断章47

 「日本は、庶民に階級社会だと気づかせない、恐ろしい階級社会である。三代働かなくても、子弟を全員、慶応の下から上まで上げてしまうような祖先からの蓄えのある家がごろごろあるのだ」(『日本文明圏の覚醒』15頁・古田 博司)。

 「名家の友人とつきあっていると教えられることが多々あった。彼が『ノーブレス・オブリージュ』という言葉をよく使うので、どういう意味か辞書で調べるのだが、『身分の高い者、豊かな者はそれにふさわしい義務を果たす必要がある』と、書かれてある。具体的によく分からないので尋ねると、『乞食のもっているパンを百円で買ってやることだと、祖父ちゃんが言っていた』と、一撃の答えが返ってきた。じつに分かりやす。」(同17頁)。

 

 わたしは、年老いた貧しくて無名のネトウヨである。

 「上を見たらキリがない。下を見たら後が無い」のである。

 ベビーをバギーに寝かせた美人ママがひとりで、六本木のホテル・グランドハイアット内の日本料理店「旬房」で目でも楽しめる三段彩り弁当「旬彩」5300円をお食べになっている。中央省庁が集まる霞が関周辺では税込みで350円の格安弁当が若手官僚を中心に話題らしい。一方、わたしは、激安スーパーのハンバーグ弁当184円にするか半額セールの5個148円の冷凍うどんを買って帰ってカミさんに「ぶっかけうどん」を作ってもらうかで迷っている。

 

 世界的な生存競争と危機の激化する時代。すでに、「アメリカは想像を超えた悲惨さをもたらす手段を持った状態で(冬の時代に)突入することになり、しかも、自分たちとまったく同じ手段を持った敵と直面することになるかもしれないのだ」(『フォース・ターニング』すでにわれわれは冬の時代にいる)と、告げられていた。

 一段と激化する世界的な生存競争から誰も逃れることはできない。

 生き残りをかける企業は、AI化・ロボット化、人件費の安い国に製造拠点を移したり、スキルの高い外国人を採用したり、外国人研修生を安く使ったりしなければならない。

 例えば、「損害保険ジャパン日本興亜は2020年度末までに、国内損保事業の従業員数を4000人減らす。17年度に比べて人員を2割弱、削減する。IT(情報技術)の活用で生産性を高めるほか、新卒採用も絞る」(日本経済新聞)。

 「ロボットは今後10年間で世界の工場労働者の8.5%に当たる2000万人の仕事を奪っていく――。グローバル予測・定量分析会社オックスフォード・エコノミクスが6月26日、こんな報告書をまとめました」(同)。

 安川電機の最新鋭工場では、「IT活用で、ラインの作業者数も従来なら300人必要だったところを100人まで減らした」(同)そうである。

 

 専門技術職・各種エンジニアが増えたとしても(現在、IT業界は深刻な人手不足だが、この業界は不況に脆弱でもある)、日本の中間層の没落は避けることができないだろう。

 「日本人の大半が年収180万円の下流層に転落する時代が来る」(鈴木 貴博)とすれば、その衝撃に備えなければならない。

 

【補】

 「サラリーマンなどが加入する社会保険料は2003年にボーナスを含む総報酬制に変わったため単純に推移を比較できませんが、賞与を5カ月分として同時期(1997~2019年)の引き上げ幅を概算すると、厚生年金は12.2%から18.3%(1.5倍)、健康保険は5.8%%から10%(1.7倍)、介護保険は0.98%から1.73%(1.8倍)になりました。同じ時期に消費税は5%上がったわけですが、社会保険料は、合計すると11%も引き上げられたのです。その結果、年金と健康・介護保険を合わせた社会保険料率は報酬の30%に達するまでになりました(労使折半)。

 ところが、こんな“大増税”が行なわれたにもかかわらず、国会で問題になることもマスコミが大騒ぎすることもいっさいありませんでした。なぜなら消費税とちがって、社会保険料は国会審議なしに、厚労省の一存でいくらでも引き上げることができるからです。

 給与から天引きされる社会保険料が増えれば、当然、その分だけ手取りの収入が減ります。これは誰でもわかりますが、見過ごされているのは、会社負担分は企業にとって人件費で、保険料の引き上げは給与や賞与の減額によって調整されることです。こうして「給与が減らされ、手取りはさらに減る」という、踏んだり蹴ったりの事態になります。

 平成のあいだにサラリーマンの平均年収が下がったり、同じ年収でも手取りが減りつづけていることが指摘されますが、その原因の一端は“社会保険料の大増税”にあるのです。

 年収500万円のサラリーマンの場合、国に支払う社会保険料の総額は95万円から150万円に増えました。本人負担分だけでも年75万円ですから、多少給料が上がったくらいでは焼け石に水で、いくら働いても生活が苦しくなるのは当たり前です。

 トイレットペーパーの買いだめもいいですが、100円や200円節約したくらいではどうにもならない現実についても、たまには考えてみたほうがいいのではないでしょうか」(橘 玲・『週刊プレイボーイ』10月15日号)。