断章434
人類(ヒト)は、途方もなく長い歳月、小規模血縁集団の社会で生活していた。その後、人類史上の第一の大変革の波である「農耕」の開始にともない、部族社会、首長制社会、やがて古代国家形成へと変遷した。
農耕・牧畜を主たる生業(なりわい)とする農耕民の増大は、農耕に適さない高原地帯の住人たちにも作用を及ぼして遊牧という独自の生業(なりわい)を生じさせた。古代国家と遊牧民の攻防のルツボから、「帝国」が生まれた。
「遊牧民が手に入れた騎馬と騎射の技術は、遊牧民による農耕民に対する攻撃と征服を可能にし、そのピークは13世紀のモンゴル帝国の成立である」(湯浅 赳男)。
17世紀~18世紀に至って、人類は人類史上の第二の大変革の波、「産業革命」を迎えた。工業化・近代化による「資本制社会」の誕生と拡大は、それに適合した「国民国家」を生んだ。
そして世界は、主権をもつ「国民国家」による仁義なきサバイバルの世界になった(今この地表は、失敗国家や破綻国家、ならずもの国家やマフィア国家を含め、196ほどの「主権国家」によって分割されている。分割済みであるから再分割の試みは戦争になる)。
仁義なき戦いの世界の「警察官」は、旧・ソ連の崩壊後、アメリカだけになった。時代は、情報通信革命(パソコン・インターネット)と交通運輸革命(大型航空機とコンテナ輸送)による第二次グローバリゼーションを迎えていた。ところが、アメリカは、イラク・アフガニスタンの深い砂に足をとられ、またグローバリゼーションによる国内産業の空洞化と中間層の崩壊と国内政治の分断に悩まされた。一方、中国、ロシア、ドイツは、第二次グローバリゼーションから大きな利益を得て、自信を高めていた。中国やロシアは、「アメリカ一極支配の終焉」を語った。
「今や世界政治は、先進的な国民国家によってではなく、米・中・ 露・ EUの四帝国によって動かされる時代となっている。国民国家の基盤はネーションであるが、帝国の基盤は文明である。そのために帝国は何らかの意味で膨張主義的であり、複数の文明の接触する地域では、帝国同士の摩擦や衝突が起きやすい」。
「現在のEUをドイツを核とする帝国と見なすことには、相当の抵抗があるかもしれない。なぜなら、ドイツはEUのルールによってその行動に大きな制約を受けた国家だからである。しかし、見方を変えれば、EUの中で8,000万を超える人口を擁し、経済力において突出しているドイツは、EUのルールを通じて広汎なヨーロッパを支配しているとも見なしうる」。
「ドイツは、NATOやEUの枠組みを巧みに利用しながら、米英仏などの諸国との決定的な対立を避けつつ、自己の影響力の拡大を追求して」きた。
「ヨーロッパの中心でのドイツによる『中欧帝国』の建設の進展にともなって、英、仏、伊などの周辺諸国は、その波紋に否応なくもてあそばれることになる。それと同じように、東アジアの中心地帯で中国による『帝国』の再編成が進行すれば、周辺の日本や韓国や東南アジア諸国などは、それがひき起こす影響を免れることはできない」と言ったのは、野田 宣雄である。