別だから』『国民の権利行使の手続きに対して政府が介入してはならない』とうそぶきながら、時間稼ぎをしている。ずるがしこく引き延ばすことで、

1.徴用工訴訟の参加者がさらに増え

2.世間知らずのお節介でナイーブな「人権派」があれこれ騒ぎだし

3.日本からの反発が増すほどに韓国内の文在寅支持が増えることをもくろんでいるのだ」と指摘した。

 

 ほら、見てみたまえ!

 「韓国の文在寅大統領の支持率が50%台を回復し、7カ月ぶりに最高値を記録したという世論調査の結果が7月4日、出てきた」そうである。

 

 「反日」のトップランナーも張り切っている。

 「日帝に抵抗して祖国光復(解放)に献身した独立有功者とその遺族で構成された韓国の政治団体『光復会』が日本の経済報復に関連して声明を発表した。

 光復会は7月2日、声明を通じて『韓国大法院が日帝強制徴用被害者の強制労働で富を築いた反人道的犯罪を犯した日本企業が損害賠償をするよう判決を下したのは国境を超えた21世紀文明社会で通用する基本的な法理』と主張した。

 続いて『過去の時代、親日反民族政権の対日低姿勢外交で間違ってしつけた日本のごり押しに、文在寅政府は後退してはならない』とし『この機会に日本が韓国を見下す癖を直しておかなくてはならない』と主張した。

 また『日本全国にクモの巣のように敷かれた鉄道の枕木一つ一つは、朝鮮人強制労働者の死体と言っても過言ではない』とし『日本政府が韓国裁判所の判決を“韓日関係を著しく損なうものだ”と言って経済報復に出るということは容認できないごり押し』と付け加えた」(2019/7/2 中央日報・日本語版)。

 

 歴史的事実と経緯の無知と歪曲の「北朝鮮」並みの声明である。あほらしい。

 

 この韓国の“ナショナリズム”は、「反日という形で韓国のナショナリズムが育っていった。しかし、愛国のナショナリズムではないから、韓国人はお金を儲けて余裕が少しできると、次々に国を捨ててアメリカをはじめとする先進国に移民してしまう。いまアメリカにいる韓国人の移民は推計で三百万人を超えている」(吉田 博司)たぐいのものである。

 もっとも、こんな「反日」のナショナリズムも「用日」のためには十分に役立ったのである。

 

 「用日とは、日本人と交流して、利用すべきだという考え方である。・・・反日を国内外でしながらも、日本から技術や資金など利益を得ようとする行為を示している」(Wiki

 

【補】

 「韓国を離れて海外移住する韓国人が増えている。外交部(省に相当)によると、昨年の海外移住申告者数は2200人だったという。2016年の455人に比べると、2年で約5倍に増えた。リーマン・ショックがあった2008年以降で最多であると同時に、人数が4けたに達したのも9年ぶりとなる。資産家は韓国の政治・経済状況を、中産階級は環境・教育問題を主な原因として挙げている。(中略)

 建国大学のシム・ギョオン教授は、『政治・経済的不安が資産家だけでなく中産層までも海外に向かわせている』と語った。外交部によると、海外移住申告者数は2014年から16年までは249人→273人→455人と特に大きな変化はなかったが、17年には825人、昨年は2200人と急増しているとのことだ。

 移住者急増について、韓国政府は今年5月、『制度の変更により、海外移住者が国民年金を一時払いで受け取れるようになったため、”海外移住申告書”の提出が集中したことが原因だと推定される』と述べた。しかし、複数の専門家は『そのような理由だけで最近の急増ぶりを説明することはできない』と話す。事実、韓国社会の所々で移住者増加を示す現象が生じている」(2019/7/6 朝鮮日報オンライン)。

断章44

 韓国の「反日」は、「病膏肓に入る(ヤマイコウコウニイル)」レベルである。

 

 「病膏肓とは、治療のほどこしようのないほど病気が重くなること。」(Weblio辞書)

 

 なにしろ、「中学・高校の近現代史の教科書を見ると、1945年以前の70年間の歴史の記述が150ページにのぼる。すべてのページに日本が登場する。内容で肯定的なものは一つもない・・・一方、1945年以降の70年間の現代史の記述には日本関連の内容が3ページ程度にすぎない。それも独島(ドクト、日本名・竹島)、慰安婦、教科書問題であり、韓日関係の肯定的な内容は一行もない。これが我々の学校教育の実態」(チョン・ジェジョン・ソウル市立大名誉教授)という「反日」教育を、独立後、一貫して継続してきたのだから、そうなるしかない。

 

 そうすると、・・・

 「6月3日、済州道議会が、『日帝植民残滓清算条例案』を立法予告した。済州教育庁教育委員会に相当)は『校内に植えられた“カイヅカイブキ”は日帝残滓。・・・条例案が通過したら切り倒す』という。このイブキの木を校木に指定している小・中・高校は済州島内に計21校ある。校庭のイブキ2157本が無慈悲に切り倒されそうな様相だ。大統領が親日清算を要求するせいで道路名、校歌まで変え、今度は植物まで攻撃している。(中略)

 イブキの原産地は韓国、日本、中国など複数ある。ソウルの昌徳宮や先農壇などには、樹齢500年を超えるイブキが生えている。

 逆に、スギの木は日本が原産地の日本固有種だ。植民地時代に朝鮮へ持ち込まれ、済州島の村の周りや田畑、果樹園などの防風林として植えられ、済州の代表的な樹木になった。イブキを切り倒そうという論理からすると、その前にスギからまず切り倒さなければならない。済州は荒廃するだろう」(朝鮮日報日本語版)。

 全国紙がマンガのような話をしなければならなくなる。わたしたちは、こんな隣国と暮らしている。

 

 日本政府は、韓国に対するフッ化ポリイミドなど半導体素材の輸出規制に踏み切った。

 当然、韓国も、「今後長期化する可能性が高い韓日経済戦争に対応する」(韓国紙)方法を探るだろう。

 

 準備はできているか? “あなどれば必ず負ける”

 第一に、中国のレアアース対日輸出規制の先例がある。日本は、中国に代わるレアアース輸入先を探し、レアアース代替品を研究し、国内在庫を大事に使って、危機を切り抜けた。

  韓国も同じことができる。しかも、韓国には同じ素材製造企業があり(期待されて、株価が上がっている)、又かつてサムスン東芝の技術者に超高額アルバイト料を支払って土曜・日曜ごとに韓国に招請して液晶製造技術を入手したのと同じ事ができる。日本企業を買収することもできる。

 第二に、韓国お得意の国際世論戦がある。日本の劣化した外務官僚は、慰安婦問題も元徴用工問題も福島産水産物輸出も調査捕鯨も、国際宣伝戦では連敗である。

 今回の発端、韓国の大法院判決が日韓関係の根幹を破壊する“国際法”違反だと言っても、実は、時代により“国際法”が変遷しているのも事実なのである。

 

 「韓国と日本がルビコン川を渡っている」(韓国紙)。

 “日本憎し”の韓国は、総力で立ち向かってくるだろう。

 “あなどれば必ず負ける”のが、世の常である。

 

【参考】

 「輸出管理体制の不備について韓国の産業通商資源省は以下の通り指摘した。

 『日本は我が国とは違って総摘発件数も公開しないでいて、一部摘発事例だけを選別して公開している。』

 これは誤りである。

 まず、このURLのリンク先は、経済産業省傘下の一般財団法人『安全保障貿易センター』のホームページであり、日本政府の機関ではない。この情報をもとに日本政府を批判するのは、筋違いである。現在、韓国の産業通商資源省が、日本の財団法人と政府機関を区別できないという事実こそ、現在の日韓両国間における輸出管理面での協力関係の欠如を如実に物語っている。

 日本では、輸出管理体制の不備を理由に経済産業省から『警告』を受けた日本企業の名前は公表されるので、企業は『警告』に対して神経を尖らせており、年に数件しかそのような事例はない。

 また、日本の輸出管理の法令である外国為替法に違反した企業や個人の名前は、容疑者が逮捕された時点で、警察が名前と事件の概要を公表するので、メディアで報道されるのが一般的である。起訴が確定すれば、裁判手続きに入る。裁判所は誰でも聴講できるオープンな場所である。最終的に有罪が確定すれば、その後、経済産業省が輸出禁止等の行政処分を企業や個人に科すこともある。行政処分の情報も、経産省から公表される。日本では、『一部摘発事例だけを選別して公開している』との指摘は誤りであり、透明性をもって情報は公開されている」(2019/7/12  執筆:国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員 古川勝久)。

 

【補】

 「韓国NH投資証券は3日、日本政府の半導体材料輸出規制措置は韓国の半導体生産に影響を与えられないとの見方を示した。

 NH投資証券のト・ヒョンウ研究員とパク・ジュソン研究員は、『日本の規制対象レジスト関連細部品目を確認した結果、極端紫外線(EUV)用に限定された規制と確認された。EUV用レジストはJSR、信越化学など日本企業だけが生産できるが、まだサムスン電子などはEUV工程を導入していない状況』と伝えた。

 また、研究員らは『DRAMで主に使われるレジストはArFイマージョン露光装備用の3DNAND工程で主に使われるレジストはKrF露光装備用。ArF光の波長は193nmで、KrFの波長は248nm』と説明した。

 その上で『日本政府は193nm未満の波長の光に最適化されたレジストだけ規制することにしており、この2つは規制に該当しない』と付け加えた」。

 「フォトレジスト(感光剤)にしてもフッ化アルゴン(ArF)、フッ化クリプトン(KrF)、極端紫外線(EUV)などがあり、種類によって規制による影響が異なる。半導体業界の内外では、3D NANDフラッシュなどメモリー半導体の生産に必要なフッ化水素は日本製でなくとも代替可能と判断している。ソルブレイン、イーエヌエフテクノロジーなど韓国企業から供給を受けることができる。ソルブレインの株価は2日、前日比4.6%値上がりした5万1700ウォンで取引を終えた」(2019/7/3 中央日報)。

断章43

 2018年9月刊行であるから、読了済だったら申し訳ない。

 しかし、本の帯の、「戦争で必要なのは、勝つためにはなんでもやるということだ。そこにはズルをすることも含まれる。目的は『勝つこと』であり、『ルールを守ること』ではないからだ」を見て、自分の美学に反する“軍事オタク”の本だと思って買わなかった人が多いかもしれない。

 なので、おなじみエドワード・ルトワックおっさんの『日本 4.0』(国家戦略の新しいリアル)から、韓国にふれた部分の要約紹介をお届けする。

 

 「私は1978年に、ペンタゴンアメリカ国防総省)と契約して、現地の状況を視察するために、韓国に派遣された。(中略)

 このときの私たちのミッションは、アメリカが撤退した後でも韓国が自ら安全を確保できるようにするにはどうすればいいのかを検討することだった。視察の後、私たちは極めてシンプルな提案をまとめた。(中略)

 その後、私はソウルに行って青瓦台(大統領府)の関係者に『われわれの提案はどうなったんだ。・・・』と尋ねると、彼らの答えは、『提案外の計画を進めた』というものだったのである。(中略)

 つまり、韓国は北朝鮮問題に対する当事者意識や国防への責任意識をまるで持ち合わせておらず、ただビジネスだけに関心を示しているのだ。(中略)

 さらに韓国は、北朝鮮の核開発を阻止するような動きをまったく見せていない。大陸間弾道ミサイルの開発の阻止に対する貢献もゼロといっていい。(中略)

 韓国は北朝鮮の非核化にはほとんど興味がない。彼らが北朝鮮に望んでいるのは、単に『トラブルを起こさないこと』に過ぎない。だから金正恩体制の崩壊だけは起きてほしくないのである。朝鮮半島統一も本気ではないだろう。西ドイツが東ドイツに対して行ったように、経済を犠牲にするつもりはさらさらないのである。(中略)

 (韓国は双発戦闘機の開発に大金を投じているが)北朝鮮との戦闘用としては機体のサイズが大きすぎるし、足(航続距離)が長すぎる。明らかに日本との戦いを想定したものだ。もちろん、韓国が本気で日本との戦闘を考えているわけではない。これはあくまでシンボルなのだ。これが彼らの資金の使いかただ。本気で自分たちを守るために資金をつぎ込むのではなく、象徴的なものにしか使わないのである」。

 「韓国という国の戦略的な脆弱さである」。

 

【補】

 「マイケル・グリーン戦略国際問題研究所CSIS)上級副所長は、9月4日、米議会傘下の米中経済安保検討委員会主催による『2019年米中関係検討聴聞会』の公開証言と書面証言の中で『米国の(ほかの)同盟国やパートナーとは違い、韓国は1年以上も米国のインド太平洋戦略に参加するとは明言していない。東南アジア地域の韓国大使たちは米国・欧州・日本・オーストラリアなどの同盟国の集まりを避けて回っていたこともある』と言った」(2019/9/7 朝鮮日報)。

断章42

 昔日、マルクスを読んだキ真面目な青年たちは、みんな、たちまちマルクスの学徒となった。なぜなら、“マルクスの理論は、唯一の、科学的かつ本質的な革命理論である”と思ったからである。

 「共産主義運動のように、高度の道徳原則をもち、献身的で、聡明な闘士たちを抱擁しながら上昇しはじめた運動を、歴史は他にあまり知らない。かれらは理念や苦難を通じてたがいに固く結びあっているばかりでなく、勝つか、斃れるかの運命しかない闘争でのみ生まれるような私心のない愛情、同志的結合、連帯心や温かでまっすぐな誠意を通じて固く結びあっているのである。共同の努力や思想や願望、おなじ考え方や感じ方を確保するための熾烈な努力、党や労働者団体にたいする全面的な献身を通じて、個人の幸福をみいだし、個性を築きあげること、他人のための熱情的な犠牲、青年にたいする配慮と保護、老人にたいするやさしい尊敬など、これらいっさいのもの」(ミロバン・ジラス)のために、彼らは共産主義運動に馳せ参じたのである。

 

 ところが、歴史の巨大な陥穽というべきか、すでに革命ロシアでは、「大企業、ついで小企業の国有化、そして強制的な農業集団化、高率の課税や価格の不平等など、いろんな方法を通じて私有財産を破壊して集団的所有形態を確立した特権官僚は、これらの財貨を使用し、享楽し、分配する権利を通じて、国家の物財を自分たちの財産にしてしまった」。

 「ながいあいだ、共産主義革命と共産主義制度は、真の性格を隠してきた。新しい階級の登場もまた社会主義の用語や、さらに重要なことは新しい財産の集団的所有形態の下に隠蔽されてきたのである。いわゆる社会主義的所有とは、政治官僚(特権階級)による所有の実態をかくす仮面である。そして、はじめのあいだは、この官僚は工業化の完遂をいそいで、以上の仮面の下にその階級構造を隠していたのである」(ミロバン・ジラス)。

 

 「各国の共産党政権が行ったテロルや抑圧の過程は、ソ連で練り上げられた母型から派生している。とりわけ中国、北朝鮮カンボジアなど、アジア共産主義におけるそれは、犠牲者の総数ではソ連を凌駕し、酸鼻も極限に至った。その特徴は、過剰なまでのイデオロギー化と主意主義にある。“正しい思想”による洗脳、人間の分類と再編成への意志、そして階級敵に対する絶滅政策の発動。この死のプログラムを社会全体に適用することに、政権はある期間成功する」(『共産主義黒書・アジア編』の跋文)。

 

 ロシア革命と世界共産主義運動の真実は、一部では早くから知られていた。だが、共産圏の特権階級「赤い貴族」と、それに付き従う各国共産党は、「大きなウソ」を膨大かつ執拗に宣伝することで覆い隠し、キ真面目な青年たちをリクルートし続けたのである。ソ連邦の崩壊によって、ロシア革命と世界共産主義運動の真実が満天下にくまなく知れ渡るまでは。

 

 日本共産党は、「わたしたちは、ロシア恐惨党とちがって、共に幸せを産む党ですよ」と“幸福の科学”も赤面するようなことを言って、ちぢこまっていたが、“格差の拡大”“不満の蓄積”に乗って勢力回復を画策するだろう。

 

 人間は、「ちょっと前なら憶えちゃいるが、そんな前だとチト判らねェなあ♪」(『港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ』)が普通である。あの殺人カルトのオウム真理教の後継団体でさえ、「事件を知らない若い入会者の伸びが目立つ」(公安調査庁)のである。

 

 まして、“前衛党”(公認共産党、そして日本では1956年ハンガリー動乱後に生まれた「反日共」各派)の酷い真実の姿は、それをみずから体験した人でなくては分かるまい。

  

 世界が混迷し“格差の拡大”が叫ばれているので、マルクス主義を標榜する“前衛党”(公認共産党、そして日本では1956年ハンガリー動乱後に生まれた「反日共」各派)に、これから参加する青年もいるだろう。

 かつて日本共産党に参加した昭和の青年たちは、客観的には結局、共産圏の「全体主義」を弁護しただけだった。「反日共」各派に参加した昭和の青年たちは、道の先にあるのは《闇》と知っただけだった。

 「歴史は繰り返す。一度目は昭和の悲劇として、二度目は令和の喜劇として」になるのだろうか?

断章41

 1985年頃の北朝鮮事情について、『闇からの谺』(崔 銀姫・申 相玉)は書いている。

 

 「北朝鮮の為政者たちは、人民が現在の自分たちの生活に満足しそれを幸福だと感じるように、苦しかった日帝植民地時代を強調して教育する。確かに現在は日帝時代よりはましなので、大部分の人民たちは満足しているのかもしれない。さらに北朝鮮が“地上の楽園”だと思わせるためには、外部世界との完全な遮断が必要である。そのため、人民たちは外部世界について徹底的に無知である。別の社会に住む人々と自分を比較してみることができないので、ただ朝に夕に『偉大な首領様と親愛なる指導者同志』に感謝しながら生きている」。

 

 情報統制のために外部世界から遮断され、「北朝鮮」の外部について徹底的に無知であれば・・・

 「ある日、わたしは北朝鮮少年芸術団が日本に行き、成功裡に公演を終え帰国したことを宣伝するためにつくられた記録映画を見た。わたしといっしょに見ていた職員が、日本の(在日)同胞たちの家庭のテレビの下にあるビデオデッキを見てわたしに、あれは何かと訊ねた。わたしたちの撮影所にあるような録画機だと説明した。すると信じられないといった表情をした。彼の常識では、一般家庭でそんなものを持っているとはとても信じられないからであった」。

 「ある日、偶然食べ物の話が出てくると、その安全員はやや低い声でわたしに訊ねた。『きみは南朝鮮でチョコレートを食べたことがあるのか』『金さえあれば、いくらでも買って食べられますよ』『ええっ! 党幹部やお偉方のほかは見ることもできないんじゃないのか?』『そんなことはありません。誰でも買うことができますよ』『ええっ!・・・』どうしてもわたしの言葉が信じられないという表情だった」という、この頃の日本からすれば笑い話のようなことになる。

 

 そして、「朝鮮の全ての共産主義革命家は、父なる首領さま(金 日成のこと)から永生の政治的生命をいただき、首領さまの愛とお心遣いの御手の差し伸べの下に育ちました。誠に我が首領さまは、我々皆の偉大なる師であり、政治的生命の父であらせられます。それゆえ偉大な首領さまに対する我々党員と勤労者の忠実性は曇りなく澄み渡ったものであり、絶対的、無条件的なものなのです」(1987年『労働新聞』・訳出  古田  博司)と、感謝しながら生きていくことになるのである。

断章40

 中国と朝鮮は、中ソ対立、中国文化大革命ベトナム戦争中のニクソン大統領の中国訪問、核開発、張 成沢の処刑などで何かとギクシャクしてきたが、現在、共にアメリカの強い圧迫を受けているためなのか、中国共産党総書記・中国国家主席である習近平(シー・ジンピン)が6月20日から21日まで平壌を訪問した。中国の最高指導者の訪朝は2005年に胡錦濤(フー・ジンタオ)が訪朝して以来、14年ぶりである。

 中国共産党朝鮮労働党は、もともとは同じ穴の狢(ムジナ)である。

 朝鮮民主主義人民共和国版「赤い貴族」の特権生活(1985年頃の)を紹介する。

 

 「特権層に対しては一般庶民が思いもよらない特典が与えられている。その一例として、子供たちの教育を挙げれば、北朝鮮社会がいかに激しい階級社会であり不均衡社会であるかがわかる。

 平壌市内の普通江のほとりに建つ南山学校は、党高級幹部級の子弟だけが通う、いわゆる社会主義貴族学校で、幼稚園から高等学校まである。平壌市内の繁華街にある少年宮殿は、党性(家庭の党に対する忠誠心)が強く、可愛くて芸能に素質がある子供だけが通う特殊教育施設である。

 南山学校と少年宮殿の子供たちは、一般庶民の子供とは分離され、贅沢な衣食と秀れた環境の中で特別教育を受ける。すべてが特別待遇である。

 これ以外にも、万景台革命学院は、いわゆる革命遺家族の子弟が通う学校で、幼稚園過程からズボンに赤い筋の入った軍服を着せ、軍事教育を行い、中佐(中領)の待遇をしている。彼らは品物も局長級以上だけが利用できる“10号商店”で購入するなど、あらゆる物質的な特典を受けている。

 松餅(うるち米の粉で生地を作り、あんを包んで半月の形にし、松の葉を敷いて蒸した餅)も知らない庶民や非党員の子供たちと比較すると、このような特殊学校に通う子供たちは完全に別世界に生きている」(『闇からの谺』崔 銀姫・申 相玉)。

 

 「わたしが北朝鮮社会でつくづく感じたのは、金 日成は徹底的に物質(モノ)をエサにして人民から忠誠心を引き出しているということである。完全な配給制のもとに供給体系を10段階に分け、身分によって量と質に差をつけ、少しでも多くのものをもらうための忠誠心競争をさせ、結局人民たちを配給制によって統率しているのである」(同上)。

 

 「彼らが掲げている“平等によい暮らしを”というスローガンは、単なるつくりごとに過ぎない。彼らは共産主義理想社会に到達する以前の社会主義段階では仕方がないといっているが、とすれば彼らがことごとに誹謗する資本主義社会となんら変わらないではないか」(同上)。