断章13

 「学歴もいらず、技能もいらず、経験もいらない」という会社には、様々な人たちが吹き溜まってくる。

 会社が倒産した失業者、小商売に失敗した者、労働争議に敗れた者、事故・病気で失職した者、女と逃げてきた者、もちろん単にこらえ性のない者も。

 

 元タイル職人がいた。タイルを貼り続けたせいで、擦り減って指紋が無かった。

 家庭の事情により養護施設で育った。事故で大けがをしたのをきっかけに、タイル職人を辞めて転職してきたのである。

 彼は、アパート住まいだが、山小屋をもっていた。山小屋?

 彼は、働きだしてから小金を貯めて、株で成功していたのである。

 歴史的なクライマックスに向かって上昇(勿論、そのことは事後的にしか分からないのだが)していく株「相場」をやるために証券会社に行くには(まだネット証券の無い時代)、交替勤務で夜勤明け・平日休みがあることが、彼には好都合だったのである。

 そんな人がいた、そんな時代だった。

 

 そして「もしものとき」が、突然わたしに訪れたのである。

 血を吐いた。