断章399

 「世界都市・・・そこに流通する貨幣は、現実的なものにいっさい制約されることのない形式的・抽象的・知的な力であり、どのような形であれ文明を支配する。ここに群集する人間は、故郷をもたない頭脳的流浪民、すなわち文明人であり、高層の賃貸長屋の中でみじめに眠る。彼らは日常的労働の知的緊張をスポーツ、快楽、賭博という別の緊張によって解消する。このように大地を離れ極度に強化された知的生活からは不妊の現象が生じる。人口の減少が数百年にわたって続き、世界都市は廃墟となる。知性は空洞化した民主主義とともに破壊され、無制限の戦争をともなって文明は崩壊する」(『西洋の没落』シュペングラー)。

 

 シュペングラーの説くところによれば、すべての文明は末期にいたって「帝国」という形態をとり、カエサル的人物に率いられて帝国主義に転ずるとされる。

 

 ロシアは、アメリカの衰退を感じ取るや、「世界は群雄割拠の時代に入った」という趣旨のシンポジウムを開催した。この群雄割拠の時代を勝ち抜くために、プーチン大統領は、ロシアは「帝国」という形態をとらなければならないと決意したのだろうか?

 

 プーチンは、「賽(さい)は投げられた」(注:サイコロはもう振られてしまった。いったん決断して行動を始めた以上、最後までやりぬくしかない)、ならば、「必ず勝つ」という揺るぎない意志の持ち主である ―― そのためには、「2008年のジョージアへの介入の時も、2014年のクリミア併合の時も、核をちらつかせました」。「米ロの間で核の相互抑止が働いているため、米国が核使用を懸念して反撃できないと見切っている」(朝日新聞デジタル・高橋 杉雄)のだ。

 

 プーチンは、「ロシアにはリスクを取らない者はシャンパンを飲むことはできないということわざがある」と言い、「権力を持つ人が忘れるべきではない政府の目的とは、普通で安全で安定していて、かつ先の読める生活を一般の人たちがおくれる社会を作ることだ。西側のエリート層はこの点を忘れたために、大衆と距離ができてしまった。リベラルな考え方は時代遅れになった。国民の大半と対立するようになった」と語ったという。

 プーチンは、まぎれもない“カエサル的人物”である。